2 濡れ透け…
▽不黒文のスペシャル校長室▽にて
長い黒ストッキング足を何度も組み返し椅子にかける校長がいる。
期せずして死なずのダンジョン帰還を果たしたピネスは校長に机上に出せと言われ、提出した──例のみんなのタコイカ学習帳。
彼のこたびの冒険の記録は……ぺらぺらと指先でめくられ隅々まで校長の目に読み込まれていく。
そしてやがて邪魔なので壁に立て掛けていたブツ。……剣を2本ぐるぐるにテーピングし取り付けた謎の銀の長物を、校長はその視界に入れこの記録物語の中で彼の取った行動を理解した。
「なるほどそれが情報にあったダンジョン10Fのボス級〝ミノた〟を倒したキミの刺股ダブル改であり豪勢なオプションつきゴブリンソード×2か……」
「えーーっ、異能〝書記〟の自動記入による戦闘ログは────赤い大扉先の通路から一方的に魔導のガトリング砲を浴びせミノたが通路のピネスくんに急ぎ迫るもHPが尽き無事滅された……ふむ」
「いのーしょき?」
聞き慣れない言葉に、すこしいつもよりやる気がないというよりは不機嫌な感じのピネスこと浦木幸は首を少し傾げた。
「あぁあぁこちらの話だなんでもない。それよりよくぞダンジョンから舞い戻ったぞピネスくん! キミならなんだかやってくれると私はおもっ……ん、なんだ? その自転車で踏み潰したヒキガエルの死骸を見るような目は?」
「……べつになにも」
目の前の男子生徒は彼女の分かりやすい例えとボケにツッコミもせずそう言うが、デきる校長は生徒の僅かな表情の違いも見逃さない。
良い校長は決して見逃さないものだ、そこから様々な生徒の思い感情発するSOSを読み解いていく。
眼帯プラチナ髪の不黒文はそんな良い目をもつ校長である。
誰もなしえなかったダンジョンからのブク校の校舎への帰還。
……という偉業を遂げた偉大な男子生徒ピネスくんが、何故少し不機嫌なのか。
ニヤリ……口角をあげ要領を得た校長は席を立ち、コツコツとそのヒールの音を鳴らす。
そして……訝しむ生徒の追いかける視線の及ばない後ろに回り、生徒の強張る両肩に細い手を添えた。
見知らぬ両手をじぶんの両肩にぱんぱんとはたき連結されてしまったピネス生徒は、フクロウではないのでそれ以上振り向けず正面を向いたまま。
彼の両肩を労うように揉み伝うあやしげな手つきと熱を感じながら────
「あーあーわかっているわかっている、言ったもんなぁーっやくそくしたもんねぇーっ校長せんせー嘘つきぃぃ♡ぼくがんばったのにぃしくしくぅ……あーわかったわかった。おかえりのハグがまだだったなぁー」
訳の分からぬ事を言い出したとおもえば、むぎゅぎゅぅ……生徒の背に押し当たる面積が一気に増える。
「!! でっ(でかぁ……!?)」
「ところでかんちがいっ♡キミの見聞き目撃したこうちょーせんせーのアレはねぇもちろん念のために女神石像であるガイアに祈りを捧げていたのだよぉー私はぁ♡キミっ、さいしょにピネスくんの無事をたぁーーんと♡(むぎゅぅ♡)祈ってねその後にネンノッ! 念のためっに! 失敗した場合キミの勇敢な魂が邪悪に召されないように聖なる祈りを捧げていたわけさ(すんすんっ、アレっ、ダンジョンで汗でもかいたぁ?♡すんすんすんっ…♡)」
必要以上に校長は後ろから、帰って来た愛しの生徒をハグし密着する。
ひしゃげる柔らかい面積を押し付けられ男子生徒の背はなぜか背筋を正してしまい熱帯びる。
さらにすんすんと女の鼻先で汗ばむ生徒くんの首筋のニオイを親密なアクションで嗅いでいく。
「それでキミはこのこうちょーせんせーに何をしてほしいのかなぁ?♡」
「でっおっでっおっ……」
「でおでお? なんだいそれはピネスくん、んー?♡」
耳元でやさしく校長はいじわるに囁く……。
⬜︎
淡い水の短刀★★
水+2
クリティカル威力5%
⬜︎
風呂底に眠る短刀は刀身から摩訶不思議にも水をみるみると生み出し流していく。
▽校長先生のSP湯殿▽にて
ピネスは不黒高校校舎にかくされた秘密の風呂場へと移動した。持ち帰ってきた短刀から湧き出る水音をききながら上裸のピネスは透明なバスチェアーにおとなしく腰掛ける。
すると──
「な、なんすかそれ……!?」
「ふふん、何って忘れたかキミのリクエストだ」
「俺……んなの頼んでませんよ?」
「こーちょーせんせーの黄金ビキニ姿をぜひとも拝みたいという要望があったのだ」
