【祝】異世界転移して聖女になって王子様と婚約して幸せです~が、突然婚約破棄されたので国家レベルで復讐します~【呪】
突然だが私は聖女である。
前回(現代)の私はお茶くみとコピーしか任せられない残念なアラサーOLでしたが、
今では最強で万能な魔力を持つ完璧で幸福な聖女様。
転移先の王子様とも婚約までして、まさに幸せの絶頂である。
私は髪を結い、おさげを撫でおろすと幸せな一日の始まりを感じた。
―
「君と息子との婚約は破棄させて貰う」
「そういう事だ、悪いね聖女様」
「でもこの国からは追放はしないから安心して。これまで通り働けるわよ」
国王、王子、王妃達から突然突き付けられた婚約破棄。
私はただ拳を握ってわなわなと震えていた。
私の脳内は怒りと悲しみで戸惑い、カオスが渦巻いていた。
「ど、どうしてですか!?理由を教えてください!」
月並みの言葉だったが、心の奥底から一生懸命声を振り絞って私は抗議した。
当然である、これまで仲良くしていた王族やお城の人達が、
哀れみや侮蔑の視線を送って来たのだから。
それは相思相愛で愛し合っていた筈の王子様も例外ではない。
私は今まで精一杯この王国に尽くしてきた。
国を脅かすドラゴン退治に錬金術による産業革命や、
天候操作や地質変化による豊穣な農作物の数々等、
弱小王国を大陸一の先進国にまでこの私が育て上げたのだ。
厳しい王妃教育にも頑張って耐えてきた。
なのに……なのに何故!?
「例え聖女といえど、どこの馬の骨とも分からぬ娘を王族にする訳にはいかんのだ」
国王が威風堂々と悪びれもせず私に告げる。
「それにあのアルカード大帝国のユリア姫との婚約ですもの。そちらを優先するのは当たり前でしょう?」
王妃が無礼な平民を見るような目つきで私を睨みつける。
「全てこの国の為だ。分かってくれるね」
そして“元”婚約者は笑顔で私に婚約破棄を突き付けた。
「その婚約破棄、謹んでお受けします……」
「おお、分かってくれたか」
「ごねてくれなくて助かったわ。聖女の処刑ともなると平民が五月蠅いから」
「さあ、新しい婚約のお祝いだ。祝宴の準備をしよう」
私は怒りで震える拳を背に隠すと、一礼してその場を去った。
「(その代わりにこの国を滅ぼして差し上げます!)」
―
それからという物の、この国の衰退は凄まじかった。
天候と地質が操作され、農作物は育たず実らず枯れ果て、国民は飢えに苦しんだ。
私の魔力で動いていた工場は生産がストップし、工業レベルは著しくダウンした。
そして私の結界により守られていた国の鉄壁の守りは決壊し、多くの魔物の侵入を許してしまう。
防衛力の多くを私の魔力に頼っていた上に、飢えで弱った兵士達にそれを防ぐ力はなかった。
更に侵入した魔物は人々を襲い、女は慰み者にされ男は奴隷として連れていかれた。
その治安の悪さは国のお膝元である城下町まで及び、人々は外出を恐れた。
それからの聖女である私の加護を失ったこの国の著しい衰退っぷりは語るまでも無いだろう。
「こ、国王様!これは国の一大事ですぞ!」
「わ、わかっておる!」
狼狽える国王とその臣下達。
「聖女だ!聖女を呼べい!」
「ははっ!」
王国の兵士達が私を……聖女を連れて来る。
しかし風貌がかなり違っていた。
純白の衣装は漆黒に染まり、おさげはおろされロングヘアーに。
顔を隠していた前髪が整えられ、端正な顔立ちがあらわになっている。
私のこれまでの地味さはとうに消えていた。
「君は……あの聖女なのか?」
戸惑う王子が私に問いかける。
「ええ、もうあなたにとっての聖女ではないですけど」
「それってどういう……」
「何をするの!はなしなさい!」
私が指示すると兵士達が王妃を取り押さえ、玉座から引きずり落とす。
「母上に何をする!無礼者!」
王子は剣を抜くが多勢に無勢、大量の兵士達の数の暴力に抑え込まれてしまう。
国王も同様に玉座から引きずり落とされる。
「や、やめろ!僕に触るな!」
抵抗するも鍛えられ強化呪文までかけられた兵士達に適う訳もない。
洗脳呪文により全ての兵士が私の下僕なのだ。
みぐるみを剥がされ奴隷の服を着させられる王子。
あの華麗で薔薇の似合う紳士な面影はもう微塵も感じられない。
「さあ、処刑の時間よ」
処刑台の上に立たされる国王、王妃、王子達。
「今すぐやめるんだ!今なら国家追放で許してやろう!」
「婚約破棄が不満なのね!?なら好きな平民を選んでいいから!」
どうやら立場が分かってないご様子の国王と王妃のお二人。
顔にずたボロの布袋を被った大柄の処刑人が大斧を振り下ろす。
「ひぃっ!?」
狼狽える王子。
「さあ、次は貴方の番ですよ、お・う・じ・さ・ま❤」
「や、やめてくれ聖女!婚約ならまたしてやるか―」
王子が言い切る前に処刑人の大斧が振り落とされた。
私は歪んだ笑みを浮かべつつも、涙を流していた。
「聖女聖女聖女……結局一度も名前で呼んでは頂けませんでしたね、王子様」
それは私を聖女として利用するだけの、愛の無い証であった。
-完-
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