転生先は異世界恋愛物 但しAI執筆小説の中
そりゃそうなるわな。
隣国の第二王子サマとやらに救われた、いや、拾われた? AI令嬢と俺が勝手に言っている、あの公爵家の御令嬢、やっぱそうなったみたいだ。
曰く、『死人令嬢』だとか『無感情令嬢』であるとか『奇行令嬢』と言われてある意味恐れられているらしい。
中には、禁忌により造られた令嬢だって言われてるとの事。うん、確かにおかしい人だったもんなあの人。
そら第二王子以外の奴等に避けられるわ。と言うか恐怖を抱かれるって、この世界は一応異世界恋愛物のはずだぞ? ジャンルが変わってホラーになっちゃってるじゃないか。
俺が転生する前って、AI小説がバカみたいに増えてたもんな。
小説家になったれ、無料で読める最高の娯楽だった。俺みたいな貧乏人にとっては、とっても助かる最高のモノだった訳だが。
読まれれば読まれる程、投稿小説にお金が発生する様になってから、雨後の筍もかくやって位AI小説が増えてなったれ事、小説家になったれの終わりの始まりだって言われてたが……。
多分、俺が転生する前のAI技術の限界なんだろうな。小説の無料投稿サイトで氾濫してた、AI小説。独特の言い回しであり、内容が薄っぺらい、熱を一切感じない内容のAI小説に良くありがちな、感情の無い主人公。ワンオペ、書類仕事系って言うのかな? 氾濫と言って良い程よくある事務仕事系AI小説がなったれにもあったけど、この世界もそうなんだよなぁ……。
何でそれが分かるかと言うと、明らかにAI小説なのに、その作者が頑なにAIじゃない! 自分で書いたって言ってそんで大炎上したから。
俺も興味本位で読んでみたけどまぁこれが作者がAI小説では無いって言い張っても、どれだけ好意的に見てもAI小説だなって出来だったんだよね。
しかも中途半端に評価されて、それでその作者が違うと反論するから、だから大炎上した訳だが。
とりあえずそれは良いとしよう。良くは無いんだろうけど俺はAI小説は基本的に読まないから、別にどうでも良いし。それに俺は読み専だったし、書き手でも無かったから、だからそうなのふーんとしか思わなかった。ミュートすれば目に入る事も無いし、運営の人が禁止にしていないのであれば、どれだけ嫌だと思っても投稿する奴等を止める事は出来ないのだから。
でもなぁ、自分が転生する先がAI小説ってのは頂けない。ダメだろ? こう……あるじゃないか。スローライフ系だとか、ゆるーい感じのほのぼの系だとか。何でAI小説の中に転生しちゃうかなぁ? こんなの国が荒れるの確定じゃないかよ。
ヒロインはヒーローに救われ、溺愛されめでたしめでたしって、そんな訳あるか!
人生ってのはその後も続いて行くし、エンディングを迎えてハイ終わりじゃ無いんだぞ。
お伽噺じゃないんだぞ、と言うかお伽噺だってその後が書かれていないだけで、続きはあるんだよ。
ならどうする? そうであるなら事前に対処対応すれば良い。
そらそうだ。そうなるのが分かっているなら、であれば事前に準備しておくもの。それが社会人としての常識でもあり、嗜みだよ。と言うかそんな事も出来ないのなら、社会人としてやってはいけないしな。
大体だ、ワンオペ書類仕事完璧系ってなんだよ? 普通はな、そんな状況になったら先ずは家に相談するだろうが。
蔑ろにされ、冷遇されてるから無理? 婚約者である王子サマが聞いちゃいないし、まともに聞いてくれない? 陛下や王妃も以下同文? なら周りにそれとなくアピールしろよ。貴族ならその位の交渉力が無かったらやっていけないぞ。お前は日本人か? 周りにアピールするのもある意味仕事の一環だぞ。日本人はその辺りが下手だし、悪い事って思ってる奴も多いが、残念ながら事実として、その辺りが下手だと割りを食う事が多くなる。実際問題としてな。しかも転生者じゃ無い現地の人間なのにそれか……。
