宿のひととき
宿に戻るともう夕食の時間だったようで、客で溢れていた。
「あれ、もうこんなに混んでるのか。これは一度部屋に戻って荷物を下ろした方がよさそうだね。」
「そうしたいところだがよ、俺のマジックバックは馬鹿みたいに重いから床が抜けちまうぜ。」
1階の床は石だが2階からは木製だ。
「そうだったね。一番重いものはこちらのマジックバックに入れ替えるかい?それとも、容量は小さいものになるが重量無効のものを貸そうか?」
「バーベルが一番重いからこれが何とかなれば大丈夫そうなんだが。肉以外の素材は売りに出しちまったしな。」
「それなら、ミノリさんに庭を使わせてもらえないかお願いしてみるかい?使用料は取られるかもしれないけど庭の一画を貸し出してもらえるかもしれないよ。」
ごった返す食堂を横目に幾人かの対応を終えた様子のミノリに近寄る。
「やぁ、ミノリさん今時間は大丈夫かい?」
「あら、どうされました?」
「荷物の一部が重くて床が抜けちまいそうで、使用料払うから庭の一画を借りれないかと思ってな。」
マジックバックを見せるように叩き、庭を借りれるか聞く。
「庭を借りたいのですか?それなら、宿泊代に銅貨2枚いただきますけど大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だ。じゃあ、20日分の銀貨4枚な、早速使わせてもらうぜ。」
「お客様などの洗濯物を干したりしますので気を付けて使ってくださいね。」
「わかったよ。端っこを使わせてもらう。」
宿の裏手に回り庭に出る。
「へぇ、かなりでかい庭だな。」
「そうだね、僕は庭に来たことはないから知らなかったよ。さ、早く部屋に行って一休みしようか。」
「ああそうだな。」
丸太バーベルを庭に置き、部屋の鍵をもらって部屋に入る。
「ふぅ...なんか疲れたな。」
マジックバックを床に下ろし、ベットに座りながらしばし疲れに身をよじっていると扉をたたく音が聞こえる。
「席が空いてきたから、そろそろ夕食を食べよう。みんなも戻ってきたしね。」
「分かった、今行く。」
1階の食堂に入り、夕食を食べ終え部屋に戻る。
「ああ、飯を食ったからか無性に眠くなってきたな。」
久しぶりの大都市に疲れが出たのかすぐに寝入ってしまう。
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いつもの朝の早い時間に起きる。
「疲れていてもすぐに回復するのはいい体だな。まぁ、燃費はすこぶる悪いが。」
朝のルーティンを行うべく、部屋を出てバーベルを置いた庭に出る。
「流石に、宿の人も寝てるみたいだな。」
いつものようにバーベルを使って鍛錬をしていると、朝日とともに人の動きが活発になっていくのを感じる。
「わぁ!凄いですね!重そう!」
溌溂な声とともにポニーテールを揺らしながら宿の看板娘のマリィが話しかけていた。
「お?マリィちゃんじゃないか。朝から仕事か?」
「うん、そうだよ。お水汲みに行くんだ。」
庭の一画にある井戸を指さしながら答える。
「大変だな。そうだ、手伝おうか。水瓶そのまんま持ち運びしてやるよ。」
「え!いいの?じゃあ案内するね!」
厨房に水瓶があるようで案内される。
「...。」
「お、おはよう。朝の仕込みか。大変だな。」
相変わらず無口だが、何しに来たのかといった圧を感じる気がする。
「お父さん、お客さんが水汲み手伝ってくれるって。」
「こら、お客さんにお仕事手伝ってもらうなんてダメに決まってるでしょ。」
奥からミノリさんが出てきてマリィに注意する。
「いいんですよ、これも朝の鍛錬ですし。」
「ですが...。」
「ほら!お客さんはこう言ってくれてるじゃん。」
押し問答の果て、手伝いをすることになる。
「よしこれで最後だ。」
「満杯に入れてほんとに水瓶ごと持ち運びできるの?」
「ま、見てなって。」
水の満たされた水瓶を簡単に持ち上げて、厨房に持っていく。
「すごーい!ほんとに一回で水汲みが終っちゃった。」
「ま、こんなもんよ。さて、俺は飯まで鍛錬するからまた今度な。」
「本当にありがとうございました。お礼に庭の使用量をお返しさせていただきます。」
手に使用量の銀貨を持ってお礼を言いに来るミノリ。
「お?いいのか?なら俺がいる間は水汲みを手伝わせてもらうぜ。」
「いえそれはさすがに申し訳ないです。」
「ま、水汲み以外の仕事に専念できるって思えばいいでしょ。」
「やったー。タダシさんありがとー!」
喜ぶマリィと申し訳なさそうなミノリを置いて、鍛錬に戻る。
「ふんっ...ふんっ...さて今日は飯食ったら何しようかな。とりあえずギルドに行って金を受け取ったら一人で依頼でも受けてみるか。あいつ等とはランクが合わないから一緒には受けられないしな。」
続きは明日