8 ダンジョン★あらたな仲間と
ピネスの運はたまた実力で炸裂した緋色のクリティカル。幸運がよびこんだレアドロップのお宝に。4人の勇敢なる死者、副島たちとのふれあい邂逅。
そして校長は浦木幸のただひとりの校長としての格は変わらず、
2人は悪魔の像を浄化しダンジョンからの帰還を果たした────。
▼▼
▽▽
いつもの正門をくぐった先────いつもそこでたたずみ待つ女神石像の前に2人はまばゆき光とともにワープ移動し、こんもりとした芝の安心感の上に足をつけている。
「ふっふ、今日という日は刺激的な冒険だったなピネスくん」
「きのうよりダンゼン…っすね校長。って俺、今日2回目だった」
「「ははははは」」
ダンジョンで運命を共にした男子生徒と校長は顔を見合わせてくだらなく笑う、再び帰ってきた不黒高校のなつかしい敷地内で。
そして2人が帰ってきてからお互いの面の次に見た──
うれし懐かしの構える校舎には、何故か白い垂れ幕が今いきおいよく垂らされてゆく。
【おめでとーーーー!!!】
屋上から身を乗り出す勢いでげんきに手を振る制服の少女がいる。
とてもとても手をおおきく扇ぎ振っている。濁った赤紫の異界の空をも元気な女子成分で浄化するように、よく知るフレンドリーな校長のことを、誰とも知らないピネスのことを、白い垂れ幕の太い元気な筆字で迎えてくれている。
⬜︎タコイカ学習帳
サンチュ:
1-B
とにかく元気なみんなの後輩キャラ。
ミーハー気質でよく兄に呆れられている。
身近な男子を勘違いさせてしまうこと多々。
韓国語はしゃべれない。
願い…光になりたい。
ドロップアイテム
もうだいぶ酸っぱいキムチ
まだパリパリの韓国海苔
いつぞやのプリクラ
りんごのリップクリーム
⬜︎
ピネスはぼーっと見上げる、たぶん2人あてであるとにかく元気でダイナミックに垂らされた力強い光景を。
「なんのおめでとうなんすかね」
「さぁ? とにかくめでたいではないかははは」
しばしその垂れ幕といつまでも疲れ知らずに手を振る元気のフルコースをピネスと校長がならび眺めていると──
「おっ、おにぎり!!!」
突然右横からきこえた〝おにぎり〟。ポニーテールを揺らしエプロン頭巾姿が駆けてきた。
「なんだ? あぁー、おにぎり? バジPあれイチバン」
「えぇ!? ばじぃ!? じゃなくてマッ──」
⬜︎
緒方結美:
2-A
いつも黒髪ポニーテール。トレードマークの頭巾にはおしゃれにこだわる。
いたって普通の可愛い女の子だがおにぎりへの執着心と探究心には目を見張るものがある。
彼女がおにぎりを頬張る姿にひそかに恋をする男子はちらほら。
願い…マイ冷蔵庫がほしい。
ドロップアイテム
おにぎり大図鑑
塩昆布
おしゃれな頭巾
緑のヘアゴム
⬜︎
親指立てのサムズアップ。
ピネスが普通の顔で披露したそれに頭巾娘はあたふたと反応。〝おかえり〟と言うつもりが〝おにぎり〟とアガり言ってしまったらしく、頭巾娘は余計に取り乱した反応をみせおもしろい。
「きのこいかがですか?」
間髪いれず今度は左手側から、謎の白髪ボブのきのこ。
「あぁ、きのこっすね。たしかこれ…土産っす」
「わおキノコっ! のこのこお布施お恵みありがとうございます♪」
⬜︎
のこっち:
3-C
不黒きのこ協会に属している。
おっとりやさしい物腰だが……
願い…不明
ドロップアイテム
お気に入りのしいたけベレー帽
修道服
きのこ
きのこ
きのこ
⬜︎
背負ったリュックのサイドポッケから土産のダンジョンに生えていたダンジョン産謎きのこを差し出した。珍しいきのこを両手にしたまま深くお辞儀をし、しいたけベレー帽が地にずり落ちたのでピネスはそれを彼女に拾ってあげた。
何かわからないまま謎きのこの納品クエストを達成したピネスの耳に、突然ブク高の学校生活できいたことのあるようなハープの音が遠方のソラから流れる。
