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夏草

作者: 影井 光

エノコログサに似た葉茎の群れに、混じるススキの若株、半々。

丈の低いもの高いもの、伐採にころよいもの。

密集し絡めた根の想像つかぬ程に田へ蔓延る草を苅ろうと言い出したのは祖母だった。

ハメの巣になられては、と、前々より近隣の苦情を耳にして(作稲を休み草が茂り)二年目。

愈々痺れを切らせた祖母直々の電通が続き、漸く父が重い腰を上げた。

独りではやらぬと言って聞かない父が動くには、当然、私の参加は必須条件。

母は腰が慢性的に悪く、弟は性格柄、手伝ってやろうと遂に言わなかった。

父と私は、一日かけて、田と言う田、畑と言う畑を苅って回る事になる。

今日は夕立が降る予報が出ていた。




丁度四時を過ぎた頃だっただろうか。

やや空が黄色めいていた。

元より油漏れの酷い私の草苅機が音を上げて静まったのはこの時。

エンジンが熱しすぎた。

引いても引いても『ブルル』一言くたばり、諦めて手放し、その時に空を見たのだ。

朝から一度も休む事の無かった腕は今だ小刻に震えて感触が残る。

滴るばかりの頬汗をガソリンの染みた袖で拭って間無し、予報通り夕立が来た。

汗と油、草の汁でズブ濡れと何等変わり無く、寧ろひんやりと心地良かった。

父はまだ働いている。

肩より湯気を立ち上げて骨皮質の背が鼠色の作業着越しに。




やがて雨が霧を吹いた様に変わり、雲の割れ目から朱い光線が束となって落ち。

『しぃぃ』と、草木に降り注ぐ音は最早背景、父が苅る音のみが音としてあったようだ。

油を足し、夕立のお陰で息を吹き替えした草苅機を手にすれば。

父にしてはまばらに処理された草の様子が有った。

腰未満膝未満、しかし足首より高く柔さにも過ぎない。

一度歯が通れば折れる夏草のみが残されていた。

雨で湿るにしろ、一振り、二振り、三振り四振りも軽い。

通りであろがなかろうが、私から声を掛けずに今に至る。

雨止めど、父はまだ黙々としていたからだ。


<了>




(※ハメ→マムシのこと)

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― 新着の感想 ―
[一言] 草刈をしている光景が、目の前に飛び込んでくるようでした。 細かく丁寧な描写が、酷く淡々とした語りに非常にマッチしていて、なんともいえない心地良い静けさを作り出していたと思います。
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