(14)
その夜、俺はあかりに一通のメールを送った。
本当なら、あかりの家に行って先ず謝って、ちゃんと話をしたかった。
けど・・・直で会うのは、怖かった。
又俺は暴走してしまうかもしれない。
あかりを不用意に傷付けてしまうかもしれない。
思えば、『がっかりした』なんて・・・酷い言葉だ。
罵倒したのと同然だ。
・・・あかりが、遊佐を選ぶんだとしたら、
-選ぶんだとしたら?
あかりからのコールバックがあって、俺は不規則に鼓動を速めて電話に出る。
「あかり?」
『・・・薫ちゃん。』
聞くからにあかりの声には覇気が無かった。
俺のせいだ。
「・・・俺、あの・・・。」
『薫ちゃん、あたし薫ちゃんの事ずっと好きだった。でも、本当に今日で終わりにする。
・・・勝手なんだけど・・・暫くは・・・普通で居られるか自信が無い。』
-ナンテ?
好きって・・・? あかりが俺を?
待って、終わりって?
俺とは、もう話もしないつもり?
「待って!」
『薫ちゃん。バイバイ、ありがと。』
「あかり!」
とうに通話の切れた携帯電話を俺は握り締めたまま、ずっと動けなかった。
俺とあかりが今迄みたいに居られない?
考えた事も無かった。
もう何年も当たり前の様に、あかりは俺の傍に居た。
俺を見てて・・・見ててくれた。
だから俺は、
何時だって俺らしく居られた。
あかりが俺を、俺があかりを『一番』知ってるし、解ってるし、大切にしてきた。
俺は、あかりの一番じゃなくなるって事?
新しい一週間が始まって、俺はあかりの居る2組に顔を出した。
何時もの席にあかりは居なかった。
教室をぐるりと見回す。
遊佐の姿も無かった。
どうしたら良い? 俺は、どうすれば良い?
一時限目が10分程過ぎた頃、スラックスのポケットで携帯が震えた。
担任の眼を盗んで画面を開くと、遊佐からの呼びだしだった。
俺はメールに記されてあった通り、3階の非常口の扉を開ける。
半分程階段を下りると踊り場があって、そこに遊佐は居た。
立ち上がる壁に寄り掛かり、俺を見上げていた。
「俺さっきまで、あかりと一緒だった。・・・あかりに告られたんだろ?」
・・・やっぱり一緒だったんだ。
「お前、好きな女居るんだろ? だったら、あかりはもう良いよな?」
俺は遊佐から視線を逸らした。
風が耳元を音を立てて通り過ぎてゆく。
遊佐がふらりと俺の直ぐ傍までやってくる。
「なぁ・・・俺さ、あかりの事大事にするから、あかりを解放しろよ。」
・・・解放?
「お前にとって、あかりは友達なんだろ? なぁ、池内?」
俺を追い詰める様に遊佐がじわじわと近付いて来る。
「・・・本当は、あかりを俺に奪われるのが嫌なんじゃないのか?」
遊佐の声が俺の耳元で囁かれて俺は、息を詰める。
親友の幸せを願っていると言いながら、俺はあかりを責めた。
そうだ、俺は遊佐にあかりを取られるのが嫌だった。
「池内、俺はあかりの全部が欲しいよ? 言ってる意味解るよな?」
-全部。 あかりの全て。
「嫌だ。」
口をついて出た言葉がそれだった。
俺は思わず口を手で覆う。
遊佐の腕が俺を壁へと押し遣る。
冷えた体に衝撃が走った。けれど痛みは感じなかった。
胸の中にある釈明出来ない感情が、体中を麻痺させているみたいだ。
「勝手だなぁお前は! 自分は好きな女の相談もして、あかりも傍に置いておこうとする!」
遊佐は、あかりを想ってきたんだ。
俺を想ってくれてたあかり全部を見てきたんだ。
「こっち見ろ。」
遊佐にシャツの襟を掴まれる。
俺は、俺よりも幾分身長の低い遊佐を見下ろす。
「お前にとって、あかりは何だ。」
-この気持ちは、ナンダ?
-あかりは、俺にとってナンダ?
走馬灯の如く、出会ってからの事が思い出される。
男とか女とか、そういうレベルじゃなくて、気心が知れるって、本当に解り合えてるって、
あかりは、絶対失いたくない、
「大事な、人・・・。そうとしか、言えない。」
「ぁあ、そうかよっっ!!」
「っ!」
遊佐の返事と共に、頬を殴られたらしき感触があった。
「良いかっ、お前が大事にしてる野球部の仲間とかクラスの男友達がお前以外の人間と
仲良くしてて嫌だなんて思うか?! 嫉妬なんてのはな、お前が男で、あかりが女だから
生まれてくる感情なんだよ!!」
-嫉妬?