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~何もかも思い通りにいかない転生でとりあえず勇者としてRPGしてみた~

異世界転生という今や、王道と呼ばれる題材とRPGの王道のドラゴンクエストを掛け合わせたようなイメージで今作を創りました。魔法の設定や、世界観の設定などかなり悩みましたがかなり良い設定になったと自分的には思います。

思えば、随分と...あっけない最後だった。


将来の夢もこれからやりたかったことも今まで貯めていたソシャゲのガチャ石もトラックにはねられた衝撃ですべて吹き飛んでしまった。齢18歳。特に何もしないまま人生終了。


そんなことになるならやりたかったことをやればよかったし、いろんなことに全力を...と後悔する。死んでしまったのだから、意味がない。


(あーあ、もったいねえなー)


しかし、それにしても天国というのはこんなに何もないところだとは思わなかった。(最も地獄の可能性もあるが)真っ暗すぎて自分が目を開けているのかどうかもわからない。




「ここは、天国ではありませんよ...。」




どこからか声がしたかと思うと目の前が強く光り輝きはじめ、そこには美しい金髪の女の人が立っていた。


(地獄の門番の可能性もあるけど、この神々しさはきっと、、)


「......ええっと、女神様で合ってますか?」


「ええ、もちろん。あなたを迎えに来た天使でも、あなたを地獄へ叩き落す悪魔でもなく、あなたを待ち望んでいた女神です」


待ち望んでいた?


それならば、この女神さまは何をしに来たのだろうか。天国に行くのでもなく、地獄に行くのでもないなら。もしや、俺はまだ死んでないのだろうか?



「いえ、それに関しては死んでます。もうちゃんと。だめですよ、あんな暗くて細い道歩いたら、運転手さん気づけないですよ。ただあなたにはまだ選択肢があるんです」


選択肢?



「ええ。実はこのまま死んで別の人生再スタート!ではなく、とある世界にあなたのまま転生してほしくてこうしてわたくし女神自らがあなたを待っていたのです」



異世界転生!そりゃあたくさんそういう本があるのは知ってるけど、まさか自分にそんなことが起こるなんて。


「まさかってことはないでしょ。だってあなたトラックに轢かれたんですから」


(トラックに轢かれるって合図みたいなことなのか?)



「そしてみなさん大好きチート能力をもちろん差し上げます!」


「チート能力!?」


さっき、選択肢があるなんて言い方をしてたけど、ゼロから人生始めるよりずっといいじゃないか!選択肢なんてそんなものあってないようなものじゃないか。


普通の高校生ライフが突然終了したのは悲しいが、早くも次の人生への期待が膨らんできた。


「ただ........いくつか注意事項がありまして........」


ここから女神さまが気まずそうな顔をし始めた。


女神様のいうことをざっくり要約するとその世界は魔王と人間が対立しており現状、かなり魔王軍が優勢であるらしい。


そこで神々はこの世界に別の世界、つまり地球から7人の勇者を召喚しこの世界を救う予定だったそうだ。


「だけど、どういうわけか魔王に勇者を横取りされて魔王軍側にチート能力を持った勇者が誕生してしまったと」


「それも6人........」




........無理じゃね?、、え?7人中6人魔王軍?そもそも魔王が優勢なのに?




「そこで!あなた様にぜひ!最後の勇者になってもらい見事人間側を勝利に導いてほしいのです!」




急に怪しいセールスみたいなしゃべり方をし始めた。いや、なんか振り返ってみれば最初から怪しかったかもしれない。




「ちなみにですけど...僕を待ってたんじゃなくて、地球で死んだ人を待ってたんですよね?今まで何人に断られました?」


「99人です!おめでとうございます!」


「いや、ちょうど100人目ですと言われても........」


俺より以前に99人も断っているのか。これは適当に話を聞くだけじゃなくてしっかり聞かなくては



「そういえばほかの選択肢ってのは何なんですか?」


「...ほかの世界で唯一の勇者として無双...」


「ほかの世界で無双!?」


「99人目まででしたら...」


「僕の場合は......?」


「ええっと、言いにくいんですけど......あ、、蟻になります」




選択肢なんてあってないようなものだった。


昔から運やら、タイミングが悪かった。バカは死んでも治らないというが、まさか死んでからも続くなんて。


悩んだ末、俺は死んですぐ新たに勇者として転生し、世界を救うことにした。


「本当ですか!やった!ようやく!」


「それで、ええっと具体的にどう転生するのか教えてもらっていいですか?」


こうなってしまってはしょうがない。まだどんなことになるかは分からないが、蟻よりはましだと信じよう。


「はい、そうですね。説明しましょう。あなたの転生先は......ええっと」



忘れたらしい。最重要項目だとは思うんだが。



「まあ、あれですよ、蟻よりはましですよ」


しばいていいだろうか。




「まあ、結局ここで聞いたところでもう決定事項ではあるんです。言質は取ったので、諦めてください」


嫌なセールスどころか詐欺師かやくざみたいになってきた。


まあ、悩んでも仕方ない。前向きに考えよう!仮にも勇者に転生するんだ。きっと王族の勅命を受けるぐらい権力がある貴族とか、貧乏だけど周りから慕われるカリスマだとか才能が1000人に1人とか...



「うん?ああ、もしかしてすごく貧乏だったらとか考えてます?そこらへんはまかせてください!心配しなくても大丈夫ですよ!今のあなたとあまりにもかけ離れた人物に転生してしまうと前世からの性格とか考え方とかいろいろとずれが生じますから」




背筋が凍った。嫌な予感がする。頼む外れてくれ。




「基本的なスペックは今と大して変わりません!」


「なんでだよ!!」




夢がない、、、あまりにも夢がない。




「お金持ちでもなく、イケメンでもなく、大した特技もないまま!?」


「お金持ちでもなくイケメンでもないままです」




夢と希望にあふれた異世界転生がしたかった。あと、自分で言うのはいいけど、他人に言われるとなんかむかつく



「大事なこと忘れてますよ。”チート能力”」




そうだ!それがあるじゃないか、、そうだ!俺は勇者に転生するんだ。イケメンじゃなくたって、すごい活躍してそれで人気者になってモテるはずだ!



「それで?俺のチート能力ってどんなのなんですか!?」


「ふっふっふあなたが授かるチート能力とは!それは!!!」




この時、俺はすっかり忘れていた。この世界にはすでに6人の勇者がいて、俺がもらうそのチート能力はその6人に選ばれなかった悲しいあまりものだということを。


結局俺は勇者として転生することにした。まさか消去法で勇者に転生することになるとは思わなかった。


こうして俺は転生した。


「....................」


最初から意識がはっきりとしていたわけではなく、ちょうど3歳になった頃、意識がはっきりすると同時に前の人生の記憶。そして、女神との会話を鮮明に思い出した。




「そうか、しょーかんじゃあくて、てんせいあもんあ」




だめだ。筋肉がまだ発達していないのかまだうまくしゃべれない。


「1から人生やり直しできるんだからいいじゃない、こんなチャンスめったにないわよ」


そのひそひそ声の主は赤ん坊の俺を膝にのせているお姉ちゃんだった。



「え?まさあ、めあみさま?」


「そう、特例として私にも指令が出てね、私もこの世界に誕生することにしたの、勇者の3歳上の姉としてね、よろしくね弟君」


こうして俺の第2の人生が幕を開けた。家は周りと比べて平均的、家族も前の人生と同じように両親がいて、兄弟がいてすごく幸せな家庭に生まれた。ここはすごくうれしいのに勇者の宿命で家を出ないといけないというのが致命的だった。もう、ここでスローライフがしたい。


3年ほど経過し、ある程度、この世界の言語を理解してきた。この辺もまさか言語を一から勉強する羽目になるとは思わなかった。どうやら異世界転生というのは想像より甘くないらしい。


「私たちがいるのは魔王城から最も遠い村、メルキド」


メルキド。魔王城から遠く、周りに生息する魔物も弱い。要するに始まりの町という感じだ。


「私たちとほとんど同じタイミングで転生した魔王側の6人の勇者はおそらく今、7歳か8歳。今頃もう才能を発揮しだしてることだと思うわ」


もうこの時点で才能を発揮しているのか。勇者というのは肩書だけではないんだと感じる。


「おまけに他の6人は魔族の中でも金持ちの貴族の家に生まれているだろうからこれから順風満帆な日々を送ることでしょうね」


てことはほかの勇者は前世でもそうだったってことなのか


「いや、魔族は前世との齟齬なんて気にしないかもね。そもそも生物として人間と魔族で違うわけだし、価値観だとか考え方とか全く違うわ」


それなら、女神側もそこらへん適当にしてほしかった


「そして魔族には許嫁の文化が存在するから、きっと美人な彼女がすぐできて、もうそれはそれは人生イージーよ」


怒りで震えて前が見えない。戦う理由としてはあまりにも十分すぎる。


「なるほど、それでこれから俺は何をしたらいいの?」


「とりあえず、あなたには私が授けた能力を使いこなすための特訓をこの世界でいう成人、16歳までしてもらうことになるわ」


「え?何の努力もなしに最強って話は?」


「ん?そんなこと言ったっけ?」


「...え?いや、だって異世界転生ってそうでしょ?」


「何言ってんのよ。人生そんなに甘くないわよ」


それにあなた勇者なんだから人の何十倍も頑張らないとすぐ死んじゃうわよなんたってあなたはどの世界よりも過酷な世界の勇者なんだからね


こうして転生して6年。少しずつ、この世界が優しくないことを実感し始めてきた。


「マリエルー、アレンドー、ごはんよー」


こうしてこの世界にある程度慣れ、元気に走り回れるようになった齢7歳。いよいよ親には内緒の修業が始まることになった。


「それで?姉ちゃん?俺のもらったチート能力ってどんなのなんだ?」


夜。家の近くの更地に向かった。この3年の間で女神だという事実はあっても女神と呼ぶことはすっかりなくなり、自分はこの人の弟という自覚が芽生えていた。


「アレンド、いえ、勇者。あなたに授けた能力は確かに強力な能力なんです。しかし、おそらくあなたの想像以上に扱いが難しいもので、、、実際この能力は6人には選ばれなかったですし、それに天界でチート扱いをされている理由も...なんというか...あいまいで」


やけに歯切れが悪い。というかもうなんとなく予想はできている。今までの流れ的に、聞いた瞬間最強みたいなのはもう期待していない。とんでもない魔法や、伝説級の武器みたいな王道なものが来るなんて展開ではないだろうと心のどこかで思っている。


「能力名は”《アダムとイブ》”簡単に言うと世界を創る能力よ」



世界を創る?ピンとこない。どういう意味なんだ?


「ええっとね、あなたが元居た世界でもなくてこの世界でも私のいた天界でもなくてあなたの思い通りに世界が作れる能力なんだけど...ええっと、どう思った?」


世界を創る?よく分からないけど、想像していたより、すごそうな能力だった。確かに聞いたことないし、チート能力なのは間違いないのかもしれない。ただ、気になるのは...


「ええっとさあ、、つまり?どうやって戦えばいいの?」


俺の思うように世界を創りました!!で?どうやって魔王やらほかの勇者を倒せばいいんだ?


「そう!そこなのよ!」


「え?」


「全く分からないのよ、多分サポート能力なんだと思う。簡単にものとか運べるし」


どうやら7人もいるんだから1人ぐらいサポート能力がいるだろうということのようだ。そして6人全員が誰も選ばなかったということだろう。



この世界ではイメージで魔法を使う。そのためにイメージがしずらい魔法ほど難しい魔法とされており、そのために杖や、剣などの道具や、魔法陣などを使用し、イメージを固める。要するにスポーツ選手がよくやるルーティンのようなものである。


『強く念じて扉を開けるイメージ』


ちょうど俺が入れるだけの穴が発生した。恐る恐る入ってみるとそこには本当に何もないただの白い空間があった。ドラゴンボールの精神と時の部屋みたいな感じだ。


「魔法を使うときはその対象に自分の魔力を流し、自分の体の一部みたいなイメージを持つことが重要なの。例えば、剣を使うなら剣に魔力を流したり、人に使うならその人に。多分アレンドの魔法も中に入れたいならその物とか人に魔力を流す必要があるんじゃないかな」


なるほど。なんとなくこの世界の魔法について理解してきた。要するに大事なのはイメージということらしい。


「どうだった?その世界は君次第でどんな世界にもなるんだよ!いった!」


思わずチョップした。


「え?どうやって戦うの?というか、強い弱い以前の問題だろ!これ戦いにどう生かせばいいの?魔王とか勇者とか以前に俺誰にも勝てないんじゃないの!?」


どう考えても対人戦に使えない気がするんだが。この能力で何ができるんだろうか。


「どうなんだ?女神様?この能力で魔王倒せそう?」


「分からないわ。とりあえず今のところはその世界を自分の思うように作ってみてほしい。そうしたらきっと今後に生かせるようになってくるわ、、、多分絶対!」


「多分絶対?」


「多分絶対!」


こうして俺は自分の授かったチート能力(?)と向き合うようになった。そもそも、頑張ってもしかしたら役に立つというレベルの時点でもはやチート能力かどうかは怪しくはあるが、世界を創るというのは普通の能力ではないことだけは確かだった。


試しに太陽のようなものを作ってみた。イメージではあるが驚くほどうまく行った。やはりイメージしたものを自由に作れるという能力らしい。


「これさ、この作った太陽を魔王城に落としたらもしかしてこの話終わる?」


「すごい発想ね。でも、残念あなたがイメージして作ったものはその世界だけでしか存在できないわ。それに、あなたの予想外の動きは絶対しないの。あくまであなたのイメージだからね。だからできるだけ元の世界から持ち込んだ方がいいわよ」


こうして俺は身の回りの物をどんどん能力内に入れることにした。最初は周りの土。流れる川。生えてる木など。何でもかんでも能力内に入れるようになっていた。


「...ねえ、アレンド?あなた、またもの失くしたの?どこにいってるのかしらねーあなたの物は?」


他にも木や、草、キノコ、目に見えるものをとにかく自分の創った世界へと持っていくのがいつしか癖になっていた。



ある日、いつもなら行かないというより立ち入り禁止させている奥地まで迷い込んでしまった。


「...迷った。まいったな、マジでわかんない。それに、ここらはでっかいイノシシみたいなやつが出るって言ってたな」


剣も一応持ってはいるが10歳にも満たない少年の筋力ではまだ野生の動物には手も足も出ない。


「出会ったら終わりだな、それに危険なのは動物だけじゃないし」


この世界には動物のほかには魔物が存在する。そのため多くの村には協会があり、神父様が結界を張ることで魔物の侵入を防いでいる。そうしなければ、夜には骸骨や、ゾンビ、幽霊なんてのがわんさかいる。


