前編
あるある探検隊!(Д´ ) (Д´ )
あるある探検隊!( `Д) ( `Д)
“仮面ライダーブラックRX観てたら突如TSネタが思いつく”
はい!はい! ( `Д) (Д´ )
はいはい! ( ) (`Д´)
はい!! (`Д´) (`Д´)ノ
この世には偏見と差別と不平等が満ちている。
優しく真面目な人間が損をする一方で、卑劣で卑怯な人間が得をする。
恵まれた環境に育った人間がいる一方で、どんなに頑張っても不幸から抜け出せない人間がいる。
生まれつき優れた肉体を持った人間がいる一方で、生まれつきの貧弱さや障害を抱えている人間がいる。
誰しもに機会は均等に与えられず、己のせいではない理由で周囲から蔑まれ、チャンスを奪われ、社会から排除される。
例えば、この俺がそうだ。
俺は生まれて間もない時に親から捨てられ、小さな孤児院に保護された。今にも潰れそうな孤児院で、決して清潔とは言えない環境の中、ひ弱な身体を引きずりながら育った。
暗くなりがちの孤児たちの中心になってみんなの和を取り持つ元気な奴もいたが、そういう将来性のある子どもほど引き取りたいという大人が多い。施設の孤児たちが養父母の目に止まって次々と引き取られていく中、病弱でリスクの高い俺はずっと孤児院に残ったままだった。病気ばかりで手間がかかる俺に対して、周囲の大人たちからの視線は同情と忌避だけだった。
中学を卒業した後、俺は追い出されるように施設から退去となった。あの施設は万年赤字で、孤児を高校に入学させる金どころか、余計な子どもを置いておける余裕すらなかった。ほとんど着の身着のままで施設を後にした俺には絶望しか見えなかった。
引きこもって本ばかり読んでたから、その辺の高卒よりは頭が良いという自負があった。だけど勉強できる環境も材料も限られていたし、中卒という社会のレッテルが邪魔をしてどこの企業も雇ってはくれなかった。肉体的に恵まれていれば何かしらの仕事があったかもしれないが、体つきが女のように細く低い俺を見れば、みんな首を横に振った。「若いんだから働けるでしょ」と生活保護も断られた。病気で休んでばかりの俺なんて、ヤクザだって雇ってくれないのに。
その内、休み続きでバイトも首になって、住む場所も金もなくなり、気づけば俺は橋の下で雨に打たれながら孤独に咳き込んでいた。口の中に血の味がした。もう長いこと薬を飲んでいない。息苦しい。もはや立つことも這いずることも出来ない。目の前が真っ暗だ。こんなに生きたいと願ってるのに、世界は俺が生きることを認めてくれない。
この世界は、ちっとも優しくなんか無い。愛も正義も存在しない。援助の手など、実際には限られたほんの一部にしか差し伸べられない。この世に蔓延しているのは利己的な意思と自己中心的な欲望、身内にしか向けられない貧しい心だけ。腐ってる。間違ってる。こんなどうしようもない世界は―――ぶっ壊すべきだ!
「ならば、我がクロイシス大国に来るがいい」
一体どこから滲み出てきたのか―――いつの間にか、その声の主は俺の前に仁王立ちしていた。ドスの効いた低い声がコンクリートに反響して鼓膜を不気味に引っ掻いた。
世界征服を企むクロイシス大国―――。噂でなら聞いたことがある。この数年、日本各地で恐ろしい怪人が出現しては街を破壊するという事件が頻発していた。その影には必ず悪の組織の存在があるという。警察ではまるで刃が立たず、自衛隊でも犠牲覚悟でようやく撃退できるほどの恐るべき能力を持った怪人たち。その怪人を製造し、日本各地で暗躍する正体不明の影の組織、『クロイシス大国』……。
曇っていく視界の中、異質な騎士鎧を身にまとった男がニヤリと誘う。
「我が大国は、貴様のような弱者こそを必要としている。さあ、私の手を取れ。今より貴様も、この世界の破壊者となるのだ」
そうだ……。こんな、こんなクソッタレな世界は早くぶっ壊すべきだ。こんな世界だから、誰も俺を見ようとしなかったんだ。誰彼も自分勝手になってしまうんだ。既存の枠組みを全部ぶっ壊すんだ。国家というくだらない隔たりも、人々の意識すらも、全てを洗いざらい打ち壊して、もう一度最初から作り替えるべきだ。そのためになら、俺は、悪の組織にだって入ってやる!!
