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Drused Race  作者: 鈴生
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 リュカと出場するレースには、私が魔改造を施したあのカインを出すことになった。どうやら、彼女が持っていたカイン1300は現実を見たくないあまりに売ってしまったらしい。新しく機体(マシン)を買っても良かったが、せっかくならば自分が弄り回した機体を運転してみたかった。試走をしたことは何度もあるが、このカインがレースで通用するものかどうかを見てみたかった。魔改造済みのカイン1000番台の機体であることを伝えると、彼女は随分と呆れの滲んだ返信を寄越してきた。それでも、この機体に乗ることは了承してくれた。


 レースを次の日に控えた夕方まで、私は機体と向き合っていた。今まで荒んだ生活をしていたため、弄った部分が乱雑になっていないか確認をしたかったのだ。機体に対して丁重な扱いを忘れたことは、いままでないつもりだったが、万が一のことは避けたかった。

 暗くなり始めた倉庫で、スパナを持って、エンジン部分と睨み合っていた。すると、ツールケースの上に置きっぱなしになっていた端末の画面が急に光った。何かと思って近づいてみると、リュカからの電話であった。ツールを置いて軍手を外し、端末を手に取る。

『今何してた?』

「カインの整備(メンテ)

『…まだやってんの…?』

 この前の返信と似たような呆れを含んだ声が聞こえた。左肩と耳で端末を挟んだまま、機体の前に戻る。作業は終わっていないのだ。

「最終確認だから改造じゃない」

軍手を嵌め、一旦置いてあったスパナを右手に持ち、ライトを左手で持つ。そろそろ倉庫の照明を点けてもいいかもしれない。いささか暗い。

『…見に行ってもいい?』

 リュカの声が恐る恐るというように聞こえてきた。見ても楽しいものではないと思うが、彼女がそうしたいというなら、別に構わない。しかし、やってくる頃には終わってしまうのではなかろうか。エンジンとコックピットを繋ぐチューブの接続部分を照らす。このライトでは見づらい。

「いいけど…どこいんの?倉庫(ここ)アパートの近くじゃないんだけど」

『家いる。マップ送って!』

 こちとら作業中だというのに、遠慮がない。

 軽くため息をついて、作業を中断する。ライトとスパナを置いて、照明を点けに向かう。端末からマップを送ってやる。

『えすぐそこじゃん!待ってて!』

 それだけ言うと、電話は唐突に切れた。嵐のようだった。本体はこのあとお目見えするのだが。


 照明を点けると、暗闇に慣れていた目が明るさに耐え切れず、咄嗟に目を細める。眉間に皺が寄っている気がする。何度か瞬きを繰り返すと、明るさに慣れてきた。また作業に取り掛かる。ナットの締まり具合を合計4箇所確かめていると、倉庫の入口の方からカツカツと足音が聞こえてきた。基本的に倉庫の扉は閉めていない。そもそもこんなところに不審者はおろか人なんてやってこない。泥棒が来たとしても、盗める物もない。強いて言うなら機体のパーツくらいは盗めるだろうが、どれもこれも中古市場で出回っているものだ。大した金にはならない。

 機体から視線を上げ、入口の方を見やる。予想通り、やって来たのはリュカだった。

「やっほー……え何これやば」

「おつかれ」

 入ってくるなり、機体に視線が吸い寄せられた彼女の口からこぼれたのは驚愕の言葉だった。

「えアンタこれ自分でやったんじゃないよね…?」

 何を今更聞くかと思えば、そんなことか。当然だ。決まっている。そんなもの。

「自分でやったけど」

「…………まじでオタクすぎる…」

 頭を抱えんばかりの声だった。心外だ。何も悪いことはしていないのだが。

「ほんっとにスサミさんと似たことするじゃん……」

「ああ、あれね」

 カイン3000の改造っぷりは、私も知っている。恐らくリュカ程ではないであろうが、仮にも私だって自分で機械を弄る人間だ。あのときのレースのときに、どの程度弄ってあるのかは分かっていた。

「私はあそこまでやってない」

「…どの口が言ってんの…」

 自信満々に言い切ると、彼女は天井を振り仰いだ。嘘は言っていない。ダブルスチール全交換なんて暴挙にはまだ出ていない。中身は弄ったが、それは誤差範囲だろう。ノア600でもやったことだ。

「もうカイン1200の面影とかほぼないし…どんだけ弄ったのこれ…」

 呆れ返りつつも、彼女はきちんと機体を見ていた。私が分からなかった型番も、これだけ改造を施されたあとでもすぐに見抜いた。

「塗装変えて、エンジンを超重量級にして、ダブルスチールの中身弄っただけ。あとコックピットもちょっと触った」

 もう作業は終わりだ。問題は特になかった。荒れていた頃も、私は機体に対する尊敬を失っていなかった。少し安堵しながら、軍手を外してツール類を片づける。リュカは私の返事を聞きながら、機体の周辺を歩いていた。時折、素手で機体に触れて、コックピットの中を覗き込んだり、ダブルスチールの接続部分を眺めていたりした。


 突然、彼女が声を上げた。

「塗装変えてよ」

「……え?」

 ツールケースになんとかしてスパナを押し込んでいたので、彼女が何と言ったのか分からなかった。

「黄色と黒にしよ!コックピットは黒がいい!エンジンのとこ黄色にしてよ!」

 あまりにも明るく言い放たれるので、咄嗟の反応を間違えた。

「スズメバチかよ…」

 言うべきことを間違えた。最初は止めるべきだった。後悔しても遅い。

「いいじゃん、スズメバチ!女王蜂(クイーン・ビー)になろ!」

「女王蜂は二匹もいらねえよ」

 それは、彼女を止めるつもりの言葉だったが、それが見事に彼女の闘争心に火を付けてしまったようだった。

「ウチだけいれば十分でしょ?アンタは副運転手なんだから。」

「へえ。」

 これ以上ないほどの挑発の言葉だった。口の端が吊り上がる。ずいぶん言ってくれるじゃないか。

「女王蜂は逃げたりしねえよ」

 リュカの口元にも含みのある笑みが広がる。悪そうな顔で笑うものだ。

「そんなこと言えんのも今のうちだけだって覚えときなよ」

 そう言って、彼女は踵を返す。入口に真っ直ぐに向かっていく。

「機体見れてよかった、あと塗装お願いね!じゃまた明日!」

 ひらりと手を振って、彼女は出ていく。さらりと仕事を押し付けられた気がしたが、あまり気にはならなかった。

「寝るの遅くなりそ……」

 そう、独りごちた。


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