「骸骨、ゾンビは剣で何とかなるか、ただ幽霊はやだなー」


幽霊を代表とする物理攻撃が通用しない魔物は神父様などが使う光魔法のみが対処法となる。ということで世界を創ることしかできない俺は出会った時点で逃げるしかない


「といっても、そもそも幽霊は前世でも怖かったから怖いままなんだよなー」


さっきから独り言が多いのもビビっている証拠だ。


「あっ、そうか」


自分の世界が創れるということは自分だけの安全地帯があるということになる。


「そっか、この世界にいれば、安全に夜を過ごせる。後は、誰か探してくれるでしょ」


瞬間、後ろの草をものすごいスピードでかき分ける音がした。とっさによける


「はあ、はあ、危ない。この大きさ、、こいつが村の人が言ってた魔物みたいなイノシシ、、」


実際、前世にいたところとは世界が違う。目の前で俺に狙いを定めている動物はイノシシではないし、その生態も違うのかもしれない。


「イノシシなんて前世でも見たことないけど、たぶんこんなに角大きくないし、こんなに大きくないよな」


おそらくこの世界には魔物が存在するため、その分動物もより強く進化したのかもしれない。


本来、アレンドには自分の世界を創り、今すぐにでも安全な空間に避難することができる。しかし、まだ集中しなければ自分が入れるほどの大きさのゲートを開けることができなかった。そして、目の前の巨大な猛獣を前に集中というのは無理な話だった。


(とりあえず、大前提逃げることを考えよう。間違っても戦うなんて論外だ。ただ、どうやって逃げたもんか)


イノシシとにらみ合う時間が続いた。いつ襲ってくるか分からない。目の前の獲物を絶対にとらえてやるという意思を感じる。これでは目の前の獲物は諦めた方がよさそうだ。


「要するに、諦めるべき目の前の獲物が俺じゃなければいいんだ」


自分が入れる大きさのゲートは作れない。しかし、小さいゲートならば日ごろから周りのものを入れているため集中しなくても作れる。


「たしかこの世界のイノシシは前の世界と同じようにサツマイモとか好きだったはず」


イノシシが突進してくる瞬間、間一髪で躱した後、ゲートを作り、大量のサツマイモを出した


「まったく、、何が役に立つか分からないな」


この前、育ちすぎてあげると言われたサツマイモ、食べきれないからともらっておいて良かった。


サツマイモに目的を変えたことによりイノシシから逃げることに成功した。こうしてアレンドは少しずつ、この異世界と自身の魔法に慣れていった。


剣の修行、その合間に山に行っては自分の世界に持ち込んで、そんな生活をざっと3年。マリエルこと姉ちゃんこと女神さまは12歳。俺、アレンドが9歳になった頃。大事件が起こった。


「ドラゴンだ!逃げろー!!」


メルキドを一匹のとんでもなく大きな竜が襲った。


「姉ちゃん!あれはどういうことなの?まさか魔王軍の手先がついにこの町まで来たってこと?」


「いえ、違うわ。この世界の竜族は魔王軍に屈せずに戦いを挑み、そしてはるか昔、絶滅しかけていているの。その結果、生息地を無くし、時々こうして人里を襲うようになってしまったの」


こうしてしゃべっているうちにも家が壊され、周りの村人が逃げ回っている。


「竜はこの世界ではいわゆる上位種の1つでその中でも最強と言われているわ。こうなってしまったら逃げるしかない、急いで!」


「まずい!」


あの竜の足元の家。高齢で動けないおばあちゃんがいたはずだ。


「姉ちゃん!母さんと父さんを任せた!」


「無理よ!確かにあなたは勇者として転生したけどまだ強くもなんともない、ただの少年なの。勝ち目なんてないわ!」


分かってる。自分が弱いことなんて。それに最初から竜とはそもそも勝負しようとは思わない。


いろんながれきを避けながら家に滑り込んだ。


「アレンドちゃん!だめよ!逃げてええ!」


車いすに乗った状態のお世話になったおばあちゃんを見逃したら勇者以前に人として終わってる。それに、俺なら簡単に助けられる。俺はおばあちゃんに魔力を通し、能力発動を強く念じた。


俺とおばあちゃんの2人が余裕で入るほどの大きさのゲートをすでに開けられるようになっていた。


「ア、アレンドちゃん?ここはどこ?」


「詳しくは教えれないんだけど、とりあえず安全だから。竜が通り過ぎるまで待とう」


このやり方ならば、逃げ遅れた人でも確実に助けることができる。そう確信した。


「ごめん。おばあちゃん!すぐ戻るから!」


開けたままのゲートを通りもとの世界に戻った。竜が通り過ぎ、粉々になった家に戻ったつもりだった。しかし、実際は予想とは違った。


「あれ?壊れてない?」


壊れるどころか家具や、置いたままのグラスなどが床に落ちておらず、あまりにも平和的な絵面だった。不思議に思い、家を出るとそこには、もう一つ不思議があった。


「あれ?暗い。今って真昼間だよな?」


俺の創った世界はまだできないがイメージ次第でいずれ時間の進み方も自由自在らしいがそんなことはしていない。そんなことを考えていたら今度はやたらドロドロした雨が降ってきた。

…嫌な予感がしてきた。

よく見たら暗いのは俺の周りだけでそこ以外は普通に明るい。そしてその境界線は誰が見てもさっきまで暴れていたそれの輪郭だった。


「うううううわああああああああ!!!!」


なんでまだここにいるんだ!いや、そんなことよりゲートを開けて逃げ出さないと!

そう思っても完全に腰が抜けてしまった。イノシシや幽霊とかとは話が違う。前の世界で普通の生活送ってこっちに転生してからも一番平和な村で過ごしてるだけ。そんな奴が竜と目がった状態で腰を抜かし何もできなくなるのはあまりにも当たり前だった。全身に麻酔をかけられたみたいに指一本動かせない。


「心配するな少年。早く避難しなさい」


驚くことにそう頭の中に伝わってきた。その声の主は状況的に目の前の巨大な竜のものだった。


「しゃっしゃべれるのか!」


「ああ。といっても厳密にはテレパシーだがな」


「避難しなさいって、暴れてるのはあんたなんだが」


「暴れたくて、暴れておらぬ、ただ生きる場所を失った我々竜がせめて被害を出さないようにと行動した結果がこれなのだ、すまぬな」


竜という生物は強すぎるあまりそこにいるだけでその周りの生態系を大きく変えてしまうらしい。昔は魔族のエリアに住んでいたが追い出され多くの竜が行き場を失っているそう。


「人間ならば、場所を変えてもいけていけるであろう、だが、魔物や動物はその場所でしかいきれぬものもいる。死のうにも我らにはまだ生きるための意味があるのでな。おぬしらにはすまないと思っておる」


なんだか、予想外のことになった。暴力の化身みたいなイメージが一変。やさしさあふれた生物のように感じられる。冷静に周りを見てみると避難を素早くできない家はまだ壊れてすらいない、誰も死んでいないことが証明していた。


「アレンドーー!」

「姉ちゃん!生きてるよ」


事情を話すと、マリエルはなぜかみるみるうちに申し訳なさそうになっていった。


「竜ってのは本来最強なの。でも、その竜を殺せる武器を創ったやつが魔王側にいるの。そして、多分そいつは魔王側に転生した勇者の一人」


「時期的にも一致するわ。それにこの世界の在り方を変えるような魔法。間違いなくね、ただ、、いや何でもないわ」


そいつもまだ俺と同じような年齢のはずなのに、、こんな強い生き物を殺せるとなると確かにそれはチート能力かもしれない。


「ええ、だとしたらあなたたち竜の居場所が無いのは天界側のミスによるものになります。代表して謝罪いたしますわ」


「よい、経緯がどうであれ、負けたのは我々だ。おぬしらのせいにする気など毛頭ない」


そうだ。この竜に人を襲う気がないなら、俺の世界に置いてきたおばあちゃんを戻さないと....あのばあちゃんがいくら安全とは言え、1人で放置していてはかわいそうだろう。


「そうだ!」


....それから数か月後。竜による被害によって受けたダメージはほぼ修復されていた。被害者も心優しい竜のおかげで一人も出ず、10歳になった俺は今まで通りの生活に戻れるものだと思ってた。しかし、そうはいかなかった。


「貴公の竜撃退の功績を踏まえ、レーベ国王直々に勇者として魔王討伐を命じる!路銀、装備、要所の通行書などの支援を我々が行おう。その見返りに華やかな活躍を期待しているぞ!」


周りには険しい表情の無数の兵士。断ると言えばどうなるのかは馬鹿でも分かる。


居場所を失った竜に俺は自分の能力の中に入ることを提案した。今のところ土や、水、草などしかない質素な世界だが、竜はこれをあっさり受け入れた。


「我からしてみれば、生きる場所が目下の問題だったのでな。そなたの提案には感謝しておる」


「それに、我ら竜の生き残りの目的はただ一つ。竜の里を取り戻すこと。そなたらの目的と重なることもあるだろう」


竜の強力なうろこにさえぎられ、俺の魔力を竜に通すのに想像以上に時間がかかってしまい、それが今の現状へと繋がる致命的なミスとなった。


「貴公が竜に手を触れ、竜がそれに抵抗すらしなったところを多くの町のものが見かけておる。どういう魔法なのかは詮索しないが、竜といえば問答無用で最強の種族。その力この国のためだけでなくこの世界のために思う存分ふるうがよい!」


こうして10歳。勇者として転生したアレンドの肩書は町の少年から、ようやく勇者に変わったのだった。


「なあ、この王様からもらった勇者の剣。これすごい剣なのか?」


王様から授かった剣には俺の育った街も含めたここら一帯の領土をもつレーベ王国の紋章が大きく書かれており、剣の素材にもこの地域でしか取れな鉱石が使われているらしい。


「それなりの業物といった感じだな。ここらの魔物相手なら困らない程度だ。少なくとも我には木の棒と変わらなぬ。しかし、その剣を見るにどうやら武器としての力は二の次のようだな」


要するに勇者という肩がきをもらった俺はこのレーベ王国の宣伝に使われたという感じのようだ。人の汚い策略を村を襲ったベルガーという名の竜は感じ取ったようだった。


「尻尾は治りそうなのか?偽装のためとはいえ、すまなかったな」


「何をいう。そなたのおかげで安住の地が手に入った。それにそなたの装備になったのだいいことづくめであろう」


今の俺の服装は一見に動きやすい身軽な服といった感じだが、その素材はベルガーの討伐を偽装するために切り取ったしっぽから作られている。


こうして俺は転生して10年目にして、生まれ育った村を離れ、親に挨拶をし、勇者として旅立つことになった。


「なあ、俺の希望は、、というか異世界転生のイメージなんだけど、スローライフとか、すでに最強で無双でモテモテとかなんだけど、、、その、、、まだ?」


「まだって何よ。諦めなさい。あなたは今から実の姉と過酷な旅に出ます」


絶望的過ぎる。一言だった。


「それに、レーベ王国は勇者を出したってことをアピールしたいだろうからあなたの存在はすでに世界中に知られたわ。人間の世界だけでなく魔族の世界にも」


そうか。だからマリエルは俺が勇者に任命されたとき、ミスったみたいな顔をしてたのか。この世界では勇者は各王国の広告塔としての側面が強いらしい。一応この世界は魔族の危機が迫っているのだが、そこを利用し各国で勇者のマウント合戦が繰り広げられている。



「実際ね、今の世界には多くの勇者が存在するの。でも、それらはぜんぶ、それぞれの王国が勝手に言ってるだけ。本物の勇者は異世界から来たあなたと魔族側にいる6人の勇者」


つまり勇者という肩書はそこまで珍しいものでもないらしい。


「もし、仮にあなたが本物だってばれたらその瞬間魔族総出で襲ってくるわよ」


「え?じゃあすげえ活躍してちやほやされる的なのは?」


「そんなことしたら、子供も大人もきれいな女の子も、魔王もぜんーぶ寄ってくるわよ」


ど、、どんどん俺の理想からかけ離れていく。いや、諦めない!今の俺には大量に金がある。せめてド派手に使って美味しい料理とかすごいホテルとかに泊まれば、まだ理想の異世界生活に!


「さっき言われたでしょ。華やかな活躍を期待するってあれ激励の言葉なんかじゃないわよ。あれは活躍しなければ、広告塔として仕事しないなら支援もしねえよって意味よ」


活躍したら魔族側にばれて死ぬ...でも、活躍しないとお金はもらえないだと....


「当たり前でしょ、宣伝にならないなら勇者にお金を出すメリットが王国にないでしょ、今あるお金は大切にしないと、途中でなくなったら最悪、バイトね...」


最悪バイト!?嘘だろ!聞いたことないぞ!


「ま、、魔物を倒したらお金がもらえるんだよな?」


「なんで魔物がお金持ってのよ」


知らんわ。


序章~完~


第1章 


「アレンド、無理はしないでよ。あなたならできるからね、たまには帰ってきてね。マリエル、アレンドのこと任せたわよ」


こうして俺(勇者)と、姉(女神様)の二人旅が始まった。

心配性の両親からと王様からの支給品によってとんでもなく大きいリュックを背負ってのスタートとなった。

俺の能力”《アダムとイブ》”世界を創る能力は勇者としての旅が始まって真っ先に荷物持ちとしての才能を遺憾なく発揮した。


「これさ、どう考えても10歳と13歳に持たせる荷物の量じゃないんだけど、もしかして王様はすでに魔王軍に堕ちてたりする?」


「だとしたら妨害の仕方が陰湿すぎるわよ、それにその理屈なら私たちの両親もじゃない。アレンドさ一応、竜を追い返したから力持ちだと思われてるんじゃない?」


俺の装備は竜のうろこから作られており、王様からもらった剣はそこそこのものであり、ここらの魔物はすでに寄ってこない。青くてプルプルした奴に会いたかったが残念ながらこの世界にスライムなんて生物は存在しないらしい。可愛さなんて一つもない魔物に定期的に襲われる。


「どこ行くんだっけ?まず」


「次行くのがええっとね、ザハンっていう町ね。まあここで何かするって訳じゃないわ。私たちまだ旅自体に慣れてないんだからまずは近場に行こうって感じ。この辺はまだ魔王の影響だって少ないはずだから、私たちが何かするってことはないはずよ」


ザハンに着くまでにもしばらくかかるということはしばらくはのんびりとした旅ができるかもしれない。

夜寝るとき用のテントや焚き火も用意してもらったが俺の世界に入れば安全に休むことができる。ここでも俺のチート能力は宿としての才能を遺憾なく発揮した。


うれしい反面これでいいのかとも思うが、深く考えないことにした。


「ベルガー!どうだ?居心地いいか?」


「ああ、主人よ感謝しておるよ。なるほど寝る時はこちらの世界に来るということか。ならば夜、襲われるということもないだろうな。よい魔法ではないか」


「そう言えば竜ってなに食べるの?このアレンドの創った世界って、山とか川とかはあるけど動物って確かいないわよね?」


動物はこの世界に入れようと何度も試みたがどの動物相手にも勝てるビジョンが全く思いつかず(イノシシのイメージが強く)いまのところこの世界にはベルガーしか生き物はいない。もしかしたら今後、この世界に何か生き物を入れるときは全てベルガーの食料としてということになるのだろか。


「我々、竜は食べなくてもある程度は生きていける。だが、そうだなその分エネルギーを消費するから、弱くなっていってしまうことぐらいだな。住まわせてもらって申し訳ないがしばらくは戦力としては期待には応えられないかもしれぬ」


しばらくというのはどのくらいなのだろう。よくある長く生きる生物にとっての一瞬みたいな話だろうか。


「なら、当分はベルガーの飯は気にしなくていいのかもな、ちなみに何を食うんだ?」


「基本的に竜は自分に立ち向かってきたものしか食べないという習性がある。逆に言えば、我に立ち向かうほどの強者ならば好き嫌いしない」


竜に立ち向かうもの?じゃあそんな強いやつをこの世界に入れるとしたらその時はとんでもなく大変だろう。


夜は雑談をし、昼はひたすら歩き続けた。途中からまるで道が整備されているかのように綺麗になり、でこぼこの道になれだした二人には好都合だった。


「ねえ、姉ちゃんこれよく見たら足跡じゃない?この道を大勢の誰かが通ったからこんなに踏み固められて歩きやすいってことじゃない?」


「かもね、この道は今から行くザハンっていう町とチドンっていう山を挟んで王国と王国をつなぐ一本道なの。だからその人たちなんじゃない?」


王国の兵士ですら歩きならば、この世界には移動手段が...いや、馬があるのか。あれ?


