少女、地上を目指す
リリィが落ちた穴。そこに二人の女性の姿があった。
「うへー、これ相当深いよ」
赤毛のポニーテールが目立つ女の子のような姿のアリアが、穴を覗き込みながら言った。
「あまり身を乗り出すと貴方まで落ちますよ」
それを長い青髪の女性のセレナが注意を促す。
「でもセレ姉、リリィちゃんがこの下にいるかもしれないんでしょ。なら早く助けないと」
「わかってます。だから、隊員が周りを捜索して、この地下へと続く道を探しているではないですか」
「セレ姉はやらないの?」
「私は・・・・その・・・・・・」
「セレ姉・・・」
アリアが見たセレナの顔は今にも泣きそうな顔だった。
(そうだよね。あんなに可愛がってたんだから)
アリアはセレナの妹分みたいな立ち位置にいる。部隊の中だけでは無く、プライベートでも仲の良い姉妹みたいに過ごすこともある程だ。
そんなセレナからの最近の話題の中心はリリィのことだった。凄く可愛いとか、魔法が凄かったとか、こんなことがあったとか、色々と話していたのだ。
それほど可愛がっていたリリィが、この深い穴に落ちた。生きているかもわからない。何とかしたいけど、何も出来ない。そのセレナの葛藤は、アリアには痛いほどわかった。
「セレ姉、リリィちゃんってさ、凄い魔法使うんでしょ。だから、無事だって」
「・・・・・そうよね。うん、そうですよね。ごめんね、アリア。心配掛けちゃって」
「いいんだよ。私はセレ姉の妹分だからね」
アリアはセレナを元気付けようと明るく話した。
「副隊長!こちらに地下へと続く入り口のようなものを発見しました」
そこに隊員の一人が報告にやって来た。
「わかりました。引き続き他の入り口を探してください」
「了解しました」
セレナの命令を聞き、隊員は捜索に戻っていった。
「セレ姉、そこ私が行こうか?」
「・・・そうね。本当は私が行きたいけど」
「セレ姉は指揮する立場でしょ。いいからこの私に任しておいてよ」
「うん、お願い。気を付けてね」
「はーい」
アリアほセレナに見送られて、見つかった入り口へと向かって行った。
「・・・・・・リリィちゃん、どうか無事でいて」
セレナは再び、リリィが落ちた穴を眺めるのであった。
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「だいぶ上ったと思うんだけど」
リリィは再び上りの階段を歩いていた。
(私どれだけ深い場所に落ちちゃったの?)
リリィは狭い通路や階段を継いで歩いてきた。幸いにも上へ向かって道は続いているので、少しは希望を持てていた。
「そういえばあのメッセージ、アビーさん気が付いてくれたかな」
穴に落ちた後に書いたメッセージ。ゲートリングで送ったけど、アビーがアメリースの倉庫へと行かなければ、そのメッセージは見つかることはない。
「ううん、アビーさんなら見つけてくれるはず」
リリィは色々と考えながら歩いていると、いつの間にか遺跡の狭い通路から、洞窟のような場所に出ていた。
「うわぁー・・・綺麗」
その洞窟の空間は壁が星のように白く輝いていたのだ。まるで、自分が星の海に迷い混んだという錯覚を覚える。
「何が光ってるんだろう」
光っているのは天井だけでなく、壁や地面にまて及んでいた。リリィは近くの壁の光に触れてみる。
「・・・熱くない。冷たくもない。なんか不思議な感じ」
リリィはもう少しよく見てみる。
「これって魔石?でも属性がない・・・でも」
魔石は4属性の4色しか見たことがない。リリィ自身もその4属性しか作れない。
しかし、この光る魔石はその属性がないのだ。
「・・・純粋な魔力ってこと?持って帰れるかな」
リリィは近くの石を拾い、魔石を掘り起こそうとする。
「あれ?消えちゃった」
魔石の周辺を叩いたら、光が消え失せてしまったのだ。
「魔力も無くなってる?不安定な状態ってこと?」
リリィは改めて周りを見てみる。そこにはさっきと同じ星空のような景色だった。
「あれ?あれだけなんか赤い」
一つだけ赤い光があった。
「え、動いてる?」
赤い光は不規則に動いていた。周りの白い光も一緒に動いている。まるで、そこに何かがいるように
「この感じ・・・守護者?」
リリィがそう呟いた瞬間、赤い光が降って来た。
「これはまずいかも」
リリィの目の前に降って来たのは、赤い一つ目の巨大な岩のような蜘蛛の守護者だった。
