(1)
「で?」
あたしが促すと、目の前の悩める子羊ちゃんはぽつりぽつりと話し出した。
「それでね、龍平クンがね、何とも想ってない子とクリスマスの約束はしないって・・・。」
「両想い決定だしょ、それは。そのリュウヘイクンは、聖奈から言うの待ってるって。」
「そぉかなぁ・・・。」
「はい、そうなの。今速効電話して告ってちょーだい!」
あたしはそう言い子羊の背中を押して、教室から追い出した。
「はぁー・・・。」
溜め息を一つ吐いて、その溜め息を右手で掴むと口内に放り込む。
”溜め息吐く分、幸せが逃げる” って誰が言ったんだろ。
あたし、内堀あかり。
何ででしょうね、恋の相談役として君臨してます、この学校に。
事の始まりは親友の千夏の相談に乗った事だったと記憶してる。
千夏の相談に乗り、あたしのアドバイス通りに行動した千夏が両想いにまで漕ぎつけた。
それから、『あかりに相談すれば両想いになれる!』みたいなキャッチに引っ掛かった子羊があたしの元を訪れるのが絶えないのだ。
しかも、何でか、相談に乗ってあげた子は百発百中で両想いになってる。
自分でも思う。
胡散臭い。
でも本当にそうなっちゃってるんだもんね、驚きだわ。
てか、相談に来る子は大抵”最期の一押し”が欲しい子達ばかりだからなのかもしれない。
話聞いてると、それは絶対相手も脈有るでしょ!って場合が多い。
「今日、未だ相談室やってる?」
教室の戸が引かれて入って来たのは、男子だった。
しかも、あたしの好きな池内薫平。
クリックリの坊主頭がトレードマークの野球部捕手、皆からは”薫ちゃん”の愛称で親しまれてる。
薫ちゃんとは中学からずっと一緒で、あたしは長いこと「女子の中で一番仲の良い友達」をやっている。
よりによって、好きな人の恋の相談を受けるとは・・・。
何時かはこんな日が来るかもしれないなぁとは思っていたけど・・・。
「店仕舞いでーす。週明けにしてちょーらい。」
あたしは何時もの調子で軽口を叩いて自分の鞄を両腕に通して背負った。
「んな事言わずにぃ。お願い、あかり。」
眼前で拝む薫ちゃん。
野球馬鹿だった彼にも、とうとう好きな人が出来たのだ。
「解った。」
あたしは鞄を床に落として、今まで座っていた席に又腰を下ろした。
「サンキュ。」
そう言って薫ちゃんも、あたしに相対する席に着いた。
「好きな人が居る。でもその人は恋とか興味無いみたい。それに俺の事、友達としてしか見てない。
どうしたらその人に俺の事、見て貰える?」
「・・・何でその子が恋に興味無いって言えるの? そう彼女に聞いたの?」
「前に一度だけ。皆でわーってしてるのが好きなんだって。」
「ふーん?」
「あ、チョコ食べて?」
薫ちゃんがポケットの中から一口サイズのチョコレートを取り出して、あたしに差し出した。
「あ、有難う。嬉しい、お腹空いてた。」
あたしはその個包装を開こうとして気づく。
たった一個のチョコ。目の前にはニコニコ顔の薫ちゃん。
「ぱきっ。」
板状のチョコを割って、あたしは包装を開いた。
二つに割れたチョコの片割れを自分の口に放り込んで、残ったチョコを薫ちゃんに返した。
「悩める少年よ、食べ給え。」
「あはは、あかりチョコ好きじゃん。一つ食べて良かったんだよ?」
「独り占めしたら食いしん坊みたいじゃん。」
薫ちゃんを独り占め出来るなんて、そんな女の子が世の中に居るんだな。
このイガグリの様な頭を撫でて、バットの振り過ぎで豆が沢山出来た手を繋ぐ事が出来る女の子が現れるんだ。
あたしのこの相談の後、そう遠くもない日に。
「はぁー。」
「何で溜め息?」
薫ちゃんに聞かれて、あたしはハタと我に返る。
慌ててその溜め息を掴まえて口内に取り込んだ。
「あはは、あかり何それ。」
「幸せを逃がしたくない。」
「あはは、そんなのやってる人初めて見たし!」
椎葉碧生です。
久し振りに「なろうさん」に投稿させて頂きました。
宜しくお願いします。