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転生女神様は異世界に現代を持ち込みたいようです。〜〜ポンコツ女神の現代布教活動  作者: れお
女神、現代を布教したい偏

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1/1

女神「神コピーマシン送ったわ〜」→修道士「無限写本の黙示録だと……!」

「は~、きのう送ったセルカ棒、また戦場で槍扱いされてんじゃん……」


「マジで地上民、センスずれてて逆におもろいんだけど~」


天界のモニターをのぞきこみながら、わたしはポテチをぼりぼりやりつつ、指でスクロールする。


「でもさ、そろそろちゃんと“文明”あげないとじゃん?」


「勉強とか文化とか、そういうさ~、インテリっぽいのも布教したいわけ」


神界ショッピングサイトを開いて、ノリで検索ワードを打ちこむ。


『知識』『効率』『神』


出てきた商品リストの中で、ひときわいかつい黒い箱が目にとまった。


「きた、これじゃん」


「業務用フルカラーコピー機~、しかもA3対応~」


「これ、一台あればさ、聖書とか一瞬でバラまけるし?」


「マジ、第二のグーテンベルク爆誕なんだけど」


テンションあがって、画面をタップする指にも力がはいる。


「よし、今日のターゲットはー……」


地図アプリをぐりぐりひろげて、地上をズームする。


「うわ、ここやば。まだ手書きで本うつしてんじゃん」


「インクまみれでチマチマやってて、しんど~」


「じゃ、ここの修道院にドーンて落としてあげよ」


配送ボタンをタップ。


黒い巨箱が、光のエレベーターにのって地上へおちていく。


「これであの大陸、知識爆速シェアされて、文化レベルバチ上がりじゃん?」


「マジ、わたし、文明の女神って感じ~」


わたしはにやにやしながら、モニターに顔をよせた。


地上がバズる瞬間を、わくわくで待ちながら。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


暗き石の回廊を、蝋燭のひかりがゆれる。


かくして、その日もまた、辺境セレノ修道院の写字室には、紙のこすれる音だけがひびいていた。


「……“われらが王は、古の誓約にしたがい”……」


若き修道士リオネルは、か細き筆をにぎり、震える指で羊皮紙に文字を刻む。


冬の冷気は骨の髄までしみわたり、インク壺の表面にさえ、うすい氷がはろうとしていた。


「リオネル、手をとめるな。きょう中にあと三葉は写さねばならぬ」


老いた写字長が、砂時計をにらみながら告げる。


「はい、神父さま。ですが、指が……」


言いかけたそのときだった。


天より、雷にも似た轟音が落ちた。


石床がうなり、棚に積まれていた羊皮紙が、一斉に宙を舞う。


「な、なんだ……地震か!」


修道士たちの悲鳴のなか、天井の一部が砕け散り、暗き空の裂け目から、それは落ちてきた。


黒き、箱。


石の祭壇ほどの大きさをもつ、金属と樹の異形。


「……魔物か?」


誰かが震える声でささやく。


だが、箱は、ただ沈黙していた。


その表面には、知らぬ紋章と、奇怪な線の文様がいくつも刻まれている。


「近づくな、リオネル」


写字長が前に出て、震える手で聖印を切る。


「これは、運命を告げる“徴”かもしれぬ」


リオネルは、胸の鼓動をおさえながら、一歩だけ進み出た。


箱の天面には、透明な板がはめこまれている。


側面には、無数の小さき光の玉が列をなし、その下に、見たこともない記号が整然と並んでいた。


「これは……聖紋か」


リオネルの喉が、乾いて鳴る。


「古の神々が、われらに送られた啓示の器に、ちがいありません」


「不遜なことを言うな」


写字長は口では叱りながらも、その瞳には恐れと期待が宿りはじめていた。


箱の横には、一冊の薄き冊子が落ちていた。


白き紙に、まるで金属のように冷たく正確な文字が印されている。


「……“とりあつかいせつめいしょ”?」


リオネルは、たどたどしく読みあげた。


「“純正トナー以外をまぜると、重大な故障・事故の原因となります”」


写字長の肩がびくりと震えた。


「まぜるな……?」


「異なるものを、まぜてはならぬと……そう記されている」


「こ、これは」


老修道士の唇が、かすかに笑みをかたどる。


「主がわれらに告げられたのだ」


「異端の教えを、真なる教義と、けっしてまぜあわせてはならぬとな」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