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「隊長!アビー殿!」
「すまない、遅くなった」
「セレナ!これ結べ!」
セレナの元に辿り着いたロイスとアビーは幾つかロープを持っていた。
「アビー、その先には少し大きめな石を付けておけよ」
「わーってるよ。お前こそ取れるような結び方すんなよ」
アビーとロイスは幾つものロープの両端にロープを結んでいき、足りない長さを補おうとしていた。それを見たセレナも何をしようとしているこを理解し、手伝い始める。
「とりあえず、今出来る限界の長さだな」
「よし、降ろそうぜ」
アビーは石が付いているロープを投げ入れた。
「って!ロープを持ってください!」
セレナは慌てて誰も持っていないロープを持った。
「おっと、わりぃわりぃ」
「すまない。僕も忘れてたよ」
アビーとロイスも慌ててロープを持った。それからゆっくりとロープを下げていくと
「お!何か掛かったぞ!」
投げ入れた方に一番近いアビーが何か手応えを感じた。
「何かって何だ?」
「アビー殿、これは釣りではないのですよ?」
ロイスとセレナは少し呆れながら言った。
「それじゃあ・・・この手応えは・・・・・」
アビーが手を少し緩めた瞬間、何かに引っ張られるようにロープが穴の中へと吸い込まれていく。
「うお!」
「きゃ!」
アビーの後ろでロープを掴んでいたロイスとセレナは引き込まれそうになり、慌てて手を離した。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
ロープはもの凄い勢いで穴の中に吸い込まれてしまった。
「なんだったんだ?」
「魚・・・ではないですものね」
「・・・・魔物か何かだよな?きっと」
三人は呆然と立ち尽くした。
「リリィちゃんの無事も判らないのにこれでは・・・」
セレナががっくりと肩を落とす。落ちて怪我をして動けない状態だったら、魔物がいる可能性が高いこの中は非常に不味いことになる。それを想像して、セレナの顔は青くなる。
「リリィの奴は生きてるぞ」
「えっ!?」
セレナはがばっと顔を上げてアビーの顔を見た。
「ほれ。これがウチの倉庫に送られていた」
アビーはリリィからのメッセージをセレナに渡した。
「・・・・・よかった」
セレナは涙目になりながらリリィの無事を喜んでいた。
「だが、今のでリリィを早く助けなければならなくなった」
「まぁな。上手く逃げてくれてりゃいいが」
この下には魔物がいる。そう考えると急いで救出に向かった方がいいのは歴然だった。
「そ、それなら報告があります」
「なんだい?」
「この周辺を隊員で捜索した結果、複数の遺跡の入口と思われる場所を発見しております」
「進捗は?」
「まだ発見していない入口の捜索を一部で行っており、他の者はすでに遺跡内へ捜索に入っています」
「わかった。それなら僕達もそれに加わろう。アビーもそれでいいな?」
「もちろんだ」
アビーはそう答えながらセレナからリリィのメッセージを受け取っていた。
「・・・・リリィ、大丈夫なんだよな。信じてるぞ」
アビーは手元にあるリリィのメッセージを握り絞めるのだった。
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「きゃあ!!」
リリィが慌てて横に跳んだ。
すると、そこに鉱石のような身体を持った蜘蛛の守護者が突っ込んできて、壁を破壊した。
「うぅ・・・」
リリィは尻餅を着きながら守護者を見る。守護者は崩れた岩を物ともせずに払い除け、赤い目でリリィの方を見てくる。そして、またリリィの方へと近寄って来ようとする。
「グレイブ!!」
リリィは残ってる『カルテット・エレメンツリング』の黄のリングを使い、踏み出した守護者の脚を狙った。
地面から生やした岩の槍に身体を押し上げられて、守護者は転倒してしまう。
「炎よ・大地よ・連なれ・仇名す者を・圧し潰せ・グラビティ!!」
起き上がらせないようにリリィは火と地属性の複合魔法の重力魔法を使い、守護者を地面に圧し潰そうとする。守護者も苦しそうにリリィの魔法に耐える。
「・・・・っ!!」
だが、リリィが魔法の持続をしていると、押し返される感じが伝わってくる。次の瞬間
パァン!!!