疑問に思って聞こうとしたが、横の姉は疲れが全身に出ていたのでこの疑問はそっと胸にしまうことにした。


こうして昼は歩き、夜は竜と話しながら寝てを繰り返しようやく目的地、ザハンにたどり着いた。およそ2週間ほどの長い旅だった。


「長かった...ねえ、俺たち早いとこ馬に乗れるように頑張ろう」


「馬術は貴族の勉強よ。諦めなさい。勉強する権利すらないのよね、私たちじゃあ」


この街では主に食料の補給、休憩を行うだけですぐに次の街へと旅立つ予定となっている...はずだった。


「あれ?この店も閉まってんじゃん?」


村の入り口をくぐりしばらく経つ。周りを見わたずがそういえば先ほどからまだ村人に出会っていない。


「すいませーーん。誰かいませんかーーー?」


すると一人の女性が慌てた様子で窓から顔を出した。


「そこのあんたら!なにやってるんだい!!早く建物に入りな!宿ならこの通りの正面にあるから!」


「おばあさん!どうして誰も外に出てないの?」


「もうすぐ日が落ちる!私としゃべってる時間があったら宿に走りな!」


わけもわからず、走り出した。ん?後ろから何か音が聞こえる。思わず足を止め、音がした方を見るとどんどん音が大きくなり砂埃が見え出したあたりでその音の正体が判明した。


「わあああああああああああああ!」 「きゃあああああああああああああ!!!」


数える気にもならないほどの大量の骸骨が町の外から町に向かって走ってきていた。


「うわあああ!やばい、やばい、やばい、やばい!」


一日中歩いた後だったが、その疲労を忘れるぐらいダッシュした。ただ、骸骨たちの方がはるかに速い。


「あったあれが宿だわ!」


どんどん骸骨たちとの距離が近づいてくる。



「「間に合えええええ!!」」


何とか宿に滑り込んだ。


「はあ、、、はあ、はあ、し、死ぬかと思った...」


「な、なにあの大量の骸骨...この町の名物なの?」


「あんたら旅人かい?どうやってこの村に?大丈夫だったかい?ほら、水」


差し出された水をがぶ飲みした後、ようやく息が整ったあたりでこの宿の店主であろう人に質問した。


「今のは?なんなんですか?あの大量の骸骨は」


店主の話をまとめるとあの骸骨はここ一か月で急に現れたそう。毎晩夜になると大量に現れ、最初の方は多くの村人が犠牲になったらしい。知性はなく、家の中にいれば安全ではあるが今でも事情を知らない旅人は犠牲になり続けているそう。


「だから、あんたらみたいな旅人は久しぶりだよ。骸骨が出る範囲は広くてね。王国の人たちみたく馬でもあればともかく、太陽が出てる間にたどり着けないからここ最近旅人なんていなかったんだよ、よっぽど走るのが早いんだね、あんたら」


そうか俺たちは夜になったら創った世界に入ってたから知らなかったんだ。危ない...一歩間違えば即死じゃないか...ん?即死?


「なあ、その連れ去られた村人たちはどうなったんだろうな」


俺は小声で姉ちゃんに尋ねた。


「あの数の骸骨の魔物がいるなんてどう考えても違和感あるわ。だからおそらくもともとは村人だったのかもしれない」


気遣ったつもりだったが、子供の気遣いなど、大人にはすぐ見破られた。最も、どちらも精神は子供ではないが。


「小声で話さなくても大丈夫だよ。私たちも最初の頃より骸骨が増えてるのはなんとなく気づいてる。残念だけどそういうことなんだろう」


今日はゆっくりしておいき、。上の部屋は好きに使いな。お代はいいよ、

そう言っておくの部屋へ戻っていった。


「なあ、どうにかならないのか?あの骸骨たち」


「骸骨っていうのはそもそも土葬の地域に出現する魔物でね、要するにお墓から現れるの。もしくは地下の迷宮。そういうところは冒険者が挑んで死体がそのままのことが多いから」


つまり死んだ後の埋葬の仕方によって骸骨が出るかどうかは異なるらしい。この世界ではそれを理由に火葬が主だが、中には伝統を守り土葬を続ける地域も多いのだそう。


「てことは、近くにお墓か、迷宮があってそこが原因ってこと?」


「いや、違うの。今の二つは自然発生の場合。それにここらは基本的に火葬のはずよ。迷宮の線もあるけどあの大量の骸骨からしてそれはないと思う」


「それじゃあ、あの大量の骸骨はどうやって?」


「骸骨を操る魔法と、人を骸骨にする魔法っていうのがあるの。どっちも魔族の魔法。おそらくどっちか、あるいは両方。そっちの場合なら魔法で治してあげられるかもしれない」


(だとしてもあの量を同時になんて明らかに規格外だわ)


そんな魔法があるのか。しかし、ならどうしてこの町の人は誰もその魔法を試さないのだろうか。いや、すでに試した結果かもしれない。


「この町、ざっと見て周ったけど、教会がなかったの。魔族の魔法に対抗できる魔法はね、神様に祈りを捧げ続け、今後の人生も聖職者として神に仕えるそんな人しか使えないの」


「そりゃあ、もちろん普通の魔法で攻撃すれば倒せるでしょうけど、あの大量の骸骨の中に村人がいる可能性がある以上そうもいかないんでしょうね」


ゲームでよくある回復魔法とか光魔法ってやつね。魔物に替えられた人間を元に戻すのもそれらの一種よ


「じゃあどうすんだよ。このまま次の街に向かうしかないのか?俺たち別に宗教なんて入ってないぞ」


突然殴られた。


「あなたこの私の存在を忘れてるわけじゃないでしょうね」


そうだった。神から授かった魔法はなくても、俺の目の前にいる人は神様なのだった。


翌日。朝目を覚ましカーテンを開けるとそこには昨日の光景からは想像できないほどの人であふれかえっていた。そこで多くの人が討論のようなものをしていた。


「おはようございます。朝食をいただけますか?」


「はいよ!そこに座っておいてくれよ」


そういうとすぐそばのキッチンで料理を作り始めてくれた。冒険中、実は料理担当は自分なので誰かのご飯というのは久しぶりだ。


「ところで店主、窓から見えたんだがあの大勢の人だかりは何なんだ?」


「ああ、あれかあれはね、誰が近くのレーベっていう王国に助けを求めに走るかって議論してるのさ。このままじゃあ食料が底を尽きちまうからね」


この村にある畑は毎晩、骸骨たちが踏みつけてしまい、しかも他の村との交流もできないこの状況。一か八か誰かに任せようという議論だそうだ。


「気持ちはわかるがこの村には馬もいなけりゃ乗れるやつもいねえ。村一番の足自慢ですら全然間に合わねんだ。あの討論は大した意味ないよ」


仮に助けを求めようにも馬に乗ったとして往復は最低でも一週間。物資が足りるかはかなり怪しいというのが村長の見解、かなり危機迫る状況だそうだ。


「ほら、できたよ」


せめて食べるのは今の話を聞いた後がよかった...死ぬほど食べにくい...

そう思っていると人の心が無いのか、横で姉ちゃんが何の躊躇もなく食べ始めた。きれいに完食すると、ごちそうさまといい、突然立ち上がった。


「店主さん、美味しいご飯をありがとうございました。実は私たち、そのレーベ王国の任命された勇者一行なのです。どうか我々にこの一件、任せてもらえないでしょうか」


「本当かい?あんたらが勇者?こんなにちっこいのに?」


そういいながらマリエルのわきの下に手を入れ、持ち上げる。


「ええ、こんなに小さな10歳と13歳の子供がです」


「あの、とんでもない数の骸骨たちをやっつけられるっていうのかい?


「ええ、私は神に授けられる魔法、”光”に分類される魔法を使うことができます。勇者アレンドの名のもとに必ず解決いたしましょう」


まるで何百人に演説するかのようにしゃべったマリエルの勢いに何故か俺も思わず拍手してしまった。


「でもね、店主さん。私たち理由があってあまり目立てないの」


「え?勇者なのにかい?」


「そう、勇者なのに。だからね二日だけ時間が欲しいの。そうすれば解決できるから、あなたにはね、私たちの代わりに外の集まりに行ってどうにか今日、使者を出さないように誘導してほしいの」


何も理由を言わずにそんな説得ができるものだろうか。そう思っていると店主は任せな!というと、店を飛び出し外の集会へ乗り込んだ。


「あんたらーーー!私にこの問題に対する解決の糸口が見えた!とりあえず、今日と明日使者を出さないでほしい。みんな待てるかい?」


そんななんの根拠もないのに説得できるのか?と思ったがどうやらこの店主、只者ではなかったようで。


「本当かい、クルスさん!」  「明後日には解決するんだね!」


「本当かい?クルス。おぬしが言うならわしもおぬしを信じるよ」


「ああ、任せな村長!気のいい連中が見つかってね」


こうしてさっきまで演説をしていた姉さんをプルプル震えさすほどのプレッシャーを背負って俺たちは骸骨問題に乗り込んだ。


「さあ、頑張ろうか!アレンド!一宿一飯の恩ってやつだよ。それに、こういうところで実戦経験増やしといたほうがいいでしょ」


そういえば、宿代と朝飯代を払っていない。というより現状、この村ではお金というシステムがあまり機能していないのだろう。それはそうだ、このままだと全員、餓死してしまうのだから。


「そんな状況で俺たちにご飯作ってくれたんだ。確かにお礼はきちんとしないとな」


こうして俺たちの冒険最初のクエストが始まった。


「足跡からたどればすぐわかると思ったんだけど...」


まずは、骸骨たちの足跡から発生源を探す作戦に出たが、想像以上に足跡が多すぎて地面がきれいに整備されていて足跡の方向もつかめない。


足跡以外に情報がないため村人への聞き込みに作戦を変更した。


「最近の骸骨。発生場所に心当たりはありますか?」


「間違いないわ!西の洞窟よ。村の西から出てまっすぐ行ったところ。私見たわよ。西からうじゃうじゃ出てくるの」


「それをいったら私だって東からくるとこ見たわよ。東にだって洞窟があるじゃない!」


「何を言う、わしの頃から洞窟といえば、北の洞窟と決まっておろう」


「あら、私は南の洞窟が一番親しみ深いですけどね」


こんな具合に聞き込みを続け、東西南北どの方角にも同じように怪しい洞窟があることが判明した。


「普通こういう時って怪しい洞窟は一つでしょ。なんで四つもあんのよ。これじゃあどこにいるか分からないじゃない」


「発生源の洞窟を見つけたらこの問題は解決するのか?」


「本来大量の魔物が同じ行動をとるなんてことないの。つまり誰かが骸骨たちを操作してるってことなのよ。だからそいつを倒したら解決するんだけど...」


「それにそいつを倒せばおそらく、村人を骸骨にしてる魔法も解除される。だから見つければこの問題は一発で解決するの。だから簡単な話だと思ったんだけど...」


どこにいるのかが分からない。一つずつ調べようにもそれぞれがそこそこ遠いところにあり、今からは調べられてもせいぜい一つだろう。


「よし!行くわよ。悩んでても埒あかない。アレンド。好きな方角は?」


「ないよそんなもん」


適当に東に行くことにした。そして、結構歩いてようやくそれらしい洞窟に到着した。この調子だと村までは間に合いそうもないので今日は俺の世界で泊まることになりそうだ。

ただの洞窟ではあるが昨日の骸骨がたくさんいると思うとめっちゃ怖い。


「そういえばなんだけど、姉ちゃんは強いの?」


洞窟を一切の迷い無く突き進む姉に尋ねた。


「強いわよ。特にこういう魔族とか魔物関連の時は」


そういいながら肩をぶんぶん回したかと思うと突然両手が光りだした。


「私の魔法はね、聖なる光をいろんなものに纏わせることができる≪アポロン≫っていう魔法。だから...こうすると」




俺の剣を抜き、刀身を触ると同じように明るく光りだした。


 カタカタカタ、、目の前に二体骸骨が現れた。


「見ときなさい。姉の初陣を!うおりゃあああ!!」


骸骨相手にシンプルに殴り掛かった。なんかイメージはビームとかなんだが、あまり神聖感がない。


「これで殴れば一撃で葬り去り、魔法で骸骨になっているなら村人に戻るのよ!」


それからも何体か骸骨を倒しながら進むと奥にちょっとした空間があった。


「ねえ、ちょっとこれ光が強すぎるからもうちょっと抑えられる?」


「懐中電灯じゃないんだから諦めなさいよ、ん?ここどうも怪しいわね、、、あーーー!!」


足元にあったのは大きく書かれた魔法陣らしきものだった。


「絶対これじゃん!すご!ってことは俺、四分の一あてたってこと?」


「いや、違うわ。これだけの大量の骸骨を操作する魔法陣がこれだけなんてことないはず。おそらく、東西南北の洞窟すべてにこの魔法陣があって四つで一つの魔法が完成なんだわ」


本来魔法陣というのは魔法を使う際にイメージしやすくするために挟む工程である。身に着けるほかトラップや、町の結界なんかにも使われている。本来は、もって一週間ほどであり、定期的に魔力を補充する必要がある。


「こんなことって...これは完成した瞬間の、たった一回の魔力供給が今も続いてる...骸骨が現れだしたのは一か月前...ってことは魔力供給は一か月前の一回だけ...」


「この魔法陣が誰の仕業かは置いといて、そうね、間違いない。この魔法陣が原因で間違いないわ」


「どうしたらいい?この魔法陣を俺の能力でこの空間ごと世界にいれたらどうなる?」


「骸骨が連携して村を襲うことは無くなるわ。それにあなたの魔力じゃ、この魔法陣に注ぎ込まれた魔力に押し負けるだけよ。仮にできても、それじゃあ元村人もどこかに行っちゃう。だから、逆に利用するの。この魔法陣を」


そういうと何かお札のような紙を取り出した。


「それは?」


「お札みたいな紙よただの、でも私が魔力を込めれば!」


先ほどの俺の剣のように強く光りだし、それを魔法陣に張り付けた。


魔法陣っていうのは広範囲に


「これをあと、三つやれば村を全部の骸骨が襲ってる最中に私の魔法に上書きできる。魔法を発動させて、骸骨は倒せる!村人はもとに戻るってわけ!」


(一か月前の補充だからこそ、魔力が残り僅かで何とか私の魔法が上書きできる。こんな力を持つなんて、勇者しか考えられない...でも...)


