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Drused Race  作者: 鈴生
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 グラスを2つ回収して、シンクで洗う。あんなにあった結露はすべて蒸発しきっていた。スポンジを泡立てながら、彼女の言葉を反芻する。


()()()、ウチと、バディ、もう一回、組んで。』

 両目は充血して、差し出された左手は小さく震えていたが、その瞳はどこまでも凪いで澄み切っていた。逃がさないと言わんばかりに、視線は私とかち合っていた。

 彼女のその目から、一度視線を外す。彼女の左手に施された、シンプルながらも品のあるネイルが見える。整えられたネイルに対して、彼女の手の甲の醜い傷跡がよく目立っていた。瞬きをしても、それは消えなかった。

 左手を突き出して、その手を握る。華奢な見た目に反して、その手のひらはごつごつとしていた。レーサー特有のマメがあるのが感じ取れた。長いことハンドルを握り続けてきた人間の手だ。

 視線を戻す。強く左手を握る。その力強い両目に向かって、告げた。

『次は、ない。』

 涙で少し崩れたメイクで、ささやかに彩られた目が、細められる。グロスで艶やかに光を反射する唇の端が、上品に、それでいて粗野に、持ち上がる。

『もう、逃げないから。』

 彼女らしい、宣戦布告の言葉だった。


 リュカはその後、一人で帰っていった。エントランスまで見送ろうかと申し出たが、彼氏に迎えに来てもらうからいい、と断られた。次のレースについては、あとで連絡をしてほしい、とも言われた。あとで、端末から一言入れてやろう。冗談めかして、何か言ってもいいかもしれない。

 そんなことを考えていれば、グラス2つなんてあっという間に洗い終わる。手をタオルで拭って、自室に向かう。電気を付ける。壁際に雑多に置かれたメダルや盾が、きらりと輝く。

 その中から、銀色のメダルを1つ取り上げる。その縁を、ゆっくりと丁寧になぞる。目をつぶる。あのレースの興奮が脳裏に、鮮明に蘇る。

 あれを、もう一度、味わえる。

 その日の夜は、大してアルコールも摂っていなかったのに、あまり寝付けなかった。


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