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(7)


「あかり、遊佐と付き合ってんの?」


1月も半ばを過ぎて、ヒーターを切られた教室が少しずつ冷えて行く。

一人日誌をつけている所に薫ちゃんはやって来た。

シャーペンの芯がバキっと折れる。

あたしはノックして、芯を調節する。

「ん・・・うん、ちょっと・・・違うんだけど・・・。」

薫ちゃんがあたしの目の前の席に腰を下ろす。

足を通路に投げ出して、彼の右腕があたしの机に乗っかった。


あたしのテリトリーに、彼は侵入してきた。


「・・・ちょっと意外。あかりがそんな事するなんて。」

「え?」

あたしは書く手を止めて上目遣いに薫ちゃんを見た。

「好きでも無い男と付き合うなんて、あかりがすると思わなかった。」

薫ちゃんはあたしを非難するかの様な口振りだった。

「・・・だから付き合ってるんじゃないから。」

「でも初詣も二人だって聞いたし、二人で日曜とか会ってるって。」


何でそれを知ってて、何でそれを薫ちゃんがあたしに言うの。


しかも、少し怒ってる様に感じる。


「・・・薫ちゃん、何か怒ってる?」

「別に? ただ・・・あかりにはガッカリした。」


 -がっかり? そう言った?


あたしは未だ書き途中だった日誌を大きな音を立てて閉じた。

ペンケースにシャーペンを捩じ込んで鞄を引っ掴んで薫ちゃんに背中を見せる。


「あかり?!」


 -がっかり・・・。



もぉ、友達でも居られない。


委員長を頼ろうとした罰だ。


「あかりー日誌おわ・・。」

教室の出入り口に差し掛かった所で、その委員長が現れた。


薫ちゃんとあたしの構図を見て、あたしの表情を読み取って委員長は言う。

「池内、あかりに何か言ったか。」

「いっ委員長、ごめん、帰ろう。」

あたしは彼の腕に触れて願う。


 -これ以上傷を抉られるのは嫌だ。


「池内っ!」

委員長はあたしを振り解いて薫ちゃんの元へと駆け寄ろうとする。

「委員長っ。」

あたしの叫びに委員長は歩みを止める。

「・・・っ。」

あたしは委員長のブレザーの袖を引いて廊下を歩き出す。



何時しか歩く速度が同じになった委員長はあたしの手首を握った。

「池内に何言われたの。泣く程辛い事言われたの。」

立ち止まり、あたしは袖口で目元を拭った。

「・・・日誌貸して、俺職員室に出してくる。下駄箱で待ってて、一緒に帰ろう。良い?

 ちゃんと待ってて。」

胸に抱えた日誌を取り上げられて、大きな手があたしの頭を一撫でした。



あたしは確かに、委員長に誠実な人間じゃない。

酷い事をしてる。

彼の気持ちを利用してるのと同じだから。


だけど、救って欲しかった。


遂げられない想いを何年も抱えて膨らんだこの心を諫めて欲しかった。


未だ滴る涙をさっきと同じようにブレザーで拭いながら、委員長に言われた通りに下駄箱に向かう。


「あかり!!」


聞き間違える訳もない薫ちゃんの声に体が固まる。

薫ちゃんに振り返る事は出来ない。

それが彼にとっては不可解な訳で、あたしは薫ちゃんに肩を掴まれ反転させられた。

「あか・・え・・あ・・・え?」

涙を流すあたしを見下ろす薫ちゃんの顔は驚愕の表情と言って良かった。

「なにないて・・・あかり?」


薫ちゃん、ごめん。


もうお終いだよ。


「おいっ!! 池内! あかりから離れろっ。」

委員長が薫ちゃんをあたしから引き離す。

「だ、だってあかり泣いて・・・。」

「お前は良いんだよ!」

委員長はあたしの下駄箱から靴を取り出し、身に付ける様急かせる。

「遊佐! あかり泣いてんだろ?! あかり?!」

身を徹して薫ちゃんとあたしを近付けようとしない委員長。

小競り合いのような争いを逃れてあたしと委員長は校舎を後にした。



委員長に肩を抱かれ、あまりの速さに足がもつれそうだったけれど、委員長はあたしを引っ張り上げて歩き続けた。


「・・いんちょ・・・あたし・・・もぉ止め・・る・・・。」


何とか思いを声にした。


もう、この想いを止める。




委員長も、もうあたしなんか止めて。












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