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灰色の魔法猫は英雄譚をうたう  作者: 五色いずみ
三号勅令 辺境伯として北の覇者ヨナーク大公国南下を阻止しつつ、我を大陸の王となさしめよ
23/39

第23話 鹵獲《ろかく》

挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「戦車」


「戦象隊、突撃――」


 ここに来て、ユンリイ大公が率いる戦象十九頭を含む近衛騎士隊一千がヨナーク軍の右翼に横槍を入れた。

 やや遅れて、執政ホグニが率いるヴァナン大公国軍の主力八千が、ヨナーク中央軍四千の背後に迫った。

 ヨナークの元帥には軍師がつけられている。ヨナーク大公国南征軍の総指揮を執る白髭のブラジ・スキルド元帥が乗る戦車の横には、軍師ホーコンの戦車が併走している。


「ブラジ小卿、まずいぞ。敵は包囲殲滅を狙っている。ただちに全軍を、まだ包囲陣の蓋がされていない後方から、陣の外に退避させるべきだ」


 ヨナーク大公国軍一万を囲んで、西のノアトゥン領都守備兵一千、北のシグルズ麾下の騎兵二千、南のユンリイ大公麾下の近衛騎士団、そして東側に執政ホグニ麾下国軍主力軍団が最後の蓋をしに迫ってきている。


 老将の決断は素早い。


「予め各隊と示し合わせていた鳴り物を使って、右翼と左翼を後方に退かせつつ、我ら中央主力は殿しんがりとなり、少しずつ後退するのだ」


 ヨナークの軍勢はノアトゥン辺境伯領に、軽くちょっかいをかけたつもりだったが、油が跳ねて、自身が火傷する羽目になった。


               *


 ヨナーク大公国南征軍は、ノアトゥン辺境伯領から、ユグドラ大陸の南北を縦断する幹線街道〈覇者の道〉をたどって北に向かい、元来た中津洲三公国・イエータ公国に撤退して行った。――この際のヨナーク大公国の損害は戦車士官二十、徒士二千、対するヴァナン大公国の損害は騎兵十、徒士二百だった。


 褐色の偉丈夫シグルズの前に伝令が来た。


「辺境伯領私兵だけで、徒士百人を率いる戦車の士官十人を捕虜にいたしました」

「士官を討ち取らないのは、なぜでありんすか?」


 魔道人形に乗った小妖精ブリュンヒルドが訊くと、馬上のシグルズが答えた。


「捕虜にした士官は戦費の足しになる。――所領の留守を預かる家族から身代金を出させるためだ。ゆえに虜囚士官は、幽閉される部屋でふかふかの寝台で眠り、良質の食事、美酒まで供出する必要が生じる」


 健常な男子奴隷の相場は銀貨四十枚くらいだ。あこぎなシグルズときたら、その百倍の額に身代金をふっかけたのだが、捕虜の家族はそんな要求でも飲んだ。――戦車牽引用の地元産普通馬なら四百頭、騎乗に向いたベルヘイム大公国産の名馬なら八十頭買える額だ。


「額の半分は辺境伯領私兵の遺族や功労者に分け与え、残り半分で軍備の補充を行わないとな」


 そんな胸算用をしている褐色の偉丈夫のところへ、透明な翅のある小妖精が飛んで来た。


「ねえねえシグルズさん、頑張ったわっちに、何か忘れてござりんせんでありんしょうか?」

「褒美か? 何を所望する?」

「なら、キッスなどようござりんす」


 なんだかんだとシグルズは、ブリュンヒルドに優しい。というか、甘すぎる。


 ――馳走になった、退避。


               *

 

 他方、最小限の損害で、包囲殲滅陣形から奇跡の戦術的撤退を遂げたブラジ・スキルド元帥だが、責任をとって引退しようとしていたところ、ヨナーク本国にいた隻眼大公ヴァーリ・ヴォルスングが使者を遣わし引き留めたのだそうだ。


「ブラジよ、悪い負け方ではなかったぞ。思わぬ戦利品もあったそうではないか!」


 ヨナーク大公国の同名都城に帰還したとき、隻眼大公ヴァーリ・ヴォルスング自らが出迎えに来てブラジ元帥を労った。隻眼大公は、元帥が持ち帰った一頭の戦象と、流れ矢を受けて深手を負っていた象使いが乗っていたのを見て喜んだ。――ヴァナン大公国軍の切り札・戦象の弱点が判るというものだ。

挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「ブラジ元帥」



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