承
超大型で超高速の超災害級ワイバーンは、王城を破壊せんとばかりの勢いでこちらへと突っ込んでくる。
王城の中にはナルシスト殿下。
私は0コンマ数秒の間に、このまま放置したらどうなるのかを想像した。
おそらくみっともなく漏らしながら逃げ惑うんだろうな~、と思うと笑える。
私は知っている──マティアス殿下の本心を。
彼はナルシストである。
自分よりイケメンな私が許せないのだ。
学園のイベントでも、夜会でも、私の方が女の子からキャーキャー言われていたのが、許せないのだ。
今夜の舞踏会のエスコートは勿論、ドレスも贈ってこなかった。
腹いせにバッチリ男装をキメてきたら、当然殿下よりモテたのも気に食わないに違いない。自業自得だ。
三文芝居を……あまつさえ私というヒーローを舞台に上がらせた罪は重い。
大体にして、役者が大根。三流以下だ。
奴は王族だけでなく、役者にも劇作家にも向いていない。廃嫡されたらどうやって暮らしていくのか、今から心配である。
ワイバーンの風圧を感じながら、目を瞑る。
「本当のエンタメというのを……」
一閃──
「瞼に焼き付けるがいい!!」
私は前人未到の跳躍力で、ワイバーンの腹部へと跳び、まずはそのまま斜め上へと力技で押しやった。
恐るべき跳躍力である。(※自画自賛)
これぞヒーロー、顔がちょっといいだけの殿下とはこの辺に差があるのだとおわかり頂きたいものだ。
「ギャオォォオオオ!!!!」
「ふむ……殺すには惜しい。 飼うか」
鱗を掴みながらよじ登り、その背へと跨った。奴が自らどうにもならない位置で圧を掛けつつ、魔力を介して意思疎通を行う。
『私に従え。 さもなくば殺す』
「グォン……」
ワイバーンは大人しく従った。
なかなか物わかりのいい奴である。
殿下より遥かにお利口さんだ。(※さりげにディスる)
ワイバーン一体など、私にとってはトレーナーが犬を躾るも同義……顔がいいだけの令嬢に、これができようか。──否!
暫く上空でワイバーンを遊ばせながら、マティアス殿下の不敬をどうしてくれようかと考えていた。
奴はそれなりに賢い筈だが、一番肝心なことをわかっていない。
それは『己の立ち位置』。
私は聖女オブ聖女……大聖女である。(※自称)
本気を出せばこの国など簡単に滅ぼせる。
この国には盟約ありきで囚われているだけだ。
生まれながらに私の腕には『盟約の証』が刻まれていた。盟約について、詳しくは誰も教えてくれることはなく……文献にも載っていない。
とにかく私はそれにより、生まれながらに『次期王妃』という立場が定められていた。
──つまり、宛てがわれたのは殿下の方である。
弟がいるなら別に、弟でも構わないのだが、残念なことに王子が殿下一人なだけ。
しかし私は、この国も民も、それなりに愛している。この役目には疑問を抱かず育ってきた。
殿下は阿呆だが『脳筋』という悪口は割と正しい。ぶっちゃけ考えるのが面倒だったのである。
──しかし。
「……あれっ、盟約無くなってない?!」
ふと見ると、右腕にあった、王家との盟約の証の紋が無くなっていた。
あれあれ?
婚約破棄のせいかな!?
「う~ん、ならばクーデターかな」
既に言ったが、私が脳筋というのは否定しない。
故に王家に国を任せていた、という側面もあるし無論、王妃教育などは受けていない。
そんなことしなくとも私の人気は絶大なのだから。(ドヤァ)
次の王になれそうなやつ、誰かいたっけ。
そんなことを考えながら、ワイバーンに降下を命じた。




