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Drused Race  作者: 鈴生
63/67

63. 虚脱

 スサミが、まるで覚悟を決めたように、こちらを見下ろしていた、

「長くなるぞ。ここで聞く気か。」

 頭上から声を掛けられる。ここで聞く以外に選択肢なんてないだろう。

「ええ、構いません。他に行くところもないですし」

 自暴自棄にもなると、思考も鈍るらしい、何も考えられなかった。

「…トップレーサーがこのざまとは、目も当てられんな…」

 刺々しい言葉が聞こえたが、私は地面のタイルの淵を目でなぞっていた、あ、ここはうまく敷き詰められていない、不規則になっている。おこぼれを拾いに来たのか、小さなアリが通過していった。それをただひたすらにぼんやりと眺めていた。ああ、それは灰だ。さすがに灰は持っていかないか、栄養にもならない毒だもんな。アリの生活はどんなものなのだろう。四肢に欠損が出た個体は自然の摂理で切り捨てられるのだろうか。私も、グランプリの摂理で切り離されようとされているのだろうか。それがこの世の、私が身を置く世界の理ならば、反論なんてありはしなかった。

「セイカ」

 そういえばアリは働きアリと女王アリに分かれるのだったか。蜂と似たような生態をしているのだと思って驚いたことがあった。働きアリのうち、数割はサボり役として存在してるらしい。そうだ、私も女王蜂から降りて、サボり専門の働き蜂になろう。

「セイカ」

 サボりと言っても何をするのだろう。ああ、何もしないのが正解か。もうリュカに連絡を取る必要もないし、カインを見る必要もない。副運転手(ツイン)として運転することもしなくていいし、レースに関わらなくていい。なんて心の重荷が取れるのだろう。なんて楽なんだろう。

「…セイカ」

 棄権するのはリュカのために、してはならない。誰か他の副運転手を集めなければ。ああ、彼氏がいい副運転手だったか。確か彼女が言っていたはずだ。彼に交代してもらうようにリュカに連絡を取ろう。左手に端末を取り出して、ぼんやりと眺める。何をしようとしていたのかが、一瞬で分からなくなった。何をしなければならなかったのだろう。左手に端末を持ったまま固まった私の両肩を、目の前にしゃがんだスサミに掴まれる。

「正気に戻れ、セイカ」

 緩慢に瞬きを繰り返す。焦点が上手く彼に結べない。アリにばかり焦点が合う。顔を挙げるのも億劫だ。ゆっくりと口を開く。

「私、」

「だめだ。」

 まだ何も言っていないのに、スサミに止められた。断言した彼の言葉には、妙に勢いがあった。ゆうるりと首をあげて、その表情を観察する。視線が、こちらに向かって真っすぐに注がれていた。その目の奥は真っ黒で、何か射殺さんばかりの硬い眼光が輝いていた。

「お前は、ドルーズドの、レーサーだ。」

「それ以外の者には、なれない。」

「覚えておけ、セイカ」

 そういって立ち上がったスサミに、左腕を掴まれて立ち上がらせられる。

「ここで立ち話は年寄りにはきつい。どっか居酒屋行くぞ。いいところ知ってるからそこ連れて行ってやる。」

 ぼんやりとしていて、うまく返事が出来なかった。

「そう、ですか……」


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