「いや、俺にんな趣味は……。(ほぼ見えてっ──ないっすけど──)」
プライベートなちいさな浴室内に現れたのは黄金ビキニ姿の不黒校長。
といわれてもシンプルな白シャツを上から被っており、目を凝らしよーく見ればそれはうっすら黄金のビキニだとわかるものであった。
とはいえ生脚でそこに立つのは普段見ることのないまったくあられもない姿である。
さりげなく髪型もポニーテールにした目新しい校長の姿だ。
なにやら幾分情報量の多いモノ……がピネスの前に堂々と恥じらいもさほどなく現れていた。
「まぁまぁあせるな待ちたまえ、ピネスくんの言いたそうなことはわかるわかるぞーー」
そう言うとそこに立っていた校長は、白シャツから絶妙にはみ出た……面積のちいさな黄金生地のチラチラとうかがえる生尻を向けて────
ちゃぷ、
ちゃぷ、
ちゃぷ。
まださほど溜まらず浅い水位の黒い浴槽に手を突っ込み、掛け湯のような動作を自分の身にくりかえし行う。
ダイナミックなアングルの尻をじっと見ていたら、水をしたたらせる尻がやがて振り返った。
生の太ももを伝う水とは逆向きにピネスは目線をあげていく。
彼の視界には腰に両手をあててえっへんと威厳あるポーズをする者がいる────。
その光景はたいへん学校では学校でなくとも……非現実的で艶めかしい……。
濡れたシャツごしに輝かしき黄金の色味と支えられた膨らみががあらわになっていた。
「な、な、な……???」
「どうだこーちょーせんせーの濡れ透け白T黄金マイクロビキニポニーテールスタイルは! これが欲しかったのだろぅ?♡」
錯綜する情報の羅列にピネスは訳が分からず。
目の前の水滴をしたたらせるプラチナ髪の美女が発した、長ったらしい珍ワードを一度に飲み込めはしない。だが男子はソレを見ずにはいられない。
「いや、なにがっ…!」
「あれ…ちがったか? あれれれれ…これははやとちり…うぬ、なら出直して」
「その…いやじゃ…(ないす…)」
前屈みになり、大きく実るものがぶら下がっている。白Tの濡れスケたベールごしに、不黒校長のたわわな素肌の具合をより強調している。
前屈みのままバスチェアーに座る生徒と話し、顎にわざとらしく手を当てる校長は明後日の方向を見る。
彼の目の前におおきなエサをぶら下げながら────
視界に捉えたそのダイナミックなアングル。彼の両目視界の一面を占有するほどのダイナミックな圧と濡れ透けた黄金ビキニの破壊力は……。
ピネスくん、一介の男子校生にとってとてもイヤと言えるようなシロモノではなかった。
▼
▽
汗を流し色々と流しさっぱりひと流し……リセット。
再びバスチェアーの低みに腰掛けるピネスは現在景気よく先生の手でシャンプーをしてもらっている。
(シャンプーなんて久々だ。そういやずっと濡れタオル的なもので済ませていたものだしな)
泡立つ鏡越しに、久々のシャンプーに目を閉じて受け入れる生徒がいる。その気持ちよさそうな愛らしい表情にくすりと微笑った校長は生徒のべたつく黒髪をやさしく泡立たせながら口をひらく。
「濡れ透け白T黄金マイクロビキニポニーテール……〝ぬれマポ〟はブク校の男子たちの願いを込めたものだったんだ」
「(てかこの学校って風呂とかあっ)え────?」
耳に伝った……言っていることの半分も分からず、思わずピネスは気持ちよさそうに閉じていた目をあけた。
「それが成された今……彼らもきっとこの泡泡のひとつひとつのように……きもちよく気分よく成仏できているだろうな」
背の校長は頭を慣れたようにシャンプーしながら、なおもしんみり口調でつづけている。
突飛もないことだが思い当たる節は何故かあったので、ただピネスはまた目を閉じてみた。
「あぁそういう……男の願いが……いろいろ合体したんですね……アレって……」
「さて、しんみりはもういいだろうっ! 気を取り直して」
「しんみりにしちゃ……なワードだったんすけど(なんか切り替え早いっすね……)」
「まぁまぁ──ところでピネスくんキミは……ダンジョンから生き帰るだけではなく私の課したミッションをひとつクリアしたようだな、それッざっばーーーー!!!」
風呂桶に掬われた風呂の水は、ざばんと────泡立つ頭のてっぺんから景気良く浴びせられた。
「つめっーーーーーーーーー!!!!」
鏡越しにははしゃぎ笑い合う、まぶしいぬれマポ姿の校長と冷たいいたずらを浴び振り返る生徒の姿が────