コンクリートの耐用年数
最近日本社会の行く末が不安になるような出来事が、やたらと目につくようになりました。自分は建築士なので、その観点から何かしらの警告をしておいた方がいいと思ってこれを書きます。
建築と言っても様々な分野があって、材料に関しては材料工学という専門分野で研究している人がいます。私が分かるのは建築士であれば常識的に知っている範囲の事だけです。しかしそれは逆に一般の人にしてみれば、身近に感じられるものが多いかもしれません。
コンクリートというと、普通の人は未来永劫にもつものだというイメージがあると思います。なぜそんな勘違いが生まれたかと言えば、まずはヨーロッパの街並みです。ああいった中層の建物は、現代であれば鉄筋コンクリートで作られているイメージがあるでしょう。それが数百年も景観を保っているから、長持ちすると思っているのかもしれません。しかしあれは組石造です(一部木材も組み合わせています)。鉄筋コンクリートであればそんなに長くはもちません。
歴史好きならローマ時代には既にコンクリートがあって、2000年以上ももっているじゃないかと言われるかもしれません。しかし当時のコンクリートはローマンコンクリートと言って組成が違います。そうして何より鉄筋が入っていません。この鉄筋がくせものなのです。じゃあ鉄筋なんて入れなければいい? そうはいかないんです。
コンクリートは圧縮力と言って押しつぶされる力には強いんですが、逆に引っ張られる力には弱いんです。鉄素材は逆に引っ張られる力には滅法強いので、この二つを組み合わせれば、非常に強い構造体が作れるわけです。しかも鉄とコンクリートは熱膨張率が近いんです。だから奇跡の組み合わせなんて言われているわけです。しかしながら鉄は錆びます。錆びると膨張してコンクリートを破壊してしまうのです。
ただコンクリートは打ち立てほやほやだとアルカリ性で、鉄筋に錆びないように皮膜を作ります。しかし時間と共に中性化していきます。すると鉄筋の保護が効かなくなって、コンクリートの微細な隙間から入ってくる水で錆びてしまうのです。
もうひとつコンクリートの耐久性に過大なイメージをもたせてしまうのは、昔の土木構造物です。明治時代に作られた橋梁の基礎とか防波堤とかは、全く壊れそうな感じがしません。また、大正時代に作られた日本最古の鉄筋コンクリート造の高層住宅が軍艦島にありますが、築110年で今も形を保っています。海沿いの劣悪な環境でそこまでもっているので、今ある建物も100年ぐらいは軽くもつだろう……私も以前は完全にそう思い込んでいました。でもそれは違いました。
時間を遡れば遡るほど、コンクリートの打ち方が違っていたのです。明治時代などは物凄い労力を使って、水分の非常に少ないコンクリートを使っていたのです。大正時代になると水の量は多くなりましたが、それでも現代のコンクリートとは大違いです。今そんな風に打とうと思えば、とてつもない労力がかかるので採算が合いません。それでも橋やトンネルなど土木用のコンクリートは建築に比べて、今でもかなり水分量を少なくしています。水分量が少なければ柔らかくないので打つのは大変ですが、コンクリートが密になって、中性化は遅くなるし微細な隙間も減って水分が侵入しにくくなります。
つまり現代の建築に使われているコンクリートは、造りやすさと引き換えにして耐久性を犠牲にしてしまったわけです。但し被り厚といって、鉄筋の上に何センチコンクリートの層をつくるのかが厳密に規定されているので、それによっての長寿命化は期待できます。それでも本当に100年は大丈夫かと聞かれれば、私には確信が持てません。
100年と聞いて、長いと思うか短いと思うかは人それぞれでしょう。土木の方はいけると思いますが、建築の方はやばいような気がします(個人的な印象です)。怖いのは高層建築です。十数階ぐらいであれば解体するイメージが沸きますが、高層建築物だとかなり高度な技術を使って、とんでもなくお金がかかる感じがします。
これからどんどん人口は減少して、労働力も減っていくでしょう。本当に高層の鉄筋コンクリート造の建物を作り続けていいんでしょうか? もうあとはヒューマノイド技術の発達に期待するしかないというのは、妄想でも理想でもなくて現実になってしまいました。
これだけ問題の多い鉄筋コンクリートを、いまだに建築構造材料のメインで使い続けているのはどういう事なんでしょうね? 普通であればもっと研究や技術開発が進んでいてもおかしくないような気がします。どこかに長持ちされると良くないと思っている人でもいるんでしょうか? 高層建築も大手の会社に高額な費用を払えば解体は可能です。そういった技術をもった会社は当分くいっぱぐれは無さそうです。
理由は他のところにあるようですが、神戸市などはタワーマンションの建設を禁止したようです。タワーマンションは戸数が多いので、将来所有者の同意をとって解体するのは至難の業だと思います。400年もつと言われればそれでもありかと思いますが(イニシャルコストの回収が100年の4倍できます)、100年しかもたないと聞かされて、子供や孫へ残す財産として購入しようという気が起きますか?
私の生きているうちは、この問題は表面化しないでしょうね。でもこのまま行ったらやばいと思っている人は、建築関係者の中には多々いると思います。でもそんな事を言いだすと、現在の経済活動も滞ってしまうのでみんな黙っています。なぜかマスコミでも取り上げません。youtuberですら取り上げないテーマじゃないかと思います。この文章は将来にどういう形で残って行くのか分かりませんが、今のうちに子供や孫の世代には謝っておきます。ごめんなさい。でも残り少ない人生でも自分にできる限りの事はやって行こうと思っています。




