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6 柊は風邪で休むらしい。後

 ピンポーン、というチャイムの音が頭に響き、少しの不快感とともに目を開けた(ひいらぎ)

 未だ怠い体を無理やり起こし、たどたどしい足取りで玄関へと向かう。

 風邪で寝込んでいるのなら居留守を使ってもよいはずではある――いつもの柊なら間違いなくそう考えるだろう――が、発熱で朦朧(もうろう)としている頭にそんなことを考える余裕はなかった。


「はーい……」


 力なくそうドアの向こうに呼びかけながら、片方だけ靴を雑に履いて取っ手に体重をかける。


「あ、でた」


「ごめんね、出てもらって。いろいろ買ってきたよ」


「……は?」


 何も構えずに外を覗いた柊の思考が停止する。


「え、なんで来て……」


 視界には制服姿でスーパーのレジ袋を提げた夕李(ゆうり)と、茶色のコートにふわふわのマフラーをまいた柚羽(ゆずは)の姿が。来るとは微塵(みじん)も思っていなかったため、なぜ、という単純な疑問が湧く。


「なんでって……行くよっていったじゃん」


「……いつ?」


「きょう電話したとき。ひーらぎ、じぶんでいいよって言ってたじゃん」


「まじか、覚えてねぇ……」


 どうやら、すっぽ抜けていた記憶はその部分だったようだ。思い出せなかったので若干すっきりはしたが、今はそれどころじゃない。


「風邪うつしたら悪いし、無理に来なくてもよかったのに」


「わたしたちが来なかったらだれもみてくれる人いないでしょ」


「いるなら来る必要ないんだけどね」


「……腹立つな」


 わざわざ来てくれたことに感謝はするが、ここに来てまでからかってくるのかよ、という気持ちにはなった。


(まぁ、変に気を使われるよりは気が楽でいいか)


 軽口言い合えるくらいには元気になったんだ、という夕李の言葉が耳に入り、この二人こういうところもわざとなんだろうな、と思いつつ、とりあえずドアノブから手を離し買ってきてもらったものを受け取ることとする。


「……え、こんなに買ってきたのか?」


 中には四つセットになったりんごと適当に茹でるだけで出来るインスタントのおかゆが複数、さらには飲み物や額に貼る熱さまし用のシートも入っていた。


「まぁ、少し一緒に食べてもいいかなと思ってさ」


「ん。りんごむいてあげる」


「まじかよ……」


 前から分かっていたことだがこいつらいいやつ過ぎないか、と口から出そうになったが、言葉にすると調子に乗り始めるので一旦心の中で留めておくこととする。


「……ありがとな、あとで金はちゃんと返す」


 だがここまでしてもらっておいて何もなしはさすがに人としてどうか、と今のうちにそういう話をしておく。

 二人が体調崩したとき看病に、とも思ったが、この二人はお互いで看病し合うだろうし、そうなれば自分はただの邪魔だろうと考えそこに落ち着いた。


「うーん、もらおうかな……と言いたいところだけど、柊にはそこに住んでるとき色々もらったからね。お互いさまってことで」


 最近引っ越したばかりの夕李。決して金銭的に余裕があるわけではないだろうがそう返答した彼は、お邪魔するね、と靴を脱いだ。

 色々、とはよく分けに行っていた夕飯のおかずのことだろう。


「……ありがとう」


「気にしないでいいよ」


 靴をきちんと並べて家へあがってくる二人にそう言葉をかけ、いい友人を持ったな、と思うと同時に、あとで何か奢ってやろう、と考える柊だった。


***


 受け取った袋から買ってきてもらったものを取り出し、冷蔵庫にしまおうとする間際、視界の端に自分のものではない手が映り動きを止める。


「休んでてよ。僕らが準備するからさ」


「いや、そこまでは」


 さすがに悪い、そう言いかけるも、言葉が口から出終えるよりも先に、夕李と一緒に作業していた柚羽がひょこりと顔を出す。


「じゃないとわたしたちが来た意味ないでしょ」


「そうそう、心配なのはわかるけど、少しくらい任せてよ」


 まだ体調良くなってないでしょ、と付け足す夕李。二人がここまで言ってくれているし、ここは言葉に甘えておいた方がいいだろう。


「……じゃあ、悪いけど頼むことにするかな。助かる」


 夕李の言った通り、誰かと会話をするくらいの体力はぎりぎり戻ってきているが、正直これ以上はきつい。


「柊、もしかしなくても今日まだ何も食べてないでしょ」


「……そういえばそうだな」


 さっと用意できるものがなく昼食を食べていなかったことを思い出す。


「おかゆつくるね。インスタントで悪いけど」


「充分だって。すげぇ助かる」


 食欲はないままだが、それに反して空腹感はあるので、おかゆくらいなら食べられるだろう。


「りんごもむいとくね。あ、すりおろしたほうがいい?」


「いや、そのままでいいよ、ありがとう」


 いつもは自分がいるはずのキッチンに友人の二人が立ち、並んでさくさくと心地よい音を出している後ろ姿をいすに座りながら眺めつつ、至れり尽くせりだなぁ、と未だ働かない頭でぼんやり考える柊。

