テンプレそして宿へ
お腹空いたなって思いませんか?
声をかけてきたのは背が高く、大剣を背負った山賊のような大男だった。
「おら!見せてみやがれ。」
そう言うと大男はカウンターの魔核を手に取り、ざっと観察する。
「どう見てもBランク、それも上位のものだ!しかもこれはAランクのものに違いない!こんな獲物ルーキーごときにかれるとはおもえねぇな!火竜の鳩尾に使いでも任されたのか知らんが、自分の功績にするんじゃねぇ!」
「おいおい、言いがかりは止してくれよ。俺は確かにあいつ等の連れではあるが、これはちゃんと俺が狩った獲物からとったものだ。だいたいルーキーだからって全員弱いわけじゃないだろガキじゃないんだからよ。それともあんたはルーキーにしかでかい顔できない人種か?」
急に難癖をつけられてイラついてつい喧嘩腰になる。
「よく回る口を持ってるじゃねぇか...俺は売られた喧嘩は死んでも買う主義でよ。」
「あ~...喧嘩腰で話しといてすまんがこれから用事があってな。
さらっと腕相撲くらいで勝負しようや。」
ふと火竜の鳩尾のメンバーが目に入り、目を覚ましイラつきが落ち着く。
「お?逃げんのか?流石ルーキーだな。弱腰上等か?」
「へぇ...そこまで煽るならよっぽど腕力に自信があるんだな自称ベテランさんよ。
負けたら赤っ恥だぜ?」
「上等じゃねぇか!Cランク冒険者、鉄腕のゴンザレスが相手してやる!
その細腕が折れても知らんぞ!」
こういうことが日常的にあるのだろうか、併設されている酒場にはご丁寧にそれらしい
タルが数個設置されていた。
「おい!誰か審判をやってくれ。」
「おーしだったら、俺がやろう。」
痩せぎすで背の高い男が名乗り出る。
「はい、手を組んで~...はじめっ!」
その声が耳に入ったとたんに両者とも渾身の力を籠める。
「ふっ!グッ、うぎぎ...。」
ゆっくりと、しかし誰にでもわかる早さでゴンザレスの腕が倒れていく。
「オラァ!こんなもんか?!鉄腕さんよぉ!」
「グギギギ...ガアアアアアア!」
ゴンザレスの顔は真っ赤に染まり血管が切れそうなほどに力を込めている。
「行くぞオラァ!スロットルを回すぞぉ!」
そう言うとゴンザレスの腕は一気に倒され、タルが壊れるほどの勢いでたたきつけられる。
「俺の勝ちだ。赤っ恥のゴンザレスさんよ。」
「ぐうおお...なんて馬鹿力だ。」
「これを機に相手の力量を図る目を鍛えるんだな。あと壊したタルの弁償はあんたが払えよ。
迷惑代だ。」
その瞬間歓声が巻き起こり、急激に酒場に喧騒が戻る。
歓声を背に買取カウンターに戻ると、呆気にとられた偉丈夫がいた。
「かなりやるじゃねぇか。生きのいい新人はいつでも大歓迎だぜ。」
「ああ、ありがとな。ま、相手が俺の腕力を見た目で判断したからだよ。」
「ガッハッハハ!言うじゃねぇの!俺の名はバッカス、困ったことがあったら幾らでも言いな。相談くらいは乗ってやるよ。」
「助かるぜ、俺はタダシ。そういえば買取をお願いしてたんだったな。これで最後だ。」
買取をお願いしていた途中だったことを思い出し大蛇の魔核をカウンターに置く。
「ああいや、流石にこれを一気に今換金はできんよ。Aランク以上は競売が基本だ。明日以降に競売にかけて値が決まるからよ。」
「そんなに掛かるならほかの素材も出したいんだが量が多くてな。」
「それなら裏手の解体場に行ってくれ。案内は俺がしよう。おーい、誰か受付変わってくれ。」
「ああ、ちょっと待ってくれ。連れを待たせてるんで一言伝えてくるよ。」
案内される前に火竜の鳩尾の四人に少し遅れることを伝え、解体場に行き素材を出す。
そこでもとんでもない量の素材に驚かれつつ無事に今貰える分の魔核のお金をもらい火竜の鳩尾の面々と昼飯へ向かう。
「いやー今の一瞬で疲れたぜ。」
「ははは、あれが冒険者ギルドの洗礼さ。誰もが受けるものだが真正面から完勝するものは少ないかもね。」
四人共に笑われ、ほんの少し機嫌が悪くなる。
「目が合ったのに助け舟くらい出してくれてもよかったんじゃねぇか?」
「私達が手を出したらそれこそ相手の思うつぼじゃない。誰もがあんたを私達の小間使いって目で見るわよ。」
「そうじゃよ、あれは自分自身で勝ってこその勝負じゃ。」
他愛のない言い合いをしながら目的地に着く。
「ここは僕たちが定宿にしている火の鳥亭だよ。ここはお昼も盛況でね。まだ混む前にこれたのは幸運だったかな?」
火の鳥亭に入るとそこそこの客入りでまだまだ座れそうだった。
すると、女将さんらしき妙齢の女性が近づいてくる。
