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第3話:部活動ドキドキパニック

みずほ国際学園ふたば中学校では、1週間の体験期間を経て所属クラブを決めることになっている。


舞は小学生からの親友、愛彩めあとあちらこちらの体験入部を回っていた。


「舞ちゃんはやっぱり陸上部?足速いし。渋谷君も陸上っぽいから」


「翔ちゃんは関係ないよ」


そんな2人は今日は水泳部に来ていた。この部には魔法少女の先輩、友梨佳が所属しているのだ。体験入部でプールに入ることはできないので、施設の紹介とプール外でのトレーニング体験がその内容だ。


「やっほー、舞ちゃん!待ってたぜ!」


友梨佳が上機嫌で舞を迎えた。



その頃、水泳部のロッカールームで……


「昨日来てた、凄い眼鏡の1年見たか?」

「あー、あいつか……。ここ、泳げないやつに教えるための部じゃねーんだけどな」


渋谷翔星のことである。彼は泳ぐのがかなり上手なのだが……極端な瓶底眼鏡のために運動ができなさそう——そんな先入観を持たれることがしばしばであった。


「泳げないやつに教える義務なんてねーよな」

「だよなー。あいつ、あい、アイ、アイ、あいああああああああああああああ」

「どうしたんだお前?」

『アイツ絶対カナヅチデショー!!』

「うわああーーっ!!!」


水泳部の生徒の1人——その体が膨れ上がり、巨大なカエルのぬいぐるみのように変化する。


そんな事件が起きたロッカールームの片隅には、いつの間にかパンダの仮面を身に着けた女子生徒がいて……しかしその存在感は驚くほど薄く、誰も彼女の存在に気付かなかった。


「行ケ。カナヅチデショーン。その判断は偏見じゃないネ。合理ヨ」



ロッカールームから飛び出したデショーンが乱入したプールサイドには、他の部員や1年生に混じって、友梨佳に案内される舞と愛彩がいた。


「えっ、デショーン!?変身しないと!」


「それより愛彩ちゃん逃げな!」


慌てる舞に、冷静に一般生徒の避難を促す友梨佳。


(友梨佳ちゃん凄い。私もあんなふうに冷静にならないと)


『オマエ、カナヅチデショー!』


デショーンが逃げ遅れた女子生徒に迫る。


「今日は、紅明は欠席だから私たちだけで頑張らねえとだな!マジカルフロー・シーケンス・イニシャライズ!」


友梨佳が緑のフラコンを掲げた。


《変身シーケンスレディ、イニシャライズ》


v²/2+p/ρ+gz=const.


(うわ、難しそうな式!)


フラコンの表面に浮かび上がった数式に、舞は腰を引いた。それはベルヌーイの定理と呼ばれる流体力学の基礎定理の1つだ。だが、中学生である彼女たちはその意味を知る由もなかった。


そしてフラコンから1滴の雫を垂らされた友梨佳の体がライムグリーンの光とグレープフルーツの香りに包まれ、フラコンはその右手に移動する。


光が収まると、そこには緑にコーディネートされた衣装に包まれた友梨佳がいた。その手には透明のオールが握られ、背にはジェット機の翼……バーニングマイの翼とは違い、空気を切り裂くための翼がある。


《シーケンスコンプリート。ヴォルテックユリカ、スタンディングバイ》


「プールに現れるとは運のない奴だぜ!食らえ、メイルシュトロム・ドレナージ!」


友梨佳がオールをプールに差し込むと、プールの水が渦を巻き、カエル形のデショーンを引きずり込む。


『デ、デショーン!』


悲鳴を上げるデショーン。舞は頼もしい戦いぶりに感心していたが、ワーヌが警告した。


「舞君、君も変身したまえ!勝負はまだ決まっていない!」


「わ、私も!?……マジカルバーン・シーケンス・イニシャライズ!」


《変身シーケンスレディ、イニシャライズ……コンプリート。バーニングマイ、スタンディングバイ。舞君、奴がプールから飛び出してくるのに備えたまえ。クイック・リアクションだ》


『デショーン!!』


友梨佳が作り出した流れの渦から、デショーンが飛び出す。


「しまっ……フロー・スタグネイション!」


友梨佳は咄嗟にデショーンを気流の淀みに捉え込んで勢いを止めるが、プールサイドに着地したデショーンは大きな窓の方を向き、外へと逃れようとする。


「逃げるなあっ……えっ!?」


駆け込んだ舞はデショーンをプールに叩き込もうと拳を振り抜くが、ぬるりと滑って力が逃げてしまった。


「ストリーム・バリア!」


『デショーン!出タイデショーン!』


窓の手前に友梨佳がバリアを展開、繰り返し窓に突進するデショーンの脱出を阻む。


「このっ!このっ!」


舞は何度も繰り返しデショーンに殴りかかるが、やはり有効打が入らない。


《落ち着きたまえ、舞君。表面の摩擦係数が低すぎて打撃が伝わっていない。一度クイック・リアクションを切らないと保たなくなるぞ》


「でも、早くこいつを何とかしないと!」


《闇雲に殴っても意味がない。頭を冷やしたまえ》


舞が背負う翼からは湯気がもうもうと立ち昇っている。これは危険な兆候といえた。


「それなら、オキシジェン・ブラストで……」


《あれは溜めが必要だ。足を止めないと、素早い相手には通用しないだろう》


「だったらどうしろっていうの!?とにかく攻撃するしかないよ!」


舞とワーヌが言い争いをしていると、プールサイドに舞の初めて聞く声が響いた。


「理屈に合わないことを、仰らないことね。新人さんかしら?」


そこにいたのは青くコーディネートされた魔法少女だった。


彼女は臍の下にそっと手を添え、背筋を伸ばしたまま空中に静かに浮かんでいた。その額には大きなバイザーが青く煌めき、奥に光る瞳は知的な静けさを宿している。傍らにはデショーンを小さくしたような30cmほどのマスコットが2体、浮遊しながら付き従っていた。


「帰国していたんだな、施恩!」


友梨佳が叫ぶと青の魔法少女は微笑んだ。


「状況を教えてくださる?この、テイミングシオンが何とかしてみせるわ」

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