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墓荒らしましょう

何処かの世界の何処かの墓場。


一人の墓荒しさんが居りました。


しかし、彼の目的はお墓に埋まった金品等ではありません。


ちょっと腐った彼の目的。




それは自分のお墓を見付けて、"今度こそ"安らかな眠りに就く事なのです。







「嗚呼…。ここも違うなぁ…」


既に眠っている人が居るや。とお墓の蓋を開き溜め息を吐くのは先の墓荒しさん。


と言うのも彼は何日か前にこの墓場の何処かに埋葬された故人でしたが、ゾンビとして生き返り自分のお墓から起き抜けてしまったのです。


しかし生き返った直後は頭が回って居らず、散々歩いている内に覚醒してしまいました。


なので残念な事にその間の記憶は曖昧で、生前の記憶に至っては未だ完全に喪失したままなのです。


自分が何処の誰なのかが分からない事自体は構いませんが、する事もないからお墓に帰って安眠したい。しかし何処に埋葬されていたかが判らない。


ならば自分のお墓を探そう、と言うのが今の彼の行動理由なのです。


「はぁ…」


こうして彼の墓荒し…否、家探しは今日も続くのです。




徘徊しては自分のお墓ではないのかを確認する為に目に付いたお墓を暴く墓荒しさん。


そんなある日の事。

相変わらずふらふらしている墓荒しさんの事を注意しに、この墓場の責任者である墓守さんがやって来ました。


「おいこらテメェ。腐りかけの分際で何してやがる。」


口の悪い墓守さんは足癖も悪いのです。


言ったが早いか繰り出された墓守さんの蹴りは、絶賛墓荒し中の墓荒しさんの頭に命中しました。


「うえぇ!?」


墓荒しさんは吃驚すると同時に、視界がぐるぐる。

ゾンビになって脆くなっていた首が体から外れて飛んでしまったのですから。


「痛っ!」


飛ばされた先で誰かのお墓の角に頭をぶつけてしまった墓荒しさん。

泣きっ面を蜂に刺され、なんとも災難としか言いようがありません。


「よぉ。最近噂の墓荒しってのはテメェだな」

「は…はい。多分…」


無惨に転がる墓荒らしさんの髪を雑に掴み、自らの視線の高さまで持ち上げ眼垂れる墓守さん。


最早どっちが悪者なのか分かったものでは有りません。


「何も奪って無ぇくせに俺の仕事を増やしてんじゃ無ぇよこの愉快犯が」


ニコチン切れの墓守さんが器用に片手で煙草を準備しながら文句を言います。


「否…愉快犯とかでは無いんですけど…」

「あ゛!?」

「いえっ、何でもないです、すみません!」


不機嫌極まりない墓守さんに怯えた墓荒らしさんは涙を浮かべて直ぐに前言を撤回しましたが、それがまた墓守さんの気には食わなかった様です。


「理由が有るなら言いやがれ」

「は、はいっ!」


有無を言わせない凄みで墓守さんは墓荒らしさんの口を割ります。


「ここの殆どは俺の犠牲者だからな、つまりはこの墓場は俺の庭だ。身元さえ判りゃテメェもさっさと還してやんよ」

「は、はぁ…」


事情を聞いた墓守さん。

仕事とは言え一緒に家探しを手伝ってくれる案外良い人の様です。


例えそれが、煙草を片手に悪態吐きながら仕事をこなす元大量殺人鬼だとしても。


身元を知る為、墓荒らしさんは首をくっ付けながら思い出せる限りの経緯を墓守さんに話しました。




「…で?結局テメェは誰なんだよ」

「だからそれが判らないんですよぉ」


苛つく墓守さんと、その怒気に気圧され半ば泣いている墓荒らしさん。


二人が途方に暮れているのは、墓守さんの記憶に墓荒しさんが居なかったからでした。

手掛かりは二人揃った所で見付からなかったのです。


「しょうがねぇな。テメェん()探すのを手伝ってやる。」

「あ、ありがとうございます!」

「ま、安心しろ。見付かんなかったら俺が直々に殺してやっから。」

「…あ、ありがとうございます…?」








ガタガタガタ…っ


「「!?」」


いざ墓荒らしさんのお墓を探そう、と二人が思い立ったその時です。

突然、二人から少し離れた場所で物音がしました。


しかしその方角に在るのは、古株のお墓ばかり。

今更ゾンビだなんて言って起き上がる物好きは居ないのです。


と、なると。


「仕事の時間だ。」


ニヤリ。と至極嬉しそうな笑みを浮かべた墓守さんは序でとばかりに狼狽える墓荒しさんをひっ掴むと、音の発信源へと走り出しました。


きっと其処には正しい墓荒しを目的とした泥棒さんが居るのでしょう。




「アハハッ!ビーンゴッ!」


絶賛墓荒らし中の泥棒さんを確認した墓守さんは勢いもそのままにお墓を踏み込み台にして高く飛び上がると、高らかに笑い声を上げながら連れて来た墓荒しさんを泥棒さんに投げ付けました。


