3 幸運★校長★ダンジョン
▽不黒文のSP校長室▽にて
「キミがダンジョンから持ち帰ってくれた武器の数々。この水の短刀これを用いればこのように──水不足はあまり問題なく解決されるだろう、これは持ち運べる魔法の蛇口のようなものだ(一杯いかが?)」
「たしかにそーですね?(あざっす)」
水の短刀からじょぼじょぼとワイングラスに注がれた水を受け取り、ピネスはそれを飲み干した。
しばらく頷いてみせ安全な飲み水であることを校長に示した。
それから校長はまたもうひとつのワイングラスへと短刀から水を生成し注ぎ、自分も渇いた喉をうるおす。そして机上に両肘を置き前でご大層に手を組み合わせ、話は雰囲気のある本題に移った。
「さて、ここからが本題だがこれからキミにはもう一度ダンジョンに向かってもらうことになった」
「たしかにそーぅ…え? いや……せんせー俺ってたしかさっき帰ってきたばかりの」
「キミは適当に返事してないだろうな? まぁまぁピネスくん──しんぱいするな、今度は私とだ」
「へ?」
校長室のいかめしい黒机前で突っ立つピネスの耳に、また驚く情報が告げられた。
プラチナ髪さんの黒い瞳孔の片目はニッコリとピネスの顔を見て微笑んだ。
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▽校舎屋上▽にて
「何やら今日は風が騒がしいね」
「ミント、バジル、ローズマリー、ラベンダー、レモングラス、ふふ、今日は新入りもいるのかな?」
違法建築したペントハウスを出たところ、屋上の露天スペースは緑プランターに囲まれたオシャレな家庭菜園ならぬ学校屋上菜園をしている。
ティーカップに揺れる飴色の水面をみつめて、金色のショートカットをゆっくりとかき上げた。白い波打ちカップをことりとラウンドテーブルの上に置き彼女はあわてず優雅に席を立つ。
屋上の魔術師あてに、玄関まで束ねて届けられ置かれた新種のハーブをみつめて。
▽調理室▽にて
ここは調理室、そのキッチンスペース上にドンと置かれた米がある。
〝ガイアの恵み〟と書かれた米袋が2つ、異様な白き存在感を放っており近寄りがたい。
それでもおそるおそる夢の光景に近づいた……三角頭巾を被り、黒ポニーテールに結った、日本人らしい容姿の彼女は付随されていた一枚のメモを手にする。
「不黒校長から『出かけるから米を炊いてくれ、おにぎり』……でっデデデですってぇーーーー!!!」
「お米お米わっしょいお米! なにこれですってぇじゃなくてデスティニー!? もう毎日四苦八苦心苦しくうっすいおかゆ作って病んでたからぁぁぁぁーーーーー!!! おにぎりぃぃじゃなくておむすびぃぃあ、どっちでもおおお握るんだからぁぁ!!! ──ほんとに握っていいの? …あははははぁぁーー!!!」
苦悩に縛られていた彼女の魂は解放される。
ダンジョン攻略ポイントで祈り購入したガイアの恵み2袋は、お食事班の女子高生緒方結美のポニーテールをいつまでもぴょんぴょんと跳ねさせた。
▽用務員室▽にて
「私の銀狼が消えている……」
立ち尽くす、水色帽の水色作業服。
刺股などの武器にとりわけ詳しい彼女は立てて飾り眺めていた刺股コレクションがひとつ減っていることに気付いた。
ちゃんと被れていなかった水色の作業帽子が寝癖頭に跳ね除けられぽとりと地に落ちる────。
呆然と……ほどよい長さの茶髪の頭を掻きむしる。
「ほわぁー…もう一回寝るとしますか……まだまだ異常なぁーし…ふわぁ……はほ」
掻きむしり余計寝癖がひどくなった彼女は寝ぼけが治るまで寝ることにした。そのまま床に敷いていた布団へと作業着のままずぼらに……ふたたび潜り込んだ。
