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天の邪鬼な彼女

作者: 朝霧細雨

短編です。小説初投稿です。ふと思いついた内容を書いてみました。いろいろと未熟ですが楽しんでいただければと思います。


天の邪鬼な彼女





 転校生がやってきた。



 小柄だけどバランスの取れた体つき、透き通る様な、けれど病的な感じのしない真っ白な肌、肩口にかかる程度の長さの艶やかな黒髪、少し表情が硬いが、美少女と分類してもまず文句が出ない整った顔立ち。

 そんな彼女の登場に教室中の男子が沸き立った。


 しかし僕は、そんな彼女の容姿よりも彼女の名前が気になってしかたなかった。



 天野(あまの) 素直(すなお)



 変わった名前だった。でもそれ以上に、僕はその名前に覚えがあった。


 小学校三年生まで住んでいたマンションのお隣さんと同じ名前なのだ。




もしかしたらあの子かもしれない。




そんな思いでいっぱいだった。











 彼女が転校してきて二日がたった。僕は未だに彼女のと話せないでいた。どう話しかけたらいいのかがわからないでいたのだ。



 僕のこと覚えてる? ……新手のナンパか。


 もしかして会ったことある? ……これも無いな。というかさっきと大して変わらないじゃないか。


 もしかして昔お隣さんだった天野さん? ……やはりこれが一番無難だろう。



 ただ、記憶の中の彼女と目の前の彼女の違いが僕にその一言を言うのを躊躇わせた。




 実のところ、どう話しかけたらいいのかわからないでいたというよりは、こちらの方が大きかった。






 あの子はとても活発だった。

 彼女はとても物静かだ。



 あの子は表情がころころと変わる子だった。

 彼女はほとんど無表情に近い。



 あの子は明るく愛想がよかった。

 彼女は暗いとまでは言わないが、その態度は素っ気なかった。


 あの子は名前のとおり素直だった。

 そして彼女は――




 ――どうやら、天の邪鬼なようだ。




 まあ天の邪鬼と言っても、何から何まで反対のことをしたりといった度のすぎたものじゃない。せいぜいが、話しかけられても嫌そうにするが、話している最中は何だかんだでよく話す、といった程度だ。

 ともかく、彼女のこの二日間の行動や言動から、あまり素直じゃない、少しひねくれてるといった評価が定着しはじめていた。




 ――長い時間があの子を変えてしまったのだろうか、それともただ同姓同名なだけの別人なのだろうか。




 あの子と彼女の顔立ちに共通点を見つけられたらとも思ったが、何分昔のことなので、はっきりと思い出せない。

 それこそ、こんな風にうじうじと考え込んでいないで、さっさと聞いてしまえばいいことなのに、やはり僕は二の足を踏んでいた。









 その翌日の昼だった。





「ねえ」





 彼女が話しかけてきた。

 静かな、しかし暗さを感じさせない涼やかな声が僕の中で響いた。



 僕の制服の裾をちょこんとつまみながら僕を見ている彼女。

 その仕草は、今までことごとく一致しなかったあの子と彼女の中で、唯一同じものだった。


「……やっぱりいい」


 彼女はそう言って離れようとしたが、僕の手が彼女の手を掴み、それを押し留めた。


 あの子は普段活発なくせに、僕に話しかけてくるときはいつも決まって少しおとなしくなり、僕の服の袖や裾を引いてきたものだ。



 たった一つの共通点。しかしそれだけで今までの躊躇いは消えた。同時に、あれこれと考えていた言葉も。そして僕の口からは自然と言葉が出てきた。


「すぅちゃん、だよね」


「……ん」


 昔のあだ名で呼ぶ。もう僕は彼女があの子だと確信していた。

 少し目をそらしながらもコクリと頷く彼女。

 周りはいきなりの展開に呆然としている。


「久し振り、元気だった?」


「……しらない」


 拒絶、そして沈黙。


 表情には出ていないが、どこか怒ったような、または拗ねたような声音だった。


「えっと、僕、何か気に障ることした?」


 彼女の眉が僅かに寄った。あれ、もしかして本当に?