強制力。物語の流れを変えない為、強制力により何をやっても変わらないと思わないでもないが、それでも声を上げ続けるのは必要な事だ。何故なら実際自分が危惧した事になり、もしそうなってしまっても、「ね、だから言ったでしょ?」と、そう言える。そして警告したのだから、自分はちゃんとやってましたよと、そうアピール出来る。
それもやらずに言われたまま淡々としてたら、ギャーギャー言われるのは自分だ。そして自分の責任とされる。それなのにあのAI令嬢さんは、『書類は嘘をつかない』だの『数字は嘘をつかない』だとか『場を整えてきた』だのAI小説丸出しの事をブツブツと独り言を言うってアンタ……。だから周りにもっとアピールしろよ! 独り言を言ってても何も解決しないんだよ。
前世でとあるラーメン屋に入った時、ある店員さんが独り言を言ってた事があった。そしてもう一人の店員さんが冷めた目でその独り言店員さんを見ていたが、『ねえ、さっきからずーっと独り言を言ってるけど、それ癖ならやめた方が良いよ。今まで独り言を言う奴にロクな奴居なかったからさぁ』と言っていた事があった。確かにそうだと俺も思った事がある。独り言が癖みたいに言う人って、結構ヤバイ人が多かった。その意味ではあのAI令嬢もヤバイ人であったとそう思う。
因みに一応俺達皆が見てみないフリをしていた訳ではない。このままでは不味いと、進言はしてはいた。
そりゃそうだ。ワンオペの危うさなど普通の感性を持っていたら分かる。まともな神経を持っていれば、その一人に何かがあった時にいっぺんに崩壊するのだから。
大体だ、王族の中に誰一人としてその辺りの危機感が無いのは国としてヤバイ。
しかも城勤めの貴族や、官吏達もそれを良しとしてる時点で相当ヤバイ。
今思えばだが、城内、そして王都近辺の貴族連中にその辺りの危機感が無かったのは、もしかして物語の強制力があったのかも知れない。
それ以外の貴族、これは俺もだが、王都近辺以外の貴族達は皆が危機感を持っていたし、その辺りも進言していた。だが……。聞き入れられる事は無く、結果ワンオペが終わりを告げ、そして崩壊した。
それ見た事か。なるべくしてなった。只それだけの事と、心ある貴族の皆がそう思ったものだ。
当然ながらそうなるのが分かっているなら事前に備えていたので、俺達には影響は少なかった。とは言え国自体が混乱すれば色々と波及はする。本当に迷惑だ。物語を知ってる俺ですらそう思ったのだから、知らない奴からしたら大迷惑だったに違いない。
我が伯爵家は東のやや辺境寄りにあるが、U字を逆にした様に深い山々に囲まれた領地である。周りを山々に囲まれてはいるが、領地自体はかなり広く南にはそこそこ有名な港もあり、山道ではあるが街道が東西に貫いており、代々堅実な領地運営をしているのでそこそこ豊かな領地だ。だが国が混乱し荒れれば貧乏になる可能性もある。ふざけるなと言いたい。前世じゃ貧乏だったのだから、今の生活のありがたみは分かっているし実感もしている。
そのありがたい生活が失われる等あってはならない事だ。
領民だって困る事なになる。お腹を空かせてビイピイ言っている様な事は見たくもないし、させたくはない。
貧乏による空腹の辛さは分かっているし、我が領の子供達にはそんな目にあわせたくもない。
我が領は満遍なく様々な産物があるが、俺が生まれ、そして領の為に新たな産業を起こしたが、国が荒れればそれらが売れなくなる可能性だってある。そうで無くとも足元を見られ買い叩かれる可能性だってあるんだ。
この世界には養蜂はあるが、多段式巣箱を使った養蜂は無く、俺が特に力を入れて領内の新たな産業とした。そして運良く甜菜、これは砂糖大根だが外国から仕入れ、北方や東西の山間やその麓で栽培を奨励しやっとこさ軌道にのって来た。だがそれらが売れず、もしくは買い叩かれたりした日には目も当てられない。
我が家が困窮するのも嫌だが、それ以上に子供や年寄りや、働き盛りの領民が腹を空かせて座り込む姿なんぞ見たくも無い。
