ミルカの訓練
3月17日。ミリスとスラはシラサギ公国でミルカの訓練に参加した。ミルカは魔法戦士としか対戦しないため、通常訓練を免除された。2人のお相手を務めるのは[サラサ]。坂田ゆりえと大江奈美子は12歳の魔法戦士。リタイヤ組だが、ミルカの訓練に招待されて現役復帰を考え始めた。もちろんミリスたちとは初対面だ。ゆりえたちは白を基調にした可愛らしいコスチューム。定番のミニスカートタイプを身にまとっている。「あなたたちが[サラサ]?すっごく可愛いわね。私はミリス。あなたは?」「初めましてミリス。私はゆりえです。よろしくお願いします」「あなたが奈美子ね?私はスラ。よろしくね」「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」まずサラサはウイングアタックを仕掛けた。手をつないで低空を飛びながら相手のアゴを狙う戦法だが、クリーンヒットは望めないので寸前で反転し、キックやパンチに切り替える。ゆりえたちはあまりブランクがないため、すぐに実戦感覚を取り戻した。まずはパンチで横に逃げながらミリスたちの様子をうかがう。大丈夫。カウンターはなさそうだ。サラサは恥じらいながらもキックを繰り出した。初めてのお相手にキックを披露するのはすっごく恥ずかしいっ。両性具有は異世界では女性だし、見た目は確かに女性なのだが、リアルでは男性扱いだからだ。ゆりえたちは両性具有の若い女性兵士との対戦は生まれて初めて。サラサは果敢にキックで攻めまくったが、キックを繰り出すたびに恥じらいを強くされていった。でもキレはある。恥じらいは[性欲を抑える]と脳が解釈するため、その分威力が増すからだ。でも攻めが単調になればミルカに見切られやすい。なのでゆりえたちは時おりパンチを織り交ぜた。サラサはツバメ返しに切り替えた。この技はツバメのように低空を飛びながら交互に交わり、そのつど対戦相手を変えるなど攻撃のバリエーションが実に豊富。ゆりえたちは果敢にキックで攻めまくった。ミリスたちは受け身に徹してくれた。徐々にキックがミルカを捉え始めた。休憩に入るとサラサはミリスたちとの雑談に花を咲かせた。「ゆりえたちは強いわね」「え、ええ」「なんでリタイヤしたの?」「実は私たち生理が来なくなったんです」「でも魔法戦士はいくら中出しされても妊娠しないはずよ」「法華会はその事実を私たちに隠していたんです」「聞きしに勝る下道なのね法華会は」「なので私たちは現役復帰を前向きに検討中ですが、法華会に頼りたくないんです」「あなたたちは名古屋よね?」「そうです」「市内には魔法戦士管理局事務所があるから相談しなさいよ」「そうします」休憩が終わるとゆりえたちは地上戦に切り替えた。足元は悪くない。サラサは下から上に突き上げるパンチを繰り出した。ミリスたちは受け身に徹してくれたが、時には反撃に転じてキックを繰り出し、ゆりえたちをヒヤリとさせた。サラサは横に一回転した。ゆりえたちが逆立ちになった瞬間、逆光で下着姿がミリスたちには眩しく見えた。これは魔法戦士がシードマンに下着を見せるために編み出した技。サラサはミルカに感謝の意を表したのだ。ゆりえたちはキックに切り替えた。サラサはローキックとハイキックのコンビネーションで攻めまくった。ローキックは恥じらいがないからキレはないが、ハイキックは恥じらいを強くされるから集中が切れやすい。なので魔法戦士はローキックを捨てられないのだ。ゆりえたちは右のローキックでミリスたちのスネを狙うと見せかけ、左足で下から上に突き上げるキックを繰り出した。胸のあたりを狙ったが、キックはむなしく空を切った。あ、あれ?ば、バレてた?帰宅したサラサはゆりえの部屋で反省会を開いた。2人は同じマンションの違う階に住んでいた。「まだまだね。ブランクあったし」「そうね。でも調子は悪くなかったわ」「でも最後は完全に見切られたよね」「やっぱりミルカは強いわね」3月18日。ゆりえたちは登校した。綾瀬女学院初等部6年生の2人は春休み前だが、特に予定はない。4月から中等部1年生に進級するが、部活は義務付けられていないからたぶん帰宅部。塾や習いごとはしておらず、母子家庭で一人っ子。母親はいつも帰りが遅い。バイトは校則で禁じられていたし、ふだんはヨガのエクササイズくらいだ。3月20日。ゆりえたちは魔法戦士管理局事務所を訪ねた。彼らの対応は早く、24日の14時からシラサギ公国で予備役のシードマンに毎週訓練してもらえる。訓練の費用もかからない。ゆりえはネル。奈美子はユンファが受け持つ。ネルとユンファは20歳で友人同士。復帰戦は未定だが、早ければ4月末までに現役復帰できそうだ。サラサはブランクが短いのが強み。ふだんから体幹を鍛えているし、実戦の経験値もある。唯一の不安はミルカとの対戦がないこと。先日の訓練ではふつうに強いと感じた。実力はシードマンと変わらない。