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短編・童話集

世界の秘密と罪滅ぼし

掲載日:2022/09/10

 男は科学者だった。

 そしていま、秘密の実験を成功させた。


 男は感激に打ち震えながら、研究所から自宅へ戻った。

 これはなんという発見だろう?

 人類の歴史が変わる。

 いや、人類どころの話ではない。

 自分は、宇宙の向こうへ旅立つ方法すらも手にいれたのだ。


 何しろ男の発見は、光速を超える方法だった。

 ふと閃いた理論を、冗談半分で実験の中に組み込んでみた。

 理屈上ではありそうに見えても、現実はそうはならないだろう。

 そんな想像をしていたが、男の理想を遙かに越える精度で、実験は成功した。

 理論は裏付けられた。


 男はいま、デスクに座り、これからどうしようかと思案をしていた。

 もちろん、すぐにでも論文にまとめるべきだ。

 そうすれば、自分の名声はアインシュタインをも超えるだろう。

 未来永劫、物理学へ長足の進歩を与えたものとして科学の歴史に名前が刻まれる。


 ……だが、…………。


 それで自分は満足できるだろうか。

 この世紀の発見を論文として発表すれば、確かに名声は手に入る。

 しかし、実利の面ではどうだろうか?

 もっといえば、経済面では?


 無論、このまま素直に発表したとしても、自分の一生では使いきれないほどの利益がもたらされるだろう。

 けれどそれは、自分の発見に素晴らしさに相当するものだろうか。

 自分の見つけたものは、例えるならば夢への扉のようなものだ。

 人類の限界を超えるものだ。

 一科学者の大発見、と呼べる程度の評価で終わっていいものなのだろうか?

 これまでの人類の誰よりも、自分は利益を受け取るべきではないだろうか。


 男の頭脳は優れていた。

 しかし、いまの彼は興奮にあえいでいた。

 結果、こうした結論に達した。


 この発見を、今しばらくは自分だけのものとし、可能な限りの利益をあげてから、公式に発表しようではないか。

 にやり、と笑みを浮かべると、男は論文にその理論をまとめはじめた。

 最低限、それだけは行う必要があったからだ。



  ※※※



 論文の完成まで、一年がかかった。

 数々の極秘の検証を終えた後、男の仕事は仕上がった。

 原稿を前にして、男は自室のデスクで突っ伏すように眠りについた。


 男が目をさましたとき、最初に覚えたのは違和感だった。

 何かが足りない。

 そして、はっと気づく。


 あの論文がない。


 あわてて体を起こした男は、デスクの上に、眠る前にはなかったはずのメモが乗っているのを見つけた。

 メモには、こうあった。


『世紀の発見、おめでとう。しかし、君の魂胆はわかっている。君にとっては残念なことに、私はそれをさせないつもりだ。さあ、テレビをつけたまえ』


 まるで夢を見ているような気持ちで、男はテレビの電源をいれた。

 ちょうど、ニュース番組の時間だった。

 速報が流れていた。

『光速を越える方法、見つかる』

 自分の名前と共に、その文章がテレビ画面に踊っていた。


 なぜだ。

 この部屋には内側から鍵がかかっている。

 防犯装置も完璧だ。

 何より、自分の研究を誰も知らないはずなのだ。


 なんてことだ。

 自分だけの秘密が。

 巨額の利益が。

 男はつい立ち上がり、あいまいなうめき声をあげながら、頭を抱えた。


 そのとき、はらり、とメモが落ちる。

 男の目がそのメモへと吸い込まれるように向けられた。


 メモの裏には、こうあった。


『しかし、きみにとっては残念なことだね。実のところ、同じようなことを考えるのは、みんな一緒さ。世紀の発見は自分だけのものに、とね……。

 実は私自身も世紀の発見をしたのだ。君とはまったく違うものだがね。そして自分だけのために使っている。

 一方で、その発見を使って、君にしたようなことも行っている。――つまり、私以外の誰かの世紀の発見を、他のみんなにも知らせてやろう、という活動をね。

 まあ、それが私にとっての、いうなれば、世界に対する罪滅ぼしさ』

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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