精霊とオレットと鉄格子【読み切り•創作神話】
「君は誰なの? 怪物?」
その声を聞いたのは精霊だった。声にも灯りにも吸い寄せられるように、精霊は格好窓の側へと近付いて行った。
「声が聞こえますか? その灯りで私が見えますか?」
「ううん。真っ暗で何も見えない。それにおぞましい声だ。ねえ、君が怪物なんだね?」
そう言うのはパディトンという少年だ。彼は、村の長老から檻の様子を見て来るようにと言われて来た。オレットの大地から続く高山、その麓にある。次の村長になるために必要なことだった。
太陽の光を通す明るい森の中。その檻とは大きな岩の隙間から覗けるもの。小さな格子窓だけが見えており、パディトンは熱心に話しかけている。
「お願いがあって来た。どうか村の人たちを襲わないで欲しい。これを約束してくれたら君をここから出しても良いっていう、しきたりなんだ」
岩の隙間の真っ黒な闇の中で、精霊はパディトンの話に溜め息をついた。「あなたもですか」と、小さく言った。
パディトンにも小さな声は聞こえ、どういうことなのかと問うた。
精霊は答えた。
「ここに居た魔の怪物たちは皆殺し合って死にました。私ももうすぐ寿命が尽きて消えてしまう者です。そして、その時あなた方の住む土地は全て朽ちて火に焼けてしまうのです。……あなた方は私の言うことを信じられないのでしょう?」
パディトンは熱心に聞いた。そして「分かった」と言い残して村へ戻っていった。
それから幾度もパディトンは格子窓を覗きに来ていた。側には鶏や牡牛などを連れて来た。
精霊はパディトンが連れて来る生き物から寿命を吸い取ることが出来た。また、それによって契約も交わしたのだ。
『私の寿命が千になる時、私はこの檻から自ら出て、あなた方の土地を永遠に豊かなものにしてあげます』と。
時にそれは、村から家畜や番犬などが忽然と消えていくので、村の住民らは怪しんでパディトンを問い詰めた。
パディトンは彼らに説明するために、精霊が捕らえられている岩の間へ連れて来た。それから格子窓から中を見て、呼びかけるようにと言った。
「そうすれば、僕らは豊かな民になる」
いつからかパディトンは多くの人を集めることが出来る。
消えた者は外で働いているのだと言い換えて教えていた。
そしてついに、村の中に何もなくなった。
鶏も牡牛も人もだ。
「これで最後になってしまったよ」
格子窓に灯りを照らし、中を見ようとしても真っ暗だった。するとおぞましい声がこう言う。
「いいえ。丁度、千になります」
精霊は手を伸ばして格子窓を掴み、ひと押しすると岩が吹っ飛んで光の下に出ることが出来た。
パディトンはそこに倒れていた。精霊は足を踏み出して、この地でもっとも大きな街へと出向いて行った。
「そこの女。行く場所が無いのなら俺が買ってやろうか」
男たちは精霊があまりにも美しい女性なので側に置こうとした。精霊は喜んで彼らの手ほどきを受け入れた。名は、オレットと名乗った。




