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あの言葉はグッときた。



部員でもないあかりが、俺と同じ気持ちを持って、それを言葉にしてくれた。

そうだ、俺は”頑張ったな”って言葉よりも、次に臨めるその”悔しい”が嬉しい。


俺は絶対、高校でも野球部に入って甲子園に一つでも近いとこに行ってやる! そう胸に誓った。



あかりと同じ公立高校に進学して、1年、2年と別のクラスになってしまったものの、変わらず仲は良かった。

選択授業は大抵一緒だったし、俺の野球の試合も殆ど欠かさず観に来てくれた。


そして周りで、彼女が出来たと騒ぐ奴らも多くなって、それに感化された俺も野球部のマネージャーをやってる一つ上の朋さんが気になりだした。



一見おっとりしてそうなのに、元気があって、とにかくパワフルだった。

女の子女の子してなくて、皆から慕われてた。


あかり以外にも、こんな女の人が居るんだなって初めて思った人だった。

朋さんと、もっと一緒に居たいと思い始めた感情が”好き”なのだと思った。

ただ、それをどうして良いか解らなかった。


そんな時、あかりが『恋のスペシャル相談役』をやってると聞いて俺は彼女を頼る事に決める。



  ***



「今日、未だ相談室やってる?」

あかりの教室を覗くと丁度”相談”が終わった女子が御満悦な顔をして出て行く所だった。




「好きな人が居る。でもその人は恋とか興味無いみたい。それに俺の事、友達としてしか見てない。

 どうしたらその人に俺の事、見て貰える?」

「・・・何でその子が恋に興味無いって言えるの? そう彼女に聞いたの?」

「前に一度だけ。皆でわーってしてるのが好きなんだって。」

「ふーん?」

俺はポケットに間食用のチョコが入っていた事に気付いてあかりに差し出した。

「あ、チョコ食べて?」

「あ、有難う。嬉しい、お腹空いてた。」

あかりは無類のチョコ好きで、本当に嬉しそうに笑う。

だから俺も嬉しくなる。


あかりは手の中の板状のチョコを割って個包装を開いた。

二つに割れたチョコの片割れを自分の口に放り込んで、残ったチョコを俺に差し出す。

「悩める少年よ、食べ給え。」

「あはは、あかりチョコ好きじゃん。一つ食べて良かったんだよ?」

「独り占めしたら食いしん坊みたいじゃん。」


ちょっと口を尖らせて薄目で俺を見る。

大抵、新商品のお菓子はどっちかが買って折半するのが俺らの常だったから、癖になってるんだろう。

腹は減ってるから頂戴しておく。


「はぁー。」

「何で溜め息?」

あかりが洩らした溜め息が聞こえて来て俺は突っ込んだ。


その問いにあかりは慌ててその溜め息を掴まえて口内に取り込んだ。


「あはは、あかり何それ。」

「幸せを逃がしたくない。」

「あはは、そんなのやってる人初めて見たし!」



照れ隠しからか、あかりは”相談役”に転じる。


「薫ちゃんは、先ずその子に”男”扱いして貰いたいって事ね?」


そう、俺は朋さんから見たら”弟”だから。

俺は変化したかった。


「メアドで、取り敢えず誘ってみよーよ。」

「・・・断られたら俺、明日からどんな顔するの?」

「ダメモトダメモト!! そんな事言ってたら何時まで経っても”友達”だよ?!」


変わりたいけど、その姉弟関係は壊したくないのが実情。

・・・何か勝手だよなぁ・・・とか思うけど。


「失くしたくないんだ、その人の事。」


俺は、あかりに本心を話した。


あかりの背にオレンジ色の夕日が沈んで行くのが見えた。

眩しくってあったかっくて思わず目を細めた。


「・・・そっかぁ。じゃあ、こんなのどぉ? 『電話してもいいですか』。」

「電話っ?!」

「ん、電話。もしその子の返事がメールでね『なに?どうしたぁ?』って感じだったら、

 残念だけど彼女の中で薫ちゃんは友達。逆に彼女から電話がかかってきたら一歩進めた事に

 なると思う。」

「・・・電話、してもいいですか・・・か。」

「そっ、先ずはそこから! その結果次第で次の事考えよ? 次も報酬はチョコで良いぞ?」


あかりは立ち上がり、俺の肩をポンと叩いた。

やっぱり、彼女は俺に「頑張れ」とは言わないのだ。



暗くなり始めた通学路を二人で並んで歩く。

何気なく「好きな奴が居るのか」とあかりに尋ねると彼女は

「んー? 居ないねぇ・・・。居ないのに相談受けてるのもどーよっって感じだよね!」

そう答えた。



そっか、あかりは好きな男居ないのか。

出来たら俺、真っ先に応援するな。無言の「頑張れ」を送る。


だって、やっぱり親友には幸せで、笑ってて欲しいと思うし。









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