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4 公式公認のスタンダード完全食?

⬜︎タコイカ学習帳

不黒文校長は通路から部屋へと銀の得物から魔法のガトリングガンを景気良くうち放ち……むかってきたミノたをはちのすにし撃破した。

ピネスは構えていた剣を腰鞘へとしまい、とりあえずの拍手を送った。

《10Fミノたのボス部屋》


不黒文:

シールド値93%

魔力量87%


ピネス:

シールド値99%

魔力量36%

⬜︎



「あぁー……ところでこいつってなんで復活してんすか、俺倒したっすよ?(ちょーどそんな感じで、通路からガトリングをぶっぱ)」


「ピネスくんどうやらキミはあまり知らないのか? ダンジョンゲームといえばランダム生成が基本といえる。それが悪魔の課したルールかいたずらかそんなところだろう。ルールに則って…こいつらはたとえば光のコスモスの対なるエネルギー、闇のケイオスエネルギーを補充しランダムダンジョンとともに復活を果たしている。だから倒しクリアしてもまたダンジョンに出直したころには自動復活するのだよ、それがダンジョンのサイクルさ」


「ぅーーー…サイクル……へぇー、なるほどと言いたいところっすけど俺…ちょっとナニ言ってるのか半分も分かりません、はは」


「ふっふピネスくん……素直だなキミは、そりゃそうだ半分もそこに真実はないのだから」


「え、なんすかそれ……なぜそんなぁ……作り話を? おりまぜ…あっ、ありましたよ石像のワープポイントが、俺アレで帰ってきました、ブク高まで!」


お喋りをしながら安全になった10Fのボス部屋に進入したピネスは、1回目のダンジョン探索の任で浄化した女神の石像を見つけて指で示した。


「おぉーこれが報告にあったものか……というかこれはガイア様さんのふむふむよーし、一旦ここまでのお宝を回収厳選してこの調子で20Fまでいこーーっ!」


近づいた石像をふむふむと凝視観察し小刻みに頷くやいなや、校長ははしゃいだ様子で片腕を天へと突き上げ彼へと振り向いた。


「えぇ?? 校長それ本気ですか?? てか話の展開はやいっすよ??」


「いやいやなぁにピネスくん安心したまえ、実はなぁそのなぁーこーちょーせんせーはー思ったよりぃ……ヤレたぁぁぁ!!! ということだハッハッハ!!!」


「やっ、やれた?(もしかして……あっダメだこの人チカラに溺れてやがるんじゃないか? これはもしや……俺もじゃっかん患った初心者にありがちなダンジョンハイニナル現象だ)」


ダンジョンハイニナル現象。


初めてのダンジョン、モンスターを蹴散らし蹴散らし到達した10Fという区切りのいい数字と達成感。ダンジョンという未知の環境に適応するため普段使うことのないチカラを行使、行使したチカラの反動は必ずどこかに受けるもの。


とくにメンタルにはその影響はでやすく顕著。ミノたという強大な区切りのボスを自らの手と爽快な魔法弾で葬った不黒文校長は己でも気付かない程のイケイケ状態になっているのであった。


今は何を言っても無意味だろう……あまり否定せず突っ立つピネスはそんなテンション高めの校長をジト目で見つめる。

無言で見つめる内に何かかんがえが変わればいいと……次に出てくるマシな校長先生のお言葉を期待して待った。







「ピネスくんキミはダンジョンに何を持っていく? 武器以外で」


10Fミノたを倒した部屋にて、このまま行くにして帰るにしてもしばしこの場で手荷物貴重品の点検と休憩を取ることに。

先ほどの戦闘の余熱が冷め切り、男子生徒の睨みもあってか、冷静さを取り戻した不黒文校長はそう決定した。


そんな穏やかな時間の矢先にピネスが問われたひとつの質問。無人島に何を持っていくかの定番の質問と同じようなノリで、校長は生徒に問うた。


「なんすかそれ質問の内容が漠然すぎて、でもこれ俺が何か答えないと進まないヤツですよね。あぁー……なんだろ俺なら…さすまっじゃなくて、あ──ランタンとかどうですか。手に持ったら冒険の雰囲気ありますし」


「おーランタンか、そいつはなかなかいい線のお約束でいいじゃないか冒険とは案外ロマンチストかぁーふふピネスくん。しかし惜しいお分かりのようにダンジョンは空気中の微細なマナたちが我々不思議な属性を持つダンジョンチャレンジャーやモンスターをココニイタココニイタタタカエタタカエアタックアタックアタックとありがたく照らし反応してくれるので視界は常に一定量明るい仕様だ。ランタンはたぶんいらん。まぁ視界の確保は大事だがな、いらんこともないなキミのリュックに一応懐中電灯を持たせていただろう。必要なときがくればソレを使えばいい。が、上手くいっている今は使わなくてもいいだろうと私は思うぞダンジョンはなんせ未知の世界だからな」