「流れてる……あぁーなんかたまに不定期にきいたことあるやつ」
「ほぉ珍しい屋上の誰かからもキミにおかえりだと、てれてれてってって…というやつだなふふ」
⬜︎
屋上の魔術師:
3-F
気が興じると音楽をときどき奏でる。
屋上のハーブ園は彼女のテリトリーであり許可なしであまり近づいてはいけない。
違法建築ペントハウスにひそむブク高でもっともミステリアスな生徒である。
願い…
ドロップアイテム
ハーブ類
タロットカード
なぞの楽譜
⬜︎
「あなたがうわさの浦木ピーナッツですわね」
今度は真正面からピーナッツではなく、金色ウェーブ髪のセンター分け。
体も顔も大人びた高貴な存在が堂々ゆっくりと歩み彼の前に現れた。
「ぴねすですけど」
「ピネス?? 私は〝Venus〟ですわよろしく、いい名前ね」
「おぅよろしくな、え、ぴーなつ??」
⬜︎
Venus:
3-E
ブク高の圧倒的マドンナ、そのかもしだす黄金のオーラ説明はいらず。
願い…美
⬜︎
『ゔいぃーーなすですわ』と丁寧に舌の使い方まで訂正され、とてもいい匂いのする存在とピネスは握手ご挨拶を淡々と済ませた。そのまま豊かで美しい金髪を爽快にかきあげ、キラキラな彼女はUターンし去っていった。
「ふむこれは俗に言うキミをとりまくカオスというヤツだな」
「ゔぅぃぃなすね……てかどこにいたんすかこんなに(会ったことないキャラの女子までいる気がするんですけど)」
「ははは、キミの活躍がテリトリーにこもっていたみなを動かしたのかな。あといい加減これからはヒトの顔を覚える努力をしたまえピネスくん、人間関係呆れられてからではおそいぞぉ?」
「それも…そうっすね、あぁー努力させてもらいます」
浦木幸のもとに一気に押し寄せた不黒高等学校の各持ち前のテリトリーに潜んでいた麗しき女子たち。ピネスは握手した生温かな手のひらに謎のお近づきの印であるピーナッツを一粒のせながら、前よりも名前と顔を覚える努力をすることをとなりで笑う校長先生に誓った。
「そこの頭巾さんっ。きのこ、おやき」
「冒険しすぎたとおもっていたけどバジPがいちば…えっ、あはい? うわぁーーなにこのきのこ見たことない模様、ニオイは……嗅いだ事なッッ────えでもこれは食しても大丈夫なのかなぁ?」
「やけばわかります、さぁおやき」
どこからか持ってきた七輪セットの炭火の上に、香り笠の模様不思議なダンジョン産きのこはやかれていく────。
⬜︎
浦木幸:
2-D
なんとなく生きている若者代表。
〝キミの夢に向けてキミを応援する場所〟
そんな生徒個人に深く寄り添う……ちょっと変わった気の利いたキャッチコピーのような取り組みをおこなっている学校に在籍し、
なんとなく生きている。
これといった誇れる趣味もなく学業の成績もとくに誇れる尖った点はない体育3(側転のできない)フツウの男だ。
しかしそんなこの男の唯一誇れる〝なんとなく道〟もある日突然終わりを迎えることになる。そうあの日の夏、補習授業を受けに来ていたいつもより静かな学校が異界へと切り取られ閉鎖生活をよぎなくされたあの日……
になっても驚いたことにこの男はあまり変わらずになんとなく特殊環境に適応して薄いおかゆを食らい日々生きていたようだ。
そして今日この日ついに校長先生のダンジョン出航命令をのみ、そこでたまたま幸運な異能に目覚め10F20Fの区切りの階層を完全制圧、制覇、2度のダンジョン生還を果たした。
果たしてこのラッキーボーイの不気味な冒険の行く末は……
なんとなくか
なんとかなるか
なんとかするか
誰も未だその未来を知らない。
彼は未知の迷宮になんとなく飛び込み日々彷徨いまよいながらも、
暗がりにその光幸運の足音をたしかに刻み、
ゆっくりとすすんでゆくこと、
だろう?
