閑話 両陛下の判断
王妃ウイラは、未だ昼食を摂っていないであろう国王ヤウクのもとへ向かった。
国王の執務室は六階にあり、執務室の部屋の幅は王妃ウイラからして見ても随分と広いと思う。もう、一階の食堂から六階の執務室まで行き来するのは慣れてしまった。因みに、王妃の執務室は国王の執務室の隣にあるため、補佐がしやすい。
この大きい城の回廊がどこに繋がっているのかも理解している。
慣れとは恐ろしいものだ。
「陛下。失礼致します」
そう断りを入れながらも、執務室へ入る。因みにだが、国王の執務室には王妃の執務室ともう一つ、王太子の執務室の両部屋に囲まれているのだが、王太子の執務室の所有者は未だ居ないままだ。だが、いずれ自分たちの娘のレテナかミラーズがそこの主になると思うと、とても誇らしい。
「ヤウク。昼食は摂った?」
入室し扉を閉めれば、敬称も敬語も必要ない。国王の名を呼び、敬語も捨てる。
国王ヤウクは、書類から視線を上げウイラに微笑む。
「ウイラ………、大丈夫。いつもそうだからね」
人の目がある場所では敬称で呼びながらも、婚約している時から深い愛情は芽生えていた。そしていつも側で見守っているから、ヤウクが根を詰め過ぎる性格というのもきちんと理解していた。
「軽食を御用意してもらうわね」
「いや、だいじょう———」
「言い間違えたわ。軽食の用意はもう、済ましてあるわよ」
ウイラは外堀から埋めていくタイプだ。もう、これで食べないという選択肢はない。ヤウクは溜息をつき、ウイラに向かって困ったように微笑んだ。
「そうだな。これ以上、心配を掛けるわけにはいかない」
「そうして?」
頷いて微笑んだ後、ウイラは執務机を見る。執務机の上には、たくさんの書類が積まれていて、左側にはもう解決済みの書類が積まれてあった。
「この数分で、結構増えたわね」
減ったではなく増えただ。書類の数が増量していくが、それでもヤウクは弱音一つ漏らさない。健康的な顔だし、今のところ問題はないように思える。そのことにウイラはホッとした。国王が倒れたら大惨事だし、彼の妻としても愛する夫が倒れるのは嫌だからだ。
「そうだな。………補佐をしに来た、だけではなさそうだね」
「ふふ、当たりよ。相談を、少し」
少しで済ませられるほどに小さな問題ではないが、ウイラはそのことを気にしない。ヤウクに執務机の前にあるソファへ座ろうと促し、向かい合う形でウイラとヤウクは座った。
「相談というのはね……キフィメの第二王子のことと、継承者の件よ」
「………どちらも派閥は土台になって来るな」
「えぇ。だから、その土台作りの相談をしようと思って」
本題に入ろうとすると、コンコンとノックが聞こえて来た。入室の許可を国王の執務室にも関わらずウイラがしたが、使用人は気にする素振りもなく「軽食をお持ちしました」と淡々と言った。食事を乗せるためのカートには、軽食がある。
「ありがとう。そこに置いてもらえる?」
「かしこまりました」
使用人は軽食をソファの間にある机に置き、一礼をして退室した。その様子を見届けた後、ウイラはもう一度、ヤウクに視線を向ける。
「それで、話の続きなんだけど………」
「継承者は貴族の派閥が収まってからで良いだろう。だが、少しは我々王族も関与すべきかもしれぬ。微妙なところだ」
「えぇ、そうね。………あっ、良いこと思いついたわ」
「ウイラの提案はいつも想定外だからな。……聞かせてもらえるか?」
ヤウクのお願いに、ウイラはヤウクに近付きそっと耳打ちする。
国王は、王妃の言葉にそっと目を伏せて聞き入る。
「今回は、いつもより想定外だな」
「そうね。でもこれは、貴方にはない考えじゃないかしら」
「あぁそうだな。……王妃がウイラで、良かったよ」
ふっと笑うヤウクに、ウイラは「嬉しいわ」と本当に嬉しそうに微笑んだ。




