18
18
いつも通りの誰もいなくなった控え室で、リュカと私は睨み合っていた。
今回ばかりは私から言わせてもらおう。
「主運転手、経験したんですよね?私より向いてるって言いましたよね?なんでそれで躊躇するんですか?」
それを聞いて歯を食いしばった彼女が、苦々しげに吐き捨てる。
「アンタだって副運転手のくせに途中で意識逸らしたのにウチに説教とかふざけてんの!!??」
そればかりは反論できない。私の技術不足でああなったのは事実だ。リュカが言葉を続ける。
「それにあの急カーブの加速!!バカじゃないの!!??あんなのダブルスチール折れるに決まってるじゃん!!機体異常回避したとか言っといて壊そうとしてんのアンタでしょ!!??」
そのことか。それなら問題なんてない。
「改造したのでダブルスチールは無事ですよ。」
こともなげにそう言ってやると、彼女は絶句した。
「なん…………」
そのあとの言葉が続かない。解説しておくか。仮にも所有者は彼女なのだから。
「多少無茶が効くように、中の部品を弄りました。回転の角度も広げてあります。あとは伸縮性が出るようにしました。」
だから遠心力を使って曲がって見せたのだ。まっさらな純正品で、私が触っていなかったら、あんな運転はできない。
それを聞いた彼女が顔色を変える。
「まっじでふざけないでくんない!!??そんな改造、失格になるでしょ!!??」
「なるわけないでしょう。」
冷静に答える。
「ここはどこだかお忘れですか?アンダーグラウンドの賭けレース、ドルーズド・レースですよ。この程度の改造なんて可愛いもんです。」
信じられない、と言わんばかりの視線が私に注がれる。ああ、それにまだ言わなければいけないことがあった。
「ドルーズドの鉄則を知らないんですか。」
「なに?それ。そんなの聞いたことないんだけど??」
尖った声で聞き返される。やはり知らないのか。教えてやろう。これはいわば掟だ。
「1つ。機体は重く、命は軽く。2つ、速度は早く、タイムは短く。3つ、コースは不定、レギュレーションは不定、観客が采配を取る。」
リュカは開いた口が塞がらないようだった。元・オフィシャル出身の彼女に、この鉄則は酷だろうか。それでも、レーサーとして生きていくならば、その身体に染み付けなければいけない。これを覚えていなくては、レース中に判断ができなくなる。
「だから、クラッシュした機体を見ても、動揺してはいけない。」
視線を逸らさずに、告げる。人の命は何にも代えがたいほど重い。昔、学校の授業ではそう言っていた。そんなの嘘だ。ここで、人の命が重かったことなんてない。それよりも、賭けられた賞金と、観客からの期待の方が、ずっと重たい。
彼女の喉がこくりと動く。瞬きすらできていない。見開かれた目から、目玉が零れ落ちてしまうのではないかと明後日の方に思考が流れる。
「今日の失敗は、すみませんでした。私の技術不足です。凹んだ部分は私が直します。リュカさんはお先に帰っていただいて結構ですよ。次回もよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げて、私はガレージに向かった。機体を回収するのは明日の朝だ。それまでに修理できればいい。