「なるほど?? ってそういやたしか前のリュックにもありましたね赤い懐中電灯が」


「そうだキミを手ぶらでイカせないと言ったろ? それぐらいの小道具の準備はぬかりないさ、キミのただひとりの校長先生だからな」


「言って…………ましたねぇー(金属バットの代わりに刺股が支給されたのは、たしかにぬかりはないのかなぁー? 色々あったけどおかげでゴブリンに勝てたものだ)随分と良いテープもありましたし」


校長の手持つカスタムされた例の銀の得物を見つめながら。ピネスは確かに命令されて赴いたダンジョンへの用意はなかなか周到であったと思い返してみた。


「アレも用務員室から拝借したものだからそこらのより効果はがっしりと強力だろう。ふふ、まぁそんなことよりさっきの質問だが」


「あぁえっとなんでしたっけ? ダンジョンに何を持っていくかですよね? ランタンじゃないなら……ロープ?」


「キミは随分と危険なところに挑む冒険家だな。そういう映画のシーンがお好きなのかなはは。あぁ、ちがう。ダンジョンに持っていくものといえばロープでもランタンでもなく────飯だろう!」


「めしっ??」


「??じゃないぞ。なぜ忘れる1番重要な人の欲求をーーダンジョンで飯! ダンジョンで握り飯! ダンジョンでおにぎりぃぃぃ!!!」


ででんっと、校長先生の隠された後ろ手から前へと突如繰り出されたのは紫の風呂敷つつみ。

さらにそれを開いてみせたのは、アルミホイルに包まれた三角の数々6つである。


「おにぎりぃぃぃ!? えっなんで?? おかゆは??」


「たわけ、ダンジョンでおかゆはそそられん! そんなのすぐ死にそう! 携帯もできんじゃろ! いいかよく聞けピネスくぅんっ! ダンジョンではなぁ…おにぎりorおむすびが公式公認のスタンダード完全食なのだぁぁぁーーーーっはっは!!!」


「それどの公式ぃぃ!?」


「ワタシだぁぁーーーっはっは!!!(たった今こうしき)」


「ですよねぇッ!?(たった今!?)」



不黒ダンジョンの攻略にあたる公式公認のスタンダード完全食はおにぎりorおむすび、どちらも三角や丸なので好きに握ってそう呼べばいいのだ。


2人がアルミホイルに包まれた三角フォルムの期待感に異様にテンションを上げるのは、やはり食欲、にんげんは食、胃袋とメンタルは直につながり相関しているものなのだ。


どんなに良い頑丈なロープもどんなに古くかっこいい光を放つランタンも、ダンジョンで見かけるおにぎりには勝れない。







⬜︎タコイカ学習帳

アルミホイルに包んだ3種のおにぎり


塩むすび

材料:

ガイアの恵み

パガダの塩


キノコ

材料:

ガイアの恵み

パガダの塩

キノコ(3-C のこっち)

しょうゆ

砂糖

ごま


バジP

材料:

ガイアの恵み

パガダの塩

パガダのペッパー

バジル(屋上)

オリーブオイル

鷹の爪(1-B サンチュちゃん)

生姜

ハチミツ

しょうゆ(少々)

砕いたピーナッツをまぶす(3-E Venus)


せいさくしゃ

不黒高校お食事班 2-A 緒方結美(おがたゆみ)

⬜︎




紫の風呂敷の上に6つあるアルミ三角はもう4つ減っている。



「おにぎりって食べれるんですね」


くしゃくしゃのアルミホイルを剥きとりながら、ピネスは対面に座るいい食いっぷりの女を見てひとこと意味深につぶやいた。


「むしゃもぐむぐみゃむっ……って当たり前だピネスくん、おにぎりは食べれる。どうした? おにぎりの概念のない握らない世界の住人かキミは、そんな当たり前の台詞をはいてしまうとは??」


「いやいや……そですね、あながち間違ってないです」


「ん──? むしゃはははそうだな、そんな世界の住人だったな私も、我々は。だが今は違うぞ、我々はダンジョンを攻略していくことでこぉーんな最高のおにぎりをむしゃっむしゃむしゃしゃしゃしゃ……ふぬぅぅ…ふぅ…えんりょなく食べれるのりゃ!」


「ダンジョンを攻略で? そうかぁ……よく分かんないっすけど、とにかくこれはなんか食べるとたぶん泣けちゃいますね」


「泣けちゃう? なんだそれはピネスくん?? ははーん、なるほどな。たしかにこれは泣けちゃうくらいに良いおにぎりだと思われる。だからそーだなー泣くというもう一つの意味では……どれどれ私がキミの分をひとつ食べてあげようか?」


「え? …あぁーー、なら、そうしてください」


「ならそうさせてええっ!? いやこれはじょ、冗談だぞピネスくんっ? そこそこお得意のこーちょージョーークだぞっ? いやいや遠慮せずこれはキミのぶんだ、残さず食べたまえ」