「っ!?」
大きな音を立てながらグラビティを強制的に破られてしまう。魔法から解放された守護者はすぐさまに起き上がり、リリィを見据えた。
「連なれ!ライトニング!!」
リリィは残っていた『カルテット・エレメンツリング』の青と緑のリングを複合魔法として、稲妻を手から解き放ち、守護者の赤い目に攻撃をした。
守護者はその攻撃を直で受け、リリィから距離を取ろうと鉱石の塊とは思えない俊敏さで後方へと下がった。
(今のうちに!)
リリィはその隙に視界の端に見えた狭い通路へと逃げようとする。あの大きさの守護者ならあの狭い通路には入って来れない。
リリィは全力でその通路へと走っていたが、守護者はそれを許すことはなかった。
「あう!」
リリィは突然何かに足を倒られて転んでしまった。
「な、何?」
リリィが足を見ようとすると、身体にも何かが飛んできて自由を奪われてしまった。
「・・・糸?でもこれは」
リリィの脚や身体に巻きついていたのは糸状の何かだった。それは守護者の口と思われるところから吐き出されていた。
「っ!!まずい!早く抜け出さないと!」
リリィを捕えたからなのか、先程と違いゆっくりと守護者は近付いて来る。
リリィは糸を取ろうともがくが、糸は粘着質でなかなか取れない。
そして、守護者が目の前にやって来て、もう駄目かと思ったその時
「おりゃぁぁーー!!!!」
ドゴン!!!
女性の掛け声と共に赤く燃えた飛び蹴りが守護者の赤い目に炸裂した。飛び蹴りが当たった瞬間に足先からは爆発が起こった。
さすがの守護者もその爆発で目が潰され、後ろへ下がっていく。
「っと、大丈夫?リリィちゃん」
「あ、あなたはアリアさんですよね?」
目の前には赤毛のポニーテールが目立つアリアが立っていた。
「そうそう、危機一髪って感じだったね」
アリアはリリィの糸を取りながら話し掛けてくる。
「あ、ありがとうございます」
「いいのいいの。リリィちゃんを助けるために来たんだから」
リリィが自由を取り戻すと、目を潰された守護者が再びこちらへと向かってこようとする。
「リリィちゃん、私が囮になるからすんごいの一発よろしくね」
「え?でも」
「いいのいいの。私はこれしか出来ないから。逆に言うとこれだけで第1部隊に入ったんだから」
アリアがそう言うと手足から火の魔力が渦巻き始めた。
「それは・・・魔法?」
「厳密には違うみたいだけどね。強化魔法と付与魔法を同時に掛けてるって感じかな」
そう言うと、アリアは足で地面を蹴ると同時に足裏で小さな爆発を起こさせて、加速する。そして、その勢いのまま守護者の攻撃を潜り抜けて炎を纏った蹴り技を繰り出す。
「凄い・・・」
だが、その程度の攻撃では、鉱石の身体を持つ守護者にはあまり効いていないらしく、平然としていた。
「かったいなぁ!もう!!」
アリアは一旦離れて回避に専念し始める。
「アリアさん、避けてくれるかな・・・」
アビーとなら、リリィが魔法を撃つタイミングで上手く避けてくれる。それは長い間、一緒に戦ってきたからわかる。だが、アリアは今回初めて共に戦うのだ。リリィの魔法は威力が高い。避けれられらか心配だった。
「・・・あ」
一瞬だが、アリアと目が合った。その目はいつでも大丈夫と言っていた気がした。
「うん、大丈夫」
リリィは心を落ち着かせて魔力を集め始める。
「炎よ・仇名す者を・貫く・槍となれ・ファイアランス!」
リリィは威力を増大したファイアランスを放った。アリアは直ぐに射線上から避けた。そして、アリアを追いかけていた守護者の胴体に見事に炸裂した。
鉱石の身体の守護者はその威力で一部が欠けてしまう。
(思ったよりダメージがない?何かある?)
