Ⅱ-Ⅰ
「にしても……」
義父のメラネオスを発見して、俺達が向かったのは近くにある神域だった。
当然ながら、その外は草木の生えていない荒れ地である。神々の加護がどれほど強力なのか、痛感するには良い例だろう。
しかし疑問なのは、どちらが先なのかということだ。荒野が先にあったのか、神域にある緑豊かな森が先だったのか。
この辺りが元々どんな土地だったのか、俺はまったく知らないわけで。
「いやはや、助かった。あのままではいずれ、オレステスの手勢に捕まっていただろう」
自嘲の笑みを浮かべながら、メラネオスは感謝を口にする。
軽装の鎧で身を固めた彼は、馬を引きながら先頭を歩いていた。後ろにはもちろん、俺とブリセイス、バリオスの二人と一頭。
ちなみに俺も、今はメラネオスを習って地に足をつけている。いつまでも二人乗りでは、バリオスが機嫌を悪くしかねない。
なので今、神馬に跨っているのは美女一人。……心なしか機嫌の良さそうなバリオスだった。
「君には恩ばかり重なっていくな。娘のことといい、トロイア戦争のことといい……」
「当然のことをしたまでですよ。……でも、オレステスの手勢に追われてたってのは、どういうことですか? 帝国と敵対していると?」
「いや、そこまで大層なものではないよ。私はただ、王位を追われているだけさ」
メラネオスは嘆息を零しながら、がっくりと肩を落とした。真面目そうな横顔も苦悩で満ちている。
気にし過ぎない方がいい――そう声をかけてやりたいが、彼の性格を踏まえると励みにはならないだろう。
メラネオスはギリシャ中の英雄と比較しても、飛び抜けて真面目な人だ。オマケに冷静で、物事の本質を読むのにも長けている。精神的には武人より、学者気質の人とも言えるだろう。
そして、ヘルミオネの父親でもある。
娘をに残してきて、多少の罪悪感を抱いているに違いない。あるいは、甥の愚行を恥じているのか。
「まったく情けない。オレステスの策に気付かないばかりか、妻と娘、民を置いて一人逃げ伸びるとは……父親としても、王としても失格だよ」
「――」
「いや、すまない。こんな愚痴は話すべきではなかったな。……運良く、私は君に巡り合えたのだ。ならば直ぐにでも、人々を救う術を考えなくてはならない」
大きく息を吸って、一角の王は表情を切り替える。悲観に暮れる逃亡者ではなく、勇ましい挑戦者のソレへと。
――前言撤回だ。声をかけてやる必要はどこにもない。彼は王として、確たる信念を持っている。
同情は誇りを辱めるだけだ。英雄たらんとするなら、その一線だけは犯せない。
メラネオスは俺の方に振り向くと、真摯な態度で語り始める。