 それにしても、友人が二人も家に来てこうして手伝いをしてくれる、ということなど初めてのことで少し変な気持ちだ。今まで仲のよかった人もいたが、ここまでのことをしてもらったことはない。


(正直プリントとか届けてくれるだけでも充分だったんだけどなぁ)


 どうやら友人たち(カップル)は二人そろって世話焼きらしい。

 柊としてもここまでやってもらって何も出さないわけにはいかない。と言ってもろくに動けない以上できることは限られているのだが。


「……冷蔵庫にチャーハンあるけど食べてくか? 昨日の残りで悪いけど」


「え、いいの? ……ゆう、どうする?」


「いいなら食べたい。ひーらぎは料理じょうずだし」


「了解。じゃ、いま出す」


 「ひーらぎ『は』」という言い方に少しくすっとしつつ、のそのそと腰を上げて冷蔵庫から昨日の余りであるチャーハンの皿を取り出す。

 そのまま電子レンジへと持っていき、適当に時間の設定をする。数十秒ののち、ピー、と加熱完了を告げる音が鳴る。

 ただでさえ少食の柊の一食分を二つに分けるということで大した量にはならないが、とりあえず二枚の小皿に等分していく。


「ありがとね」


「それ以上にやってもらってるしな」


「ひーらぎ、りんご乗せる皿ってどれ使えばいい?」


「さっき出してきた皿があるからそれ使ってもらえれば」


「ん、わかった」


 夕李にもおかゆを入れるための茶碗を渡しておき、ひとまず小皿二つを手に、いつも食事を摂っているテーブルに運んでいく。

 そのままいつも座っているいす――さっきまでも座っていたもの――に腰を下ろし、数分ほどぼうっとしていると、キッチンの方から皿を持った二人がこちらへと歩いてきた。


「はい、おかゆ。梅干しはお好みでのせて食べて」


「りんごもむいたからこれもいいよ」


「……ありがとう」


 目の前に白い湯気の立った温かそうな器と、食べやすい大きさに綺麗に切られたりんごののった皿が並ぶ。


「いただきます」


 スプーンでおかゆを口に運び、うま、と呟きながら、胃袋に温かいものがゆっくりとたまっていくのを感じる柊だった。


***


「……まじで感謝しかない。二人ともありがとな」


「いいって、ちゃんとはやく治すんだよ」


 食事も、食器の片づけも終わった――食器の片づけまで二人は手伝ってくれた――ところで、体調の悪い人のところに長居するのも悪いから、と今日は解散の流れになった。

 じゃあまた来週学校で、と言い残した二人は、並んで柊の部屋を後にしていく。


(普段はふざけているような二人でも、こういうところがあるから憎めないんだよな……)


 ドアの奥に向けて振った右手を下ろしながらそんなことを考えつつ、一旦いすにでも座って落ち着こうとドアに背を向ける。

 ふと視界に映った時計の針はもうすぐ午後の六時を指そうとしているところだった。

 あの二人のおかげで、心なしか体が軽くなった気がする。おかゆを作ってもらったり、りんごをむいてもらったりしたことで最低限の栄養を摂ることができたし、仲のいい友人と話して精神的に少し余裕もできた。


「助けられてんな……」


 ぼそりとそう呟きながらいすに腰を下ろした瞬間、再び部屋のチャイムの音が鳴り響く。

 ピンポーン、という音がガンガンと頭に響かなくなったあたり、やはり体調は良くなっているんだろうな、と少し安心しつつすぐに立ち上がる柊。

 あの二人が何か忘れものでもしたのだろうか、そんなことを考えながらドアノブを回すと。


「あの、体調は大丈夫そうですか……?」


 そう言ってドアの隙間から顔をのぞかせたのは夕李でも柚羽でもなく、斜向かいに住む例の美少女だった。

こんにちは。天守熾空あまがみしあです。

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。精進してまいりますので、今年もどうかよろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。「こうした方が読みやすい」などありましたらご指摘のほどよろしくお願いします。


六話目の後半となります。お休みをはさんでしまった上、「投稿するかも」と言いつつ結局それもせず……すみません。途中まで書いてはいるのですが、ここで出すのはなぁ、と……(言い訳) 第六話には氷梨さんがいなかったといっても過言じゃないですが、第七話ではしっかりといますのでご安心を。

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