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序章

 二人の間に風が吹いた。特徴的な赤い髪を優しく撫でて行く。長い間沈黙に満たされていた空間に亀裂をもたらしたのはどちらだったのだろう。

 少しだけ話さないかという誘いを、初めから知っていたかのように受け入れ今に至る。

 それはそうだ。

 知っているのだ、間違いなく。

「知っているのになぜ?」

 問われて彼女は笑う。

「なんでだろうね」

 彼女は笑っている。その笑顔が忌々しくて顔が歪む。

「いい? よく狙って。痛いのは嫌だわ」

「なんで」

「どちらかというとそれは私の台詞じゃないかしら?」

「……」

 両手をぐっと握りしめて彼女を睨み付ける。油断してはならない。そう、彼女は知っているのだ。回避するつもりかもしれない。

 そうだ。その可能性がもっとも高い。

 従った振りをして、受け入れる振りをして裏をかくつもりなのだ。

 押し黙ったこちらの様子を面白そうに眺めている。二人の間は数歩の距離。一瞬の隙が明暗を分けるだろう。

「どちらにしろ、私はお前に不幸を呼ぶ」

「……どちらにしろ?」

「ええ」

 笑う。

 さっきから、そうやって笑ってばかりだ。

 いや、ずっと、彼女の怒った姿など見たことがない。

 いつも、その美しい容貌を際立たせる笑みを浮かべて、少しだけ首を傾げて問うのだ。

 その効用を正しく理解し、人々を動かす。

 矮小な人間を、意のままに操るのだ。

 彼女は魔女だ。

 絶大な力を持つ、人在らざるもの。

「どちらにしろ。私が生きていてもいなくても……」

 それは、と問おうとした。だがそこで、魔女が動き出す。

「おいで」

 両手を広げて、こちらの動きを待つのだ。

「おいで、愛しい人」

 彼女は人の目のない場所では常にそう呼んだ。

「さあ、お互い楽になろうじゃないか」

 数歩の距離は永遠に続く道のりのようだった。

 そして――、


 命が消えゆくそれにちらりと目をやり、踵を返す。

 肩にかかる赤い髪を左手で跳ね上げた。

 背筋を伸ばし、笑う。

 艶然と微笑む。

 やりとげた自分を励ますように、足早にその場を立ち去った。

 残されたのは一つの遺体。

 風が吹く。

 赤く、燃えるような美しい髪が舞う。

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