魔物との遭遇
洞窟生活を始めて数日がたち、問題が出始める。
「まずいな、このままじゃ特性に使うカロリーが無くなってじり貧だ。」
そう、投石による狩りを行いすぎて、洞窟や滝つぼ周辺に獣が寄り付かなくなってしまったのだ。
遠出をすれば持ち帰るにも能力を使うことになり、結果的に消費するカロリーに対して摂取カロリーが釣り合わなくなってしまうのだった。
「罠なんかを作れればいいんだが、仕掛ける場所の選別もできそうにないしどうするかな...。
考えてるだけじゃ今日の飯も取れんな。とりあえず探索に行くか、途中でなんか思いつくかもしれんし。」
探索を進めると、森の様子に違和感を感じ始める。
「今日はやけに静かだな、何もいないみたいだ。鳥の声1つ聞こえんぞ。...ッ!!」
その違和感に気が付いたと同時に、強烈な悪寒が走る。
まるで、眼前に拳銃を突き付けられたかのように。
「こ、れは...まずい、な。」
近くの岩陰に隠れ周囲を確認すると、目に映ったのは長い体躯に鋭い牙を持ち、捕食をした直後なのか腹を異様に膨らませた大蛇だった。
大蛇は、目をギラギラと赤く光らせながら何かを探している。
(蛇、蛇か...。逃げ切れるか?)
逃げる算段を立てようと、視線を迷わせていると大蛇がこちらを振り向く。
(そういや、蛇ってピット器官ってのがあるんだったな)
それはどこか客観的で、他人事のようだった。
そうしているうちに、大蛇は猛烈な瞬発力でこちらへととびかかってくる。
「惚けてる場合じゃねぇ!エンジンかけろぉ!!」
火の肉体が発動し、間一髪で飛びのく。
「岩が粉々になりやがった!なんつー力してんだ!」
巨体から放たれる突進は軽々と岩を砕き、硬い鱗は地面を削っていく。
「いや、鱗の方がやばいか?あれに巻き込まれたら、すり身になっちまうぜ。」
身をくねらせ、再びこちらに向けて鎌首をもたげる。
その体をよく見ると鱗は逆立ち、刃のようになっており当たればひとたまりもないことが分かる。
「まずは一発、ぶち抜かせてもらう!」
懐から取り出したのは、巨猪の大牙から削り出した槍。
それを火の肉体に強化された剛腕にて投げられた槍は空気を斬り裂きながら突き進み、されど尾によって簡単に振り払われた。
「もちろん、想定内ってな。猪の牙ってのは二本あんだよ!」
逆の手で持ったもう一本の槍を力の限り突き刺すが、鑢のような鱗に槍が耐え切れずに削れていく。
その上、超高熱の体温のせいで持ち手が燃焼して折れてしまう。
「ぬおおおお!やっちまった、長く持ちすぎた!」
大蛇がその隙を逃すわけもなく、大きく顎を開き襲い来る。
その上下の牙を両手で咄嗟につかみ、食いしばり耐える。
「そんなに食いたかったら、食わせてやるよぉ。俺の火の体をよ!」
飛びかかって来た勢いを殺し終えたとき、自らの腕をその大きく開けた口内にぶち込むと、肉の焼ける音と大蛇の悲鳴がとどろく。
「どうだ、うまいかよ。お代はテメェの舌だ!いただくぜぇ...!」
万力のような力で巨体に似合う太い舌を力任せに引き抜く。
大蛇の口から血が噴き出し体にかかると、熱によってすぐに蒸発する。
そして、引き抜いた大蛇の舌を食いちぎり飲み込む。
「食らうのは俺だ。テメェじゃねぇ!」
血と蒸発した煙に包まれながら舌を貪り吠えると、己の体を目の前で食らわれたことに恐怖したのか、舌を引き抜かれた痛みに悶えたのか、大蛇は体を震わせた。
「ビビったか?行くぞ、俺の糧に為れ!文字通りなぁ!」
腰についたハルパーを抜き放ち地面に噴き出した血を啜らせながら、大蛇に斬りかかる。
「やっぱ、こいつらじゃねぇと使えねぇなぁ。その首と血液からせてもらうぜ!」
地面に倒れ伏していた、大蛇は怒りを滲ませ飛び掛かる。
だが、それに合わせハルパーをふるうと堅牢な鱗も分厚い筋肉に覆われた体も血を啜ったハルパーの切れ味には敵わずその首を落とされる。
「討伐完了。死ぬかと思ったぜ全く。」
首を刈られた大蛇の体にハルパーを突き刺し、血を吸い取る。
「爬虫類は寒さに弱いんだったか。だったらこっちのほうがよかったかな?あんな死闘じみたことしなくてよかったかもしれん。」
血を吸い取り終わった大蛇にダガーを突きさす。
大きさゆえに少し時間をかけて凍り付いてゆく。
「あー、カロリーを使いすぎた。尻尾にぶっ飛ばされたときに強化をかけすぎたな。
ふーさっさとこいつを持って帰んねぇと、途中でカロリー不足でぶっ倒れるな。」
長大でさらに太い大蛇を担ぎ上げ、帰路に就く。
洞窟につく頃には、日は傾き始めていた。
「こいつのせいで、無駄にカロリーを使っちまった。こいつの体がでかくて今は逆に良かったぜ。
蛇肉は滋養強壮にいいって聞くしな。さーて解体しますかっと。」
腹を裂き解体を進めると心臓と思われる部位に癒着するように靄がかった宝石のようなものを発見する。
また、頭の解体を進めると片目が水晶のように結晶化していた。
「なんだこれ?心臓に石が張り付いてやがるし、目が水晶みたくなりやがった。
この世界に来てから数日しかたってないが、こんなの見たことないぞ。
あのでかい猪にも角の生えた狼にもこんなのなかったし。」
宝石は、手のひら大と大きく紫がかった宝石のようで黒く濁り靄がかかっている。
瞳の水晶の方は、まさにあの大蛇の瞳を水晶にしたかのように紅に輝き透きとおっており、中に蛇の目のような金色の縦模様が入りどこから見ても見つめられているような気分になる。
「目の方は綺麗だが、見つめられてるみたいでなんか不気味だな。
こっちの宝石?の方は見るからにやばいな、これがファンタジー的に言う魔石ってやつになるのかな?
