35. 初戦・前
グランプリは、5連戦して優勝を決める。レースとレースの期間は1週間と空かず、早いときにはものの3日で次のレースだ。4戦したあと、空白の2週間が空く。レーサーを休ませるため、と言われているがそんなわけはないだろう。ドルーズドの人間がそんなに優しいわけはない。間を空けずに連戦して感覚を研ぎ澄ませたレーサーたちの運転の感覚を鈍らせるために設置された、魔の2週間だろうと私は踏んでいた。その間、他のレースは1つも開催されない。レーサーたちは、その2週間の間に機体を操縦することは不可能だ。試走くらいはできるかもしれないが、詳しいことはわからなかった。
表向きはに、5戦して一番成績が良かった機体が優勝と規定されている。実態はそんなはずはない。人間の業を煮詰めて煮詰めて、それを継ぎ足し続けたようなこの場所で、そんな生ぬるいルールが機能しているなんて考えられなかった。
初戦を控えたガレージに並ぶ機体を遠目から眺める。整備は終わっている。他の機体の調子を見たいわけではない。そんなものはどうでも良かった。目的は別の機体、あのカイン3000を探しているのだ。
ずらりと並ぶ機体をどれだけ見ても、あの鮮やかで特徴的なコックピットは見えなかった。出場するのは、開会式に出ていた10組と、あの場にいなかったイズモとスサミだ。10棟並んだガレージの一番奥に、空っぽのそれが見えた。
何かがおかしい。顔をしかめた。どうなっているのだろう。カイン1200が収まるガレージの壁に寄り掛かり、腕を組む。ここに機体が無いということは、不戦敗、いや、不戦勝、なのだろうか。レースもしていないのに。悶々と頭を悩ませていると、隣のガレージから細身の女性と長身の男性が歩いてくるのが見えた。私たちと同い年くらいだろうか。真っ青の揃いのツナギを着ている。どちらの顔にも、なんとなく見覚えがあった。どれかのレースで一緒になったことがあるような気がした。
「何探してンの?」
運転を見たことはあれど、彼女の声を聞いたのは初めてだ。うっすら訛りのある言葉だ。その言葉から敵意は読み取れなかった。
「…カイン3000を。」
男性の眉がひそめられる。ややあって、呆れたように告げられた。
「あン人たちは、決勝戦にしか出ねェよ」
読みは当たりだった。こういうときほどよく当たるものだ。嬉しくない。
「…不戦勝って許されるんですか?」
「知らないよ、そンなの」
そっぽを向くようにして、彼女が答えた。彼女も納得がいっていない部分があるのだろう。男性がそれを軽く諫めながら、親切に教えてくれた。
「…会長と、繋がってンだよ。だから不戦勝が許されンだろ。」
「…そうですか、ありがとうございます。」
一応礼を言っておく。教えてくれたことは、確かに有難かった。それに、敵対心を剥き出しにしてこないその態度にも、感謝を示したかった。彼らは運転も丁寧で誠実だ。それが人柄にも滲んでいた。
「じゃァ、こっちが勝つから。」
それだけ言って、2人は軽く手を振って去って行った。気持ちの良い挨拶だった。
控え室に向かう前に、端末からリュカに連絡をいれておく。カイン3000を探したのは、彼女に頼まれたからだった。
『来てない。決勝戦しか出ないらしい。』
すぐさま返信があった。
『あとで控え室』
私が何かしたわけではないのに、なんだか怒られそうな気がした。