リリィは思いの外ダメージが少ないのが気になった。リリィの予想だと、もっと身体が崩れてもおかしくないと思ったのだ。
「なっ!?」
「アリアさん!」
守護者から砲弾のような何かが放たれた。
アリアは突然のことに対応出来ずに、思いっきり食らってしまった。
「う・・・いったー」
アリアは吹き飛ばされても何とか受け身を取り、立ち続けていた。しかし、胴体の服が焼け焦げて、身体も火傷を負ってしまっていた。
「もう・・・じゃま!」
アリアは焼けてぼろぼろになったスカートを引きちぎって、赤いパンツ丸出しになる。足技を中心に戦うのに、ぼろぼろになったスカートが邪魔だったのだ。幸いにもここにはリリィしかいない。男性の目がないならいいと考えていた。
そんな事をしている内に、守護者は更に砲弾のような物をアリアに向けて放つ。
「おっと」
アリアはそれらをギリギリで回避し続けた。よく見てみると、砲弾は赤く染まった糸だった。着弾した糸からは陽炎が見える。
「まさかの攻撃だね」
アリアは糸の砲弾に気を付けながら、再び守護者に接近する。
「ほっ!はっ!といやっ!!」
アリアが連続で蹴り技を放つが守護者にはあまり攻撃が通らない。
「水よ・仇名す者を・飲み込む・渦となれ・アクアストーム!!」
その間にリリィの魔法が完成する。アリアはリリィが魔法を放った瞬間には魔法の範囲から抜け出している。
そして、守護者はリリィのアクアストームに取り込まれる。中で高熱の糸を吐き出しているのか、蒸気が辺りを包む。
「アリアさん!もっと離れててください!!」
「りょーかい!!」
リリィの指示に従いアリアは更に距離を取る。
「大いなる水よ・悠久を巡る風よ・連なれ」
リリィの詠唱が始まった途端に、周りの空気が一変する。
「全てを打ち砕く雷神・数多の雷玉となりて・仇名す者に裁きを与えよ」
アクアストームに閉じ込められている守護者の周りに幾つもの雷玉が現れる。
「トニトルス・アルビテル!!」
リリィが魔法名を唱え終わると、アクアストームが守護者に破られた。その瞬間に周りの雷玉が守護者に向かって雷を放ち始める。
それは次第に守護者を包むように大きな雷玉へと姿を変え、巨大な雷玉は守護者を飲み込んだ。
「撃ち砕け!!」
リリィの言葉で、巨大な雷玉は内側に今までの雷撃の威力を全て込めた雷撃を一気に解き放つ。
そして、轟音と共に守護者諸共、雷玉も消えていった。
「・・・・・・・・何?今の?」
今の魔法を見ていたアリアは訳が分からない顔をしていた。
風と水の複合魔法。雷系の一点集中魔法だ。複数の雷玉で相手を囲い、身動きを制限した後に、全ての雷玉を放電させて相手を攻撃する。その攻撃は次第に新たな巨大な雷玉を作り相手を閉じ込める。これだけでもかなりの威力なのだが、この魔法は更に巨大な雷玉を解放して、それまでの雷撃を集中させた雷撃を一瞬で相手に与える。感電だけでは無く、最後の雷撃は岩をも撃ち砕き、溶解させるほどの威力を持っている。
現に鉱石で出来た蜘蛛の守護者は脚は砕けて一部が溶岩のようになり溶けている。胴体も殆ど原型を保っていなかった。
「はぁはぁはぁ・・・。流石にこれには耐えられないよね」
流石のリリィもこの魔法による魔力消費は激しい。単一属性の上位魔法の数発分に及ぶ魔力を消費するのだ。
「はぁはぁはぁ・・・・え?」
リリィは信じられないものを見る。
守護者はもう存在していない。だが、一つだけ大きな光る鉱石が宙に浮かんでいた。
「まさか!アリアさん!!」
リリィは疲れた身体に鞭を打ち、アリアの側に駆け寄ろうとする。
「リリィちゃん!」
アリアも流石におかしいことに気が付いているようだ。リリィの側に駆け寄ってくる。
「ねぇ!あれ何!?」
「大地よ・我らを・守護せよ・アースウォール!」
リリィはアリアの質問に答えずに自分達の目の前に巨大な岩の壁を作る。その時には光る鉱石は放電を始める。
(これだけじゃ撃ち抜かれる!どうやってあれを防ぐ・・・防ぐ?)
