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Drused Race  作者: 鈴生
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 スタートを切った瞬間から、並走できる機体(マシン)なんて、他に存在しなかった。音が一瞬にして掻き消える。観客の歓声も、実況の声も、周りの機体の音も、何もかもを置き去りにして、カイン1200は飛び出した。

 アクセルの調子がとても良い。軽すぎず、かといって重すぎず、踏み込めば踏み込むだけ加速する。ギアもガタつかずに上げられる。最高だ。

「アンタ何したのこれ!!??」

 右耳から聞こえるリュカの声が、明らかに焦っていた。

「改造した、分かんだろ!」

「違う!!!エンジンのこと聞いてんの!!!」

 分かり切ったことを返してやれば、怒られた。でもそれ以上に答えようがない。レースに集中しなくていいのだろうか。正面に枯れ木が見えるのだが、彼女が何かする様子は感じ取れなかった。

「あれいいの!?」

 質問をそっちのけにして問いかけると、身体が強く沈み込むような感覚があった。回り込むでも突っ込むでもなく、上から回避するつもりらしい。浮力装置が一段階上げられたのだ。

「アクセル!!!上から行く!!!」

 右足は踏み込む用意をとっくにしてあった。指示に合わせて踏み込む。コックピットが持ち上がる。少し上がりすぎかもしれない。

「やりすぎじゃないの!?」

 重いエンジン部分を加味して上昇したのだろうが、これでは少しタイムロスになりかねない。速度の出力を調整しながら、怒鳴り返す。いくら私たちに技術があるとは言え、このまま通過した後に急降下するのは一抹の不安が残る。その先の方に見えるのは高い柵で見通しの悪そうなコースだ。まだ霞んでいて詳細は分からないが、この加速ではすぐに辿り着くだろう。どんな道になっているのかすらわからないところに、訳もなく速度を出して乗り込むのは避けたかった。

「アンタが意味わかんないくらい重いエンジン積むからでしょ!!??」

 他責にされた。エンジンは火力が命だろうに。加速ができないエンジンなんて、あとは何が残るのだろう。燃費も悪ければ悪いほどいいのに。そのまま黙っていると、次々に指示と文句が飛んでくる。息つく暇もない。

「このまま加速!!どうせ木の柵だからカイン1200(これ)でぶっ壊す!!てか機体重すぎ!!全然言うこと聞かないじゃん!!!」

 彼女らしくない判断だった。ああいや、これが、彼女の決めた()()()()()なのかもしれなかった。

 柵が前に迫っていたが、指示は待たなかった。手のひらの感覚だけで、リュカの意志を汲み取る。彼女も言葉を紡がなかった。メインハンドルが重たくなる。ギアが上がっている。手の感覚に合わせてレバーを上げていく。あっという間に一番上まで上がった。

 柵は、木製だった。日に焼けて色褪せて、ペンキがところどころ剥げている。それしか見て取れなかった。コースは緩やかなカーブを描いていたが、機体が重いおかげで曲がり切れない。そのまま躊躇わずに突き進む。

 メリメリと轟音がして、木片が顔を掠めていく。それでも目は瞑らない。きっと昔は頑強だったであろう柵が、前方防御壁(フロントシールド)のすぐ前でなぎ倒されていく。乾燥しきった木材が粉々になるときの、特有の埃っぽい香りが一瞬だけ香った。それもすぐに霧散した。カーブの周辺の柵をほとんど破壊しつくして、私たちはようやく元のコースに戻った。

 リュカの元・オフィシャルは伊達じゃない。運転の感覚から、エンジンの性能(アビリティ)を理解していた。ノア600に積んでいたエンジンよりも強固なものを積んでいるのだから、このくらいの運転は許される。

「…イヴ950やべえな……」

「イヴ積んだの!!??」

 独り言のつもりだったが、口から漏れていた。

「イヴじゃなきゃエンジンじゃねえよ!!」

 カーブに差し掛かっていたので、ハンドルを強く握って右に曲がる。

「この機体オタクが!!!そこ右!!!」

 指示が無くたってそのくらいできる。コックピットは2つとも綺麗に並走して、急カーブを曲がり切った。

 カーブの先は直線になっていて、レース会場が見えていた。視界が霞むほど遠くに、色とりどりの座席がちらつく。

 アクセルもギアも緩めることなく突っ切れば、ファースト・ラップなんて一瞬だった。

「残りも同じ!!!!」

 指示は短かった。

「言われなくても!」

 あんなに最高なもの、やらないわけがない。


「カイン1200が!!!!!一着!!!!優勝だ!!!!!」

 そうして、私たちは初めて、ドルーズド・レースで優勝を飾った。

 最後の最後まできつくハンドルを握りしめていたからか、機体から降りた後も手のひらの感覚が薄かった。


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