ならそうならない様に動くのが統治者としての務めであり義務だ。
小説の中ではそこまで書かれていないが、もし国が荒れそうなれば、現実では困窮し腹を空かせた領民がそうなっている事だろう。ふざけんな。
『整っているのはまぎれもなく私の力』
アホか、何が整っているだよ。お前はサウナの中で仕事してんのか? 無表情無感情でそんな事を抜かしても届かなきゃ自己満足でしかないわ。
言う事を聞かせて手足として使うのも、仕事の一環だよ。公爵家の者なら官吏なりなんなりを上手く使えよ。人が居ないなら一から育てろ。それすら禁じられるのであれば公の場で訴えろ。それでもダメなら、それでもにっちもさっちも行かないなら、その時初めて全てを捨てればいい。
何で自分の持っている権威や権限、立場の全てを使わず早々に諦めて投げてるんだ? 本当に意味が分からん。
そしてそれ以上に意味が分からんのは王族サマだよ。
自分の仕事を放り投げて、しかも消えたらどうなるか子供でも分かる。ワンオペで、重要な事務仕事させるって、国を渡してるも同然なのに。組織は書類で動く、言うまでも無い事。
ましてや普通そんな状態になったら王位継承権を持つ他の王族や、貴族達が動く。
野心や愛国心、自領を憂う貴族や単純な欲。それらを持つ者達が動き正そうとするに決まっている。
王都や王城内、王都周辺は大混乱したが、国全体で考えると影響は少なかったな。備えあれば憂い無しって言うけど、正にそうだよ。
もし混乱が我が領に波及してたらと思うとゾッとする。
新産業である砂糖大根の植え替えはまだ良い。砂糖は腐る事が無いし、絞りカスは家畜に与えれば家畜を増やす事も出来る。だからまだ良いが、蜂蜜は基本的には腐らないけどカビが生える事もあるし、蜂蜜だけ食って生きて行くのは無理だからな。本当に我が領に混乱があまり波及しなくて良かった。それとこれからはあまり一つの産業に大幅にシフトさせるのはやめておこう。満遍なくが一番堅い。我ながらちょっと調子にのり過ぎたかも知れない。それに性急過ぎたかもと少々思う。ある程度時間を掛け、堅実にやって行こう。これは良い経験だった、何より失敗していないのが良い。俺が継ぐまでまだまだ時間はあるんだ、一歩一歩確実にやって行こう。
しかし……。あのAI令嬢は、何でもっと上手く出来なかったのかな? アレより年下の令嬢でも分かってる事もやらず、只整えてるってだけ思えたんだろうか? 俺に言わせれば王子サマにくっついてるだけのピンク頭のアホとどっこいどっこいなんだけどなぁ。
物語だから、そう言われればそうなのかも知れないけど、上に立つ者として人を使えないのは致命的な欠点だぞ。しかも下の人間を育てないなんて自分が苦しくなるのに、それなのに自己満足に浸って整えてるのは自分って……。
大体だ、あの王子サマや陛下や王妃サマもだな、人を使ってはならぬだとか、一人でやれ何て一言も言っていなかったのに。むしろ無関心だから人を使ってやってても、何にも言われなかったと思うんだが? それなのに何で人を使わず、手足となるべく様な者も育てなかったんだ? 本当に分からん。あのAI令嬢より年下の令嬢でも普通にやるし出来るし、考える事なのに。
一人でやらないと死ぬ様な呪いか病気にでも罹ってたのかな? うん、それは無いな。あの小説の中でもそんな描写も無かったし、そんな事は一切書かれてもいなかったし。
まぁ良いや、今更だしな。それより嫁さんだよ。国が荒れ乱れれば、誰かと婚約したとしても状況によっては婚約が解消になるだろうからって思って、それで結局誰とも婚約しなかったんだよな。とは言えそう思っている家は多かったから、既に皆婚約相手が居て何て事も無い。だから見つけ様と思えば見つける事自体は大丈夫ではあるけど。問題は、まだだ場が整っていないんだよね。
混乱は収まりつつはあるけど、もう少し落ち着き、整うのを待ちかな?