「あと三つって、明日までに?俺たちそんなに早く移動できないよ」


「あっ、、、ほんとだ」


村からかなりかけてこの東の洞窟まできた。これをあと、北、南、西と回るなんて最低でも三日か四日は必要になる。

大きな問題にぶつかった俺たちはとりあえず俺の世界に入り、一休みすることにした。


「とはいえ、どうするよ。ないよ、そんな高速で移動する手段」


「移動手段が走るしかないってのはやっぱり問題よね」


「やっぱりさあ、魔法の絨毯みたいなの欲しいな、いろんな魔法があるんならそういう魔法もあるのかもなー」


「そうね、どのみち木が多くて馬は走れないでしょうし、空でも飛べたら速いんだけど」


「悩み事か我が主たちよ」


「「あっ!」」


とんでもないスピードで空を飛ぶことができる最強の種族がそういえばいたんじゃないか。


「なあ、ベルガー、俺たちを乗せて飛ぶことってできるか?」


「容易いが、我も久しく何も食べていない。大陸を横断しろと言われるとしんどいぞ」


気が抜けた。とりあえず、この問題にたいして解決がみえた。どうやらこの生物、本人は弱っていると言っていたがそもそもが規格外らしい。


「一旦ご飯食べて風呂入って寝てから動き出そう。ベルガー心配しなくてもそのかんじからしてお前からしてみればほんの少しの距離だ」


村長さんや、クルスさんとの約束ではあと、一日。今から休んでもベルガーに乗れば間に会うだろう。


「じゃあ、あんたご飯作ってて!私風呂沸かすからさ」


「たまには姉ちゃんの、いや、女神さまの手料理が食べたいなーー」


「女神が自炊なんてするわけないでしょ。また、前みたくお皿に果物がおいてある食事になるだけよ」


しぶしぶ料理を始めた。俺も一日中歩き疲れたのだが、どこで拾ったかもわからない果物を食わされるぐらいならと残りの力を振り絞る。


「主よ、思い出したことがあるのだが」


「どうした?」


「この地に竜が好んで食べる果物が成る木があるのだ。決して取引をしようということではないが、どうか次の行先として考えておいてくれぬか、もしや人の口にも合うやもしれんおぬしらの食料としてもよいと思うぞ」


竜が好む果物か。ベルガーの飯の問題が解決するなら賛成だ。それに、姉ちゃんに飯を任せて果物が出てくるだけでも十分な食事になるかもしれないな。


「ああ、そこに行ってみよう、取引ってわけじゃないが移動の件はよろしく頼んだぜ」


こうして食事を済ませ、風呂に入り、8時間ほどぐっすり寝て準備万全にした。


元の世界に戻るとすっかり明るくなっていた。


「飛ぶのは少し目立つわね。まあでも仕方ないわ」


「ならば、人目につかない高度で飛ぶことを意識しよう」


「それよりあなたに乗る練習をしてもいいかしら?」


「適当に乗るって言ったけど、どこから乗ればいいんだ?ベルガー、人を乗せたことってあるのか?」


「いや、無いな。そのような勇敢なものはこの世でおそらく主たちがはつであろうな。そうだな、尻尾から乗ればいけるのではないか?生え変わっておるからな」


そういえば、そのことを忘れていた。いつからか完全に治っていた。ただ、その尻尾もトゲが多すぎて気を付けないとけがしそうだ。


「ねえ、私あなたの世界にいてもいい?アレンドが移動できれば私も移動できるわよね」


「まあ、そうだけどいつか必要になるかもだから今のうちに練習しとこうよ」


それもそうね。そう言って二人で尻尾を上り始めた。


「あっぶねトゲ」 「いったい!私のスカートが」 「やばい!絶対に下見ちゃだめだ」


体全身を覆ううろこは固く、鋭い。油断すれば掌が血まみれになりそうだ。ところどころ生えているとげはあまりの鋭さに触った瞬間体に穴が開く光景が容易に想像できた。


こうして何とか背中までたどり着いた。だが背中もトゲトゲで油断したら突き刺さりそうだった。これが最強の生き物....


「とりあえずこのトゲの間に座ってしがみついたら何とかなりそうか、ベルガー頼むからゆっくり飛んでくれよ」


「了解した。我が主。では、そろそろ飛び立つぞ」


大きな二つの翼を上下に羽ばたき始めるととんでもない風があたりいっぺんに竜巻のように起こり始めた。


「竜巻って竜って文字入ってるのってこういうことなのかもね」


そんなのんきなこと言っていると俺たちを乗せたベルガーは想像以上に上昇をし始めた。


「え、え?ちょっと待ってよ、高い高い高い高い!!」


ここでさっきの人目につかない高度という言葉の意味を理解した。


「ひ、人目につかない高さって、、、隠れるぐらい低いって意味じゃなくて、見えないぐらい高いってこと!?」


「我がそこまで低く飛べば、周囲の木々がすべて飛んでいく」


「ア、アレンド私は、、無、無理。ギブアップ!」


どうやら高いところがだめらしく真っ青な顔で訴えてきた。俺も別段強いわけではないが、ここまで高いと誰だってそうなる。今までは飛行機で飛んでいたような高さを今、しがみついて飛んでいる。


結局、姉ちゃんは能力の中に入ることにした。俺だって実際怖いし、できるならそうしたいが、俺自身は世界の出入り口は同じところしか出せないので気合いでしがみつく。


「それで、我が主よ、具体的な指示を頼む」


離陸の瞬間ほどでないが強い風が吹き続けている。さっきから指示はしているのだが聞こえないらしい。何とかトゲをつかみながら頭の上にまで移動した。


「聞こえるか!!!ベルガー!!」


「おお!よく聞こえるぞでは、指示を頼むぞ」


こうして死ぬ気でしがみつきながらなんとか二つ目の洞窟、北の洞窟にたどり着いた。下には大量の魔物がいたことからどうやらここらは人が訪れることはなく、かなり魔物が自由に生息しているようだ。


「あのような下等な魔物、我に任せよ」


そういうとただ羽ばたいただけで巨大な竜巻を作り出し、魔物たちが吹き飛ばされていった。改めて竜という生物の最強ぶりを感じた。



無事に着陸したところで、姉を戻した。


「大丈夫だった?こっからは任せて私がやってくるわ」


「任せたいけどさ。とんでもない数の骸骨いるけど、東の洞窟の時みたいなキックとかパンチとかで何とかなるのか?」


「あら?私が丸腰だと思ったら大間違いよ」


腰から鞭を取り出し、手に通すと、通したところから強く光りだした。


「じゃあ行ってくるわ。アレンドはゆっくり休んどいて」


こうして外からでも骸骨が多量にいることが分かる洞窟に一人で突っ込んでいった。


「とりゃあああああ!!」 「うおりゃあああ!」「あったああああ!!!」


あまり大きい洞窟ではないらしく中からよく聞こえる。


「あったーー!!アレンドーー!魔法陣あったーーー!!」


戦いによってアドレナリンが出てるのか肩をぶんぶん振り回しながら帰ってきた。


「さあ!!あと二つじゃんじゃん行くわよ!」


あとは、これを二回繰り返し、何事もなく最後の魔法陣までたどりついた。


残り二回は俺も同行したが、初めて見る姉の戦いは聞こえてきた声の印象とは違い、姉でなければ、美しく見とれてしまいそうだった。四方八方からとびかかる骸骨を華麗にかわしながら鞭でなぎ倒していく。

骸骨たちは鞭に触れただけでその光が骸骨に伝染し煙を出して浄化されていく。


「なあ、その光魔法は骸骨にされた人を元に戻す効果もあるんだよな。今んとこずいぶん倒したけど、全員消えていってないか?」


「私も考えてた。聞いた感じ、かなりの人数が骸骨にされているはずなのに、もしかしたらここにいる骸骨と村を襲う骸骨は別なのかも」


村を襲う骸骨は村人が変化した骸骨でここにいる骸骨は魔法陣を守るためなのかもしれない。


「これにそのお札を張ればいいの?ええ、そしたら魔法陣の効果に骸骨の浄化と骸骨化を解く魔法を上書きしてクリアってわけ。ん?」


最後の北の魔法陣の横によく見ると何か文字が書いてあった。


【六魔勇 キガ】


「六魔勇?なんだこれ?」



「私、実は考えてたの。そもそもほかの魔物を同時にこんな数操るなんて聞いたことなかったの。できても一体か、二体。だからこれはおそらく魔族側の勇者のチート能力」


俺はまだ魔法の効力の基準が分からない。そこを分かっている姉ちゃんや村人からしてみると何かの自然現象だと思うしかないらしい。しかし、姉ちゃんはチート能力の存在を知っている。だからこそ、怪しんでいたらしい。


「仮に魔物を操る魔法なんだとしたら、魔王軍側の勇者はみんな神様たちから授かった魔法とは別の魔法を与えられたのかもしれないわ」



大量の魔物を従える能力。昔、人が魔物に勝利した伝記を読んだ。人が魔物に勝てたのは人ならではの統率力があったからだと。だからみんなも力を合わせようねといった内容だった。


もしも、こいつがすべての魔物を操り統率できるとしたら...


「ただ、自己顕示欲が強いのかしらね、こんなの書く必要ないのに、チート能力をもって見せびらかしたくて仕方ないのかもしれないわね」


「六魔勇っていうのは魔族側に召喚された勇者のことか。ネーミングがシンプルで分かりやすいな。あっでも、これもしかしたらこの骸骨の問題を解決したら俺たちのことがばれるんじゃないか?」


「まあ、私がやってるのは神に祈りをささげた人ならできることしかしてないわ。だからたまたまこの村にそれができる人がいなかった...いや、もしかしたらそこまで計算づくでこの村を選んだのかも...」


どのみち聖職者の旅人が来たということでこの問題は落ち着くだろう。もしかしたら怪しまれるが、それだけで異世界から転生してきた勇者の仕業だ!とはならない。


「このお札を貼ったらその瞬間に、操る魔法と骸骨にする魔法の両方の効力に私が魔法で上書きするわ。いくわよ!」


そういうと魔法陣にお札を貼った。


「はあああああ!」


周り一帯が俺の剣や、姉ちゃんの鞭みたく強く光りだした。おそらく村を含めた4つの魔法陣の内側が同じように光っているのだろう。

しばらく強く光った後、魔法陣に両手を向けていた姉ちゃんがばたんと倒れてしまった。


「大丈夫!!」


「つ、疲れた」


そういうと寝てしまった。俺はベルガーに乗って、姉ちゃんはかなりの数の骸骨を倒して、二人ともかなり疲れていた。今日はここで寝て明日、村に戻ろう。


それから、休んだ後、誰かに能力がばれないように姉ちゃんを抱え、村に向かった。


村に向かうと宴をしていた。食料が残りわずかなのでは?と思ったが出ている料理がすべて保存食で俺たちはあまりテンションが上がらなかった。どうやらこの宴で現在のぬらの貯蓄を使い切るつもりらしい。うれしいのは分かるがかなりワイルドだ。


「あんたら!やってくれたんだね!ありがとよ。おーーーい!みんな注目!!」


「あんたらか。ありがとな!おかげで助かった!」


「あんたらは俺たちの英雄だぜ!」  「ありがと!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」


横にいる女神に勇者として転生しろと言われた時よりも、王様に勇者に任命された時よりも自分が今、勇者であることを自覚できた。こんな大勢に褒められるなんて前世でも無い経験だった。


「店主さん、ええっとクルスさん。私たちが勇者だってことは村にみんなには秘密にしておいてほしいんです。通りすがりの旅人ってことにしておいてください」


「いいよ、あんたらの肩書なんてこの村じゃあ関係ないよ。ならこの村じゃあ英雄ってことにしとくよ、またいつでもおいでよ」


ベッドで寝る前。


「なあ、姉ちゃん、この村にもうちょっと泊まるか」


「泊まらないわよ。私の思ってた以上にこの世界には時間がないのかもしれない。この村は魔王城からかなり遠いの。それなのにこんな被害が出てるんて」


そうだ。この村は最初に通った村。いうなれば、俺たちの旅で最も魔王城から遠い場所だ。遠いほど被害が少ないというわけではないだろうが。危機感は感じざるを得ない。


こうして俺たちの最初の村での冒険は終了した。魔王側に召喚された勇者、六魔勇。できれば会いたくもないが、いずれ倒さなくちゃいけない。今回主に戦ったのは姉ちゃん。俺も強くならないといけないのかもしれない....


「ありがと。クルスさん。また来るよ」


「お代はいいよ。むしろ何もあげられなくてすまないね」


結局、食料の補充もできず、あまり休むことも出来なかった。けど、いい経験になったと思う。転生して10年。勇者として生まれたことを初めてうれしいと感じた。


「そういえば、この辺に竜の好物の果物っていうのがあるって聞いたんですけど、知りませんか?」


「ああ、チドンっていう山の山頂にあるよ。確か最近問題になっててね。まあ1か月前の情報だけど。地図あげるよ」


「ん?チドンって言ったらそもそもの目的地じゃん。偶然?」


「ベルガーが言ってた木、まさかチドンにあるとはね、ちょうどいいじゃない」



最後にクルスさんのご飯を食べて村から出発した。


「ありがとなーー!」 「また、来てね!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」 「銅像立ててやるよ!!」


「コケるわよ。出口までずっと後ろ向いて手をふるき?」


名残惜しいがのんびりできないかもしれない。この世界では早く次の目的地に行かないといけない


「それで?チドンについたら、その竜の好物っていう果物を採りたいけど、もともとは何をする予定だったの?」


「まあ、、楽しみにしときなさい。期待は必ず超えてみせるわ」


チドンという山には歩いておよそ一週間ほどかかるらしい。最重要問題は走るより優れた移動手段の確保かもしれない。この世界には馬があるとは言っていたけどそれ以外には何もないのだろうか?いや、村や町の間で貿易がされているなら貴族専用の馬以外にももっと優れた手段があるはずだ。


「あーあ、転生したとき、箒で飛ぶとか魔法で空飛ぶとか期待してたのになー」


「そういうものがあたり前の世界っていうのもあるんだけどね。ただそっちの世界は人気でね。もう勇者いて世界が平和になってるから」


「全部の世界が平和になったらどの基準で転生させるんだ?」


「まあ、基本的にはどこか危ないわよ。まあ緊急性が無かったら一般人として平和な世界に転生することもあるわよ」


俺もそれがよかった。魔法が使えて平和な世界だなんて理想そのものじゃないか。


「まあこの世界がみんなが嫌がって後回しにざれた世界だからね。あなたの次の人は普通に平和な世界かもね」


学生の時、前から順番に席に座っていって、自分の番で一番手前になったときのことを思い出した。


こうして適当な会話を一週間続けてようやく次の目的地。チドン山に到着した。転生する前、つまり18歳まで生きた前の人生で歩いた距離をすでに超えたような気がする。


「結構前から見えてたけどさ、、、これがその竜の好物の果物が成るっていう木?」


「これ、、木?なんか、、そのなんていうのか、、やばいわね」


三日前ほどから見えていたその木は田舎でよく見る鉄塔を思い出す大きさだった。しかし、それははるか遠くから見た大きさでそれは日が経つほど大きくなった。その大きさだけでも驚きではあるが何本もの枝の先にとんでもなく大きな果物が成っておりそれをさながらボクサーのラッシュのように振り回し続けている。リンゴのような赤い木の実も相まってボクサーというたとえがしっくり来た。