「……」


「……」


「……手紙」


「え?」


「手紙、くれるって言ってたのに、半年程で来なくなった」


「……あ」


 僕が引っ越すとき、仲のよかった彼女はとても嫌がった。それをあの手この手で宥め、必ず手紙を書くからと言ってようやく納得してもらったのだ。

 引越してからしばらくは小まめに書いていたが、やがて手紙を書く頻度は減っていった。


 もちろん彼女のことを忘れたわけではない。むしろ、今にして思えば初恋の相手だったくらいだ、忘れるわけがない。ただ悲しいかな、当時はそのことに気づいていなかった。


 そうして毎日を過ごす内に、手紙のことは綺麗さっぱり忘れてしまっていたのだ。



「その……ごめん」


 周りの女子たちからの視線が痛い。

 間違いなく僕が悪いのだが、この視線はキツい。


「……私のこと、嫌いになったの?」


 悲しそうに聞いてくる彼女の表情にどきりとした。

 同時に視線の数が一気に倍になった。男子たちの嫉妬ビームが僕を貫く。おい、そこ何人か、お前ら彼女持ちだろうが、ええいこっち見んな!


「そんなわけ無い、ずっと好きだったさ。手紙だって、出さなくなったことは悪かったと思ってる。でも決して嫌いになったとかじゃない」


「……そう」


 掴んでいた手はいつの間にか離れていた。何となく、手持ちぶさたに感じた。


「で、両想いのあなたたちはこれからどうするわけ?」


 一人の女子がニヤニヤしながら、からかうように言葉を投げかけてきた。


「うぇ!? ど、どうって……」


 勢いでとは言え、堂々と「ずっと好きだった」なんて言ったんだ、からかわれるのは当然だった。


 しどろもどろになりながら、チラリと彼女の顔を伺う。

 彼女は赤くなった顔をツイ、と逸らしながら言った。


「別に」


 顔を逸らして素っ気ない物言いだが、いつの間にか僕の手を握った状態なので、周りは何を言っているんだか、と言った感じだ。


 というか周りの女子は皆ニヤニヤと僕たちを見ている。男子はもう無視することにした。




 そうしている内に、一人、また一人と女子たちが彼女を質問攻めしていく。


「二人の関係を詳しく教えて」

「転校先で偶然出会うなんて運命的ね!」

「ずっと好きだったの?」

「いつ頃好きになったの?」

「どんなところが好きなの?」


「あ、最後らへんは僕も気になる」


 もうどうにでもなれ、と僕も質問に便乗した。こんな状況になったんだ、今さら隠そうとしたり下手に否定したりしても後々弄られるだけだろう。


「ッ~~~~、し、しらない!」


 さっきよりも顔を赤くして声も大きくなったが、僕と彼女の手は繋がったままだ。それもご丁寧に恋人繋ぎで、だ。







 どうやら、天の邪鬼な彼女が素直に戻るのはしばらく先になりそうだ。

 赤くなったままそっぽを向く彼女を見て、そう思った。









全国の素直さん、変わった名前とか言ってごめんなさい。


主人公の『彼』は、気がついたら名無しのままで予定していた半分以上まで進んだので、もうこのまま最後まで行っちゃえ、と思い今回のような名無し形式をとりました。

『彼』の名前はどうぞご自由に。


小説を投稿するのは初めてなので、こんなんでいいのかと不安ですが、感想などいただければ嬉しいです。

誤字脱字や、文章の書き方でこうしたほうがいい、ということがあれば、そちらも遠慮なくご連絡ください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポがよく、中高生特有の甘酸っぱさがでてるとってもいい作品だと思います。 [一言] 私もいつか、ツンデレで天の邪鬼なかわいい女の子を書きたいと思っているので、勉強になりました。
[良い点]  かわいらしい話ですね~。  個人的にはあの子と彼女を対照的に書いているところの文章は技ありで、好きです。 [一言]  おひさしぶりです。お気に入りに入れてくれていたので見ると、話を書かれ…
[一言] まぁ、いいんじゃないの? せっかくだから、俺の短編「ツンデレ彼女」も勉強がてら読んでみて~
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