(5)
「朋さんの事なんだけど。」
薫ちゃんが足を止めて白い息を吐いた。
「振られたんだ、俺。」
「・・・え?」
「・・・アドバイス貰って・・・そのメールを送ったんだ。そしたら朋さん、電話くれた。
『何かあったの?』って、まさかさ、あかりの言う様にそんな返事が来ると思って無かった。
きっとメールで『どうしたの?』って返信だと思ってた。」
又、薫ちゃんの口からふわりと息が吐き出される。
「焦ったけど、何とか土曜日に二人で会う約束して告白した。けど。駄目だった。」
そこで薫ちゃんは振り返る。
ほんの少し泣きそうになってる。
胸が痛かった。
「『有難う』って、『でもごめん』って。ほら、あのスーパーで買い物する、前。」
あの前?
驚きが顔に表れたのだろう。
薫ちゃんは心得た様にそれを解明してくれた。
「市営の中央公園で待ち合わせて告って、でも、わざわざ出て来て貰ったから朋さんの家の
近くまで送る途中にスーパーがあってさ。・・・ちょっと振られた後であかりにも
どんな顔して良いか解んなくて・・・。」
苦笑いする薫ちゃん。
薫ちゃんが黙って、あたしはどんな言葉を掛ければ良いのか思い付かなくて沈黙の時が流れる。
薫ちゃんは優しいからその沈黙を破って言葉を紡ぐ。
「ごめんな、あかりに相談乗ってもらったのに。」
『あたしが相談受けて振られた人居ないしっ!!』
あたしがそんな事を言ったから気にしてたの?
「く薫ちゃんっ、あ、あの・・・ごめん、なさい、あたしこそ・・・何かデリカシーの無い
事を・・・言ってたよね・・・きっと。」
「全然? あかりは俺に勇気くれた。ホントにダメモトだったから。俺さ、野球部で結構
弄られキャラだし、図体デカイだけで割とぼーっとしてる所多いから朋さんからしてみれば
手の焼ける弟みたいなもんだったんだよね。解ってたけど、ほらもう直ぐ朋さん卒業だし。」
薫ちゃん、君は、
「頑張ったね。偉かったね。」
恰好良いよ。
「あかり・・・。」
壊れるのが怖くて何もしない臆病なあたしの何気ないアドバイスを受け入れて
温めて来た気持ちをきちんと伝えた、自分にも相手にも誠実な人。
「うん、頑張ったと思う。」
コートのポケットに両手を突っ込んで、鼻の頭を赤くして薫ちゃんは微笑む。
「薫ちゃんは、頑張った。」
あたしは、彼にそう声を掛ける事しか出来ない。
彼の痛みと、あたしの痛みは別モノだ。
冬休みに入って、あたしは委員長と二人で会う約束をした。
「委員長・・・あたし委員長とは付き合えない。」
暖房が効いたファストフード店の窓際の席。
あたしはホットチョコレートをマドラーで掻き回す。紙コップの底を擦る音がする。
「他に言う事無い?」
視線を合わせるのが怖くて撹拌を続けるあたしに投げられた委員長の言葉。
きっと彼は知ってる。
あたしの事をどれ位かの期間見ていてくれたのだから、知ってるんだろう。
はぐらかすなんて出来ないし、しちゃいけない。
あたしは顔を上げた。
「好きな人が、居るの。」
そう言うと委員長は納得するように一度頷く。
「池内、だろ?」
「・・・うん。中学の時からずっと片想い。」
「俺、嫌な奴だろ。温子んちで俺わざと池内の前で言ったんだ。」
「え、そ、そうなの?」
「ごめん。」
頂頭部が見える程頭を下げる委員長。
「やだ止めてよ、委員長っ。」
「・・・池内はあかりの気持ちに気付かない癖に一番解ってる風にほざいてるし、あかりも
絶対池内に告ろうとか考えてないだろうしって・・・あかりの事好きになってから
そういう二人の関係がもどかしかった。ま、俺の勝手な考えなんだけど。」
委員長が紙コップの淵を掴むとコップの中の氷がシャランと鳴る。
ストローを口に咥えかけて、彼は言う。
「あかりは池内に言う気、無いの?」