とりあえず新王が即位はしたし、新たな皇太子も決まりはしたから後ちよっとってとこか? まぁ良いや、焦る必要は無い。父や母もそれが分かってるからやいのやいの言って来てはいないし、これからこれから。
問題はあのAI令嬢が隣国、それも我が領の東側にある国に行ったって事か。
どうもその隣国の第二王子サマは、我が愛しの婚約者を傷付け苦しませた我が国に怒っているらしい。
その第二王子サマが言うには、我が国等は滅ぼしてしまえだのと勇ましい事を言っているそうだ。
只のアピールだろうな……。
自分はその位AI令嬢の事を愛している。
それほど怒る程想っていると、そうアピールする為に言っているんだろう。
現実問題として我が国と国境を接してる所こそ平地だが、我が伯爵領を境に南北を貫く山脈が存在している。
しかもあの国の海軍は、沿岸警備隊程度の海軍力でしかない。それなのにどうやって攻め滅ぼす事が出来るんだろうか? さらに言うと我が国の国境沿いの貴族家は武闘派揃いでもある。
辺境伯を中心に、中々の強者揃いだ。
後詰めとして我が家もあるし、何より東側にある山脈の街道は、難攻不落と言われている程に強固な要塞モドキの防御施設があり、あれを抜くのは不可能とは言わないが、ほぼ無理と言って良い。しかも今回の騒動の件でこの辺りはほぼ影響を受けていない。混乱もしていない国境沿いを抜き、王都まで進軍するのはまず無理だ。なので周りにアピールする為のお言葉でしかない。
それに加えて国内の強硬派を派閥に加える為のお言葉でもあるのだろう。つまり後ろ楯を欲しての事であり、何故そんな事をするのかと言うと、自分が王位につく為の準備の一環だ。あのAI令嬢は仕事が出来ると、あの第二王子サマは思ってるみたいで、あの令嬢が自分の側に居れば兄を押し退け、自分が王位につく事が出来ると心から思っている。うん、小説でもそんな描写があったし、匂わせてたね。無理に決まってるだろうが! アホか。
何故ならあのAI令嬢は人を使う事が出来ないし、書類だけ整えておけばそれで良いと思っているんだぞ。そんな訳あるか。
一人で全部出来るだなんて傲慢だよ。実際仕事ってのは人と人の繋がりってのも非常に大事だし、人ってのは繋がりも重視するんだから。
しかもあのAI令嬢サンは、あの国で受け入れられてるとは言えない。
そりゃそうだ。杓子定規な上に無表情無感情な人間が受け入れられるのは物語の中だけだ。ここは現実世界であって、実際に色々な人間が居て、その人間達は生きてるんだもん。血が通ってる感情がある人間達がそうそう書類が整っているだけで上手く動く訳がない。
人と人を繋ぐのは、決まり事やルールやそれこそ大袈裟に言えば法律だけでなく、感情ってのも必要な要素なのだから。
書類がどれだけ整っていようが、場を整えていると自分では思い込んでいたとしても、感情を感じられない人間にはその想いは届かない。だからこそ俺はあの元公爵令嬢をAI令嬢と呼ぶんだ。そこに感情が見えない人間には人ってのは芯から従わないもんだからな。
あの小説では一応ハッピーエンドで終わっている。だが現実であるこの世界ではどうかな? 現実は続いて行く。ハッピーエンドのその後も幸せのまま続いて行くかは、今はまだ分からない。だが一つ分かっている事は、これからは嘘をつかないし裏切らないモノだけを相手にするのでは無く、嘘をつき、裏切る者達を相手にしなければならない。
幸せな日々を送る事が出来るかは、自分次第だ。なら俺は日々を一生懸命に、そしてコツコツと積み重ねて生きて行こうじゃないか。