リリィはそこまで考えてあることを思い付く。
「猛き水よ・全てを飲み込む大河となれ・アルヴィオーネ!!」
リリィは目の前に魔法陣を出現させ、放電を始めた鉱石の方へ向けた瞬間、目の前に作った岩の壁が鉱石から放たれた雷に打ち砕かれた。
リリィのアルヴィオーネは多量の水で相手を押し流す魔法だ。その魔法はぎりぎり間に合い、雷はリリィの目の前に出現した水に吸い込まれていく。
そして、雷を受け止めた水はリリィ達がいない遺跡の低い方へと流れていった。
光っていた鉱石もひびが入り、カランと音を立てて光が消え、普通の石になった。
「何だったの?いったい」
アリアは助かった。今はそれだけしか分からなかった。
「はぁはぁ・・・・・・・・」
「っと、リリィちゃん!?」
流石のリリィもここまでの道程での緊張感、今の大きな魔法の連続使用と疲れが溜まり倒れてしまった。アリアが受け止めてくれたおかげで大事には至らなかった。
「今すぐにここから出るから!」
気を失う瞬間、アリアの声が聞こえた気がした。暖かい温もりを感じながらリリィは闇へと落ちていった。
--------------------------
「なぁ、さっきの音なんだ?」
「もの凄い魔力は感じたが・・・」
「はい、誰かが守護者と戦っているのかもしれません」
アビーとロイス、セレナは遺跡に潜り、リリィの捜索をしていた。三人がそれぞれランタンを持ち、遺跡の中をそれぞれ照らしている。
「そういえば、この入り口からは誰が入ってるんだ?それなりの実力者なのか?」
「この遺跡はアリアが一人で入ってます」
「アリアってあのちんちくりんのガキか。大丈夫なのか?」
アビーはアリアの容姿を思い出して、不安しか出てこなかった。なぜなら、アリアはリリィの背と変わらないぐらい小柄で、子供と言われてもわからないくらいなのだ。
「アリアは大丈夫ですよ。あの子、あんなですけど、実力は確かなので」
「そうだな。アビーと戦ってもいい線いくんじゃないか?」
「いや、そんなわけねぇだろ」
アビーはロイスの言葉にすぐに否定をする。
「いや、アリアは守護者も一人で倒せるほどの実力者だぞ」
「そ、そうなのか?」
アビーも一人で守護者を倒せるか倒せないかといったら倒せる。だが、苦戦は免れない。
「だから、その点は安心していい」
「まぁ、守護者を一人で倒せるなら」
アビーはそれで納得することにした。
「あら?向こうから誰か来るわよ」
「魔物・・・ではなさそうだな」
「・・・・・・・あれは」
「おい!アビー!」
ロイスは制止の言葉を掛けたが、アビーは遠くに見える小さな灯りを目指して一人で駆け出していった。
--------------------------
「う・・ん、ここは」
「あ、起きた?」
リリィが目を覚ますと、アリアの背中の上だった。
「あ、ごめんなさい。すぐに降ります」
「いいよいいよ。リリィちゃん軽いし。それにこれ借りちゃってるから、私におぶられていた方がいいよ」
「これ?」
「うん、ってあの灯りってハンターの誰かかな?」
リリィの質問に答える前に、遠くの方に灯りが見えてきた。
「あの、あの後ってどうなったんですか?」
「リリィちゃんが守護者を倒した後、私が来た道を引き返しているだけだよ。魔物も出てないから大丈夫」
「それならよかったです。あ、今怪我を治しますね」
「治す?」
「えっと、お腹の辺りに火傷をしてましたよね」
「え、ああ、うん」
「では、清き水よ・我が手に・癒しの光を・ヒーリング」
リリィは背負われながら、アリアに治癒魔法を掛けた。火傷はみるみる内に消えていき、綺麗な肌が戻ってきた。
「すご!痛くない!」
アリアは歩きながら驚いてびょんぴょんと跳ねる。
「わ、あ、お、落ちっ!」
「あ、ごめん。つい」