「そういえば、竜って自分に立ち向かってくるものしか食べないって言ってたちよね?」


だとすればあの大木は相手が竜だろうがお構いなく殴りかかるイカれた植物ということだ。ベルガーのセリフから嫌な予感はしていたがこの世界はことごとく予想を上回ってくる。


とりあえず、近くの村に行き、話を聞くことにした。


「みて!酒場がある!すげえ!冒険って感じ!荒くれものがいるんだ!顔に傷がある荒くれものが俺たちのこと白い目で見るんだよ!それで、なんかすげえことして俺たちへの態度ががらっと変わるんだ!」


「アレンド、あなた異世界転生できるって言った時よりテンション上がってない?まあ、情報収集だから人が集まってる場所に行くのは間違ってないけどね。行きましょう」


「いらっしゃい、まだ昼よ、人がいるどころか、店が開いてるわけないでしょ」


なんかこの世界嫌なところで現実的なんだよな。昼から酒飲んでろよ。店のあちこちでけんかしてろよ。


「なら、人がたくさんいる場所知りませんか?あの木について情報が欲しくて」


「あの木?ああ、ドラゴンツリーのこと?あなた旅人さんね。それなら私が教えてあげる。町中の人より私一人の方が遥かに詳しいわよ」


店内は薄暗く、よく見えなかったかがよく見るとその人は長身ですらっとした体型に耳が尖っていた。後から聞いた話、隣の姉にはそう見えたらしい。


「あなた、もしかしてエルフじゃない!」


「ええ、どうも私はエルフのアズハ。魔族だって見破れない変装魔法を見破るそういうあなたは何者?」


「私は女神のマリエル、こっちが弟で勇者のアレンド」


そう自己紹介すると俺にも先ほど説明した姿に見えてきた。おそらくその変装魔法を説いたのだろう。そして、見えたと思った瞬間、弓矢を向けられた。


「私はエルフのアズハ。私の同胞の多くはその勇者の能力によって壊滅させられた。今はもうエルフは何人残っているか分からない。残った私も誇りある姿を偽造して日々生き延びている状態だ」


圧倒された。ベルガーに会った時のことを思い出した。姿形は人間に近いもののそれだけの迫力を感じた。


「あんたがいう勇者は今は六魔勇と名乗っている。奴らは魔族側に召喚された勇者なんだ。俺はそいつら全員と戦うために冒険している」


「そう、まあ、敵の敵は味方だなんて理屈で警戒を解く気はないわ。敵の敵は別の敵かもしれないもの。ただこの弓は下ろしてあげる」


そういうと、最初のただの美人なお姉さんに姿を戻した。


「それで?ドラゴンツリーについてなにが聞きたいの?」


どうやらこの地域には竜がよく現れるという言い伝えがあり、その根拠があのドラゴンツリーだという。


「昔は信仰の対象になったり、観光的な役割があったりしたんだけどね、ここ最近暴れっぷりがひどくて、どうやったらあのツリーを切り倒すかっていうのがこノ周辺の悩みの種よ」




「俺、知り合いからあの赤い果実がうまいって聞いたんだけど、それは本当なの?」


「あなたのその知り合いさん、随分と長生きなのね。ドラゴンフルーツの味を知ってるのなんて竜とか、エルフとかの長寿の種族だけなのに」


ドラゴンフルーツという名前は俺の前にいた世界にもあったがこちらの世界ではとても納得のいく名前だった。


「あとで年齢聞いてみるよ、ありがとう参考になった」


こうして聞き込みはとりあえず終了した。彼女が自分が一番詳しいと言うのなら他の人に聞いたところで大した情報は得られないだろう。


「それに欲しかったのはあのドラゴンツリーが要らないっていう情報だったんだよ。これであの木ごと丸ごとゲットしても怒られないでしょ」


「まさか、あんたあの木ごとあんたの世界に入れる気?」


あの木が手に入ればベルガーの食事の問題も解決するだろう。ただ問題としては俺が直接触れてあの木に魔力を流す必要があるということだ。


「あんな大きな果物がとんでもないスピードでぶつかってきたら私たちなんて木っ端みじんよ」



夜。実際にドラゴンツリーに向かうためベルガーに乗ることにした。本当は乗るだけで命懸けなので乗りたくはないのだが、とはいえ山登りもしたくないという結論に至り、めんどくささと天秤にかけ、命を賭けることにした。


「へえー、本当にいく気なの?それにドラゴン...ねえ、私も付いて行っていい?」


そこには昼間の酒場で話を聞いたエルフのアズハがいた。


「エルフか...ずいぶんと久しいな、、主よ知り合いか?」


「まあ、知り合いというか、昼間この人からドラゴンツリーの話を聞いたんだ」


そういうと見る見るうちに人からエルフの姿へと変わっていき、まるで宝石のように光輝く羽を出し、ベルガーの頭の高さにいた俺を見下す高さまで飛んだ。


(エルフというよりは妖精みたいだ)


「ならば我らも飛び立とうか」


「お前の横にいた女神の、、マリエルといったか?どこへ行ったんだ?それにこれほどまでに大きな竜、姿を隠しきれぬとは思えないが貴様の魔法なのか?」


「まあね、アズハはどうして付いてきたの?」


いくら、同行するとはいえ、魔法は簡単には教えられない。適当にお茶を濁す。


「なに、私の目的はドラゴンフルーツを食べることだからな。私の力や魔法ではあの果物を落とせない。だから貴様らに便乗してやろうというのが目論見さ。最もうまくいくかは分からないが」


そこまでおいしいのか。それはいよいよやる気がわいてきた。


「ところでアズハ殿。我の記憶ではエルフの里の外ではエルフの姿をしてはいけないというおきてがあったはずだが、失礼でなければ、聞いてもよいか」


少し沈黙をしてから、ぶっきらぼうに答えた。


「あんたら竜と一緒さ。魔族側のラーシュという男によって滅ぼされた。ただの武器では死なないはずの不死身の同胞が何人もあっけなく死んでいったよ。エルフの殺し方なんてものがこの世に存在するなんてね」


エルフの里がなければ、そんな掟もないのよ。俺の横を飛ぶアズハは寂し気につぶやいた。



ラーシュ。おそらくキガという男と同じく六魔勇。魔族側に召喚された勇者の一人だ。竜だけでなくエルフまでも殺されていたのか。


「ああ、だからな。貴様らについてきたのは、、、危ない!!前だ!!!」


ふと前を見るとそこにはさっきまではなんとか全体が見えていたドラゴンツリーが全体が見えないほどの大きさになっており、俺たちめがけて攻撃しようとしていた。


「ベルガー!!後ろに下がるんだ!!」


「だめだ!お前たち、まだ攻撃が来るぞ!」


射程距離に入ってすぐ攻撃ではなく、できるだけ引き寄せて攻撃とはずいぶんとたちが悪い。



何とか射程距離から離れた俺たちはとりあえず地面に降りた。と同時に姉ちゃんを能力から出した。


「なっなんだそれは、それが貴様の魔法か」


「よっと、あれ?昼のエルフさんもいるじゃない?私が出たってことは空から作戦は失敗ってことね。一回根元まで行こうか」


「アズハ、俺たちの今回の目的ねこの大木ごと俺の世界に入れてゲットしようと思うんだよ」


それから木の根元まで俺の能力について軽く説明した。不用心かもしれないがさっきの話を聞いてまだ、魔王軍側だとは思わない。


「随分とユニークな魔法だな。しかし、貴様本人が戦うことはできないのではないか?仮にも勇者であるならば貴様本人の戦闘力は必須だと思うが」


痛いところを突く。


「だけどさ。他の六魔勇、ああえっと、魔族側に召喚された勇者のことなんだけど、あいつらの能力だって戦闘って感じじゃないけどな」


キガという奴が大量に魔物を支配し、操る能力。それにラーシュはあらゆる種族の弱点を見つける能力。確かにそれぞれ強力な能力であり、実際、被害は出ている。だが、一対一となれば、どちらも強いのだろうか。


「魔族の定義は知能や戦闘力のきわめて高い魔物。つまり能力以前に戦闘能力は十分備わってるわ、いろいろできるわよ」


だからこそ、昔人間は団結して何とか勝利を収めたといううことか。


「それにその昔の戦いっていうのは魔族対魔族以外ってのが真実よ。あの頃の魔族は全種族にけんか売ってたから」


「懐かしい。我も人間にせがまれ力を貸してやったのを覚えている」


ということは魔族以外が全員団結してようやく勝利したというのが歴史の真実というわけか。それで、今はエルフやドラゴンはほぼ絶滅、、しかも転生した勇者六魔勇...


「なあ、この世界誰が救うんだ?」


「あんたよ、勇者アレンド」


これまでになく、勇者という肩書が重かった。


そんなこんなで木の根元までたどり着いた。


「俺の能力は、対象物に魔力を通すことで俺の創った世界に入れることができるんだ。だから、、こうして、木に触れば、、、」


今思えば、不用心ではあるがそれでも仕方がないとは思う。いや、まだ俺はこの世界を甘く見ていたのかもしれない。


「下がれ!!」  「危ない!!」


その瞬間。アズハが俺を後ろに引っ張てくれた。そして、俺のいた場所には細い無数の針のような枝が空から発射され、刺さっていた。


「だめだ!ここも危ない!間に合わない!!」


「アズハ、俺の手を取って魔力を流させてください!!急いで!!」


空からの無数の針攻撃が来たかと思うと、今度は根っこが動き始め地面に引きずり込もうとしてきた。



間一髪だった。上にばかり気をとられていた。まさか、根っこも同じように攻撃してくるなんて、、この世界の植物は頭おかしい


「はあ、はあ、はあ、これが貴様の世界か」


「俺は入口と出口が一緒である必要があるんで、出た時にすぐ逃げられるように少し、休みましょう」


とはいえどうするべきか。ベルガーに乗っていくか、根元から行けば簡単に魔力を流し、木を世界に入れられると思っていたが、想像以上に攻撃が速かった。もっとスピードがなければ...


「そうだ!アズハ、変身魔法って俺にもかけられるか?」


「君が羽を生やして飛ぶというのは無理だ。そもそも変身魔法は自分にしか使えないし、なにより君の反応速度ではどんなに早く飛べてもあの枝の攻撃を避けきれない」


(私がこいつを抱きかかえれば、枝の猛攻をすべてよけきつつ、近づくことぐらい造作もない。ただ、それでは意味がない)


「分かった。俺に考えがある。アズハ、少し協力してもらえないか」


「内容次第だ。言ってみろ」


「俺がベルガーに乗って近づくからそのサポートを周りを飛んでかく乱する役割をしてもらいたい」


(先ほどのことを忘れたのか。そちらのベルガーと呼ばれるドラゴンはかなり弱っている。今の彼の状態ではよけきるどころか、こいつごとあの木の栄養になるだけだというのに)


「了解した。便乗しようというのだ、協力は惜しまない」


「いくらベルガーでもあの果物に当たったら致命傷よ、できるの?」


「やってみる。ここに来るまでの魔物との戦いで特訓はしたから」


アズハはその会話の意味が分からなかったが、あえて聞かなかった。それはその何かがこの勇者の切り札だと感じたからだ。そして、この勇者を見極めるポイントだと。


周りから見えなくなるように約一時間休憩を取り、夜中2時。戦闘開始となった。


「いいんだな。私はあくまでかく乱しかしないぞ。それに忠告もした。今の弱りきったベルガー殿では確実に攻撃に当たると」


「ああ、考えはある、行こう!」


アズハは自身の羽で、俺はベルガーの頭に乗り、一斉に先ほど根に襲われたところから大きく空に舞い上がった。


「ベルガー、手筈通り避けられないと思ったら合図を頼んだ」


「了解した」


まず、先に枝の射程圏内に入ったのはアズハだった。その飛翔はあまりにも速くあまりにも美しかった。そして、何本もの枝がアズハに向かったところで俺とベルガーでつっこんだ。アズハのおかげで明らかに枝の数が少ない。


「手を離すなよ、わが主」


右へ左へ。前世で乗ったジェットコースターとは比較にならないほどの勢いだった。一本、また一本とアズハに負けぬほど華麗にかわしていく。だが、大きさの違いもあり、もちろんすべてではない。


「主任せた!!」


正面からまるで砲弾のような攻撃が来た。これだ。待っていたのは避けられない攻撃ではなく、正面からの攻撃だ!


『ゲートオープン!!』


成功した。直撃の瞬間ベルガーの目の前にゲートを生成し、ベルガーだけを一旦能力内に戻し、俺が枝に乗る。多少強引だが、正面からなら吹き飛ばされる心配もない。タイミングを少し間違えればベルガーがもろに食らうか、俺が枝に乗れないかの危険な賭けだった。


「はあ、、ドラゴンでできた装備が衝撃で飛んじまった、これで少しでも近づかないと」


少し、枝の動きが止まったが、走りだすと当然木は自分の枝に乗ったものを振り落とそうとする。上下左右前後に振り回されるが竜に乗った経験を活かし、死ぬ気で耐える。


「まさか、あの枝を避けるのではなく、あの枝に乗ろうなどと思う者がいようとは命知らずにも程がある」


(あの刹那のタイミングでゲートを開き、自らは枝に乗る。なるほど無茶苦茶ではあるがここまでは作戦通りか)


「...それで、俺の出せる最大のゲートの大きさがこの木の幹がギリギリ入るぐらいなんです」


昨夜の作戦会議までさかのぼる。


「そんなに大きく開けれるのか」


「まあ、とにかくギリギリです。なので俺が何とかしてあの木の上まで行くのでそのタイミングでアズハさん。枝ができるだけたくさんそのゲートに入るようにしてほしいんです。イメージとしては木が姿勢を正してるイメージで」


「要はそのゲートに枝をできるだけ入れたいということか、任せろ」


「しかし、人間、貴様のその能力は対象に自分の魔力を通す必要があるのだろう?ならば直接触れたとしてもかなりの時間がかかるのではないか?」


そう。仮に俺だけの力で魔力を通そうとするとおそらく1ヶ月以上かかるだろう。


「そこで姉ちゃんの、女神様の出番なんです。あらゆる生き物から魔力を吸い取り、与えることができるこの力を応用します」


前回の骸骨戦。姉、マリエルの能力を光魔法を付与するのだとアレンドは理解したがそれは違うらしい。


「私の魔法は自分の魔力を吸い取り、与えるの。というかこれは私のというよりは神様なら誰でも出来るんだけどね。でも普通神はこれを神同士でしかできない」


誰か1人神が弱った場合その神を助けるため他の神が魔力を注ぐ。そのための魔法だそうだ。


「でも私の魔法、《アポロン》は光魔法をこの世の全てに付与する魔法。つまり、光魔法っていう形でこの世の全てに魔力の移動ができるってわけ」


「えーと、つまり、魔力を付与したり、吸収したりする女神固有の魔法とマリエルの全ての光魔法を付与する魔法を組み合わせるっていうこと?」


「そーゆーこと!」


枝から吹き飛ばされた俺は木のはるか高くまで飛ばされ、まだ上昇し続けている。


『ゲートオープン!!』


上がりきる手前でゲートを開き、手はず通り、少し間をおいて俺がおちはじめたあたりでそのゲートからベルガーが飛び出して口で俺をキャッチする。そして、そのままの勢いで急降下し、作戦通り俺を木のてっぺんに置くことに成功した。


