(13)
「あかり、行こう。」
俺はあかりの腕を掴み上げ、あかりのコート、バッグを一切合財掻き集めた。
外に出ると一気に寒さが身に染みて俺はダウンの襟を合わせる。
この冷気で頭が一気に冴えて申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、嫌な思いさせたね。・・・遊佐の事、もし邪魔したんだとしたら悪い事したよな?」
あかりは頭を振る。
俺はあかりが遊佐を選ばないだろうと確信めいた感情を持っていて、もう遊佐について触れようとは思わなかった。
そして、朋さんの事を報告した。
「ごめんな、あかりに相談乗ってもらったのに。」
確か・・・『あたしが相談受けて振られた人居ない』って言ってたもんな。
「く薫ちゃんっ、あ、あの・・・ごめん、なさい、あたしこそ・・・何かデリカシーの無い
事を・・・言ってたよね・・・きっと。」
あかりは本当に申し訳なさそうな顔をし、俺を見れないのか至る所に視線を彷徨わせている。
「全然? あかりは俺に勇気くれた。ホントにダメモトだったから。」
俺がそう言うとあかりが顔を上げた。
「頑張ったね。偉かったね。」
「あかり・・・。」
胸が熱くなった。
あかりがそう言ってくれて、俺は本当にやるだけの事やったんだって完結出来る。
正月はちょっとの休みがあっただけで俺は部活に明け暮れてた。
新学期があっという間に始まり、俺は嫌な噂を聞いた。
「ん? 何の話ししてんの?」
俺は購買で買った焼きそばパンのビニールを剥がしながら何気なく、菊池達の話に耳を傾けた。
「あぁ、委員長とさ、あかりが付き合ってるみたいだって話。お前、何も聞いてねーの?」
「はっ?!」
「あーそーいや、お前と遊佐で2組のクリパーの時、内堀取り合いしたってそれまぢなの?」
「取り合いとかじゃないし、しかも、あかりが遊佐と付き合ってる訳ねーし。」
俺はあかりから好きな男は居ないと聞いてるし、もし遊佐と付き合ってるんだったら俺に言う筈だと思った。
「すげー言い切ってるし。でも初詣も二人で来てたし、冬休み中も二人で会ってたらしいぜ?
しかも良い雰囲気で~。」
「カナから聞いたんだけど、委員長って1年の時から内堀の事好きだったみたいよ。」
「へぇー。」
何か、その話は何処か遠くから聞こえてくるみたいだった。
俺の知らないあかりが、居るみたいな気がした。
真偽を確かめずには居られなかった。
「あかり、遊佐と付き合ってんの?」
日誌を付けるあかりの前に俺は座った。
「ん・・・うん、ちょっと・・・違うんだけど・・・。」
俺の目を見ようとしないあかりに嫌悪感を抱いた。
「・・・ちょっと意外。あかりがそんな事するなんて。」
「え?」
あかりが上目遣いに俺を見た。
「好きでも無い男と付き合うなんて、あかりがすると思わなかった。」
俺は自分でも抑制出来ない程、口調が刺々しくなっていた。
「・・・だから付き合ってるんじゃないから。」
付き合ってるんじゃないのに、二人で会うんだ?
あかりの黒い眼が揺れている。
「・・・薫ちゃん、何か怒ってる?」
-怒ってる? そうじゃない。ただ、俺は。
「別に? ただ・・・あかりにはガッカリした。」
俺がそう言った次の瞬間、あかりは書き途中だった日誌を大きな音を立てて閉じた。
ペンケースにシャーペンを捩じ込み、鞄を引っ掴んで駆け出す。
「あかり?!」
あかりを追おうと腰を上げかけた瞬間、遊佐が教室の出入り口に現れた。
「あかりー日誌おわ・・。」
あかりと俺を順に見て軽く舌打ちする遊佐。
「池内、あかりに何か言ったか。」
「いっ委員長、ごめん、帰ろう。」
あかりは俺ではなく、遊佐の腕を取った。
-何で・・・嘘だろ?
「池内っ!」
遊佐があかりの手を振り解いて俺の元へと駆け寄ろうとする。
「委員長っ。」
あかりが名を呼んだのは、遊佐だった。
どうして・・・。
俺はどうしても納得できなくて、二人の後を追った。
「あかり!!」
独りだったあかりの肩を掴み反転させた。
「あか・・え・・あ・・・え?」
こちらを見たあかりは、泣いていた。
「なにないて・・・あかり?」
-何が起きてる?
「おいっ!! 池内! あかりから離れろっ。」
後方へ肩を引かれ、あかりが遠のいた。
遊佐の力が俺をあかりから引き離す。
「だ、だってあかり泣いて・・・。」
俺は何がどうなってるのか把握出来ないのに、何故だか心が焦って仕方なかった。
遊佐に支えられるように肩を抱かれて走り去るあかりを追いかけなければと思った。
なのに、混乱を来した俺の身体は一向に動く気配が無かった。