だとしたら、あのバカでかい猪も角狼もただの動物ってことになんのか。なんつーか今更ファンタジー感感じてきたな。」
謎の物を端において骨や牙などの使えそうなものを選別しながら、解体したばかりの蛇肉を火にかけていく。
「猪の槍が壊れちまったから、こいつの牙で新しいの作るか。長さ的に森で戦うのに良さげだったんだが、まぁこいつの牙は相当長いし切り詰めりゃいいか。いやーハルパーのえぐい切れ味のおかげで工作が簡単に出来て助かるぜ。」
そうこうしている間に、火にかけていた蛇肉が焼き上がる。
「蛇肉の焼肉って美味いのか?まぁ、焼くぐらいしか食べる方法ないけど。」
生前の攻撃的な見た目からは想像できない綺麗な真っ白の身が火の熱で溶けた脂でてらりと光り、何も付けていないのに香ばしい匂いが漂う。
「う、うまそうだな。さすがに食べられるか不安だったんだが、これはうまそうだ。よし食うぞ。」
滴る脂に気を付けながら一息にかぶりつく。
「ングゥ!!」
かぶりついた途端、動きが止まる。
直後に猛然と食べるのを再開し瞬く間に食らいつくしてしまう。
「....うまい...うますぎる。なんだこれ、なんも言葉が出てこん。」
あまりのうまさに呆然としていると体の違和感に気付く。
「まて?美味すぎるだけじゃねぇ。手の平くらいの肉しか食ってねぇのに腹の虫がおさまりやがった!
なんだこれ?!やばすぎるぞ、これだけで能力使いまくったのにそれがこんな肉の量だけで収まるなら
当分の食糧事情がこの一匹だけで解決じゃねぇか。」
歓喜に震える体は、この数日の中で確実に最も力にあふれていた。
「ってかこれ、こんだけあるんだし当分ここに篭ってこの危険極まりない能力をちょっと危ないぐらいまで制御出来るくらいには練習出来るんじゃないか。よし!そうと決まれば、明日に備えて寝るか!」
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次の朝
「ああ、なんて清々しい朝だ。やっぱ人は飯を十分に食えるってだけで心が落ち着くな。
さて、修行するために必要な準備に取り掛かるか。よーし!エンジンかけていくぞ!」
そうして、火の肉体を発動すると洞窟周りの木を切り倒して行く。
「ふぅ~、やっぱこの力いいな。切り株を素手で簡単に引き抜けるぜ。
このぐらいの広さでいいか。じゃあ次は杭を作るか。」
切り株を引き抜き、穴を埋めて整地を行ったら切り倒した木の枝を払い上部を削り尖らせて杭を作っていく。
「やっとできた。いやーやっぱ切れ味がどれだけ鋭くても枝を払うのは手間だな。
次はこの杭を差してっととそろそろ腹減ったな。朝飯にするか。」
焚火に火をつけた後、ダガーに触れて体温を下げつつ肉を焼いていく。
「うーん、うまい。数か月はこれだけでいけるぜ。」
朝飯を食べ終え、作業を再開する。
「さて、木を半分にしてっと。」
杭の時とは違い木を払い上部を落とした木を真っ二つに切っていく。
その両端にダガーを使って深めの溝を掘っていく。
そして、カロリー摂取休憩をはさみつつ修行をする準備は着々と進み...。
「おーし完成っと、この壁を登れる奴らはいないだろ。
下には適当だが木杭の返しを付けておいたし、木は作業中に
必然的に炙られてるから腐りにくくなってるだろうし完璧だな。」
そこには、自らの身長の倍以上はある木の壁ができたいた。
外側の地面には乱杭を設置し、獣を近寄せないようにする徹底ぶりだ。
「さて、夜になったし飯食って寝るぞー。
いやーこれで雨の日以外は太陽浴びて過ごせるぜ。」
この日から火の肉体を制御する訓練が始まる。
次はいわゆる修行パート