「あとは、我はエルフを手助けする。任せたぞ、わが主」


「はあ、はあ、、、こ、、怖かった」


地面ではないがようやく足がついて安心した。



「ここまで順調みたいね。行くわよ」


そういうと俺の心臓の部分に手を当てた。これは木から吸い上げた魔力を俺に流すためだ。俺が対象をゲートに入れるためにはその対象に俺の魔力を流す必要がある。だが、俺の全魔力ではこの巨大すぎるドラゴンツリーの半分ほどしか届かない。


「なるほど、そこでマリエルが木から魔力を吸い取り、アレンドに渡す。そしてアレンドが魔力を気にそそぐ。要するに木の魔力をアレンドの魔力に変えるための変換を担うわけか」


「そう、そもそもはあのフルーツ一個か二個とるだけで終わろうと思ってたけど、姉ちゃんにその能力があるって聞いて思い切ってこの作戦にしてみた」


思えば、骸骨を倒すときに俺の剣や、魔法陣の内側全体を光らせていたのはその能力の一部だったということだろう。まさか、吸収もできるとは思わなかったが、本人曰く


「私の能力の本質は魔力の交換ってことになるのかな。だから何かに私の魔力を纏わせられるし、吸収もできる」


「強いじゃん」


「弱いと思ってたって顔ね」


このままだと、ドラゴンツリーに俺の魔力がいきわたるまでかなり時間がかかる。外の二人が、特にもう体力が限界に近いであろうベルガーが心配だ。


「ねえ、アレンド。ここには攻撃は来ないの?私たちがこの木を一番攻撃してるってことにならない?」


「いや、大丈夫だよ。そもそもこの木は敵意に反応してるとかじゃなくて動くものに反応して攻撃してるだけだから。だからここに乗れた時点で安全だよ。まあ、外の二人が注意を引いてるからこそだけどね」




先程根っこに近づこうとしただけで攻撃が来た。今回のように囮がいなければ今こうして動いてるだけで攻撃対象になってしまうだろう。


俺が枝に乗った瞬間。枝が止まり、走り出すと枝も動き出したことで確信した。


一方、外ではアズハとベルガーに限界が近づいていた。


「不甲斐ない。そなたはひたすら枝をかわし続けているのに我はたまに射程に入り、枝の興味を引くことしかできん」


「そのようなことを言うな、あなたほどのものが。それに私がやるといったのだ。あなたはもう休んでいてもよい」


「聞くが、そなたは何故、ここまで我らに協力する?命を賭けてドラゴンフルーツが食べたいというのは少し違和感があるが」


「私はずっとドラゴンを待っていたんだ。ここにいればフルーツを求めてドラゴンが来ると....そしたら、、、魔王城にせめてやろうと!!」


思いがけない告白にベルガーは驚いた。


「同胞が殺されてから私は仲間が欲しかった。無念を晴らすための。行き場のない怒りを、頼りにしてくれる仲間を。だからあいつらを試してるんだ」


私1人では何もできない。だからこそ長年待っていた。共に戦ってくれる仲間を。命を預けられるほどの強者、じゃないと無限に近い命の使い道が分からない。


「わが主の鑑定中というわけか、ではその評価に少しばかり付け加えるとしよう、われの評価は主の評価であるからな」


ぶうおおおおんんんん。破裂音にも聞こえるほどの大きな風の音がした。それがベルガーが最後の力で翼を羽ばたかせ生み出した竜巻だった。


「み、見事だ、、、」


アズハを追っていた数百本の枝が突然吹いてた竜巻によりお互いに絡み合いそのまま先端の果物の重みで期せずとしてアレンドが指定した枝の状態となっていた。


「いける。魔力も全体に行き渡った!今よ、アレンド!」


『ゲーーーーートーーーーーーオ――――――プーーーン!!!!!』


今まで作ったゲートの中で断トツの巨大なゲート。維持することだけに全神経を注ぐ。


「いっけえええええええええ!!!」


「それに、村人たちが困っているならさ。ついでに助けられるならその方がいいじゃん」


アズハの脳内に先ほどのアレンドの発言が思い出された。例え、理由はどうであれ、結果として人々を助けるという選択を取った彼の発言を。


「すごい、こんなこと普通は出来ない。認めよう。君は紛れもなく私が待っていた強者だ。紛れもなく勇者だよ」


目の前で何百年も見てきた大木が見る見るうちに消えていき、同時に大木で隠れていた朝日が見え出した様を見てアズハは心に決めた。この勇者に命を預けてみようと。


「はあ、はあ、はあ、久しぶりの地面な気がする」


久々の地面に仰向けに倒れているとアズハが手を差し伸べてくれた。


「私は決めたぞ。君の魔王討伐の旅に、同行する。私は君の今回の活躍に感動し、君の力にになってもよいと考えた」


「ほんと!うれしい。兄弟だけってのはなんか旅が味気なかったの。だからよろしくね、アズハ」


隣で元気よく喜んでくれているのもうれしいが肝心な本人の反応がない。


「おい!貴様に聞いたのだ。返事ぐらいするのが礼儀ではないのか」


「ええ、?もう、む、りつかれた、、あ、と、でもっかいいってくれ」


「あっ寝た。まっしょうがないか、頑張ってたし、特別に私が村まで運んであげるわ」


「おっおい!私はお前たちについて行っていいのか?」


マリエルは少し考え、嫌な笑いをした。


「うーん、私たちのリーダーはアレンドだから。本人も言ってたし、さっきの言葉もう一回言ってあげて」


「ばっ馬鹿言うな。あのようなセリフを二度も言えるか!」


「ああ、ベルガー。ごめんね。アレンド起こしたらすぐ戻るから」


「了解した。ならば我も眠らせてもらう。あと、アズハ殿そこらに散らばるドラゴンフルーツを我の体の下にでも隠しておいてくれ。これは我らの戦利品。横取りするもされるも気に入らぬ」


今回の戦利品。ドラゴンツリー、ドラゴンフルーツ。そして、追加メンバー、エルフのアズハ。俺たちの旅は予想外だらけではあるものの、順調だった。


「うんめえええええええ!!!」


翌日。朝起きて俺たちはまず、村を出てそれから昨日俺の世界に入りきらずに落ちたドラゴンフルーツを食べることにした。 


一応ドラゴンツリーは謎の消滅となっており、村人からは喜びの声が上がっている。どうやら日の当たり具合や動物などを勝手に殺してしまうなどかなりの問題があったらしい。ここで悲しみや、怒りの声がなかったことでとりあえず一安心した。


「おいしい!!」


「ずいぶんと久しぶりに食べた。長い間誰も食べていなかったからか、実が熟されているな!」


その赤く、とんでもなくかたい皮をベルガーに剝いてもらうと中からはまるでゼリーのようなみずみずしい実が飛び出し、三人で一つの実を分けても、食べきれないほどのボリュームだった。


「この木の実の味を知ってたら今回のこと、この辺の人にめっちゃ怒られてたかもね」


「まあ、かもしれないがどのみち奴らにはこの実を収穫する手段などない。同じことだ」


「ん?ところでアズハはなんでいるんだ?」


昨日はドラゴンツリーを世界に入れた後のことは記憶にない。何かまだ、やることがあっただろうか?


「私もドラゴンフルーツを獲得するのにかなりの活躍をした。ならば報酬はその木と実を要求するのが当然。しかし、そのドラゴンツリーは君の世界にあり、その実はベルガー殿でなければ開けられない。ならば、私は自分の報酬のために貴様に付きまとう必要があるだろう」


アズハはニヤついた顔をしてこちらを向くマリエルを無視し、食べ続けた。


「そういや、アズハは何年もドラゴンフルーツ狙ってたって言ってたもんな。確かに横取りみたいになっちまったな」


「構わん。それにそうだ。私があの村で人間のふりをしていたのはドラゴンフルーツのため、ならばその目的を奪い取った貴様らに同行することが私の次の目的になるのは必然だろう」


アズハってこんなに喋ったっけ?


「なあ、ベルガーは?いらないのか?」


「だめよ。ベルガーすでにとんでもない数食べてるわよ」


そういえば、あの時落ちていたのは数十個あったはずだ。すべて食べたのか。


「ああ、おかげでかなり回復した。これからは我の更なる活躍を約束しよう」


これからか...できれば、今回みたく危ないことは避けたいんだが、そうもいかないだろう。今のところ目的地すべてで何かしら問題が起きている。運が悪いのか、それともこの世界がすでにそれだけ不安定なのか。


「次の目的地はどこなんだ?姉ちゃん?」


「次は一旦、近くの町に行くわよ。ずいぶん前のようだけど、私の当初の目的地」


ん?そういえば、ここに来たのは俺が言い出したことで元々このあたりに用事があったと言っていたな。


「マリエル、この辺ということは、、まさかあれか!!」


「ええ、そうよ。あ!れ!よ!」


急に女子二人のテンションが跳ね上がった。


「そうか、アレンド、君はあれを知らないのか。人生を楽しみたくない人なのか?」


言いすぎだろ。


こうしてチドンを後にし、次の目的地へと歩き出した。


「にしてもベルガー合わせて4人。だいぶ勇者パーティーって感じがしてきたんじゃない?」


「こういうのって普通さ、戦士とか武道家とかいるもんだけどこの世界じゃそんなもんそもそもないんだろうな」


「そうね、この世界は魔法が力の源だから体を鍛える人って少ないみたいね」


RPGみたいだからドラクエをいつまでも引きずっているがそろそろ切り離した方が良さそうだ。そもそもドラクエといえばのあいつだっていないのに...


「はあああ~~~か~わ~い~い~~」


そう考え事していると女子2人が何かを見つけて座り込んでいた。


「なに?ウサギでもいた?」


「ほら、アレンドあんたがずっと見たかったもんよ」


そこには青くてぷにぷにしていてそれでいて弱くてそんな誰もが知ってる可愛らしいあいつがいた


「スライムだーーー!!!」


チドン山から僅かに歩いたところ、サランという町。今までの村より明らかに発展しており、人口も非常に多い栄えた町。だがそれ以上に驚きなのは右を見ても、左を見ても、いたるところに見慣れないスライムと命名された魔物が町で人々と共存しているということである。


「確かに、、、か、かわいい」


「ここにはね、世界的なスライムの研究所がいるの。スライムってのは魔物の中で一番シンプルな構造してるからね。町の中にいるのは無害化されたスライムたちなの」


ここで以前した話を思い出した。


「なあ、姉ちゃん、この世界にはスライムがいないって話をした気がするんだけど」


「そうなの、本来はこの世界にスライムなんて魔物は存在しないの。しかも、この見た目。完全にあなたが前いた世界にいたやつでしょ」


そうだ。百歩譲ってスライムがいたとしてもこの見た目は完全にそのスライムだ。両方を知っている俺からすれば完全にそっくりだ。


「そうなの。だからここにあるスライム研究所。もしかしたら何か転生者に関係があるのかもしれない」


なるほど。ここに敵がいるというわけではないが、無視することはできない。


「それに、スライムというのは繁殖能力が極めて高い。アレンド、君の世界は寂しいと言っていたな。ならば、二匹飼うのを提案しよう。いや、必ずそうしろ!!」



圧を感じる。町中のスライムは誰かのものというわけではなく、無害化されたスライムが研究所から放たれているという感じだそうだ。ということで適当にそのあたりにいたやつを二匹捕まえ世界に入れてみた。


「先ほども言ったが、スライムというのは繁殖能力が高い。本来は様々な魔物に捕食されるがまあ向こうの世界ではドラゴンツリーがある程度倒すだろう」


先ほどから、常識のようにスライムについて語っているが、この町にしかいないんだよな?先ほどからのテンションの上がり方といい、ドラゴンツリーではなく、スライムが新目的だったのではと考えてしまう。


「ってことは、ドラゴンツリーの栄養問題も同時に解決したことになるのか。やや、スライムがかわいそうな気はするけど、むやみに繁殖され続けても困るか」


とりあえず宿に行き、アズハが加わったことだし、改めて今後の旅の大まかな流れをまとめることにした。


「今、私たちはまず、レーベ王国の中のメルキドという村を出発して、ザハンという村に行きました」


「一生分の骸骨を見たな」


「次にドラゴンツリーが山頂に生えたチドン山」


「そのふもとの村でアズハに会ったな」


「そう思うと君たちもまだ旅を始めて全然経ってないんだな」


机の上に大きな地図を開き、豪快に線を引いた。


「これが私たちの大まかな旅のルート。とりあえずの目的はルナハート城。ここは私たちがいるこの大陸でもっとも強大な王国。ここなら新しい情報があるかもしれないし、船で別の大陸に行くっていう選択肢も取れるからね」


この世界にはいくつかの大陸が存在し、大陸によって文化や文明はまるで異なる。このアレンドたちがいる大陸の中ではルナハート王国が最も強大であり、また、海も近いためほかの大陸に向かうためには必ず行かなければならない目的地となる。


「到着したら多分、私たちの話を王様が聞いてるだろうからうまいこと行くと思うわ」


フラグ立てるつもりはないが、本当にうまくいくだろうか。なんせこの世界に転生して思い通りに行くという経験がまだ一度もない。


「なるほどな。勇者一行として大まかな計画はあるんだな。しかし、その王国やほかの大陸に行くと、周りの魔物は強くなる。アレンド、君の場合はもう少し強くならなければ話にならないぞ」


たしか、女神様、つまり姉ちゃんが言っていた。俺の転生先として選んだメルキドは最も魔王城から遠い。つまりは被害も少なくまた、周りの魔物もさほど強くはない。


「ちなみに魔王城に近づくほど魔物が強いのは、魔王がそうなるように魔物を配置してるとか、魔王に近い魔物ほど自然と強くなっていくとかいろいろな説があるわ」


なるほどな。これがゲームならば、ゲームだからで説明がつくがここはゲームの世界ではない。


「とりあえず、この町である程度休んだら次は長旅になるけどルナハートを目指すわ、それでいい?」


「問題ない」  「ああ、いいよ」


この村ではそのスライム研究所を調べる以外は特に目的はないので、とりあえずはそのまま寝ることにした。ちなみに寝るときは今までは俺と姉ちゃんで一部屋だったが、アズハがいるのでそうもいかず、かといって二部屋はぜいたくなので俺は自分の世界に戻って寝ることにした。だったら全員それでいいのでは?と思ったが、宿屋に止まらなければ旅人として周りから怪しまれるとのことだ。


「うわあああ!」


自分の作った世界に戻ると本来そこは緑が一面の綺麗な景色のはずだが、今は青一色となっていた。


「我も驚いた。このスライムというのはとてつもない繫殖力であるな。多くはツリーに吸い寄せられておるからこれでもかなり抑えられてはおる」


1体抱きかかえてみた。さすがにあの誰もが知っているスライムよりは可愛くないが、ペットとして十分すぎるほどかわいかった。しかし、こんなに繫殖力があるものだろうか。


「人間に無害になるように研究されたって話だったよな、、なら、繁殖力が強くなるようにしてある?」


何のために?それにだとすれば町のスライムの数にも違和感を覚える。この世界でのスライムを見るに本来なら足の踏み場もないほどに増殖していそうだが、、、


気になって寝れなくなってしまった。能力から出て、2人を起こさないように宿屋から出た。


「まあ、何もなければ何もないで特訓すればいいんだけど」


とりあえず、町を散歩することにした。夜は静かというわけでもなく、スライムのポヨみたいな効果音がそこらじゅうで鳴っていた。


「すごい、、星がきれいだ、、、」


前の世界では、俺は都会のど真ん中で育った。だから夜に空を見上げたって周りが明るくて星なんて綺麗に見えなかった。


「...いつまで覚えてんだろ。俺、前世のこと、、、」


この世界に転生して、アレンドとして転生してもう10年。昔の地球にいたときの記憶もだいぶあいまいになってきた。クラスメイトなんてほとんど思い出せない。


(いつかは、転生したってことすら忘れるのかな)