吐血が迸るのも無視して、俺は最後の力を振り絞って男の手に掴みかかる!
「俺は―――この世界を壊したい! 作り直したい! もっと優しい世界にしたい! お願いします、俺に力をください! 強い身体をください! 俺を―――怪人にしてください!!」
「……ほお、なかなか気骨のある若造だ。気に入ったぞ。私の名は海軍隊長ボスグン。我が権限により、貴様を238番目の戦闘員と認める」
こうして俺は、悪の組織の戦闘員となった。
弱い人間だった頃の名前を捨て、『戦闘員238番』としてクロイシス大国の一員となった。
もう、4年も前のことだ。
「うーん……。あ、戦闘員238番君、ちょっと聞きたいんだが」
「なんですか、係長175番」
「あのさ、先々月の東京での戦闘で戦闘員に負傷者が出たよね。そいつらの装備なんだけど、これの処理ってどうしたんだっけ? 買い換えてる? 急ぎで確認したいから戦闘部に内線かけてるんだけどみんな昼飯に行ってるみたいなんだよ。ったく、」
「えーっと、ちょっと待って下さいね」
愚痴っぽい係長175番の突然の問いにも動じず、俺は背後のキャビネットから先々月の総勘定元帳をよろよろと引っ張りだす。お、重い。製本担当ももうちょっと考えて作って欲しい。
先々月の東京―――ああ、仮面バイカーとの戦闘のことか。なら、これだな。
「ああ、ありましたよ。買い換えてませんね。修繕費で予算計上してますから、全部修理してます。なんなら研究開発部に内線掛けて聞いてみましょうか?」
「いや、そこまでわかればいいよ。最近、仮面バイカーのせいで戦闘部も金かかってるみたいだし、これからしばらくは修理で行くのかな。前もって費用引当で準備しとくように戦闘部の部長に進言してみるよ。ありがとう、238番君。ホント、君が管理部に来てくれて助かってるよ」
「あはは、ど、どういたしまして」
係長175番にバシバシと肩を叩かれ、俺は苦笑を返した。
………どうしてこうなった!
俺は心の中で拳を振り下ろす。本当に振り下ろすと腕を痛めてしまうから心の中だけだ。色々な情けなさに襲われ、顔をすっぽりと覆う真っ黒な戦闘員用マスクの下でほろりと涙を流す。
怪人にしてもらいたくて悪の組織の勧誘に入ったのに、なぜか俺が通された先はクロイシス大国の管理部だった。
意外に思われるだろうが、悪の組織も『組織』というからにはそれなりの体裁が整っている。しかもこのクロイシス大国は体系化と役割分担がきちんと成されていて、大国を指揮する幹部たちを筆頭に、戦闘部、作戦立案部、企画推進部、人事部、健康管理部、保安部、研究開発部、システム部、営業部、そして俺が現在所属している管理部などなど、多くの部署が歯車のようにそれぞれの仕事をこなしながら組織を動かしているのだ。
当初は、力を試されているのかもしれないと自分を納得させて、この事務仕事に専念した。勤務待遇はよかったし、病弱な戦闘員への対応も柔軟で、病休を取得することに関しても寛容、さらに組織内の医療サービスも充実していた。外出規制という制限があったが、戦闘員寮の施設環境には大きな図書館もあったりと充実していたし、昔から病弱で引き篭っていた俺には大して苦痛ではなかった。もともと資質があったのか、仕事内容にもそれなりにやり甲斐を感じていた。この仕事で存在感を示せばいつかは強い怪人に改造してもらえる、やがては出世して幹部になれると信じて、俺は懸命に仕事に励んだ……。
「で、気がついたら4年も経ってて、俺は管理部で係長と220番先輩の次に古参になっちゃってんです」
「はは、238番は俺たちよりもこの仕事に精通してると思うけどな。係長175番なんて、お前のことを他部署の連中に自慢してるぜ。“若いのに関心だ!”って」
それはそれで複雑だ。今まで社会から疎まれていたから必要としてもらえることは嬉しいが、本当にやりたいことはこの仕事ではないからだ。俺は怪人になって、既存の世界の破壊を行いたいのだ。
はあ、とマスクの下で溜息をつく俺の背中を、一期上の先輩、戦闘員220番が笑って叩く。220番先輩は戦闘員の中でも一際明るくて声も通るから、自然と周りの視線と笑顔を集める。この戦闘員用食堂ではいつもの光景だ。