アリアはリリィを背負っていることを思い出して、跳ねるのをやめた。
「おーーーい!!」
そこへ遠くにいたハンターらしき人の一つの灯りが近付いてきていた。
「あ・・・アビーさーん!!」
リリィはそれがアビーだと声ですぐにわかった。アリアの背中から手を大きく振る。
「アリアさん、降ろしてください」
「え、いやでも」
「大丈夫です。怪我はしてますが、歩けなくはないですから」
「いや、そうじゃなくて」
「えい!」
「ちょっ!ちょっと!!」
リリィはアリアの静止を聞かずにアビーの方へと早歩きで向かった。
「リリィ!」
「アビーさん!」
リリィはアビーに抱き付くように飛びついた。
「リリィ!よく無事だったな!」
「うん!」
リリィはアビーに甘えるように顔をアビーの胸に擦り付ける。アビーもリリィの無事を心の底から喜んでいた。
「なぁ、リリィ」
「ん、なあに?」
アビーは少し言いづらそうな顔をする。リリィはいつも以上に甘えた返事をした。
「そろそろ聞いた方がいいか?」
「えっと・・・何を?」
「いや・・・その・・・・なんでパンツ丸出しなんだ?」
「え?・・・・パンツ・・」
アビーの言葉を聞き、リリィは視線を下ろす。そこにはスカートは無く、ピンクのフリルが付いたパンツが土や埃で少し汚れた状態で晒されていた。
「え!なんで!?」
リリィは上着の裾で隠そうとするが、アビーへのメッセージに服の下半分を使ってしまったので、ぜんぜん隠すことが出来なかった。
「だから私がおんぶしてた方がいいって言ったじゃん」
そこへアリアが追い付いて来て、リリィに言った。
「アリアさん・・・って!それ私のスカート!!」
アリアはリリィのスカートを穿いていたのだ。
「ほら、私も戦いでスカートがダメになっちゃったからさ。それでサイズも同じぐらいだったから借りたの」
「私貸した記憶ないよ!?」
「だって気絶している時に脱がして借りたし」
「それって盗んでるのと一緒だよね!?」
「まぁ、私のパンツは隠せてるからいいってことで」
「私が隠せないよ!?」
リリィはアリアの言うこと全てに対してツッコミを入れる。
「あ~・・・リリィ」
「アビーさん、あまり見ないで頂けると」
「いや・・・」
アビーは答えづらそうにしていると
「すまない、リリィ」
「うふふ、眼福だわ」
アビーの後ろからロイスとセレナが顔を出した。
「い・・・いやあぁぁーーーー!!!」
リリィの絶叫が遺跡内に響き渡るのだった。
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「うぅ・・・もうお嫁にいけない」
リリィは涙目で最後尾をとぼとぼと歩いていた。
「ごめんなさいね。何か代わりになる物を持っていればよかったんだけど」
セレナが申し訳なさそうに言った。
「いえ、お気遣いありがとうございます」
リリィはパンツ丸出しで歩いていた。最後尾なのは誰からも見られないためである。
「まぁ、見られても死ぬわけじゃねぇからいいんじゃね?」
先頭を歩くのはアビーとロイスだ。男性陣である二人はリリィから遠い位置を歩いていた。
「アビーさんはパンツ一枚で出歩いても平気なのですか?」
「まぁ、パンツ穿いてんなら別に気にしないが」
「少しは気にしてください」
男性であるアビーと女の子であるリリィでは、根本的な考えが違うことに気付いた。
「リリィちゃんも堂々としてれば水着だと思われるからいいんじゃないかな」
事の原因を作ったアリアはリリィの隣で言った。
「ならスカート返してくださいよ。堂々していれば水着に見えるんですよね?」
リリィは涙目で懇願する。
「嫌だよ。いい歳した女がこんなところを水着で歩くわけないじゃない」
「それは私も同じですよ!」