そんな思いにはせていると、目の前の星がひときわ大きく輝いて見えだした。その輝きは一等星なんてものではなく明らかに不自然な輝きを放っていた。


「星、、、?いや、違う!!」


それは近づくにつれ人の形をしていた。人の形をしたものが空から現れた。


「どうも、勇者さん、初めまして。私は六魔勇の一人のショーチーク。呼び名はショーで構いません。私はあなたを始末しに来ました」


敵!それもあまりにも正面から、いや、空からくるとは思わなかった。まさか六魔勇の1人と出くわすなんて。それに、もう、バレているのか、勇者だって。


「なんですか?そもそも勇者って、、人違いしてませんか?だって僕はただの旅人ですよ」


「ふふっ。無理ですよ。絶対の自信がないとこんな演出じみた登場しませんよ。あなたがレーベ王国で勇者として任命されたことは調査済みです」


そういうと、おもむろに近くにいたスライムを引き寄せ、掴んだ。


「しかし、そうだね。念の為確認しておきましょう」


そういうとスライムが突然光だした。


「ん?おお!君は当たりじゃないか!僕らと同じ転生した勇者!この世に腐るほどいる勇者の中の真の勇者だ!僕は運がいいなー」


バレた!どうやったかは分からないが今、この瞬間に俺が転生した勇者だとバレた。いや、、、落ち着け。今バレたということは魔王軍全体にバレたというわけでは無いはずだ。


「せいかーーい!僕らはいろんな町で勇者と会っては始末してるんだ!だから君が本物の勇者で僕もびっくりしてるよ!どうする?今、僕を倒したら平和な旅が続けられるけど、僕魔王さんに言うかもよ」


心を読まれた?こいつの魔法は心を読む魔法?だったらさっきのスライムはなんだったんだ?それに最初は空を飛んできた。魔族はそもそも全員空を飛ぶのか?


「いいよー!考えて、考えて!君ならそんなに難しく無いからさ!そう、同じ世界から来た君ならね、ヒントは悪魔だよ」


突然目の前の敵に向けて俺の後ろから矢が飛んできた。


「アレンド!大丈夫か!」


そこにはイメージとは遠い可愛いパジャマを着たアズハがいた。


「エルフは睡眠中だろうと物音には敏感でな。気になって私も君の後をついてきたんだ」


「おや、エルフの生き残りかい?ん?どうやらドラゴンの生き残りもなんと女神の生まれ変わりもいるのかい?随分と豪華なメンバーじゃないか」


「アズハ、姉ちゃんは?こいつは六魔勇!」


「マリエルは全く起きなかったよ。それより、こいつが六魔勇...」


アズハは問答無用に攻撃を始めた。


そうだ。アズハは仲間をこいつと同じ六魔勇に滅ぼされている。異世界から転生したという情報だけで弓矢を抜けられたのは今でも覚えている。


しかし、そのアズハの弓矢を躱した。


「私たちを倒しにきたのか?相手をしてやろう!」


「僕のいくつかあるアジトのうち一つははこの村の近くの川辺にあるんだ!だから来てよ、全員僕が相手してあげる」


そのふざけた態度にさらにアズハの怒りが溜まる。続けて弓矢を打ち込む。


「危ないなー全く、勇者ならさこんなところで戦おうとしないでよ。せっかく村の人を巻き込まない提案をしてるのに。もし、、、そうだなー1週間経っても来なかったら...」


その瞬間。威圧感が増した。怖いと目の前の敵に心の底から感じた。


「この村、無くしちゃうから」


そういうと再びスライムを掴む。先ほどのように光出すと、きた時のように空を飛んで消えていった。


「アレンド!大丈夫?」


宿に戻り、マリエルをたたき起こしアズハが来る前に起きたことを説明した。


「六魔勇、ショーチーク、、、まさか、こんな序盤で六魔勇本人たちに出会うなんて...」


六魔勇、一人だけ知っているがそいつが残した魔法陣だけで十分強さの違いを見せつけられた。その時、これから強くなっていずれは...なんて考えていた。それなのにここにきて本人が出てくるなんて。


「どのような魔法なのだ?空を飛んできて、心を読んで、、スライムを光らせるのはそういう条件なのか?」


あの感じからしてショーチークは自分の魔法を隠す様子は無かった。つまり、あのやり取りだけで答えを当てられるはずだ。


「あいつらの魔法は全員チート能力なんだ。周りにスライムがいないと発動できないなんて魔法、チートって言えるのか?」


あいつは俺に君なら分かるといった。それにヒントが悪魔...


「ねえ、魔族は人と違っていろいろできるって言ってたけど具体的には何ができるの?」


「そうね、人間と違うところはまず、基礎的な身体能力が全然違うの。それに再生能力があったり、自分の血を分け与えた動物を眷属にできたりとかかな?」


ということは空を飛んでいたのもスライムを引き寄せたのも心を読んだのも魔族としての能力ではなく、あいつ自身の魔法。3つも、別の魔法を使えるのか...悪魔...


「魂と引き換えに3つの願いを叶えてやろう」


「それはなんだ、アレンド?」


「俺のいた世界のなんていうかな言い伝えというか、悪魔の常識って感じかな。あいつ俺にヒントは悪魔だって言ったんだ。だから、そういうことなのかも」


つまり、何かの魂と引き換えに3つの魔法が使える。そういうことなのかもしれない。


つまり、無限に繁殖するはずのスライムがこの町にはよく見る程度で済んでいるのはあいつが魔法の発動に利用しているということなのかもしれない。


「仮にそうだと仮定しよう。しかし、その場合あまりにも強いぞ。なんせ魔法は本来多くても2つ程度だ。それが3つしかも、組み合わせを考えると数えきれないことになる」


アレンドは本来であるならばこの状況、真っ先に逃げ出していただろう。だが、この村の人たちを人質のようにとられてしまっており、現状見捨てるという選択肢は取れなかった。


「とりあえず、、1週間ってあいつは言ってた。川はこの村からも見えるからそんなに遠く無いはずだ。だから、それまで準備をしよう」


「アレンド、、そうね。なにも今からすぐ行くって訳じゃないんだから。一旦今日は寝て、明日考えましょう」


まだ深夜、疲れているからこそ今はマイナスなことばかり思い浮かぶ。


「そうだ!ベルガーなら相手が誰だろうと勝てるんじゃないか!だって竜は最強の種族なんだろ?相手が魔族だって関係ないよ」


「そうだな、我も主の力にはなりたいと思う。だが、どのような敵かは分からぬ以上我が出れば勝てるという単純な話ではないのかもしれぬな」


それでも、ベルガーが協力してくれればもしかしたら勝てるかもしれない。


「主よ、以前言っておったな、自分の力は便利な能力ではあっても戦いに向いていないと。確かに、それを否定はしないが、しかし、この能力決して弱い能力だとは思わない」


確かに分かっている。いつかは1人で戦うのだ。ベルガーや姉ちゃんに頼ってばかりではいけないのは分かっている。


「それに竜は誇り高き生物。弱いものを主とは認めぬ。だが、もう一度言う。我は決してお主を弱いとは微塵も思わぬ」


「そりゃあ、そういってくれるのはうれしいが。相手は同時に三つも能力を使えるんだ。対して俺の能力はこの世界そのもの。どうすりゃいいんだ?」


「お主の強みはこの魔法ではない。お主ならきっと勝てる」


無責任にそういうと、眠りについた。


それから俺は1週間、アズハに訓練をしてもらいつつどうすればいいかを悩み続けた。どうすれば勝てるのか、ショーチークの魔法に弱点はないのかを...


一方、2人が訓練をしている間、マリエルは1人で調査をしていた。そこは3人で話し合い誰かが乗り込もうと決めたところであり、暇なマリエルが行くという結論に至った。


「ようこそ!ここではスライムの生態を研究しているんです!」


アレンドの推察が正しければ、このスライム研究所は相手の能力に不可欠ないわば相手の重要拠点。だからこそ、戦闘するつもりで来たが、想像以上に歓迎された。


「こら!子供達ここじゃあ遊んじゃダメって言ってるでしょ。危ないから、外で遊んでらっしゃい」


「ええっと、この子達は?」


「この子達は親が他の街に出稼ぎにいってたり、親が魔物に襲われてしまって1人だったり...そういう子をうちで保護してるんです」


案内人のようなこの人に聞いたところこの建物は一階は子供の託児所、2階がスライムの研究所となっているらしい。敵の能力に利用されているスライムを作った施設。マリエルの警戒は間違ってはいないが、その警戒も完全に空回りすることになった。


「そうなのね。すごく、良い施設なのね」


「ええ、スライムの研究もどんどん進んでいずれ人の役に立つと思ってます!」


(完全に毒気を抜かれちゃった。ならショーチークはこの施設からスライムを奪っているということなのかしら。なら、ここにいても収穫は無さそうね)


「そうだ!是非うちの所長に会って行ってくださいよ!私たちの自慢の上司なんですから!」


「そうね、私も会ってみたいわ」


2階に上がり、所長室のドアを叩いた。そこからは人柄が良さそうな声が聞こた。


「お客さんかい?いいよー入って!」


「さっどうぞ。我らが所長、クロム所長です!」


そこにいたのは確かに人当たりが良さそうな好青年だった。想像以上に若く、しかし頼りがいのありそうな人望を感じられるにと出会った。普通の人から見れば...


マリエルは腰に閉まっていた鞭を取り出し、一瞬で戦闘態勢に入った。


「どっ!どうしたんですか!?」


「クロエ、お客さんの案内お疲れ。私は昔から人に警戒されがちでね。心配ないから子供たちとの遊びに戻っておいで」


「は、はあ、分かりました、、、失礼します」


そういうと不思議そうに部屋から出ていった。


「さて、、、あなたのその反応からして随分と面白いことになってるみたいですね。これは大変だ」


大変とは言いつつもまるでその素振りもなく椅子に座ったままコーヒーに手を伸ばした。


「随分と人間に慕われているのね、それともこの施設の人達はみんな魔族なのかしら」


「あなたたちの、女神の目を欺く術はありませんよ。私以外は普通の人間ですよ。それに洗脳みたいなこともしてません。ここに人たちは自分の意思で私に従ってくれています」


人がたくさん働く施設のトップが魔族という驚きにマリエルは困惑していた。


「目的は何?」


「さっきの子に聞いたでしょう?この施設はスライムの研究、保育所としてこの町のためになることをするそれが目的ですよ」


鞭を持つ手に力が入る。この施設の中にいる以上、ここは相手のエリア、油断できない。どこから攻撃が飛んでくるかもわからない。


「魔族が人道支援?そんなこと信じられると思う?」


「そうでしょうね、魔族がいいことをするというのは神様が悪いことをするようなものですから」


何を言っているんだ。こいつは。


「あなたは六魔勇のショーチークの部下ってことでいいのかしら?」


「そうですよ。なるほど、やはりあの人が仕掛けたわけですね。ですが、私は今回は戦いませんよ。それにあの人は魔王に命じられてあなたたちを倒しに来たわけではないですからね、あの人の行動原理はよく分からないんです。部隊長の私にも。ですから私を倒しても、私から何かを聞き出そうにも諦めた方がいいですよ」


何も知らないし、何もしないので。そういうと書類仕事を再開した。マリエルはすっかり毒気を抜かれ、戦おうという気はほとんど失っていた。


「ただ、あの人は勇者を審査するんです。基準は分かりませんが。そして興味があれば生かします。なくなったらその相手を殺します」


あなたたちの勇者が後者であることを願ってますよ


結局、何も得られないままマリエルはアズハとアレンドが修行をしている町の外れまで帰った。


(ショーチークには勇者を生かす気があるんだわ。なら、アレンドがその基準をクリアできれば...)


しかし、他の勇者と比べてもアレンドは実戦経験だってない。それに魔力や魔法もまだまだ他の勇者と比べてはどうしても劣ってしまう。


希望は見えてもやはりそれは薄く細い線のようなものだった。少なくとも、この時マリエルはそう思った。


「すごい!これなら確実に意表をつける!何とかなるかもしれないぞアレンド!!」


戻り、2人の修行を見に行くと、何かをつかめたようで興奮していたアズハの横にはなぜか気絶したアレンドが倒れていた。


そうして一週間後。決戦の日。


「やっと一週間かーー。待ちわびたよーー」


そこには小屋の前でまるで貴族のティータイムのように優雅にコーヒーを飲むショーチークとその斜め後ろに若い青年が執事のように立っていた。


「自分で日時を指定しておいてよくもまあそこまで余裕でいられるものだ。私たちが今ここで魔法を打つ可能性は考えないのか」


そういうと戦闘態勢に入ったアズハを見てショーチークはわざとらしく焦った。


「あっ危ないよ、、そんなの人間に向けたら死んじゃうよーー」


「クロムでしたっけ?そちらの人もあなたも両方魔族。死んでくれたら助かりますけど、死なないんじゃないの?」


そういうとクスクスと不気味な笑みを浮かべた、


「そうだね。紹介しとこうか。おーーい出ておいでーー」


「わああああああ!!!」


これには戦闘態勢だったアズハもマリエルも完全に意表を突かれた。中から出てきたのは5人ほどの子供たちだった。


「しょちょーー、、ゲームまだーーー?」


「今ちょうど相手が来ましたよ。だからもうすぐ始まりますよーーー」


「おい!その子たちをどうする気だ!」


「おっ!そのセリフはずいぶん勇者みたいだね。君が勇者ぽいというより今のは僕たちが悪者すぎるかな?安心してよ、この子たちには何もしない。ただ君たちに僕の言うことを聞いてほしいからさ、、とりあえずこっちに来てよ」


従わざるを得なかった。当初の予定ではベルガーに遠くから炎を吐いて先制攻撃をして様子を見るところまで考えていたが、そうはいかなかった。


「さて、僕は君の今の実力が見たいんだ。君だよ勇者アレンド。だからさ。この子たちの解放条件はずばり!君が僕と一騎打ちをすること!!」


スライムをつかむと強く光りだした。すると子供たちは死んだように倒れると、寝息が聞こえだした。


「僕の魔法は『ヴェルフェゴール』1つの魂につき3つまで好きな魔法が使えるチート魔法さ」


予想通りの魔法だった。しかし、予想できたからと言って何か対策ができるようなものじゃない。だからこそ、ショーチークも教えるような真似をしたのだろう。それにしても、あいつだって俺と同じように神に召喚されて能力をもらったんじゃなかったのか?どうして悪魔の代表みたいな能力を持っているんだろう。


「それは、僕が神に召喚されている途中で魔王さんが無理やり召喚したからさ。人間やエルフには神の名がついた魔法が魔族には悪魔の名を冠する魔法が与えられる。僕は正真正銘の魔族だってこそさ」


