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私が言葉を紡げない間にも、リュカは構わず告解を続けた。もう、告解ではないのかもしれない。これは、誰の、何の罪の、告発なのだろう。
「ウチは…、ちっちゃい頃から…パパに、憧れてた」
視線がずっと下を向く。鮮やかに彩られたペディキュアが、見えなくなった。視界がずっとぼやけていた。
「でも…パパに入れられた学校から、オフィシャルになったときに、全部……嫌いになった」
「ドルーズドなんて、大っ嫌いになった…」
言葉尻が震えていた。頭上から降り続ける言葉を、抵抗もできずに受け止めることしか、できなかった。
「オフィシャルになって、ドルーズドのこと、ずっと見下してた……オフィシャルの方が、厳しいと、思ってたから…」
だんだん、息ができるようになってきていた。視界は未だにぼやけていたけれど、ジーンズの染みの増え方は、先ほどよりも落ち着いていた。
「でも、オフィシャルから…成績振るわないから、ウチは落とされて……それでも、ドルーズドのやつらくらい、簡単に下せるだろうって、ずっと、思ってたの…」
彼女との初対面のときを思い出す。刺々しい物言い、着飾った服装、傲慢な態度。あれは、彼女の鎧で、盾で、武器だったのだ。ゴシップ誌の情報は、間違っていた。彼女も、挫折を経験して、ここに落ちてきたのだ。
もう、頬を熱いものは伝っていなかった。
「主運転手やって、ドルーズドの鉄則聞いて、…わかった。」
「ドルーズドは、オフィシャルより、ずっと、厳しいって」
これは、リュカの罪の、告発だ。
「あのとき、最後のレースで…」
ああ、やっと、本筋だ。あのとき、山ほど聞きたかったことが、今、彼女の口から明かされるのだ。
「パパに、勝てるって、思ってた……」
やっと、言葉を紡げるほどに、呼吸も、息も、落ち着いていた。それでも、口は挟まなかった。告解の途中で、何か口を挟むことは許されない。
「ヤクモ……セイカみたいな運転をしたら、勝てるって思った……」
その名を呼ばれて、心臓が嫌な感覚に跳ねる。息が詰まる。
「でも、勝てなかった…どうしても、勝ちたくて、だから、妨害、しようって…」
リュカの言葉が詰まっていく。
「あの、爆発で、怖くなった……全部、嫌に、なった…怖く、なったの……」
ぽたり、と雫が垂れた。
「あんなっ、こと、考え、たっ、自分が、一番……っ、怖かった…」
しゃくりあげる声が混ざる。あのときの、彼女の言葉が耳に蘇る。
『…………最低』
あれは、誰でもない、リュカ自身に向けられた言葉だったのだ。
彼女の言葉はそれきり、泣き声に取って代わられてしまった。勝手に溢れる涙を止めようとして、両手で両目を押さえて拭うのに、涙は構わずそこから次々と零れていく。
「……っ、ごめ、ん……」
泣き声に紛れて、謝罪の声が聞こえた。
「…ごめん、っ…ごめん、ね……ごめん、なさい…っ」
謝罪の声は止まらない。
ゆっくりと立ち上がって、彼女と同じ高さから、視線を合わせる。
これは、何への謝罪なのだろう。誰への謝罪なのだろう。
両の頬に伝う彼女の涙を、ぼんやりと眺めていた。左目を押さえる左手の甲の傷を見つめた。その傷跡は、歪な形ではっきりと残っていた。
リュカの、洟をすする音が、ずっと部屋に響いていた。