《校舎南館3階 浦木幸の部屋(物置部屋)》
⬜︎
長文を読み誘発されたあくびを消化しながら、タコイカ学習帳に記録される自分の項目を読み終えた。
狭い物置部屋にフィットするよう敷いた敷布団の上に仰向けでいる、〝なんとなく生きている若者代表〟。
「だれが書いてんだよこれ、校長? ソエジマかぁ? なんとなくかなんとかするねぇ……フツウにやかましいな」
やかましい事が書かれたその薄い学習帳をパッと、宙にはなち自由にさせた。
ぷかぷかとゆっくり浮かびながらタコイカ学習帳は俯瞰モードで物置部屋の状況を雑記していく。
⬜︎タコイカ学習帳
ダンっダダダダダダだ────!!!
やかましいと宙にワタシを投げ捨てるやいなや、突然はげしいノック音がきたない物置部屋の空気を揺らした。
なんとなくマンの浦木幸はリアクション薄く、驚き、なんとなくドア方へと向かった。
⬜︎
「って本当にやかましいななんだなんだぁ? はいはーいそこ開いてますよー(公式公認の校長が閉めるなって言ってたんで)」
訪問客とは珍しいとおもいながらも、部屋主の男子は戸を横にスライドし引き開けた。
「なかなかのこのこ出てこないので、マシンガンノック、ごめんください」
「えっとあんたはたしか、きのこの人か」
ぷかぷかとすり寄ってきたノートの情報を見るまでもなく、しいたけのベレー帽を被ったしいたけ色のシスター服、ピネスがきのこの人と鮮烈に記憶する人であった。
さっそく名前と顔をおぼえた成果が出たと、ピネスはきのこの人を目の前に手のひらにグー拳をぽんと叩きおいた。
「はいそうです私きのこの人です」
きのこの人は深々とお辞儀する──するとまたデジャブするように、十字の切れ目の入ったしいたけベレー帽が無抵抗に地に落ちそうになったので──ピネスは完全に落ちる前にそれをキャッチし、目の前のホワイトボブの女性へとお返しした。
「おっと失礼、慈しみいただきありがとうございます。ところで、きのこ、いかがですか?」
「おぅえ? 手持ちのきのこはもうないけど? またなぞの七輪で焼くつもりか?」
「ええ、今度はご一緒に。きのこさんをおやきして救済しましょう♪ふふ」
「おっ、おぅ? ……きゅうさい?」
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▽▽▽
『おきろーーーーー!!! 2-D浦木幸せんぱい、ただちにグラウンドに集合ですっ!!! 3分いなーーーい!!!』
時刻は午前6時、そりゃ迷惑。
スピーカーから放送される、誰か知らない女子の大声の頼んでいないモーニングコールに起こされて────
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寝癖頭を跳ねさせて南館3Fからグラウンドに集合。
朝礼台の上に待っていた体操服姿の黒髪女子はそこからかろやかに飛び降りた。
「あっっ先輩ほんとに来ました! うん──2分57秒、合格ですっ!」
手持ちのストップウォッチで3分を計っていた女子はピネスの叩き出した好タイムに頷いた。
「わざわざ計ってたのか、てか近所のおじいちゃんかよさすがに早起きすぎるぞ、あと3時間は──」
「あはは──あっネグセ、」
「あぁ?」
ナチュラルなかんじで近づいた女子は男子の寝癖を撫でながら整地し……出来栄えはよしと頷いたが、ピネスの目の前の女子はやがて笑った。
お直しした寝癖が、ぴょこんとまた元に形状記憶し戻っていたからだ。
「ほらね、寝癖も寝たりねぇーんだよ、ほぁー……俺も?」
「あはははごめんなさぁーい! でもでもっ来たからには付き合ってもらいますよ?」
「あぁ? なにに付き合うの」
「それはもうっ朝早起きといえば……わかるじゃないですかぁ~──ラっジオ体操ーーー!!!」
「だれもきてないの?」
寝起きで反応回路の調子がイマイチなのかピネスは目の前黒髪体操服女子のラっジオ体操のテンションを無視し、きょよきょろと辺りを見回した。
「なんと今日からはじめたからですっ!」
「そりゃ急だな? ラっ…ジオ体操かー、そういや俺の近所の浜でもむかしやってたな。たしかスタン」
「そうっそうそうそうっ!!! このスタンプカード! ────スタンプを21個あつめるとなんとなんとサンチュ特性韓国海苔イチマイっ!」
ででんっと自慢気に、女子は朝礼台に置いていたスタンプカードなるものを取り出した。