翌日。


大窓の外では、雪が白く降りしきる。


写字室の中央に、例の箱が据えられ、その前に修道士たちがひざまずいていた。


「リオネル、例のごとく、祈りを」


写字長の言葉にうながされ、リオネルは箱の前で胸に手を当てる。


「古の主よ、この大地に刻まれし、あなたの言葉を、われらにあまねく伝える力を、どうか……」


震える指で、透明な板をそっと持ち上げる。


聖典の一葉を、そのうえにおいた。


そして、説明書に赤き印でかかれていた、ひとつの文字列を思いだす。


「“すたーと”……これだな」


彼は、光る印のうち、もっとも大きなそれを、恐る恐る押した。


うなり。


低き雷鳴のごとき唸動が、箱の奥底から響いた。


修道士たちがいっせいに悲鳴をあげる。


箱のうちが、白昼のごとき光を放ち、聖典の葉を、まばゆい線がなぞっていく。


「かくして、主のまなざしは、一字一句をも見のがされぬ……」


誰かが涙ぐみながらつぶやく。


やがて、箱の横腹から、白き紙が吐きだされてきた。


一枚、また一枚。


それは、まさしく、聖典の葉と、寸分たがわぬ文字をそなえた紙であった。


「き、奇跡だ……!」


リオネルは、目を見ひらいた。


「いまだかつて、これほど正確に、これほど速く、写本が生みだされたことがあろうか!」


「主は、われらの疲れを、あわれまれたのだ……!」


写字長が、震える手でコピーをつかみとる。


墨のにおいも、インクのにじみもない。


ただ冷たく、くっきりとした黒き文字のみがならんでいる。


「これぞ、“無限写本の箱”……」


「主が、終末にそなえて与えた、黙示録の器よ」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


それからの数日、セレノ修道院は、狂気にも似た熱で満ちた。


「もっと紙を! 羊皮紙が足りぬ!」


「村から白き紙を買い占めよ!」


「インクもだ! あの“とーなー”とやらの黒き粉も!」


若き修道士たちは、雪道を駆けまわり、町の紙商人たちは、前代未聞の需要におののいた。


写字室では、もはや筆は用いられず、ただ箱がうなり続けた。


聖典、祈祷集、教義問答集。


あらゆる聖なる書が、この箱を通りぬけ、無数の写本となって、山のように積みあがっていく。


やがて、それは修道院の塀を越え、周辺の村々へと、洪水のごとく流れだした。


「セレノの修道士たちは、主の箱を手に入れたらしい」


「真の教義が、ただで配られているそうだ」


かくして、民草は聖なる言葉を、はじめて自らの目で読みはじめた。


だが、それは同時に、別の種火にもなった。


「ここに、こう書いてある」


「“他の神々を、けっしてまぜるな”……」


「では、北方の古き森の神を、まだあがめている連中は?」


「主の怒りを、買っているのではないか?」


セレノ修道院に送られてきた一通の手紙に、リオネルは目をとおす。


『貴殿らの配布する聖典により、我が町では、森の古き祭壇が焼かれた』


『彼らは叫んだ。「純正トナー以外、許されぬ」と』


リオネルは、指先を震わせた。


それは、ただの注意書きであったはずだ。


だが、人々はそれを、教義として読みとっていた。


「……これは、本当に、主のみこころなのか?」


つぶやいた時、箱が、低くうめいた。


「が……がが……」


白き紙のはしが、内部で折れ曲がり、止まっている。


「紙が……詰まっている?」


リオネルがふたを開くと、説明書の一文が目にはいった。


「“紙づまりのときは、けっして無理にひっぱらず、電源をお切りください”」


「むりに……ひっぱるな……」


写字長が、その行を凝視する。


「主は、おおせだ」


「この箱を乱暴に扱う者には、裁きをくだすと……」


その夜からだった。


セレノ修道院では、“紙づまり”が“神の怒り”と呼ばれはじめたのは。


聖典を頼りに、異端の村を焼き、森の祭壇を倒した者たちの名簿が、箱にそっと差しこまれる。


雷鳴のごとき唸りのあと、紙はぐしゃりと押しつぶされ、中で止まる。


「見よ、主は彼らの名を、箱の内に閉じこめられた」


「これは、地の書に名を消された証なのだ」


「ゆえに、さらに異端を焼き払え!」


狂った理屈が、冬の嵐よりも速く、王国じゅうをかけめぐる。


やがて、北方の小王国は、この“無限写本”に背をおむいた。


「その箱は、真の教えをゆがめる、魔の器だ!」


「聖典の海で民をおぼれさせる、黒き黙示録だ!」


彼らは、セレノ修道院へ軍を差し向けた。


積みあがった写本の山に、火の矢が降りそそぐ。


乾いた紙は、一瞬で炎の塔となり、夜空を赤くそめた。


箱はなおも唸りつづける。


だが、やがて――。


「が……が……」


黒き粉はつき、印字はうすれ、文字はかすれた影となって紙に刻まれた。


リオネルは、最後の一枚をにぎりしめながら、炎に照らされた箱を見つめる。


そのかすれた聖句は、もはや誰にも読めぬ。


「主よ……」


彼は、すすで真っ黒になった手を、胸にあてた。


「これは、ほんとうに……あなたが望まれた、黙示録だったのですか」


答えるものは、もはや、箱のうなる音すらなく。


ただ、外でひびく、戦の叫びのみであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「え、なにこれ……」


モニターをのぞきこんだわたしは、ポテチをぽろっと落とした。


「待って、紙づまりで異端認定されてんの、マジわろたなんだけど」


「てか、“純正トナー”を教義にするのセンスありすぎじゃない?」


地上は、炎と叫びで、インスタどころじゃない映えをしている。


雪景色に、燃える聖典の山。


黒こげのコピー機を、なお拝みつづける修道士。


「いやいやいや、わたし、もっとこう……」


「みんながさ、バチくそ勉強して、図書館とかつくって、“知識の共有最高~”って、チルる未来をイメージしてたんよ?」


「なんでさ、コピー機一台で宗教戦争はじまってんの?」


わたしは頭をかかえながらも、ちょっとテンションが上がっている自分に気づいて、あわてて首をふる。


「やば。地上、毎回おもしろい方向にバズりすぎでしょ」


「次はもうちょい平和なやつ送ろ……」


モニターの中で、黒き箱が、最後の力をふりしぼるように一度だけ、青いランプを点滅させた。


その瞬間、どこか遠くの町で、また一冊、聖典の写しが生まれる。


「……って、まだ増えてるの!? しぶとっ!」


わたしは、両手で頭をわしゃわしゃしながら、叫んだ。


「なんでそうなるのーーー!?」

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