神様からの贈り物
地の底より魔物の押し寄せる混沌の世界 ラグリナ
その世界のある自然豊かな山林に一人の男の姿があった。
「あー、木、木、木、木、木しかねぇな」
天野直志 26歳 独身彼女なし
人生を一新して再スタートである。
「おっとそうだ。まずはこの神様から貰ったもんを調べないとな。」
気がつくと服はよく分からない皮の服、腰には2つの武器、そして手には一通の封筒を持っていた。
武器は蒼白い色した短剣に、奇妙な湾曲した内刃を持つ剣のふたつ、どちらもしっかりと白い布でがんじがらめに封じられていた。
封筒には手紙が4枚入っていた。
「まずは、手紙からだな。」
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「なんだこりゃ、見たことない文字なのにしっかり読める。異世界転移物でもよくあるが、自分が体験したら頭おかしくなりそうだなこれ。」
手紙の内容はそれぞれ、お詫びとこの世界の詳細・3つの願いの詳細・身分証明になるらしいシートと呼ばれるものが入っていた。
この世界は様々な神がいてその神から加護をもらって産まれてくるらしい。
その加護の詳細をある神器で写し取ったのが、今手元にあるシートと呼ばれる鑑定証っぽいやつ。
「なるほどなぁ。じゃあ次はこのいかにも封印してますって風の武器の詳細を見ますかね。」
そこに書かれていたのはなかなかやばいものだった。
―武器の詳細をここに記します。
―ブラッディハルパー
血を啜る魔剣
血を啜ることで際限なく斬れ味が鋭くなるが血を啜らない
期間が長くなる毎に急速に錆付き切れなくなっていく。
傷が極端に癒えにくくなる性能を持つ。
使い手を選び、相応しくないものが持つと精神を支配し生
き物を殺すように仕向け、最後には宿主自身の血を啜る。
― コキュートスダガー
傷をつけたものを瞬く間に凍りつかせる魔剣
人間大のものは一突きで凍りつかせることが出来る。
傷をつけずともその短剣全てがすぐさま凍傷を引き起こす
ほどとてつもなく冷たい。
使い手を選び、短剣に触れることによる凍傷に対抗する手
段を持たないものは、すぐさま氷漬けになってしまう。
……
「劇物じゃねぇか!!使いて選ぶ武器しかねぇじゃん!
呪物大特価セールか!出血大サービスってか俺の命が危ないわ!」
「はぁはぁ、まぁいい武器の方はしばらく封印したままにしとこう。で、後はこのステータスシートみたいなやつね。」
名―アマノ タダシ
歳―26
加護―粛清を司る神
特性―異世界人
火の肉体
「なんか、簡素だな。説明は、最初の紙に書いてあるのか。てか、特性異世界人ってなんかやだな。」
―加護とは神から与えられる特別な才能のことで様々な恩恵
を受けることが出来る反面、加護を受けた神の司る物事に
反する行動をとると恩恵が弱くなっていき最終的には加護
が消失し加護無しと呼ばれ犯罪者扱いを受ける。
―特性とは生まれながらにして行使できる特殊な能力の総称
で外見的特徴を有する場合には外的特性、有さない場合は
内的特性と言われる。
外的特性は特性を行使する部位を失うと特性も失われるこ
とがほとんど。
―異世界人
こことは異なる世界で生まれた証
未習熟の言語に対する理解度が大幅に上昇し、数日会話を
行うだけで聞き取れるようになり自己の声帯で発すること
が出来る言語は数週間で話せるようにもなる。
―火の肉体
ドワーフが極々稀に発現する内的特性
自身のエネルギーを消費し、莫大な身体能力に変換するこ
とが出来る特性。その際、体温が消費したエネルギー
に比例して上昇し、高温になる。
身体能力強化の他、自然治癒力、抗体、肉体強度の大幅な
強化が起こる。エネルギー消費・変換効率・体温上昇幅・
部分的強化等は習熟によるコントロールが可能であるが未
習熟時の場合、特性発動後の体温調節が上手く出来ずに死
亡する可能性がとてつもなく高い。
「所々見逃せねぇ話が出てきたなおい。まず?加護に反することしちゃダメよってか。粛清に反するってなんだ?
あと言語が通じねぇ可能性がバリバリに出てきちゃったって事だよなぁこれ。
そんで最後の贈り物がまたまたのまた問題児じゃねえーか!なんだよ体温上昇で死ぬ可能性大って使えねぇーじゃん!」
「はぁー…こっからどうすっかなぁ。貰ったもんは超危険物に使えば死ぬ能力、これじゃ優雅な狩猟生活どころか今日の飯すら危ないぞ。」
ピラッ…
「ん?奥になんかもう1枚あるな。」
―ps.特性によって服が焼失してしまう可能性があります
ので、熱を遮断し燃えない服にしておきました。
「そこじゃねぇだろ!!!!!」
ガサガサッ
近くの薮から物音が聞こえる。
「ッ!何の音だ!」
膝まである体躯に鋭い牙が生え揃う口は飢えているのかヨダレを垂らしている。そして頭に生えた1本の角。
それは狼に似ているがどう見ても狼ではなかった。
「はっ、早速絶体絶命ってやつ?」
武器は確認のために腰から外して、危険物扱いで地面に置きっぱなしだ。
すぐ手の届く距離にはあるが、相手の方が早い可能性はある。
「先手必勝ってなぁ!」
ザッ
足元の土を蹴りあげ、武器を取りに動く直志。
しかし、悲しいかな地面は湿った土で広がることなく視界を遮るには少し足りなかったようで。
ガオッ!