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▽▽▽
カラフルな光を発す魔法の曳光弾がダンジョンの暗がりの彼方へとばら撒かれ────バケモノの断末魔が重なり響いた。
「これが例の魔導兵器〝刺股ダブル改〟か」
「あのー、それ俺の…」
▼不黒ダンジョン1F▼にて
ケイオスエネルギーを補充されまたランダム生成されたダンジョン。
その迷路内の一階で暴れる不黒文校長は例の刺股ダブル改の威力の良さに感心しつつ、自身手に取る銀色の得物を眺めながら、何度か頷いた。
一方持たされた緋色のショートソードをどことなく哀しい目で見つめたピネスは、開幕から大暴れしいい笑顔をつくる校長と元相棒のかがやかしい銀の姿と見比べた。
「なーにピネスくん私のビルドに間違いはない、これは私が持つべきものだ」
「えぇー……? ふつうに困るんすけど俺のメインウェポンを没収されちゃー、俺こんなリーチのない剣なんて直接使ったことないし、なんか弱くないすか(さっきからまだ一振りもできてませんけど俺)」
「いやいや私のビルドだ間違いない。うおーーーーこれはいいいいものだ! 私の〝ふぅーちゃんスペシャル改〟の爽快魔法威力はーーーー!!!」
「俺の刺股ダブルはどこに……(改だけ……あとそのビルドってなに)」
カラフル賑やかに大人気なく……。
不黒文は新鮮な緑の獲物を見つけてははしゃぐ子供のように魔法弾をぱなしつづけた。
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⬜︎タコイカ学習帳
ピネスくんのビルド:
緋色の幸福なショートソード★★★★★★★
クリティカル時威力 中
クリティカル時バーンファイア
炎熱耐性+4
ミノタウルスのベルト★★★★★★★★★
クリティカル時威力 大
クリティカル時威力 中
クリティカル時ALL 小
狂暴+1
とても健康な脛当て★★★★★★
クリティカル時継続回復 小
クリティカル時シールド硬 中
健康+2
わたしのビルド:
とても属性なゴブリンソード★★★★★★★★★★
振るとファイアボールが出る
振るとサンダーボールが出る
振るとウォーターボールが出る
振るとカオスボールが出る
振るとライトボールが出る
いつもクールなゴブリンソード★★★★★★
振るとアクアボールが出る
振るとアクアボールが出る
クール+3
覇者の臙脂のミノタウルスのマント★★★★★★★★★
魔法威力 中
ALL 小
黒い漆黒のレザーグローブ★★★★
魔法威力 小
闇+2
駆け寄る死のタウルスブーツ★★★★★★★★
使役 中
闇+4
移動速度 小
⬜︎
ひとりでに浮かぶ赤いタコイカ学習帳は記載記憶した現在の2人の様子を示したページを開いてみせている。
「なんなんすかこれ」
「まぁまぁそういぶかっしーむな、先ずはピネスくんに話しておきたいキミの異能は私が推測するに……たぶんめっちゃ幸運だ!」
「な、なにが…おれが幸運? 異能ってぇ刺股への理解度upではなく?」
「刺股の理解度だと? じょーだんあるか! まぁそう小ボケをはさまずに落ち着いてくれ、そもそも異能とはナニかと……私は思ったのだよこの閉ざされた断片のような世界で発現する異能とは例えばこうなりたいという一種の願いのようなモノが反映されているのではないかと」
ご大層なマント姿とブーツ、それに若者の目を惹く羨む銀のウェポンを携えながら不黒文校長はどこともなくゆっくりと歩く。
そしてゆっくりと味わうように歩いて、異能への考察を自慢げに語り終えダンジョンの通路半ばに突っ立つ生徒の顔へとニヤリと振り返った。
「はぁーなるほどそれが異能ですか。──あれっ? でも俺ぜんぜんそんなのねがっ」
「めちゃくちゃ願ってるぅーーーー!!!