「泣けちゃえますから」


「随分泣きたくないのだな…今度はなんだおにぎりを食べて泣くシーンのある有名映画か? そんな理由で食べない子は見たことないぞ、映画でもおにぎりは食いながら泣くものだ」


「ですよねぇ…なんか、俺ぇ…そんな映画とかの影響じゃなくてぶっちゃけると……今までのブク高の閉鎖生活で胃袋が調教されたというか? 俺のカラダがおかゆのあのしめっけしか受け付けない? みたいで、あのだんだんと薄いあの手この手のおかゆをおもうと」


ピネスはおにぎり片手に斜め上を見上げたそがれる。振り返ってみればおかゆを食べて寝てを繰り返す精進料理のような毎日だったと。でもそれでどこか毎日、足りてもいた。


「おかゆで胃袋が調教!? 待て待てピネスくん、さすがにソレっヤバいっヤバいぞ人間の大切な部分が揺らぎかけているぞーーおーーよーーーしこーちょーせんせーふぅーーちゃんの抜き打ちメンタルチェぇぇック!!!」


「メンタルチェック?」


さすがにおにぎりが喉を通らないどころか、食べれないと申告する状況は深刻。

心因性のなんらかを患ってしまっている……そう判断した不黒校長は急遽抜き打ちでメンタルチェックを行うことにした。


眼帯のプラチナ髪先生は、今一度、生徒の目をしかと見て問う。


「キミは今ものすごく目の前のおにぎりを食べたいか?」


「そりゃもちろん食べたいですけど。なんでだろ……いざってなると、この三角の食べ方が分からな」


「はいダメェーーー!!! いやいやそれはひどいぞっキミは! いいかもう一度よく思い出せ考えろ、米を研ぐあの小気味のいい音をっ、水をちょろちょろ測り間違えるあの失敗を、ピッと炊飯器のボタンを唸らすあの興奮をっ!」


「……校長せんせー俺、米、炊いたことなくて」


対面する生徒は黒髪をかきながら、そんな人生経験豊富な校長に目のくらむ爆弾発言をする。


「因数分解よりそれ大事いいいいい!!!! キミなにやってんの、ピネスくん! キミは…アレだ、米を研ぐという概念を炊くという概念の獲得機会を既に失っている人種だったか、お母さんやさしいのか?」


「はは……恥ずかしながら……ちなみに俺って因数分解も」


「馬鹿タレのたわけ、それはがんばれキミは学生だろ」


「ですよねぇー、はははむっ」


「って食えるのかいっ! ピネスくん今までの校長先生とのつまらないやり取りはなんだったんだぁ?」


「あれ? なんかいけました? ははははえ──なんだこれ」


ピネスは気がついたら笑いながらアルミから剥き出された三角にかじりついていた。

クラスの友達と対面し話しながら昼飯を食べるように、自然とおにぎりは口元をゆきその米粒の体積を減らした。


しかし、歯触りが何か普通のものと違う。


ボリボリぼりぼりと米だけではなせない音が口内からピネスの耳を突き抜ける。


それは今まで食べてインプットされていたおにぎりの食感でも色合いでも香りでもなく、ピネスにとってまったく新しい宇宙を旅するような味わいであった。



「それはバジPだな(私もいただいたぞ。おにぎりにピーナッツがまぶしてコーティングされている洋風バジル風味の甘辛くてなかなかおもしろい味だったな)」


「バジP?」


「それを握ったその子のチャレンジ精神だ、──そうだなぁ? お味はいかがか……キミの感想を150文字以内で聞かせたまえ?」


手のひらを地の上向きに返し、お茶目クールに指差しながら校長はその創作おにぎり〝バジP〟の食した感想をおどろく彼にもとめた。



「うーん……いち」


「いち?(いまいち? 辛口は測り間違えると傷つくぞ)」


「いちばん」


「ほぉ?」


「全おにぎりでイチバン、──これ」


「イチバンっ!? なんだと……(私はこの歳で塩むすびがイチバンに躍り出たのになんだと……)」



やはりあまりに長いおかゆ生活に慣れすぎおにぎりを食べるという概念を喪失しているのでは? おもしろい味のするそれがイチバンは変わった嗜好だと、校長は密かにそんなことを思いながらも……。

おにぎりにもあるジェネレーションギャップの一種という事で納得しておいた。



おかゆしか受け付けないと言っていたピネスの姿はどこへやら、そこになく。

パクパクと男の子らしくバジPのまぶしピーナッツをこぼしながらがっついていた。



「ピネスくん、ハンカチだ」


「はむはふはびっ──あざっす」


ピネスは手渡された校長女子のハンカチでバジルとピーナッツの口元を拭った。


「おい、違うのだよ」


「へ?」


てっきりこのあとおにぎりを食べながら大いに泣くと思われるシーンに手渡した一枚のハンカチは、ただただその汚れた口元を拭われただけだった。


「なんでもない、忘れたまえ。ふふ、」


どちらにせよ気の利く校長ということで、頬杖をしながら生徒の食事シーンを微笑ましく彼女は見届けた。

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