そしてその手作り感のあるスタンプカードをピネスの首にメダルのようにかけた。
「は? んだそれ…めちゃくちゃお得ほしいじゃねぇか。バジPやおにぎりにまく…いやおかゆにぱらぱらといっそそのままパリッと…ははは夢がひろが──そういや俺スタンプカードの類って全部あつめた試し、一回もねぇな……そこのスタンプカードのスタンプを支配するおばちゃんがさ融通きかねぇのなんの夏休みに4、5回休んだ分をおまけして押してくれなくてさー結局ただの無駄に早起きした馬鹿に────」
「急に鬱エピですねっ!? じゃじゃー! おまけでわたしっ、今日はふたつおしときますよ先輩♡」
「まじかよお前やさしいな」
「えへへぇそれほどでもぉ」
ディテールをもって語った悲しき過去の効果か、さっそくサンチュ後輩に二つのスタンプをスタンプカードに押して貰ったピネス先輩はテンションを少し上げよろこんだ。
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午前6時15分、予定通りのラジオ体操がはじまる。
朝礼台に元気に飛び乗ったサンチュはさっそくスピーカーに接続したスマホを操作し、ミュージックをかける。
ながれてくるアップテンポなポップなメロディーに────
『だいすきって大声でいってみてーーー♡空が晴れてく 曇りを裂き大きな先へと ナイスデスティニー★コウカイな迷宮days♪つながってゆく あなたとわた──』
「おいっ! どうおどんだ!!!(なんのアニソン)」
「あっわわ間違えましたーー!!!(えっとえっと…おかなしえいこでした!)」
セットリストから組んでもいないのに流れてきた謎の曲をストップ──すぐさま別の曲をあわてるサンチュは頷き流していく。
「だれだよそれ、1ミリも俺の耳に聴いたことねぇな。おぅそうそう踊りたくなるこういう感じの……ってラジオ体操ってこんなんだっけ?(尻も?)」
「こんなんですよっ! さぁやりましょーー!」
尻からはじまるラジオ体操は初めてだ……と思いながらもピネスは見よう見まねでサンチュ後輩の尻の軌跡をふりふりとマネしていく。
午前6時先輩と後輩ふたりだけのラジオ体操、激しくながれるKPOPにのって────踊る。
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▽▽
時刻は午前10時、カラダが温まってきた絶好のダンジョン日和。
相変わらずの赤紫の異界の天の下、正門前へとあらわれたピネスは赤い渦巻くゲートを見つめる。
そしてふらふらと校舎側から飛んできた赤いちょうちょをその手に捕まえた。
⬜︎タコイカ学習帳
前回の冒険は予定通りに上手くいったがこの先ピネスくんと私、2人だけでは何があるかわからない。
幸いピネスくんキミの異能のおかげでダンジョンにお出かけする際の装備品にはあまり困らなくなった。
そこで不黒ダンジョンに挑む希望者を試しに2名あらたに募ったのでここらでラッキーボーイであるキミを仮のリーダーとし、彼女らを10F辺りまでそうっ…引率してみてくれ。あらたなるおもしろい異能が発現すれば後々それらを組み合わせることにより先のダンジョン攻略が有利になる場面もあることだろう、と私は推測する。
『アレっ校長先生は?』
とおそらくキミは今頃私にひとりごち問う事だろう。
ダンジョンを攻略することで溜まるDPを用いたぽこぽこ湧いてきた新たな要素を検証中でね、まぁなにぶんキミのただひとりの校長先生はがむしゃらにダンジョンのモンスターと戦うしか能がないわけではないのだよ、女子生徒たちのこともキミのこともダンジョンのことも新要素のことも抜き打ちメンタルチェックお風呂のじかんの管理その他提出された書類点検などなど……
では私は私でキミはキミで表と裏! 思う存分がんばりたまえ~~~
⬜︎
「うーーーうーーーーー……まじかよ、てかかるく遠回しに俺馬鹿みたいにゴブリンと戦うしか能がないとかいわれてるのか? まぁ週刊少年ジャイアントもここじゃ読めないし、たまにあそべるジグソーパズルを組み立てるかダンジョンに出向くぐらいしか毎日これといってやることはないのはたしかだが」
「てかそのダンジョンポイント(DP)ってどこ? 俺のだけ期限切れでポイント失効したり……してない?」