「238番は怪人になりたくて組織に入ったんだったよな。ま、気長に待つことさ。俺だって最初は怪人を目指してたけど、体力テストはかなり厳しいぜ。面接試験で如何に自分の長所をアピールできるかで勝負が決まるしな」
「でも、どんなにひ弱でも、博士に改造してもらえばずっと強くなれるし、特殊能力だって貰えるんですよね?」
「まあなぁ。でも素質は大事だろ? あの全身メカの機甲隊長ガテズーン様だって、元はひ弱だったわけじゃない。きっと肉体的な素質もあったから、ああして叩き上げの幹部になれたんだ」
「でも……それでも、俺は……」
ぎゅっと拳を握り締める。分かっていたはずだった。チャンスは平等に訪れるものじゃない。生まれる前から『持つ者』と『持たざる者』の間に大きな隔たりがあることを、俺は身に沁みて知っている。ここでも俺は、世界の不条理に付き纏われている。
「お、おい、泣くなよ! お前を泣かせると女を泣かせたみたいで後味が悪いんだよ!」
「……俺は女じゃないです」
「わかってるっつーの。でもほら、お前は女っぽいし、俺らはあんまり、なんというか、そういうのには馴れてないっつーか……。だーっ、この話はもう無し! ほら、今日は俺が奢ってやるから、お代わりしていいぞ!」
「……そんなに食べれないです」
ガシガシとマスクの後ろ頭を掻いた先輩が困ったようにそっぽを向く。
こういう荒事専門の組織にはありがちのことなのかもしれないが、クロイシス大国には女っ気が皆無だ。女性といえば、地下の研究開発部を根城にしてるマッドサイエンティストの老婆しかいない。
戦闘員に採用するのはほとんど肉体的に素質のある体育会系ばかりで外出も制限されるとあっては、自然に戦闘員は男ばかりになる。男所帯が出来上がってしまえばそこに女を入れるのは抵抗が生じてしまい、今現在までクロイシス大国に女性戦闘員はいない。というわけで、ここにいる連中はみんな女慣れしていないのだ。教師も生徒も男ばかりの男子校を想像すれば分かりやすいかもしれない。
「ほ、ほら、アレだ。238番は毎年、適性試験は受けてるんだろ? 何時かはそれが認められる日が来るさ。それまで頑張ろうや。な?」
先輩の必死の慰めも、心には響かなかった。俺自身が諦めてしまっていたからだ。
おそらく―――いや、間違いなく、怪人になれるチャンスなど回ってこない。幹部にまで上り詰めて世界を作り直す者になるなんて、夢のまた夢だ。俺はこうしてずっと、下っ端戦闘員として日の当たらない地下基地の中から出ることはないのだ。
その日は、寝付くまでずっと涙を流していた。
「―――ぉい! 起きろ、238番! いつまで寝てんだ!」
「ふぁ、ふぁいっ!? いま起きまひゅ!」
しまった、遅刻をしてしまった!
ドンドンと扉を叩く騒々しい音に叩き起こされ、呂律の回らない舌で返事をする。目元をグシグシと拭って枕元のマスクを探す。ずっと泣いていたせいで目元にゴワゴワした違和感がある。きっとクマでも出来てる。マスクをしないと恥ずかしい。
「……あれ?」
ふと、マスクの隣の置き時計を目にして首を傾げる。時間は勤務開始時間より一時間も前だった。締め日でもないし、行事の予定もないのに、一体全体何事だろうか?
訝しげながらも寮の扉を開ければ、そこには寮長をしている戦闘員195番が肩で息をしながら俺を待ち構えていた。動揺に血走った目に見下され、俺は思わず後ずさる。
「ど、どうしたんです?」
「どうしたもこうしたもない! お、お前、いったい何しでかしたんだ!?」
「へ?」
目を丸くして195番を見上げる。ドッキリとかそういう類ではなさそうだ。でも、俺にはまったく心当たりがない。来期の資金計画もキッチリと作りあげたし、仕事の失敗はないように何度もチェックしてるはずだ。
「とぼけるなよ! お前宛に召喚命令が来てるんだぞ!」
「す、すいません。でも本当にわからないんです。し、召喚って、どこの誰からなんですか?」
「決まってるだろ―――幹部の方たちがお前を呼んでるんだよ!!」
……うそん。
気づけば3日掛けてこれを書いてた。この物語は、ホントのホントに前中後編で終わります。でも僕ってホントにTSネタ好きだよねえ。我ながらどうしてこのネタにここまでハマってしまってるのか不思議です。