「な、なんすかそんな握り拳で腹の底から言うほどの…」
「はぁはぁ……失礼、いやキミの名前浦木幸はめちゃくちゃ願われてるのだよ、ラッキーと幸とハピネスと。(ハはないけどピネスくんの方が呼びやすくていい)」
「そりゃぁ……それってぇただの名前ですし(ハぬけなんて不名誉っぽく呼ばれてることありますよ俺)他人の願いじゃな」
「親御さんを他人というなーーーー!!!」
「おっ…おぅ…」
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▽
「ってな感じで発現する異能にはその人のもつ強力な願いが反映されていると思われる」
「そーですね(なんか強引なような、俺の願われじゃん)」
ダンジョン通路での生徒と校長2人の明るい会話はつづき、ピネスは未だ未練がましく気になる銀色の得物にチラチラと目をくれながら相槌を打って校長の長話に表向き素直に納得していた。
「とにかく結論。ダンジョンから帰還を果たしたキミはとんでもなくツいているということだ。今現在のここまでもなおop付きのレアドロップがぽこぽこ出るのがその証左だろう」
道中モンスターを屠りながら拾った武器はとりあえずピネスの背負うリュックに詰め込まれていった。積めるスペースにはまだ幾分も余裕がある。校長は生徒のリュック背をかるく叩きながら朗らかに笑っている。
「へー俺はフクジマしか基準が分からないっすけど校長先生が言うならそうなん…すね?」
「そうそうそーだ、こーちょーせんせーだぞっ!(フクジマ、だれだ?)」
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▽
異能に関してのミステリーが少しわかった気になり、2人はひと段落を終えて共にダンジョンの変哲のない通路をまた歩みはじめた。
しかし少しまた、別の明らかでない部分が気になったピネスは、気がつけばしれっと歩かされていた通路をゆく先頭から振り返り、立派な装備やらマントを身につけたプラチナ髪のお方に質問をぶつけた。
「ところで先生の異能は? 俺が幸運なら校長先生にもあるんですよね? 異能?」
「あぁ、私の異能は〝魔力の目〟だ」
「まりょく…のめ?」
「気づかないかキミの内在魔力がずいぶんと減っていたことに」
「いやぁーあまり? 魔力って、あぁー……ゲームのMP的なやつですよね? ここってそんな概念なくないすか? たしかに魔法っぽいのは〝俺の〟刺股ダブル改からどぅるどぅると出てましたけど」
「あるのだよ、私のちょっとばかし良い目にはキミの中のモノが行きと帰りで随分と減っているのが分かるのだ、それこそゲームのようにな(〝私の〟ふぅーちゃんスペシャル改のことかな)」
眼帯をつけた校長は髪をかきあげ……その黒い眼帯をゆっくりとさすりながらそう言う。
ピネスにとってそれは言動と異能と見た目が一致する、どことなく説得力のあるものに見えた。
「校長先生がいうならそーなんすね」
「そーだ。キミはなかなか素直になってきたな」
「素直というかあまり深く考えるとブドウ糖がもったいないですし、ここって何をしようとも校長が……あぁー……絶対じゃないすか?」
「ハッハなるほど。キミはまさしく今風の悟りをひらいた若者かな?」
「俺が生きてるの他でない今ですし……今をなんとかしないとって……俺が言えた身じゃないすけど」
「はは、それは言えてるなピネスくん(今か……前を、迷える未来を向いて生きる生徒の姿にはいつも感心させられるな)」
そうこうまた歩きつづけ小部屋に入り見つけた次への地下階段に、不黒文と浦木幸の2人は2人してそれを指さした。
ダンジョンで何よりもだいじな探し物がふと見つかり、不黒ダンジョン1Fにて運命をともにする女校長と男子生徒は頷きあい笑いあった。
ピネスを先頭に地下2Fへとまた目標の10Fを目指しふたりは迷宮を歩き始めた────