(11)
家に帰って、これから朋さんにメールするんだと思うと全ての事が不安定で手に着かなかった。
やっぱり止めようかとほんの一瞬、頭を霞めたけど、そんなの俺らしくないし、何よりあかりに「ダメモト」だと背中を押して貰ったんだ、メールぐらいやりやがれ俺! と決意を固めてメール作成に取り掛かる。
『電話してもいいですか』
たったそれだけの文章を送る為の一つの行為。
”送信”と云うボタンを押すのが躊躇われた。
ダメモトダメモト・・・おまじないの様に胸の中で何度も唱えてやっとの思いで送信したのは23時近く。
ものの数秒で俺の携帯が震えた。
着信画面には『朋さん』と表示される。
慌てて通話ボタンを押して応答すると、間違い無く朋さんの声が聞こえてきた。
『何かあったの?』
「え、あ、えっと・・・。」
その先の事はあかりに相談してなかった俺。
しどろもどろになりながら、俺は次の日、中央公園で会って話したい事があると伝えた。
朋さんは快諾してくれて俺は電話は切った。
あかりに電話しようかと思ったけど、もう遅い時間で明日起きたら直ぐ連絡してみようと俺も床に就いた。
緊張してたのか、なかなか眠りに就けなかった俺は、朋さんとの約束の時間30分前に目を覚ます。
「かーちゃんっっ!! んで起こさないんだよっっ!!」
俺は階段を走り下り、洗面所の蛇口を捻った。
「起こしたよー。」
のんびりとした母親の返事が返ってくる。
Tシャツにシャツを羽織ってブラックジーンズに足を滑らせる。
ダウンを手に取って俺は家を飛び出した。
走って走って10時28分に待ち合わせの公園に到着した。
「す、すんませんっっ待ちました?」
「今、来たよー。」
朋さんのジャージと制服じゃない姿は少し新鮮だった。
白のハイネックシャツにコートを羽織っててデニムのスカート。
何となく照れ臭い・・・。
てか照れる。
「話って?」
朋さんが公園の中を歩き始めた。
時折、遊具に触れている。
「あ、あの・・・朋さん・・・俺・・・。」
朋さんが振り返る。
ダメモト。
先ず気持ちを伝えよう。
駄目だったら、その時、次を考えよう。
「俺、朋さんの事が、好き、です。」
カタコトの日本語みたいに告白をしてしまった自分のヘタレ感を喰らった。
しかも朋さんはまさか俺にそんな事言われるとは考えていなかったみたいで口を開けたまま、微動だにしない。
「と・・朋さん・・・?」
「・・・えっえ? あ。え? 池内が?」
「ハイ、俺っす・・・。」
「・・・あー・・・っと・・・。」
朋さんは両頬を両手でぱしりと包む。そして考えている。
「池内?」
「ハイ。」
「あの気持ちは純粋に嬉しい。・・・でもごめん・・・。あたしも居るんだ、好きな人。」
「そ・・・そぉでしたか・・・。そっか・・・あ、あの・・・。」
心の整理が追い付いて行かず、若干テンパっていると朋さんが俺の名を呼んだ。
「ハイ?」
「池内、有難う、言ってくれて。」
もう一度”ありがとう”と言った。
そう言われた俺、救われた。
振られて傷心って雰囲気じゃなくて、善意の行動をしたみたいな気持ちになった。
「朋さん、俺、朋さんが幸せになるの祈ってます!」
朋さんがにっこり笑った。
そんな感じで俺の初めての告白は終わった。
「あ、朋さん、送って行きます。」
「え、いーよいーよ、あたし帰りにスーパー寄って行くつもりだし。」
「あ、ソノダですか?」
「うん、そう。うちあの裏のマンションなんだぁ。」
「まぢっスか? へぇー。あ、俺朝食べてないンすよ、俺も寄って行きたい。」
俺達は揃ってスーパー・ソノダに立ち寄り、お菓子を見たいと言う朋さんに付き合ってお菓子が陳列されている通路へやって来た。
あーチョコの新商品いっぱい有る。
これとか、あかり好きそう。
苺の香料使ってるお菓子は無条件に好きとか言ってたからなぁ。
ふと人の気配を感じた俺はそちらを見た。
「あかり!」