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第5話:伯爵夫人はメントル

「クイック・リアクションの使いすぎによる低血糖だ。保健の先生を呼びたまえ」


ワーヌの説明により保健の三宮先生が呼ばれ、舞は即座に救急車で搬送されることになった。


大島君も気を失っていたが、こちらはデショーン化の反動といえるため、別に呼ばれた専門機関が対応した。



病室でパチリと目を開いた舞の傍らには、担任の鬼塚先生、ワーヌ、ダニーがいたほか、初めて見るメントルが1体浮遊していた。その姿はドレスを纏い、日傘を差した貴族の婦人のようだ。


「あ、気が付いたね。看護師さんを呼んでくるから大人しくしていなさい」


先生はそう言い残して退室していく。


「まったく無茶な娘であるな。先生の言うとおり、休むのだ」

小言を言うダニーをワーヌがたしなめた。


「舞君はまだ意識を回復したばかりだ。しばらくは意識の混濁と混乱の中にいるだろう。まずは様子を見守り看護師に任せたまえ」



舞の意識はだんだんと浮上するように回復した。


「……ここ、どこ?……私、どうしたの……」


ワーヌが答える。


「もう大丈夫そうかね?ここは病室だ。君はクイック・リアクションの使い過ぎで体内の資源を使い尽くし倒れたのだよ」


舞はハッとして起き上がろうとし、苦悶の表情でベッドに倒れ込んだ。


「うぅ、頭痛い……お腹空いた……」


「当然だ。今、君の血液に直接ブドウ糖を補給しているからしばらく休みたまえ」


「直接?……あ、点滴……」


舞は左腕を見てようやく状況を把握したらしい。


そんなところに鬼塚先生が戻って来た。


「大奈さん、お父さんが迎えに来るそうだ。点滴が終わってからも、そのまま休んでいるように。いいね?」


舞は素直に頷いた。先生が何事かをしに再び退室すると、ダニーが心配そうに近付いてくる。


「友梨佳はそなたのことを本当に心配しておったぞ。今、フラコンを通して連絡したから間もなく駆けつけるはずである。今後、無茶な戦い方はせぬことだ」


「……ごめんなさい」


舞は掛けられていた毛布を引き上げて顔の下半分を隠した。ダニーが引き続いて貴婦人風のメントルに舞を紹介する。


「エイダ・ラブレス伯爵夫人、こちらが舞。ワーヌのプロトジェである。病床にて不自由だが紹介させていただこう」


そのメントルはいつの間にか日傘をしまっており、舞に近付くと軽く会釈した。


「ミス・舞……ああ、可哀想な娘、答礼は結構よ。さあ、手をお出しになって」


舞は呆気にとられ、戸惑いながらおずおずと右手を差し出す。


すると、貴婦人風のメントルは両手の手袋を外し、近付くとその小さな手で舞の人差し指を握りしめた。


「わたくし、ミス・施恩のメントル、エイダと申しますわ。エディとお呼びになってくださる?」


舞は目を白黒させながら、何とか答えた。


「エ、エディ……さん、舞です。よ、よろしくお願いします……」


するとエディは優雅な所作で手袋を着け直し、どこからか取り出した扇子で口元を隠して目を細めた。


「ええ、ええ、よろしくてよ。今日の戦いについては褒められたことではないこともございましたが、まずはその勇敢さと倒れるまで戦った責任感には感服いたしましたわ……これは鍛え甲斐がありそうな……いえ、何でもありません。ゆっくりお休みになって」


『鍛え甲斐がありそうな』と言いながらエディが流し目で舞を見たとき、舞はゾクリと元より冷え切っていた背筋を震わせた。

——このメントルには、逆らってはいけない。

本能がそう告げていた。


「あ、ありがとう……ございます」


ワーヌが舞に耳打ちした。


「メントルの決まり事でエディと愛称で呼ぶことになっているが、彼女は伯爵夫人だ。敬意を忘れてはいけないよ……面倒なことになるからね」


舞は、伯爵というのがどの程度高位の貴族なのか以前に、貴族という「制度」自体をよく知らない。だが、ワーヌに注意されるまでもなく、エディには敬意を払わなければならない、としっかり理解していた。



友梨佳と施恩が病室に駆け付けたとき、起き上がれるようになった舞はホールケーキを貪っていた。


これはエディ曰く


「手ぶらでお見舞いになど行けません、と申し上げましたら、ミス・施恩が届けさせてくださったものですわ」


という逸品である。ワーヌのアドバイスで糖分がたっぷりのものを、と指定して選ばれたそれは一人分にしては多いと思われたが、箱が開けられると舞は目を輝かせた。


「いただきまーす!」


もりもりとカロリーを摂取する舞を皆が――エディだけは一瞥すらせず、窓際に据えた小さなティーテーブルで一人紅茶を喫していたが――呆れて見ているところに病室のドアをノックする音が響いた。


「舞ちゃん気がついたんだって?よかったあ……っておお、すごい食いっぷり!」


友梨佳の声に部屋の入口へと視線を移した舞は、頬を膨らませながら咀嚼していたケーキを慌てて飲み込むと、戸惑いを隠しきれず呟いた。


「……車椅子、なの?」


友梨佳とともに車椅子で入室した施恩は淑やかに首を傾げて舞を見舞った。


「舞さん、お加減は……心配なさそうで良かった。先程は自己紹介する間もありませんでしたが、改めまして、わたくし、堂峰施恩と申します。よろしくおねがいしますね」

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