(15)
嫉妬。
俺はあかりに触れる遊佐を見て、妬ましいと思ったか。
当然のように、思った。
「池内、いい加減気づけ。お前の持ってる感情は恋情以外の何物でも無い。」
判り切ってるとでも言うように、遊佐は言った。
俺はあかりを追って階段を駆け降りた。
あかりの行動パターンは解ってるつもりだ。
きっと、俺達は共鳴してる筈だ。
駅ビルのエスカレーターで2階へと昇って行くあかりの背を見つけて、名前を呼んだ。
「あかりが、遊佐の彼女になるなんて俺、やだった。」
俺は、左横に座るあかりに視線を送る。
こちらを見る二つの眼は、驚きを物語っている。
「あかりが、誰かのモノになるなんて考えてもみなかった。」
だから俺は追い打ちをかける様に、言うしかない。
「・・・朋さんに振られた。けど、朋さんが好きな人と幸せになるの俺、応援出来る。
・・・なのに、遊佐があかりの事好きだって知って、二人が仲良くしてるの見て凄い嫌だった。」
俺は姿勢をあかりに対して正しくする。
彼女は先程から表情を変えない。ただ、こちらを見ているだけ。
俺はあかりの手を取った。
硬く握られていた指を俺の手の中に包み込む。
「朋さんに振られる事より、あかりが俺から離れて行く事の方がよっぽど辛い。
あかりに好きだって言われて、でももう止めるって、もう今までみたいに仲良く出来ないかも
しれないって思ったら苦しかった。」
あかりの手は酷く冷たかった。
「俺、あかりが好きだ。」
これが、全部。
あかりに対する想い全部。
俺の手の中から、冷たい感触が擦り抜けて行く。
「何言ってんのっ?!」
あかりの答えはそれだった。
そう叫ばれた後、彼女の拳が俺の胸を数回叩く。
「あたしも勝手だけど、薫ちゃんはそれ以上だよっっ!! 何それ! 朋先輩が好きなんだって
言ったじゃない!! なのに何であたしに、何であたしに・・・っっ。」
彼女の暴挙を捕えて、俯く彼女を覗きこめば、涙がぽたりと落下する。
俺は自分のした事に胸が苦しくなる。
あかりが涙するのなんか見たくない。
「あかり・・・。」
「薫ちゃん・・・。」
「・・・。」
「それは・・・あたしと同じ気持ちじゃない。・・・大丈夫、薫ちゃんはあたしを
好きなんじゃない。親友だから、あたし達は親友だから!」
俺の手から逃れようとあかりが体を後方に引く。
俺はそれを許さなかった。
「薫ちゃんっ!! 薫ちゃんはあたしに告られて訳解んなくなって混乱してるだけだからっっ!!」
「そうじゃないっ!! ・・・そうじゃないよ、あかり・・・。」
遊佐があかりを好きなんだって判った時、
”お前なんか選ぶ訳ないだろ” って高を括ってた癖に、苛立ちを覚えた。
「あかりの気持ち知る前からだよ。あかりを誰かに取られたくないって思ったの。」
両頬に涙を流し、充血した目で俺を見るあかり。
俺は思わず彼女の手を引き、胸にかき抱いた。
泣かせたのは俺なのに、その泣いてる彼女を見て愛おしいと思った。
可愛いと思った。
彼女の肩よりも長い髪からふわりと甘い香りが漂って、彼女の持つ匂いに安堵した。
この腕の中に居る、絶対失くしたくない女の子。
俺の -知ってる- あかり、だ。
彼女の手が俺の背中を叩く。
初めは強く、けれどそれは次第に力を弱めていく。
それに反比例する様に彼女は泣き声をあげた。
暫くそうしてて、俺は本当にどーしよーもないけど、腹の虫が鳴ってしまった。
俺の腕の中に居るあかりがプッと吹き出して笑い出す。
「・・ごめ・・・。」
俺は頭を掻いた。
だって、凄く、頑張ったんだ。
あかりを失いたくないってその曇りの無い一点が、あかりを好きなんだって気持ちに気付かせた。
勿論、遊佐に後押しされた感も否めないけど。
「薫ちゃん、シュークリーム食べよっか。」
あかりが指の腹で目尻を拭う。
「・・・。」
全部。
全部欲しい、遊佐がそう言った。
俺も今、思う。
俺の腕を解いて立ち上がるあかり。
片時も離れていたくなくて彼女の右手を掴まえて、握った。
俺を振り返るあかりに向かって俺は言う。
「手、繋いで歩きたい。」
あかりは俺のその一言に眼を丸くし、次の瞬間、頬を朱色に染める。
その頬に触れていいのも、冷たい手を包むのも、小さな身体を抱き締めるのも俺だけで良い。
俺だけが良い。
*** Fin ***
おまけ、あります → → →