墓守さんにかかれば墓荒らしさんが鈍器扱い甚だしい事この上無い。


ゴンッ。


「痛ッ」


鈍い音を発て墓を荒らしていた者同士の頭が見事衝突します。


投げ付けられた墓荒らしさんを受け止めてくれる人が居る筈も無く、墓荒らしさんはそのまま地面にダイブ。不運。


「あっ。痛覚有んの?マジで?」


罰当たりにもお墓の上に着地した墓守さんはちょっと吃驚。首が取れても特別痛がりはしなかったのですから。


現に墓荒らしさんの「痛い」発言は、体に染み付いた生前の反射的な反応で実際に痛みは無いのですが。


「メンゴメンゴ。許してちょ。」


それを踏まえてか否か、頭を抑えて痛がる素振りを見せる墓荒らしさんに墓守さんが本気で謝る気は無い様です。


「ヒドイ…うわっ!?」


涙目の不幸な墓荒しさん。

そんな墓荒らしさんの不幸はまだ続きます。


今度は泥棒さんの腕の中で人質です。


「コイツを殺されたく無くば、俺を見逃すんだな!」


飛んで来た墓荒らしさんと同じ方向からやって来る墓守さんの二人を仲間同士だと判断したのか、人質を捕った事で勝ち誇る泥棒さん。


対する墓守さんは、煙草を蒸かしながらのんびりと考えていました。


何たって墓荒しさんは既に死んでいるのですから。


しかし殺す、とはニュアンスが違ってもただの動かない死体に戻るかも知れません。

それは勿体無いなぁ。と、墓守さんは思いました。


暇なのです。一人では。


「お、俺の事は構わずコイツをっ!」


暫く考え事に耽っていた墓守りさんに、震えた声で墓荒しさんが叫びました。

お陰で墓守さんはどう対処すれば良いかを決断したのです。




「え?いいの?」

「…………へ…?」


人質の彼がそんなに言うのならば仕方が無い。

墓荒しさんも泥棒さんごと葬ってしまおう。


と。




墓守さんが徐に地面の礫を拾って弾けば、その礫は墓荒しさんの額をぶち抜き泥棒さんの心臓へまっしぐら。


「あぐっ!?」


その素早い行動に対応出来なかった泥棒さんは墓荒らしさん諸とも崩れ落ちます。


そして見事、二人は動かなくなりましたとさ。


めでたしめでたし。







なんて。

この話にはまだ続きが有りました。


墓守さんが適当に空いていたお墓を見繕い、死んだ泥棒さんをそこに埋めていると。

不意にむくり。と墓荒しさんが起きたのです。


「痛た。…アレ?俺は今まで何を…」


なんと墓荒しさんはまた動き出しました。

額に墓守さんが開けた風穴が有ろうとお構い無しです。


何たってゾンビなのですから。


その上、墓荒しさんは都合良く死んでからの事。つまり、ゾンビになってからの事をキレイさっぱり忘れていました。

これはチャンスと思ったのが墓守さん。


死んだ自覚が無く、生前の家にも死後の墓にも帰る事が出来ない墓荒しさんが助けを求めて此方を見ているのです。


墓守さんは状況を呑み込めない墓荒らしさんを口八丁手八丁で丸め込み、見事に自分の墓守の助手にしてしまいました。


お陰で墓守さんを良い人だと信じて疑わない墓荒しさん改め助手さんは、墓守さんを慕ってお手伝いに精を出します。


そんな墓守さんと助手さんの手でこの墓場は今日も守られているのです。




…余談ですが、助手さんを殺したのは墓守さんなのですが忘れてしまっている様です。

しかもゾンビになった助手さんが探していた彼自身のお墓は、墓守さんが丁度空いているからと泥棒さんで埋めてしまっていましたとさ。


めでたしめでたし。



end

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