34. 宣戦
グランプリの開会式で、私たちは様々なメディアから今年の二着候補として持て囃されることとなった。押し寄せる記者を退けて、私たちの正装であるジャケットを羽織り、リュカはあのレザースカートにピンヒールで、私は艶のあるスラックスにローファーで、会場へ赴いた。
会場は煌びやかに装飾されていた。仮にも年一回だけ行われる、ドルーズド・レース最大のグランプリだ。世間からの視線も、普段以上に集まる。その開会式を、このドルーズドの人間たちが、派手にやらないわけがなかった。私たち以外にも出場予定のレーサーたちの姿が見えたが、イズモとスサミの姿だけはどれだけ探しても見えなかった。彼らはもう今更式に出る必要も無いのかもしれない。
ドルーズドを取り仕切る、いわば会長とも言うべき中年の男性の前に、それぞれのバディが一列に並ぶ。私たちは一番端だ。つまり、最後に彼の前に立って宣誓をするのだ。ドルーズドらしく、機体と共に、レースを戦うことを。
会長の男性は、年齢にふさわしくないほど脂ぎっていて、よく肥えていた。左右に若くて無駄に露出の多い女を侍らせている。厭らしく光る三対の目と、真っ直ぐ対峙して、リュカと考えた口上を淀みなく、二人で口を揃えて述べる。
「私たちは、ドルーズドらしく手段を問わず、他の機体を下し、優勝することを、ここに、誓います。」
他のレーサーたちの述べた、綺麗事なんて、言わなかった。会場がどよめく。会長の男の目がぎらつく。
「そう言い切るからには、何か制限があっても、構わんだろうなぁ?」
耳にへばりつくような、不快な声だった。賭場を仕切る人間なんて、碌なものではない。きっと彼は、イズモとスサミに何かを賭けている。それでも、その挑発に乗るわけにはいかなかった。いきり立ちそうなリュカの雰囲気を感じ取り、ローファーの爪先を小さく二度鳴らす。それだけで、彼女の纏う空気は穏やかになった。
リュカの静かで、それでいてよく通る明瞭な声が、その挑発を跳ね返す。
「構いません。」
彼女の右隣で、私は黙していた。彼女の言葉に反論なんてない。何をされても、私たちは勝ち続けるだけだ。
「そうか、そうか。聞いたか!諸君。君たちは、好きにすることを許された!彼女ら、スズメバチが、自ら蹂躙されるために許可を下された!好きにするがよい!」
思わず舌打ちが零れそうになる。卑怯な手段だ。自らの手を汚すことなく、私たちを潰そうとするなんて。
吸い込みたくもない空気だったが、ゆっくりと深呼吸をする。会長の男にわざとらしく背を向け、後ろに並ぶレーサーたちを睥睨する。見せつけるように、口を開く。
「…やれるもんなら、やってみろよ。」
明らかに私たちよりも年長のレーサーたちも見えたが、そんなの気にしなかった。
グランプリの、敵対構図が、決まった。