リリィがいくら言ってもスカートを返す気が無いアリア。それを見ていたセレナは本当に申し訳なさそうな顔をする。
「本当にごめんなさいね。リリィちゃん。後で隊員に何か着る物を持っている人がいないか聞いてみるから」
「はい・・・。お願いします」
そうでないと町までパンツ丸出しで帰ることになってしまう。それだけは絶対に遠慮したかった。
「もし無かったら私のスカート貸してあげるから」
「・・・え?」
リリィはセレナの発言に疑問を持った。
「いやいやいや。セレ姉もそれだとパンツ丸出しに」
「いいのよ。リリィちゃんが恥を掻くのなら私が恥を掻いた方がマシよ」
アリアが慌てて止めに掛かるが、セレナは大真面目に言い切った。
「いや!だってセレ姉の今日の下着ってあれでしょ!流石にまずいって!」
アリアが言うセレナの下着も気になるが、セレナの言い分も問題があるのは確かだ。
「しょうがないじゃない。着るもの無かったら誰かさんの所為でリリィちゃんが恥を掻いちゃうんだから」
「うっ」
「まぁ、私が変わりに恥を掻けばいいだけだから、別にいいんだけどね」
「うぅ・・・」
セレナはそれが決定事項の様にすらすらと言う。アリアはそれを言われると何も言い返せなくなってしまった。
「わかったよ!私がスカートを返せばいいんでしょ!ほら!」
アリアはそう叫ぶとスカートをずり下ろして、リリィに返した。
「えっと・・・」
リリィは迷いながらスカートを受け取る。そして、目の前には赤い水着のようなパンツを穿いたアリアが立っている。
「うふふ、リリィちゃん。アリアのは実際に水着だから安心していいわよ」
「へ?」
まさかの言葉にリリィは驚く。
「アリアは足技が多いから見られてもいいように水着を穿いてるのよ。ズボンのような物だと足が上がりづらいっていってね」
セレナは笑いながらリリィに説明をした。
「まぁ、そういうことだから。えっとその・・・ごめんね」
「い、いえ、返して頂けたので大丈夫です。こちらこそ助けて頂いたのに」
リリィも謝ってきたアリアに助けてもらったことについてお礼を言う。
「それはそうと早くスカート穿いたら?私的にはこのままでもいいんだけど」
「あ!そうでした」
セレナの言葉で、スカートを穿くのを忘れていたことを思い出したリリィであった。
「本当に良いですか?アリアさん」
「まぁ、少し恥ずかしいけど、水着だからね。戦闘中はいつもちらちらと見えているはずだし」
アリアは吹っ切れたのか平然としていた。
「まぁ、無事に帰れそうで良かったな。リリィ」
「そうだな。うちの隊員が迷惑を掛けた」
「い、いえ。そんな・・・」
アビーとロイスも気兼ねなくリリィに話しかけてきた。
そうこうしている内に、遺跡の出口が見えて来た。
「なんか色々とあった一日だったな」
「皆さんにはご迷惑を掛けてしまい、本当にすみませんでした」
リリィは自分の所為で大掛かりな捜索部隊が動いてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「まぁ、リリィが気にする必要はない。それに」
「今回の一件でこの辺りの状態を調べることが出来ました」
ロイスとセレナが今回の収穫を報告してくる。
「ロイスさん・・・、セレナさん・・・」
リリィは二人の気遣いがとてもありがたく感じた。
「それと、リリィのパンツを見れたのも収穫だったな」
「「「・・・・・・・・」」」
アビーの言葉にリリィ以外の全員がアビーを呆れた目で見た。
「アビーさんの・・・」
「あ・・・やべ」
アビーは逃走しようとする。
「バカーーー!!!」
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
アビーはリリィの拳を何度も浴びることになった。