「ぐぁっ!がっ!このクソ犬コロが!」
武器を取るために屈んでいたのが災いして、簡単に組み伏せられてしまう。
(くそっどうしたらいい!犬に殺されて死ぬか自分の熱でグツグツになって死ぬかの究極の二択だぞこれは!ってか火の肉体ってどうやったら使えんの?!)
「くそー!どうとでもなりやがれ!」
自棄になり力の限り叫びながら角狼にアッパーをしかけたその時…
バコォ!
「は?なんだ?火の肉体が発動したか?」
角狼は大きく吹き飛び近くの木にぶつかり拳が当たったであろう箇所の毛が縮れてみえ、何より首がありえない方向に曲がって完全に死んでいた。
「ってかあれ1匹だったのか?」
仲間が潜んでいないか当たりを確認しながら先程の角狼に近寄る。
「火の肉体ってのはとんでもねぇな、首があらぬ方に曲がってら。しかも肌が当たってた地面と殴ったところが黒く焦げてやがる。効果が切れたらグツグツじゃなくて灰になって死んじまいそうだな。」
他に何もいないのを確認し、ほっと一息つくが現状死を待つ他にないのを感じ途方に暮れる。
「そうだ。どうせ死ぬんだしあの呪物共を確認してみるか…。」
そうして、武器を手に取り厳重に巻かれている白い布を解いていく最中、体に異変を感じ始める。
「なんかめっちゃ腹減ってきた、それに体中があちぃ!
効果が切れ始めてんのか。くっそ最後にこいつらの確認くらいしてぇってのによ!」
急いで布を解き、全てが蒼白いダガーに触れた瞬間。
シューッ
「お、おわっ!なんだ煙で前が見えねぇ!」
身体中から煙が吹きでる、いや違うこれは…湯気だ。
「おい、まさかこりゃぁ…体が冷えていくぞ!
そうか触れただけで凍傷になっちまうくらい冷たい上にこいつは対抗できなかったやつを凍りつかせるって書いてたな。つまり、今の俺はこいつの凍傷に対抗してる状態ってことか。」
湯気がやんでいく。
すぐさま、封じていた布を取り柄に巻いていく。
「おっとあぶねぇ。体温が下がりきったら今度は凍りついて死ぬとこだったぜ。あの紙には習熟によって体温を管理できるらしいから常に対抗出来るようになるまでこの布巻いてなきゃな。ちょっと使いづらいが、まあ何とかなるだろ。」
ダガーを腰に戻し、次を手に取る。
「最後の問題児か。腰のこれと特性は相性抜群でやばさが相殺されたが。精神を支配ねぇ、どうしたもんかな。」
布を解きながら考えていると、つい柄に触れてしまう。
「やべ!」
その時、
バチィ!
と白い稲妻が走り、ハルパーが弾き飛ばされる。
「うおっだっ、なんだ?」
触れる前は禍々しい黒いオーラが漂っていたが、白い稲妻がそれを弾き飛ばし全体を覆っている。
「おいおい、またバチッとなるのはやだぜ。」
そう言いつつ取るために触れると白い稲妻が腕を伝い体の中に入っていく。
「うおいおい!…なんもないか。さっきから驚かせまくりやがって、疲れてきたぜ。」
ハルパーから噴出していた黒い靄は消え去り、なんだが清められたように感じられる。
「ああー…なんかわからんが使えるようになったしよし!」
グゥー
「腹減ったんだった。火の肉体で使うエネルギーってそういう感じだったんだな。もっとファンタジーなエネルギー想像してたわ。」
だが今ここにあるのは自分の他には草と木、そしてさっき倒した角狼のみ。
「どうすっかなぁ…。肉食獣の肉はまずいって言うしなぁ。…しょうがねぇ!生きるためには食うしかねぇか!っと思ったが、まずは落ち着けるなんか洞窟とか探さねぇと食おうとして襲われたら今度こそ死ぬ未来しか見えねぇ。」
「ちょうど、こいつらの本来の目的用途で使えるしな。」
そう言って、角狼の死骸に近寄る。
「まずはハルパーから試してみるか。」
ドスッ
とハルパーの鋒で首を突き刺す。
すると、
ドクッドクッ
という音と共にハルパーが脈動し刃が赤く染まっていく。
「うへぇ、存外恐ろしいなこれは。自分を傷つけないように気をつけねぇと」
しばらくすると、脈動が止まる。
見たところ全てを吸い尽くしてミイラみたいにはならないようだ。
「頃合いみて抜こうかと思ったが、血液だけを吸うのか?こいつは。まぁいいか、次は凍らせてさっさと運ぶか。」
ハルパーを抜くと本当に吸い尽くしたかのように血が一滴も出ない。
続いてダガーを突き刺す
「おー怖、血が出ねぇぜ。さて、よっと!」
キンッ
と音が鳴るかのごとく角狼に霜がおり、凍ったのかは分かりにくいが確実に冷えたことが分かる。
ダガーを抜いて触って見るとカチカチに凍っていた。
「こっちの方が恐ろしいかもな。まさに一突きで氷像だ。」
ハルパーを巻いていた布を使い、角狼を背負う。
「ひょぇ、冷てぇ。さっさと探すか。」
次はご飯食べます。(ワイルド)