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Drused Race  作者: 鈴生
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7. 序幕

 次のレースを控えた日の朝の気分は最悪だった。

 好きでもないのに、強制的に、あのリュカと、もう一度バディを組まなくてはならない。しかも、今回は私が副運転手(ツイン)だ。やっていられない。

 一方的に取り付けられた約束を、勝手に破ってやろうと何度も思った。レース枠を直前まで取らなかったり、他の副運転手応募者に声を掛けようとしたりしたが、執拗に、悉く妨害された。

 そうして迎えたレース直前の控え室(ロッカールーム)で、会いたくもなかった本日の主運転手(メイナー)とご対面した。

 今日も彼女の服装は女らしさを前面に出していて派手だった。アーガイル柄のセーターに、濃い茶色のミニスカート、上着はダボついたカーディガンだ。

 私はいつもと同じ恰好をしていった。今日に限っては自分の機体(マシン)整備(メンテ)が無いので、多少は自由な格好をしても良かったが、なんとなく気分が落ち着かなかったのだ。

 前回と異なり、彼女は控え室の椅子に所在なさげに腰かけていた。端末はきちんと揃えられた膝の上に伏せられている。少し遅れてやってきた私を視界に入れたのか、端末を掴んで椅子から素早く立ち上がり、彼女は目の前につかつかとやってきた。

「遅い」

「ごめんなさい、いつもと勝手が違うので。」

 丁寧に答えてやる必要なんて無い。散々色々と邪魔されたのだ。しかも一方的に約束を取り付けておいてこの態度か。またこの前の怒りを思い出しそうになって、なんとか堪えた。

「今日の機体、アンタ初めてだろうから先に見せてあげる。」

 そう言って私の前を足早に歩いていく。今日も彼女の足元はピンヒールだ。その鋭利な踵から規則的な音が鳴る。

 先に機体を見せてもらえるのは有難かった。黙って彼女についていく。

 レース場の一番右端に停まっている機体の前で、彼女は足を止めた。外装は白く鮮やかで、型番と思しき文字列がエンジン側面に書かれていた。確か、比較的最近流通するようになった機体ではなかっただろうか。ほぼ最新の設備が完備されているのに、浮力駆動音も、エンジン駆動音も静かで軽量化が計られていたのが特徴だったはずだ。軽い分だけ小回りは効きやすいが、直線での加速には弱い。

 ギャンブルのときに何度か見たことのある機体だ。しかし、あまり私が賭けたことはない機体でもあった。

「これ、ノア600。アンタでも知ってるでしょ?」

 機体の名前はどうでもよかったので、それらしく首肯しておく。それよりも私はこの機体の性能(アビリティ)が知りたかった。

「何その返事……まあいいや。これ、防御壁(シールド)付きでイヤホンマイク搭載してるからハンドサインとか使わないで。分かった?」

「ええ、はい。」

 取り敢えず返事だけしておく。近くで見ると、ダブルスチールがこの前まで乗っていた機体であるカイン2500よりも、ずっと強固に見えた。エンジンを掛けていないので分からないが、コックピットの乗り心地もかなり安定しているのではないだろうか。

 あまりにも機体ばかり見ていたせいか、リュカに肩を掴まれる。なんだ、せっかくエンジンの接続部を見ようと思っていたのに。

「ねえちょっと、アンタほんとに話聞いてる?」

「ええ聞いてますよ。で、まだ乗らないんですか?」

「うわ……何コイツ……」

 あからさまに嫌そうな顔をして手を離した彼女が、諦めたように主運転手のコックピットに向かっていく。振り向きざま、こちらに向かってぞんざいに指示される。

「乗っても大人しくしてて!何も触んないで!!わかった!?」

 いそいそと、残された副運転手のコックピットに向かっていた私は、その言葉に返事をしなかった。聞こえているのだから、それでいいだろう。乗ったあとは大人しくしておけばいい。


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