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バディを組むと決めて最初に話し合ったのは、機体についてだった。リュカが今日のレースで運転していたノア600は、エンジン部分を丸ごと交換することになったそうだ。
先ほどまでのしおらしさはどこへやら、彼女の声はいつものように甲高くなった。
「うちのノア、今まであんなことなかったのに!!絶対今日の整備士がなんかした!!最っ悪、まじで!!」
「自分で整備、しないんですか?」
ずっと疑問に思っていたことだ。最初にノア600に乗せてもらったときもそうだったが、彼女が整備をした様子は見受けられなかった。
小首を傾げた彼女が、不思議そうにこちらを見る。
「するわけないでしょ?レーサーがそんなこと。ウチ、今まで整備とレーサー同時にやったことないし!」
あまりにも当然のように言い切るので、二の句が継げなかった。そんなことがあっていいのか。レーサーたるもの、自分の機体くらい、自分で整備したがるものではないのか。
「あ、でもでも、オフィシャルにいたときは彼氏がたまにしてたよ?今日はしなかったけどさあ」
つまり、リュカ自身が機体に触れる時間はほぼ無いという意味だ。不安にならないのだろうか。それに、今何と言った?今日の副運転手は、オフィシャル時代からのバディである彼氏だったのか?
「……ほんとに私と組む必要あります?」
今日の連携を見せられて、そう思わないわけがなかった。あれだけ息が合っているのだ。多少副運転手が遅れる瞬間はあったが、誤差範囲だ。ドルーズドではあのくらい普通だ。
「あるに決まってんじゃん!!彼氏もいいけど、あんなに遅れるってオフィシャルじゃ失格だし!!」
あれで失格扱いか。レギュレーションはコックピットのずれまで規定しているのか。
「あとアンタ整備好きでしょ?今日のあれ味わったら、やっぱバディに任せたいなって。あと、アンタ隣にいると油の匂いするし。今はしないけど。普段ちゃんと風呂入ってんの?」
「余計なお世話なんですけど。」
口にする気はなかったが、内心では抑えきれなかった。確かに整備は好きだ。あちこち改造するのも、調子が悪そうなところを修理するのも楽しい。予定がなくて手元に機体がある日は、日がな一日機体を弄っている。何もしなくていいのなら、寝食を抜いて整備とレースに明け暮れたいくらいだ。
「レース前に整備するんです。その匂いでしょう。……で、どうするんですか。機体。」
いちいち挑発的な物言いをするリュカに乗せられてしまっては、話が進まなくなる。ノア600がない今、私たちに運転できる機体はない。
「家に、カイン1300がある、けど……」
彼女の歯切れが悪い。何かあるのだろうか。
「ボロいから嫌いなんだよね、ウチ、あれ。」
その程度のことか。乗れればなんだって楽しいのに、選り好みをするなんてやはりエリート上がりなだけある。
「乗れればいいでしょう。次はそれで出場するんですね。整備は私がします。会場に前日入りして機体持ってきてください。カインシリーズなら、整備キット揃えてあるので。」
左手の腕時計に視線を落とす。結構な時間が経っていた。夕飯が遅くなってしまう。
「え?アンタ自分でキット持ってんの!?マジでオタクじゃん!!」
自分でしないからって好き勝手言いやがって。
「いい加減にしろ。私は帰る」
心底呆れた視線を投げかけて、座りっぱなしだった椅子から立ち上がる。腰が痛い。厭味ったらしく告げてやる。
「じゃあ、また次のレースで。出場枠はこちらで取ります。では失礼します。」
軽く会釈をして、控え室の出口の扉に向かう。重いドアノブを捻る。
「えちょっと待ってウチだけ置いてくつもり!??」
やかましい彼女がバタバタと足音を立てて追ってきた。
溜息をついて、彼女を先に部屋から出す。
ガチャリ、と背中で扉が閉まった。