「いらっしゃいませ。あら、アレックスさん達じゃないですか。昼食ですか?」
「ああ、ミノリさん。そうなんだ、あとこの人の宿泊もお願い。」
「おいおい、天下のAランクパーティが泊まる宿なんだ。高いんじゃないのか。」
「ここはとても良心的なお値段ですよ。冒険者って結構出費が多くて、宿が安く済むとありがたいんです。その点ここは質の高いのに良心的で助かってるんですよ。」
コルマが珍しく前に出て熱弁する。
「お、おう!そこまで言うならここにするよ。どこがいいのかなんて俺には分からんからな。」
「ではこちらにお名前をどうぞ。代筆もできますよ。」
台帳らしき紙束を受付の中から出して言う。
「代筆をお願いできるかな?名前はタダシだ。」
「はい、タダシさんですね。宿泊代は前払いになっていて朝食付きで銀貨2枚に銅貨が3枚で素泊まりは銀貨1枚です。連泊なさるならお安くできますよ。」
「じゃあとりあえず、20日分お願いしようかな。」
「はい、かしこまりました。朝食は朝の二つ目の鐘までに注文してくださいね。過ぎてしまうと窯の火を落としてしまうので食べ損ねてしまいますよ。
それと、長期に部屋を開ける場合はその分のお金をもらっていたら部屋をとっておけます。期日から一週間たっても帰ってこない場合部屋に残った荷物は処分させていただきますので気を付けてください。
最期に、早く宿を引き払った場合は余剰分は返金させていただきます。はい、こちらが部屋の鍵です。外に出るときは受付に渡してくださいね。」
「はい、どうも。」
結構精巧な216と彫られた金属の鍵を渡される。
そのカギを持ちながら四人が座っているテーブルに着く。
「マリィちゃん、注文いいかな。」
「はーいただいまー。」
アレックスが声をかけて、駆け寄ってきたのは綺麗な赤い髪を後ろで一つに縛った16歳くらいの
女の子だった。
「ご注文お聞きしまーす。」
「日替わり5つお願いします。タダシも日替わりでよかったかな?ま、と言ってもお昼は日替わりしかないんだけどね。」
「ああ、問題ない。」
「はいかしこまりました!お父さーん日替わり5つ!」
厨房に立っているのはごつい熊みたいな男だった。
「今日の日替わりはいいお肉使ってるから期待していいよ!」
「お?ほんとかの。そら楽しみじゃわい。」
そうやって待ってると、分厚いステーキがじゅうじゅうと音を立てて運ばれてくる。
メニューはステーキと短いフランスパンのようなものと透き通ったブイヨンスープのようなもの
がついてた。
「うまそうだな...いただきます。」
皆それぞれ祈りの言葉を言って食べ始める。
まず、ステーキに取り掛かる。
鉄板の上の分厚いステーキはナイフ出来るとすんなりと切れるほどに繊維がほどけ軟らかく焼きあがっている。それを口に入れた瞬間鮮明なハーブの刺激が肉の脂とともに迸り混ざり合い神秘的なハーモニーを作り上げる。
食感はあれだけすんなりと切れたのにしっかりとした歯ごたえを感じさせはじける弾力は噛んでいて心地よい。
パンは外はしっかり中はふんわりで、尚且つ全粒粉らしいずっしりとした食感も感じられる。
控えめに練られた塩が小麦粉の風味を強く際立たせ、鼻を通り抜ける。
肉の脂の旨さを絶妙なバランスで包み込み邪魔をせずに引き立たせる。
腹にしっかりと溜まる感覚は幸福感を感じさせる。
しっかりと煮込まれたブイヨンは野菜のうま味が凝縮され、小麦の香りを少しだけ残しながら
さっぱりと喉を潤す。
黄金のスープはそれだけで料理と呼ぶのにふさわしく、全てを調和させるキーアイテムに他ならない。
脂の旨味と野菜のうま味そして残った小麦の香りがまた食欲をそそり、次へ次へと手を動かさせる。
気付けば、皿は空になっていた。
「ごちそうさまでした。」
「いやー美味しかったね。どうだった?ここの店主の料理は。」
「とんでもなく美味かったよ。気が付いたら無くなってたぜ。」
人心地ついてゆっくりしながら話をする。
「で、まだ昼だがこれからどうするんだ。」
「僕達はそれぞれ必需品なんかを買いに行く予定だよ。そうだ、せっかくだしこの街を案内してあげようか。」
「いいのか?俺が1人で外に出ても迷子になりそうだと思ってたところなんだ。」
「そ、決まったならさっさと行くわよ。そろそろ混んできたしね。」
荷物を纏めて席を立つ面々。
「親父さん、美味かったよ。」
「...。」
「はは、カルラさんは無口なんだ気にしないで上げて。」
「お、おうそうなのか。じゃ行くか。」
受付に鍵を渡し、街に繰り出した。
続きは明日