君と同じ世界出身だからってそこらへんは期待しないでよ。


「それじゃあ、他の子たちはその小屋に入ってくれないかい?ああ、君の世界にいるっていうドラゴン君もね」


「すまない、アレンドあいつを殺れば私たちもすぐ加勢する。だから、それまで耐えてくれ」


そう言い残し、小屋の近くまで悔しそうに歩いて行った。相手の言う通りベルガーを世界から出した。


「君がドラゴン君か、大丈夫、殺意はないだろう?」


そういうとベルガーに触れた。その瞬間見上げるほど大きかったベルガーがどんどん小さくなっていき、あっという間に俺たちと同じ目線まで縮んでしまった。


「わが主よ。何も驚くことはない。ただ、我はおぬしの勝利に賭けただけのこと」


そういうと、同じように小屋の方へ飛んでいった。飛ぶときに竜巻を起こしていたベルガーも今の大きさではそよ風が起こるぐらいだった。


「僕の魔法『ヴェルフェゴール』は3つの魔法を使い切ることで次の3つの魔法を選ぶことができる。つまり、3つ魔法を使い切ったならもう全く別の魔法を警戒しないといけないというわけさ」


「ずいぶんと、よく教えてくれるんだな」


「ただの自慢だよ。隠すのも面倒じゃないか。カードをすべてさらしたうえで君の行動が見たいからね」


「それでは私は仰せのままに」


小屋を大きく透明なガラスのような物体が覆いこんだ。


『アンドラス』


「なるほど、これがあんたの特有の魔法?この中にいれば安全なのかしら」


「はい。私の魔法は完全防御でございます。例えショーチーク様がどのような魔法を使われようとこの魔法が破壊されることはありません。ご安心して二人の決闘を見ることが可能でございます」


それだけの防御を張るなら本人は無防備だろうと一瞬考え、子供のことを思い出した。仮に私たちがこいつを倒しても5人同時に抱えて逃げ出すなんてできない。おそらくショーチークの魔法から逃げるのは一か八かになってしまうだろう。


(アレンドにはああいったけど、やっぱり何とかしてもらわないといけない。大丈夫、修業はつけた)



相手は、天界側のミスで魔族側に召喚された勇者、六魔勇。しかも相手はどんな魔法でも使える魔法『ヴェルフェゴール』信じるしかない。


「そうだなーー君と僕には天と地ほどの差があるんだ。だーかーらー君が僕のこと一発でも殴れたら君の勝ちでいいよ。僕はその瞬間君に対する攻撃はやめるよ」


「なるほど、本当にアレンドの強さが知りたいのね。それにしても一発...いろんな魔法をかいくぐってそこまでの間合いに潜り込めるかしら」


「...一発、、なめられたもんね。私はあいつに勝つつもりで修行付けたっていうのに」


この世界に来ていろんなことがあった。だけど、ここまでヒリヒリするようなことは、前の人生含めても初めてだ。勝てるかどうかなんてわからない。

アレンドの中には、恐怖よりも自分がどこまでやれるかという一種の期待のような感情が強く感情として存在した。そして何より強い感情は...


「おい、、もうスタートでいいのか?」


ショーチークは手に持ったスライムを光らせた。相手は3つの魔法を同時に使うまぎれもないチートキャラだ。だが、アレンドにはそんなこと一切関係なかった。


「ん?ああ、もちろんさ。いつでもおいでよ」


その瞬間。マリエルは目を離してはいなかった。正確に言うと、ショーチークが魔法によって宙に浮き、次にどんな魔法を使うのかを見逃さないために集中していた。しかし、決着は一瞬でついた。


ショーチークの顔面は遠く離れたアレンドの拳によって殴り飛ばされた。


「アレンド、お前の魔法、他にもできることはないのか?このままじゃ修行すると言っても何をしたらいいのかも分からないぞ」


アレンドの能力は世界を創るというもの。しかし、これだけでは戦い方すら見当もつかない。


「実は、前から考えていて練習しているものはあるんだ」


そういうと、大きく息を吐き、集中した。


それをアズハが見ていると突然誰かから肩をたたかれた。


「ん?マリエルか?」


しかし、振り返るとそこには誰もいない。アレンドの方を見るとなぜか満足げな顔をしていた。


「今のが俺が練習している技。まだ、全然思い通りにいかないけどそれでもたまにうまくいく」


「今の?アレンドが私の肩をたたいたというのか?」


もう一度集中しだすと、今度は目で見えうるギリギリの範囲の頭上にいつも使うゲート出現し、そこから右手が出てきた。


「つまり、君の新技というのは体の一部だけなら自由に瞬間移動できるということか?」


「うん、ただ、目の見える範囲で、服とかは一切なしでなおかつすごい集中してたまに思い通りの位置に出せます」


本来、アレンドの能力は世界の生成。そのための出入りするゲートは本人であるアレンドは入ったときと出るとき同じ位置でなければならないという制限がある。だが、本人以外は好きな場所で世界に入り、好きな場所で出れる。そこでアレンドは自分の体の一部に対する解釈を拡大し、体の一部であるならある種の瞬間移動のようなことをすることに成功した。


「あの時、ドラゴンツリーの戦いのときにベルガーを世界に入れて別の場所に出したとき、もしかしたらと思ったのが最初です。そこからは毎日イメージトレーニングをしてやっと最近、できるようになってきたんです」


「要するに君は自分の体を自分と認識せずに自分が動かしている自分とは別の物体だと思い込んだという話か?」


「まあ、おおむねそんな感じ。魔法ってのはイメージが大事ってよく言われてたし」


そう自慢げに話しながらもう一回見せようとしたが今度は自分の頭の後ろに腕が出てきて、自分に殴られた。


「なるほど。実戦で使えるかどうかは分からないということだな。ただ、確かに面白いな。一泡吹かせるには十分だろう」


そして現在、運がいいのか悪いのか瞬間移動したアレンドの腕はショーチークの顔を思いっきり殴り飛ばした。


「へえええーーーーー、、、ずいぶんと面白いことしてくれるじゃんそうか、、そんなこともできるんだ、、へーーーーそっかあーー!!」


今までのどこか人を小ばかにしたようなしゃべり方が初めて乱れた。明らかに怒りを隠して声が震えている。


「...すごい、あの能力にあんな使い道があったなんて」


「まあ、まだ完全に使いこなしてるわけじゃないんだけどね。10回やってせいぜい3回ぐらい。一番いいとこで決めれるんだから持ってるよアレンドは」


「すごいですね。魔族の中でもあの人の裏をかける人なんて数えるほどしかいないですよ」


「あなたの上司。このまま勇者に倒されるかもよ。いいの?あなたはこんなところで椅子で座ってて?」


挑発する気でマリエルは言ったが、返ってきた反応は思っていたものとは全く違ったものだった。


「いえ、ただ、あの人が本当に理性を失い攻撃を始めたら私の能力だけでは防ぎきれず、私も含めてここら一帯の生物は絶滅します」


その言葉ははったりではなく、現にショーチークを殴った本人もその恐怖を感じていた。


何もしてこないし、何もしゃべらない。なのにすごくよくない気がする。もしかすると生き残るためにはいい感じに攻撃を避け続けるべきだったのではないだろうか。間違っても一泡吹かせてやろうなんて思うべきではなかったのかもしれない。


ショーチークの内心など知る由もないアレンドは見るからに切れているショーチークを前に後悔していた。ある程度逃げ回ってショーチークが満足するまで耐えるべきかと。


「私の修行の提案はこれだ」


再び、修業の回想。


そういうとアズハは何か白い手袋のようなものを俺にくれた。


「これは魔法の訓練に使うものでな。本来,人に流れる魔力は魔法として外に放出するのだが、この手袋はそれを魔力のまま放出できるというものだ。要するに魔法の練習用の道具だ。その辺に売ってる」


試しにつけてみた。魔力を放出するという感覚がない俺にしてみればただの手袋だった。


「君の能力は、対象に魔力を通せば、世界に入れられる。なら、これを魔法に通せば全ての魔法に対する防御になるんじゃないかと前からかんがえていた」


なるほど、たしかにそれが上手くいけば万能な防御が手に入る。全ての魔法が使えるシャーチークに対する対策としては完璧かもしれない。


この世界には俗にいう防御魔法という概念が存在しない。というよりそもそも魔法の概念がイメージとかなり異なる。基本的に人間は使える魔法は1人1つ。それも20歳で神に祈りをささげることで習得する。その魔法は多種多様で中には死んでから発動するものなんてのもあるらしい。


「だから私最初あなたたちのこと20歳は越えてるようには見えなくてでも魔法は使うしでずいぶん混乱したわ。勇者と女神っていうんなら納得だけど」


ごくまれに神が才能を認め早い段階で魔法を授けることがある。それを多くの地域で勇者や、神の遣いとしてありがたがるらしい。


「エルフにとっては100歳までは全員子供だからそのような考え方はないがな。それにエルフは人間と違い、使える魔法1つではない」


「そうなの?変身する魔法以外もあるの?」


するとアズハは右手を石の地面につけるとそこから矢を生成した。


「これが私の第2の魔法、《アルテミス》右手で触れたものを矢に変換する魔法。ちょうどいいわ。あなたの手袋で魔力放出をして私の矢が防げるかやってみましょうか」


「え?ちょっっちょと待ってよ、まだ、魔力を放出するっていうのがどんな感覚かつかめてないよ」


「大丈夫。いつも魔法を使う感覚とほぼ変わらないわ。それにあなたの横に打つから心配しなくても死なないわよ」


この世界に来て10年。以前の世界ではなかった魔法を使うという感覚が徐々に芽生えてきていた。走ったり、しゃべったり、笑ったりするのと同じように変に意識しない。自然と、それができて当然かのように。


「ほら、できるじゃない。なら、これを練習すればあなたはすごい防御力が手に入るわ」


本来、魔法は避けることが基本となっている。多種多様な魔法の中にはかすっただけでも勝負の命運を決定しかねないような魔法が存在するからだ。ゆえに広範囲な魔法や速い魔法ほど強いという評価につながりやすい。


ここで、アレンドはとあるひらめきをする。そして、それがマリエルが見た光景へと繋がっていくことになる。


再び、戦いへ、勇者はかつてないほどの危機感を感じていた。今までは遊んでいてくれた相手の余裕がなくなっていくのを肌で感じていた。


「よくもよくもよくもよくも、、僕を殴ったね、、死ね!!!」


炎と氷の魔法を両手に構え、一気に放った。


放った瞬間。それは日の光を覆い隠すほどの大きさだった。


どんなに大きい魔法だろうと自分にあたる部分だけに魔力を通せば、よけられる。しかし、よけるどころかアレンドはその先まですでに考えていた。


「空を飛ぶ魔法、炎を出す魔法、氷を出す魔法...これで、三つ。後はもう使える魔法はないはずだよな!」


アレンドの言った通り、魔法を放っあと、すっとしたに急降下していった。しかし、人間ならば死ぬ距離でも魔族ならば死なない高さなのだろう。



アレンドは自分にあたる範囲よりも少し大きめに魔力を通し、それをゲートに入れ、自分の身を防いだ。それと、同時にその魔法をショーチークの真後ろに出現させた!


「はあ、、はあ、、細かい位置まではまだ思い通りにいかなくてもあんだけでかい魔法なら必ず当たる!」


もう使える魔法はないはずだ。そして、この距離の不意打ちならばよけるのも間に合わない。勝った!!


「す、すごいアレンド、、」


「これがねマリエル、あんたがあの時見た気絶したアレンドにつながるの」


「次、作る矢はできるだけ弱くしてください、アズハを敵としてやってみるから」


アズハは下の土の地面から土の矢を生成した。


「いくよ」


アズハが矢を放った瞬間。先ほどと同じように魔力を放出し、ゲートに吸い込んだ。次の瞬間後ろに強い気配を感じた。

それはアレンドが移動させた矢であり、アズハがよけたことによりアレンドに直撃してしまった。


「...そうか、、移動させた矢をさらに相手に返すことで防御と攻撃を同時にできる。それに相手の攻撃が強いほどこちらの攻撃も強くなる...」


攻撃手段が乏しいアレンドの防御と攻撃を兼ね備えた戦い方。これならばどんな格上だろうと戦いができる!


そうして現在に戻る。


二人の思惑通り、ショーチークの攻撃は見事に跳ね返った。アレンドが跳ね返した攻撃はあまりのも大きくショーチークの巻き添えをくらいかねないアレンドはもう一度今の防御をしようと構えたが、その必要はなかった。


炎と氷塊の間にいたショーチークは瞬時に氷塊側に走ると逃げるのではなく、氷塊に向き合った。


「『セーレ』!」



そう唱えると、ショーチークの触れた氷塊が一瞬で視界から消え失せた。そのおかげで俺自身も身を守ることができた。しかし、


「まさか、同時4つが本当の魔法ってことか。すっかり騙されたよ」


炎が小さくなり、ショーチークの姿が見えた。と、思ったがそこには明らかに別人の凶悪な顔をした魔族がいた。


「負けですね、ゴルドー。あなたの完敗です」


「ちっいってえええな、だいたい、あの人、こんな危ない状況で急に戻るなっての、それに負けじゃなねえよ。俺はないも知らん」


「そういえば、そうでしたね。まあいいでしょう。ショーチーク様も満足したようでしたし」


「アレンド!そうか魔力切れか、それもそうかあんなに巨大な攻撃を狙い通りに返したんだ。飛んでもなく魔力を消耗したんだろう」


アレンドは疲れ果てて気絶してしまった。


「なるほど、その人は替え玉ってことなのね、本人は魔王城」


「ええ、、あの方は怠惰ですからね。とはいえ、あなたたちは見事ショーチーク様の試練に打ち勝ちました。おめでとうございます」


最後まで勝った気はしなかったが、それでも何とか生き延びれたということなのだから悪くない結末だと思うとしよう


「さて、どうする?私とアズハは全然元気だけど、今ここで私たちも殺しあう?」



「いえ、殺しあうなど、とんでもない。最初に言いましたでしょう?私は今回戦わないと。私はあなた方に勝利の報酬を与える役目ですから」


「報酬?」


「ええ、合格祝いです。あなた方はショーチーク様の試練に勝ったのですから。それぐらいなければなりません」


「今から渡すのはこの世界のキーアイテムですあなたがだが魔族と戦い続けるならいずれ私とも戦うことになるでしょう。その時は、どうぞお手柔らかに」


すると、手に本のようなものを出現させ、しおりが挟まっているページを破くと、それをマリエルに渡した。



「では、これで」


そういうと、2人の魔族はどこかへ消えてしまった。


「とりあえず、宿に戻ろう。その報酬とやらは後で考えるとしようじゃないか」


「ええ、そうね、、、いや、ちょっと待って!」



その瞬間。魔法が解け、破られた本のページは煙を上げ始めた。


「下がってマリエル!報酬とかキーアイテムだとか言って私たちを始末するkなのかもしれない」


「いえ、違うわ」


先ほどマリエルは渡された本のページを少しだけ見ていた。


大量の煙の中から出てきたのは安らかに眠る赤ん坊だった



















































































































一応、まだまだ続くというよりは。ここまでは世界観の説明や魔法の説明、主要な登場人物の説明などいわばチュートリアルのような気持ちで書かせていただきました。ここから様々なキャラが登場し、物語が加速する予定ですので読んでくださった方はぜひ楽しみにお待ちください

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