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Drused Race  作者: 鈴生
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 レース前になって、ようやくつなぎからいつもの作業服に着替えて、私は一足先にレース場へ向かった。機体は移動させてある。

 今日は珍しく整備がなされたコースだった。会場もアスファルト敷きで、普段よりもずっと歩きやすい。視界不良好に陥る可能性が少なくて助かる部分もあるが、避けたい部分もある。障害物が廃屋なことが多いのだ。自然物と異なり、機体異常(マシントラブル)から発火に繋がりやすい。レース中はいつもよりも繊細な運転が求められる。

 コースとの相性もあり、出場する機体に超重量級のものは見られなかった。その代わりに軽量級や、カインシリーズよりも一回り小さい中重量級の機体ばかりが並んでいた。カインシリーズの機体は重量級に分類される。どちらかというと大自然の中のコースを得意とするのだ。小回りは効きにくいが、きちんと整備された機体であれば加速と耐久性が長所となる。

 小型の機体が並ぶ中で、私たちの運転するカイン1300は目立っていた。しかし、それ以上にレーサーや観客の視線を奪う機体があった。それが、私たちの3つ隣に大人しく鎮座していた。気になったので様子を見に行く。他のレーサーも何人か集まっていた。

 その見た目は、どことなく見覚えがあった。塗装は塗り直されているからだろうか、鮮やかで艶やかな色合いを呈している。エンジン部分は超重量級に匹敵するほどに大きい。ダブルスチールもコックピットの大きさに対して不自然なほど太くて頑丈そうだ。純正品ではないのだろう。

 1300と、その機体を見比べる。似てはいるものの、やはり違う。この機体には防御壁(シールド)が搭載されていない。コックピットの中を、首を伸ばして眺める。レバーの位置が違っている。どちらかというと、2500の方がよく似ているかもしれない。計器類の感じがそっくりだった。更に言うなら、2500より見にくい。

 カインシリーズなのだろう、と当たりをつけて自分たちの機体の元へ戻る。遊んでいる暇はない。レースに集中しなければ。まだ目覚めていないエンジン部分に寄り掛かって、リュカを待つ。グローブがポケットに入っているのを確認する。素手で運転するレーサーがほとんどだが、なんとなく私はグローブを嵌めるのが好きだった。

 しばらくするとリュカがやって来た。いつもよりもレース場で靴音がよく響く。私の近くまで歩いてきて、出場している機体を一瞥し、ぎょっとしたように口を開く。

「カイン3000…!?」

 図らずともその声は他のレーサーたちにも聞こえていた。レース場がどよめく。3000番台の機体なんて、一体何年前のものだろう。2500だって廃棄品(スクラップ)になったというのに、それより前の機体か。

 機体の持ち主は、まだその姿を見せていなかった。あんな古びた機体を繰るのはどんな人物なのだろう。期待が高まる。それでも、そちらばかり気にしている場合ではないのだ。私たちにもやることはある。

 リュカが主運転手(メイナー)のコックピットに向かったため、私も副運転手(ツイン)として乗り込むことにした。イヤホンを着けると、エンジンと浮力装置が掛かる。異常はない。グローブを嵌める。メインハンドルを握る。コックピットの中を一通り確認する。

 他の機体も次々にエンジンを掛け始めていた。そんな中でも、あのカイン3000は沈黙し続けていた。不戦敗のつもりなのだろうか。

 いよいよ実況解説が機体とレーサー紹介を始めた頃になって、あの人は現れた。コックピットから、その姿を認めて、あっと声を上げそうになる。


 彼は、私を、初めて機体のコックピットに乗せてくれた、あの主運転手だった。ほとんど真っ白になっている髪を短く刈り上げて、着慣れたレーシングスーツを身に纏っていた。その両手には、私と同じようにグローブを嵌めている。副運転手も見覚えがある。あのときに相手をしてくれたのだ。あまり会話をした覚えはないけれど、忘れられる訳はなかった。

 慌てる素振りもなく、それでいて会話もなく、彼らは流れるようにそれぞれのコックピットに収まった。すぐさまエンジンが掛かり、轟音が響き渡る。紹介の声が遠ざかったようだった。

 実況解説が、ここぞとばかりに声を張り上げる。紹介はちょうど、彼らの番だった。


「さてさて最後は生きる化石、カイン3000だ!!!1300のひよっことは比べ物にならない年季の入ったコンビは、皆さんご存じの!!!あの!!!トカラと組んだことのある主運転手、イズモ!!!そしてイズモの副運転手の座を!!トカラから勝ち取った!!!副運転手、スサミ!!!!」

 初めて聞く情報に、眉を顰める。父は、副運転手として運転したことがあるのか?あの彼と?

 私が混乱している間にも、時間は残酷に進む。

 イヤホンを二度叩かれる。

「セイカ、今日は指示出すから。アンタがすぐ応えてくるの、分かってても怖いし。最初はアクセル踏み抜いて。全力で加速して。」

「…わかった。」

 口を挟む余裕も、時間もなかった。


 信号(シグナル)が3つ、2つ、1つ。

 それが消えると同時に旗が振り下ろされる。

 イヤホンからの声と機体全体に耳を澄ます。

 レースの、始まりだ。


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