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1話 第二王女レテナ・アイク・カンロフィム

 広大な土地を持つカンロフィム王国。その国の中心にある王城の一室にて、一人の王女が家庭教師に社交ダンスを習っていた。


「一、ニ、三。はい、ここで止まるのです。ほら足が乱れておいでです」


 女の家庭教師は男性パートを、王女は女性パートをしている。

 厳しめな家庭教師は目に入ればすぐさま指摘する。だが、その指摘された部分をすぐに直し、数時間後には見惚れてしまいそうな素晴らしい社交ダンスが行われていた。


「はい。今回はここまでで終わりです」

「あ………ありがとうございます」


 第二王女レテナ・アイク・カンロフィムは、微笑んで家庭教師に礼を言った。この王女教育が行われて数ヶ月が経ち、教育はもう少しで終わりそうなところまで来ていた。家庭教師も、レテナを褒め称える。


「レテナ殿下はとても覚えがお早いですわ。感激致しました」

「ありがとうございます。嬉しいです」


 いつも厳しい家庭教師に褒められると、頑張ろうと思えてくる。

 嬉しいという気持ちのまま、レテナは特別室を出た。

 特別室の扉の前で開放感から伸びをし、レテナは「ドレス、重いな」とだけ呟いた。今のドレスは、社交ダンスの教育が行われたため、いつもの二倍は重いドレスだ。すぐに着替えたい。


「あ………お昼ご飯の時間」


 小さく腹の虫が鳴り、レテナはそう呟き食堂へ向かった。

 食堂にはテーブルが何個もあり、大臣や詩人が食事や会話を楽しんでいる。この王城は王族専用のダイニングルームはなく、皆がこの食堂に集まり会話や食事を楽しんでいた。

 だが、食堂には人一倍豪奢な大きいテーブルがある。そこは、王族専用のテーブルだ。そのテーブルを囲んである椅子に座ると、栄養バランスが考えられた昼食がレテナの前に運ばれて来た。


(冷めちゃうかもしれないけど、お姉様たちを待とうかな)


 そう思っていたら、タイミングよく見知った声がした。

 振り向くと、そこには第一王女、ミラーズ・アイク・カンロフィムが居た。

 ミラーズはレテナの姉であり、第一王女である。成績は平凡と評価されていて、覚えもレテナのように早くはないが、人を想う気持ちは誰よりもあった。

 黒髪に紫色の瞳という容姿をしている、吊り目の美人。因みに、レテナは銀髪に水色の瞳というミラーズとは正反対の明るい色だ。吊り目ではないが、容姿はそれなりに整っていると自負している。


「お姉様」

「食べてないの?」

「はい。お姉様と、御母様を待とうと思って。………御父様は?」

「今日も、政務がお忙しいそうよ」

「そうですか…………」


 父親であり国王のヤウクは、国王ということもあり筆頭公爵家よりもずっと多忙だった。隣国からの誘いは必要なだけ受けているし、それ以外は断っている。書類は次々と届けられるため、色々と忙しいのだ。


「補佐は、御母様がやられていると言っていたけれど………」

「きっと御母様だけ昼食に行って良いと仰っているのでしょうね。………お忙しいでしょうに」


 二人でしょぼんとしていると、ミラーズの方にも昼食が置かれた。だが、ミラーズも母を待ってからが良いと言ったので、二人で母を待つ。

 それから五分もしないうちに、王妃である母が来た。


「待たせたかしら。先に食べていても良かったのに」

「いいえ、御母様。わたくしもレテナも、待ちたかったまでです」

「まぁ嬉しいわ。ありがとう」


 そう微笑んで、母ウイラは席に座る。上座となる席は国王の席のため、その椅子には誰も座っていなかった。「今日も来られないのですね……」とミラーズが悲しげに言えば、母のウイラはその微笑みに寂しさを浮かべて頷いた。


「でも、食べちゃいましょう。大丈夫、軽食は食べるよう言っておくわ」

「「ありがとうございます」」


 そうして三人手を合わせて、昼食を食べ始める。どれも美味しいものばかりで、手の込んだ料理だった。

 だが、突然ウイラがフォークを置き、「ねえ」と二人に話し掛ける。その真剣な表情に、レテナとミラーズは食べる手を止め、聞く体制になった。


「我が国に、隣国キフィメから第二王子が来るわ」

「キフィメから、ですか」


 ミラーズがポカンとしながら尋ねる。

 隣国のキフィメ国は、このカンロフィム王国に並ぶほどの大国だ。だが、友好でもそれ以下でもなく、キフィメとカンロフィムの間では戦争などは起きなかった。両国共に大国のため、民が多く居る。そのため、戦争は起こさないと決めているのだ。


「そう。キフィメ国から縁談が来ていて、貴女たち王女どちらかと第二王子を婚約させて欲しいときたの」

「ですが、まだ王太子は決まっておりません」


 我がカンロフィム国は、貴族らの意見や派閥を中心に王太子を決めている。そのため、王子だけが王太子になれるなど、そんなことはないのだ。だが、今は派閥争いが多発しているため、色々と纏めなければ王太子を決められないという現状になっていた。


「そうよ。キフィメの第二王子には、王配になって欲しいと考えてる」


 だが、肝心の王太子が決められていない。だから、今の状態では第二王子の婚約者決めは保留なのだ。だが、あまり長引かせたらキフィメ国から苦情的なものが来るだろう。


「良い加減、私たちも派閥を纏めなければならないわね」

「仕方ありません、御母様。王族が関われば、大変なことになります」


 ウイラの溜息混じりに言った言葉に、ミラーズが首を振って否定する。だが、王族が一切関わらなくても色々と派閥争いは続くから面倒臭い。もしも、派閥が続いている現状で王太子を決めてしまえば、その選ばれなかった方は王族に対する信頼を失うことになる。

 レテナは思わずと呟いた。


「貴族たちの問題なのですが、関われば私たち本人も巻き込まれてしまいます」

「そうなのよね。……陛下に相談してみようかしら」


 悩ましい溜息を吐いた後、ウイラは「ご馳走様」と手を合わせる。いつの間に、とレテナは思った。王女二人は話に夢中で食べていなかったので、母と共にご馳走様は言えなかった。

 ウイラは茶を上品に口に含み一息ついた後、二人に向かって微笑んだ。


「二人は、そのまま食べていて。私は陛下に相談してみるわ」

「「はい」」


 相談の内容は、先程の継承者と第二王子の婚約者の件についてだろう。どちらも国に関わる重大な問題なので、国王の判断無しでは事を進められない。それをレテナもミラーズも分かっているため、椅子から立ち上がったウイラに向かって手を振った。


「食べていてと言われたけれど………」

「まぁ、大臣様たちが来ますよね。ここも社交場ですもん」


 食堂とはいえ、大臣や詩人も共に食べる食堂だ。王族専用のテーブルはあるが、ここでは聞かれても良い内容だけ話している。ということは、先程の件も別に聞かれて良かったのか。


(食べたいのに。………まあ、良いか)


 姉妹の予想は当たっており、大臣や詩人らが話し掛けてくる。

 受け答えしながら食べるのは失礼なので、この時間はあまり食べれなかった。

 昼食の時間は、彼らの話を受け流しているうちに終わってしまったのだった。

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