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第4話:魔法少女でロジカルなのは施恩先輩

「状況を教えてくださる?このテイミングシオンが、何とかしてみせるわ」


戦いに駆けつけたテイミングシオン――堂峰どうみね 施恩しおんは落ち着き払った様子だった。


「そのカエルを逃がさないようにしているところ!」

「殴ってもヌルヌルして効かなくって」


友梨佳と舞が口々に説明する。


『出タイデショーン!』


また、巨体が友梨佳のバリアを軋ませた。


「端的な説明で助かりますね……プログラム完了!行きなさい!ブーヤン、エテクーン!」


施恩の左右に浮遊していた、緑のパンツをはいた子豚のようなマスコット【ブーヤン】と、青い体毛で頭に触角を生やした猿のようなマスコット【エテクーン】がデショーンに向かって飛び出した。


(プログラム……?)


施恩の登場に、一度体内のクイック・リアクションを止めた舞は、不思議そうにその様子を観察した。


「逃走の阻止は請け負います。友梨佳さんは水流であのカエルをひっくり返してくださる?」


ブーヤンとエテクーンはスクラムを組むようにデショーンの前に立ち塞がった。


『デショーン!デショーン!……デショーン?』


デショーンは何度も窓目掛けてジャンプするが、マスコットたちがその行く手に正確に先回りし、跳ね返される。


「やはり、このカエルは闇雲に窓に向かうだけのようですね。ならば、適切な角度でぶつかれば決して先には進めません」


(あの青い先輩、あの子たちの動きを「ちょうどいい角度でぶつかるように」プログラムしたんだ……こんな短い時間で、すごい!)


ようやく理解した舞は感心した。さらに友梨佳も反応する。


「施恩、グッジョブ!だったら……ラピッド・ストリーム……からのー、バブリー・ウォーター!」


『デショーン!』


友梨佳はバリアを解除し、新たな技を放つ。マスコットたちに跳ね返されたデショーンは空中に現れた緑の矢印に加速されるようにプールに落下、さらにプールの水が泡立った。


「矢印に沿って加速した……?な、何だか分かんないけど……凄い……」


目まぐるしく変わる状況に立ち尽くす舞の隣には、いつの間にか施恩が浮遊していた。


施恩は一見すると裾が大きく広がったドレスを纏っているように見えた。だが、舞はその腰から下が金属でできていることに気付く。よく見ればそのスカート状の金属にはいくつもノズルのようなものが取り付けられていて、淡くキラキラした光を放っている。


施恩は優しく舞に微笑みかけた。舞は急に現れたこの先輩に「冷たい人」という印象を持っていたので、その柔らかな表情に少しの驚きと少なからぬ安心を覚えた。


「友梨佳さんが水を泡に変えましたから、このプールはもう滝壺と同じです。空気を含んだ水は密度が下がり、浮力を失います。いずれあのカエルは溺れてしまうはずですよ」


「泡?密度?」


舞は首を傾げた。なぜ、泡になると溺れるのだろうか。


《空気である泡が混ざることで、水の見かけの重さが減るのだ。水より空気に近い性質になるといったら分かるかね?空気の中では泳げないだろう?》


ワーヌの解説でなんとか理解した舞。さらに施恩は続けた。


「あなた、打撃技があるのでしょう?あのカエルがのびたところを、末端ではなく体の中心に攻撃なさるといいわ」


「は、はい」


身構える舞。デショーンはもがいているが、施恩やワーヌが言うとおり、うまく泳ぐことができないようだ。


『デショーン!ゴボボ……デショーン、ゴボボ……オマエ、ゴボボ……カナヅチデショー!』


カエルが発した叫びに、施恩は気を悪くしたようだ。


「金槌ですって?……泳ぐのは、歩くよりは多少得意ですよ?……プログラム完了。ブーヤン、アタック!」


「歩くより?」


舞が発した疑問の声は、ブーヤンがデショーンのお腹に突貫し、大きく水柱が上がったことで遮られた。


「さあ、フィニッシュを」


泡立ちの収まった水面に、ぷかりと仰向けに浮かんだデショーン。舞は慌てて体内の生化学反応を加速させた。


《限界が近いぞ、舞君。一発で決めるんだ。オキシジェン・ブラスト》


プールサイドを蹴った舞が飛び上がり、落下するに任せてワンドをデショーンの腹の真ん中に突き立てた。


「オキシジェーン・ブラストォ!」


ドン!


爆発で水中に押し込まれるデショーン。舞は反動で飛び上がり、プールサイドに降り立った。


《限界だ。変身強制終了》


変身の解けた舞がへたり込む。


「スキャン・スレイブ、命名【サブレ】、エターナルエンプロイメント!」


ピピピピ……


施恩の宣言と共に、バイザーから放たれた光のグリッドが黒い靄を吹き出すデショーンを執拗に走査し、その構成データを強制的に再定義していく。そして施恩の眼前に粒子が集まるように再構築されて形をなし、最後にゼリーのようにぷるんと揺れてカエル型のマスコット【サブレ】として実体化した。それは敗北したデショーンの「存在の権利」を、施恩が文字通り「雇用(支配)」した瞬間だった。


「……あなたの魔法演算リソースは、今後、私の管理下で無期限に使用させていただきます」


プールの水面ではデショーンを覆っていた黒い靄が縮んでいき、気づけば水着姿の男子生徒が浮いていた。友梨佳が水面にオールを差し込むと、彼は水流に流されてプールサイドに打ち上げられた。


「大島君だったのかよ……って舞ちゃん!」


友梨佳が慌てる。


「あ、れぇ?」


立ち上がろうとした舞は顔面蒼白で……力なくその場に崩れ落ちた。


(……どうして……カエルなのに……お菓子の名前?……)


益体もないことを考えながら、舞の意識は暗転した。

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