※稼いだダンジョンポイントは不黒文校長先生が一旦スベテあずかり管理している。米や小麦粉塩砂糖油脂類などなどの生活するのに必要なエネルギー活力となる基本食品群と交換するのに使ったり、新要素なるものにもまずは実験的にポイントを分配投入中……。
────である。
それになにやらまとまったDPを消費し近く、新しく学校敷地内にあるモノを建てる計画があるらしく……ゲームを進めてできることや横道が増えていくように不黒文校長先生のニヤけた野望はとどまることを知らない。
そうこう青年がひとり、校長からの伝言にイロイロ独りごちていると────
金の鍋頭が黒い尾を揺らし、ピネスの元に走ってきた。
「おっ…あんたは…だれ?」
「おっえっ!? いやおっ、おっあだっ!?」
「ところでそれ……私服?」
「ちっ、ちがう…。不黒校長先生が私のビルド?がこれだって」
「あぁー……とりあえず、それ外した方がよくね。ビルドかなんかしらねーが絶対前見えないだろうに」
金の鍋を被った頭は視界不良で、性能が良くてもダメだろ? とピネスは冷静に判断し駆けてきた謎の人物にそれを外すよう促した。
たしかによく考えるとおかしい……言われた通りに彼女は頭を何度かぶつけたソレを地にどけ、代わりに手慣れたようにポッケにあった頭巾を黒髪頭に結んだ。
「おっ? あー、おにぎり頭巾の人ぉお!」
「え?? あはい。おにぎり頭巾の…人? (それわたし?)ですけど…?」
金の鍋頭ではそれが誰か分からなかったが、ポニーテールの上に頭巾を巻いた途端ピネスは彼女が誰かをはっきりと思い出した。
1人で納得して少し喜んでいる様子の男子に、おにぎり頭巾の人である緒方結美は苦笑いを浮かべ、なぞのふたりの間を流した。
「ちょいと頭巾さん、男子さん。のこのこ来させてもらいました、今日はスペシャルなきのこ狩りツアーに案内してもらえるとのことで」
2人が、まじまじ、苦笑い……互いの顔を見つめ合っていると、ちょうど緒方結美の背からひょっこり────しいたけセットを装備したシスターが現れた。
背にしょっていたご大層な大斧を女子らしく両手に手に取りもち、きのこ狩りの準備はバッチリである。
「いやっ、全然そんなのくわだててねーよ。まぁ……ダンジョンの隅っこに稀に生えてたりしてたけど? 満足いくツアーができるかどうかは運しだ」
「えっあるんだ!!」
「あるけど? なんだぁ? あんたも好きなの? きのこ(おにぎりの山じゃなくきのこの里派か?)」
「え、ええっと正直きのこはほしいかも…きのう七輪で焼いたのめちゃくちゃ味が濃厚でそのままでも美味しくて(ちょっと…そのおにぎりの山ときのこの里がなんなのかわかんない…)」
「なんだと……アレ、そんな美味なものだったのかよ。そりゃ食ってみてぇな」
「決まりましたね、きのこ狩りツアー」
「あぁじゃ行くか」
「え。きのこ狩りツアーなの?? だんじょっ…」
「あぁ、俺がきのこ狩りツアーにあんたら引率するらしいぞ。校長命令でーー」
「えぇ。各自きのこさんを見つけたら私にほうこく、お願いします♪」
「あぁ、そりゃいいけどできるだけアッチじゃ固まっていこーぜ、校長も言ってるとおもうけどダンジョンには他の集団もいるからでくわしたら気をつけねーとな(ゴブリンらの集団やらコボルトらの集団とか)」
「わかりました、善処しましょー。さぁ、きのこ狩りツアーの引率、男子さん本日はどうぞよろしくお願いします♪」
「わっわたしもよろしくっ! えっと浦木くん(こんな感じでホントにだいじょうぶかなぁ…)」
2-A緒方結美と3-C榎田椎名、2人を引率することになったピネスは親指をかるく立ててこくりと頷く。
緒方結美はそんな男子のサムズアップした親指に拭えきれない一抹の不安を抱きながらも……。
いざガラガラと引き開けられた校門の期待感とドキドキの序章をくぐり────静かな振動音を立てながら渦巻く赤い妖しげなゲートまで向かう。その黙々と進んでゆく唯一の男子のブレザー背を追って緒方も付かず離れず進んでゆく。
実績のついてきた緋色のショートソードと新たな武器を両腰のホルダーにぶらさげて、
大斧をいまかいまかと素振りしながら鼻唄混じりに、
おしゃれな勝負頭巾をぎゅっともういちど締め直して、
渦巻く赤い魔の彼方へと────────不黒高等学校に属する3人の生徒たちはもう一度お互いに頷き合い、きえていった。